どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「スクワーム」…ゴカイよりも胸に迫る、南部の青年の孤独と怒り

ジェフ・リーバーマン監督、リック・ベイカーが特殊メイクを手がけた76年のアニマルパニックホラー。

子供の頃レンタルビデオ店で目にしてインパクト絶大だったジャケット。

映画雑誌でも紹介されていたことがあって、ミミズまみれでなんちゅー映画やねん、と思っていましたが…

登場するのはミミズではなく正しくはゴカイ。

この手の生き物が生理的嫌悪を催すのは間違いないのですが、B級ゲテモノホラーかと思いきや意外にしっかりした作り。

南部の田舎町を舞台にじっとり〝人間〟が描かれていて、侮れない傑作でありました。

 

◇◇◇

アメリカ南部を吹き荒れた暴風雨。

高圧電線が断ち切られ、大量の電流が地表に流れると、そのショックで無害なゴカイが突然凶暴化してしまいます…

そんなことはつゆ知らず、年頃の娘ジェリーは都会からやって来るボーイフレンド・ミックを心待ちにしていました。

しかし隣に住んでいる青年・ロジャーもジェリーに思いを寄せていました。

ストーカーちっくでどこか不気味。

スマートからは程遠く一見愚鈍な印象の青年・ロジャーなのですが、ゴカイの養殖業を営んでいる実家から仕事を任されていました。

しかし本人は気乗りせず、父親に叱責される日々。

ボーイフレンドを迎えに行くジェリーから「ゴカイの輸送用トラックを貸して」と頼まれると、断りきれずに貸し出してしまうロジャー。

ロジャー、なんか切ないんですよね…周りから馬鹿にされつつもいいように利用されている感じが…

冒頭ではジェリー母の頼みで草むしりさせられてるし、お父さんの実験のせいで親指をなくしてたり…なんだかとっても不憫に思われてしまうキャラクター。

 

一方都会からやって来た青年・ミックはいたくマイペース。

周りを一切顧みず大荷物でバスを降りる姿…田舎のダイナーで拘りのメニューを悪びれず注文する姿…配慮に欠けていて、ややドライな印象も受けます。

こういう閉鎖的な田舎が舞台の作品では〝都会からやって来た主人公〟は感情移入しやすい人物になっていることが多い気がしますが、本作は突き放したようなクールな味わいがユニーク。

 

「一緒に釣りに来ない?」…自分に気があるロジャーを彼氏とのデートに同伴させようとするジェリーの神経がさっぱり分からねえ…

…と思ったらボート漕がせて釣りのエサを用意させようとしてて、ちゃっかりロジャーに雑用させてるこのカップル、悪気はないのかもしれないけど、自分はどうにも好きになれません(笑)。

しかし辛抱たまらずジェリーに迫ってしまったロジャーがボートで転倒。凶暴化したゴカイに襲われてしまいます。

顔の皮膚を突き破り体内に侵入していくゴカイ…特殊メイクがよく出来ていてこのシーンは圧巻…!!

襲われたロジャーが行方知れずになり、その後近所で謎の白骨死体を発見したミックとジェリーは保安官に異変を訴えることに。

しかし女遊びに忙しい保安官は相手にせず、よそ者のミックを邪険にします。

 

食にまつわるシーンが度々挟まれる本作。

生理的嫌悪を煽りつつも、どこかユーモラスに人間模様を描いているところも面白いところ。

ミックが注文したエッグクリームの中にゴカイが入っていてパニックになる場面。

食から崩れる信頼関係、シティボーイと古い田舎町の隔絶…どことなく冷たさが漂う名シーン。

保安官が浮気相手とミートスパゲッティを食べている場面は、アップになる口元といい編集もユーモラスで、否が応でもゴカイを想起させて何とも嫌らしい(笑)。

そしてジェリー一家がミックを招いて食卓を囲う場面。

ゴカイに根元を食い荒らされた大木が家屋を直撃し食卓を破壊…!!

まるで南部の土地がよそ者を拒絶しているようであります。

 

ジェリー一家は父親を亡くしているようで、お母さんは「男不在の家」に大きな不安を覚えている様子でした。

娘が家を出ていくことを恐れているのか、お隣さんのロジャーと結ばれることを期待しているようで、長女のしがらみも何となく伝わってきます。

ジェリーの妹のアルマは素朴で朗らかな性格にみえますが、彼女も退屈な町に辟易としているのか、大麻を吸う姿も…

オカンは編み物、長女は男、次女は薬物…それぞれ現実逃避。なんとも言えない閉塞感の漂う一家のさりげない描写が素晴らしいです。

 

保安官たちをも葬ったゴカイの群れは夜になるとますます数が増えて町を襲撃。

基本描写はジェリー一家に終始していて、大作パニック映画のようなスケール感はないのですが、25万匹の本物のゴカイを使ったという映像はド迫力。

ドアを開けたら洪水のように流れ出て来る大量のゴカイには絶句…!!

序盤、シャワーのノズルからニュッと出て来るゴカイなど、少しずつ包囲されていくような見せ方も上手く、クライマックスのカタストロフが盛り上がります。

 

そしてゴカイの群れの中にはゾンビのような姿になってしまったロジャーが…

自分を殴っていた父親を食い殺し、馬鹿にしてきた町の人間を襲い、意中の女性を奪った男を攻撃する…

ゴカイを動かしたのは電流ではなくロジャーの怒りの念だったのかも…なんて思わせるシンクロっぷり。

なぜかロジャーを応援したくなり、こんな陰気臭い町飲み込んでしまえ!!という気持ちになります(笑)。

 

しかし朝が来ると陽の光でゴカイは消滅、まさに台風一過。

モンスターとのバトルに勝利するでもなく、たった一夜の〝災いの日〟の出来事を描いたクールな幕引き。

抱き合う恋人たちを映し出しつつ、どこか物哀しい歌声のエンドロールとともにラストには寂寞感が残りました。

 

この手のアニマルパニックホラーものの醍醐味がしっかりありつつ、排他的な南部の町の描写や男女の三角関係ドラマが面白い。

選択肢がない人生を送る男の孤独、蔑まれた者の嫉妬と怒り…〝人間〟がしっかり描かれていて、ゲテモノホラー以上の魅力がある、味わい深い作品でありました。

ジメッとした蒸し暑い季節にみたくなるホラー。