ダスティン・ホフマン主演、スティーヴン・フリアーズ監督の92年公開アメリカ映画。
子供の頃テレビ放送でみたのだと思いますが、いいかげんなおっさん主人公がオモロくて、ドタバタ劇に爆笑。
公開当時興行的に振るわなかったらしく、好みが分かれる作品かもしれませんが、シニカルさとハートウォーミングさがいい感じに同居。
メディアや大衆の愚かさの描き方もよく出来ていて、大人になってみても面白い、大好きな作品でした。
◇◇◇
コソ泥のバーニーは裁判所から収監命令を待つ身。
国選弁護人の財布から金をくすねるわ、息子が届けようとした落とし物の財布からカード引き抜いて転売するわ、反省の色は全くなし。
「病人には近寄りたくない」「ホームレスは助けなくていい」…冷笑的で利己的、かなりのクズ野郎であります。
ところがある日突然目の前で旅客機が墜落。
全く気乗りしなかったものの飛行機の扉を開け、乗客を救出することになったバーニー。
「パパがいない!」と自分の息子と同い年位の子供が泣き叫ぶ声を聞き、渋々燃え盛る機内に突入。
次々に乗客の命を救います。(でもお金が入ってそうなバッグも盗んでいく)
機内は薄暗く、顔に泥がついてしまったため、誰もヒーローの顔を覚えておらず、唯一の手がかりは現場に片方残された靴のみ。
メディアは血眼になって「104便の天使」を探し、100万ドルの懸賞金をかけました。
しかし日々の生活に追われそんな騒ぎはつゆ知らずのバーニーは、車上生活をしている青年・ババーに靴を渡してしまいます。
数日後…テレビに映っていたのは飛行機事故のヒーローとして賞賛されているババー。
バーニーは我こそが本物のヒーローだと名乗りをあげますが、誰も耳を傾けてくれません。
バーニーはババーに接触しようとしますが…
普通にみると主人公が気の毒に思えそうなもんですが、冒頭の描写から「日頃の行いがよっぽど…」となって、重くなりすぎない絶妙なバランス。
ヒーローはホームレスだった…!!とか如何にもアメリカ人が好みそうなおとぎ話。
磨けば光りそうなイケメンのババーは女性受けもバツグン…!!
重体の子供を見舞ってはその意識を回復させ、サインをねだられては代わりにホームレスの居住区に毛布を配りましょうと演説。
「前世は宗教家か政治家か!?」と思ってしまう位、口からサラサラ綺麗な言葉が出てきます(笑)。
さらには実はベトナム帰還兵で隠れた功績があったことも発覚し、ババーの人気は天井知らずに…
同時にマスコミの持ち上げ方も異常になっていき、乗客をスタジオによんで再現ドラマを作りはじめるなどやりすぎ感がすごい。
テレビ見てて「いつまでこの話やっとんねん」って思うことあるよね…ミッチーvsサッチーとか…古いけど(笑)。
加熱したメディアの滑稽な様子が描かれつつ、作られたヒーロー像を盲信してしまう大衆も愚か。
自分も情報をみて深く考えず都合よく解釈してることありまくりなので、なんだかとっても突き刺さります。
現場で「パパを助けて!」と叫んでいた子供も事故当時の様子をインタビューできかれると、やや大袈裟に話を盛って語り始めてしまう始末。
人の記憶が都合よく塗り替えられて虚像ができていくというのも、真に迫っているように思えました。
嘘をついたババーが悪いとは思うのですが、「眠れるところが欲しかった」とかほんの小さな出来心で、こんな大きな騒動になるとは思っていなかったのでしょう。
助けても何の得にもならないバーニーに己の身を顧みず手を差し出したあたり、「ホンマもんの善人」だったのでしょうが、そんな人間でも魔がさすことはある…
反対にバーニーは全く良い人ではないけど、自分の息子と同い年位の子供がお父さんを心配してるのをみて、とっさに身体が動いてしまったのでしょう。クズ野郎でも善性は持ち合わせていて”ヒーロー”になってしまう瞬間がありました。
「どんな人間にも善の一面が、悪の一面が…」という描き方がいいなあと思います。
クライマックス、気が咎めたババーが自殺しようとしてビルに登り、それを引き止める大役を担ってしまうバーニー。
ベタなコメディだけど、飄々としてる主人公に爆笑。いちいち大袈裟なオーディエンスも含めまるでワイドショーをみているよう。
「俺はヒーローに向いてないし名誉はいらない。でも金は欲しいから息子の大学院の費用まで頼む!」…集団に流されずどこまでもマイペースな主人公が清々しく映りました。
着地点は人によってはスッキリせずかもしれませんが、大勢の命を救った主人公は表に出ず、大勢の人に夢を与えられる人がヒーローの役を引き受けることに…
自分の大切な人を幸せにできればそれでいい…愛する人から信頼されていればそれでいい…最後に主人公が息子にだけ真実を語るエンディングも良いなあと思いました。
「世の中は嘘で溢れている。だからお前は好きな嘘を選んでそれを信じればいい。」…はなんだかとっても深い、心に残る名台詞でありました。
なんだかんだ家族が再生して終わるのが90年代前半アメリカ映画らしい能天気さ!?蛍の光ではじまり、蛍の光で終わるエンドロールはクラシックな趣。
アメリカのアホなところと強いところがぐわーっと迫って来るような感じの作品でありました。
ダスティン・ホフマンは70〜80年代に名作に出まくってて、この作品はベストではないと思うし出演作の中では影が薄いように思いますが、観終わったあと心が軽くなるような優しさを感じて、なぜだか大好きな1本でありました。