「スクワーム」のジェフ・リーバーマン監督による77年ホラー。
今期のホラーマニアックスでリリースされていたのを遅ればせながら購入。未見だったのを初鑑賞してみました。
狂暴化したハゲをショーン・ペン似の主人公が追いかけるストーリー。
この監督、独特のユーモアのセンスでやっぱりオモロいです。
エンタメホラーしつつ同時に人を突き放したような鋭い目線があって、とても楽しい1本になっていました。
◇◇◇
夜空に浮かび上がる青白い月…それと共に映し出される人々の日常…
とある医者は回診で患者を励ましていましたが、頭がズラっぽい。
ベビーシッターをしている女性は、ラプンツェルの絵本を読んでいる最中に子供に髪を引っ張られてしまいますが、そこにはごっそり抜けた髪束が…
頭部を映し出しながら、上へ上へと移動する謎のカメラワーク。光る満月はハゲ頭ってこと!?…独特のセンスのオープニングから可笑しくて笑ってしまいます。
主人公のジェリーはコーネル大学の首席卒業者でありながら10回も転職している自由人。
ある日仲間たちとパーティーしていると、機嫌良くシナトラの歌を歌っていた友人の頭髪がズル剥け…!!
突然狂暴化して女性たちを襲います。
友人の後を追いかけたジェリーは警察に真犯人だと勘違いされてしまい、追われる身に…
近隣でも同じく狂暴化したハゲが家族を惨殺した事件があったことを知ったジェリーは、独自に捜査を開始。
事件の加害者の部屋には、エド・フレミングという男の写真とともに〝ブルーサンシャイン〟という謎の言葉が残されていました。
フレミングは上院議員に立候補している選挙活動中の男。そしてフレミングと狂暴化したハゲたちは皆スタンフォード大学の同窓生でした。
なんと異変の原因は10年前、学生たちの間で流通した幻のLSD〝ブルーサンシャイン〟。
フレミングの売ったドラッグを過去に服用した者たちが丸ハゲになり、人を襲い出していたのでした…
10年越しのドラッグの副作用、恐ろしすぎる…
この監督、「スクワーム」もそんなところがありましたが、体内に得体の知れないものが入る恐怖、不信感みたいなのがズズッと迫ってくるようなストーリー。
それにしても出て来る人間がみんなズラにみえて怪しすぎる(笑)。
中年になると全く笑えない抜け毛の恐怖。
洗髪したあと排水溝にごっそり溜まっている髪束の描写など、地味ながら不安感を煽ります。
医者の友人が1番怪しいと思っていたら、単なるストレス過多からくる抜け毛だった模様(笑)。
意外にグロシーンはないものの、ベビーシッターの女性の頭皮がいきなりズル剥けて異様な顔で子供にナイフを向けるシーンは不気味…!!
頭痛を訴えたり、大きな音が苦手になったり…狂暴化するフラグみたいなものが描かれていましたが、友人のハゲだけは機嫌良く歌っていたかと思いきやいきなり頭髪がズル剥けて暴れるのが謎すぎます(笑)。
怪しい登場人物たちの中で、主人公の恋人だけが献身的で可愛らしく、赤を基調としたファッションが人間らしい温かみを感じさせます。
ジェリー本人は気難しそうでアウトサイダーなオーラが漂う主人公。
そんな彼が友人から拝借した服…無個性な〝スーツ〟を着て擬態しながら奔走することになる皮肉。
公園でベンチに座りうなだれる姿はまさに失業者。
ジェリーが迫る謎の議員候補・フレミングは胡散臭いことこの上ないですが、選挙活動では「完全雇用を目指す!」と大演説。
それなのに警察にジェリーのことを訊かれた際には「職を探しに来てたが追い払った」とにべもなく答えていて、こちらも皮肉めいています。
クライマックスはクリスマス前のショッピングモール…!!
選挙活動中のフレミングを追う主人公。
フレミングの手下のボディガードも過去にブルーサンシャインを服用していたようで、狂暴化の兆しが…
大音量のディスコ音楽にイラついてるだけのおっさんにも見えて笑ってしまいます。
無事恋人を救い出し暴れるハゲを撃ち抜いたジェリーでしたが、〝ドラッグの全容は不明…〟という不穏なテロップが流れてきて映画は幕を閉じます。
「スクワーム」と違って終盤が盛り上がりに欠けるのは残念。
議員候補の頭髪もズル剥けて欲しかったし、「デッドゾーン」ばりの醜態をさらすなど、何かもうひと展開期待してしまいました。
ブツを流した本人は使ってなくてクリーンっていうのも皮肉なのかもしれませんが…
主人公がクリスマスのモールを探索するところはどことなく「ゾンビ」に似た雰囲気。
スキンヘッドのマネキンが映し出されたり、アクセサリー売り場のおばあちゃんがラッキーマンで難なく被害を逃れたり…茶目っ気たっぷりな映像がみていてとても楽しかったです。
社会派ホラーというほど気負った感じは全くしないけれど、欺瞞的なものに向ける鋭い眼差しみたいなものが随所で感じられて面白い。
「スクワーム」もこの作品も独特の味わいがあって、良いホラーでした。