どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「ジャガーノート」…赤か青か!?70年代激渋パニックサスペンス

「赤と青の線どっちを切るか!?」…爆弾処理ものの元祖として知られる作品ですが、ハリウッド映画の大作と比べると圧倒的に地味…!!地味なのに物凄い緊迫感…!!

イギリス映画だからなのか、通常のパニック映画とは違う味わいで、乗客が大騒ぎせず静かに怯える姿がリアル。  

静かな人たちが静かに役割を果たす姿にシビれますが、何より格好いいのは爆弾処理班の隊長、リチャード・ハリス

百戦錬磨の出来る仕事人オーラを放ちつつも時折みせる脆さ、人間らしさが切なく、何とも味わい深いキャラクターでした。

 

◇◇◇

1200名の乗客を乗せた豪華客船ブリタニック号。

曇天の中紙テープの残骸を片付ける人々が映し出される冒頭…シニカルなユーモアが漂っていてハリウッド大作にはない味わい。このシーンだけで自分は心掴まれてしまいました。

いい人そうにみえて不倫してる船長、船酔いでグロッキーになり子供放ったらかしのお母さん…何でもない普通の人たちがリアルに映ります。

 

出港後、ジャガーノートと名乗る不気味な声の男から脅迫電話がかかってきて、船に時限爆弾が仕掛けられていることが発覚。

ファロン少佐率いる爆弾処理班が船に乗り込むことになりますが、このシーンがまた凄い地味。そして地味なのに過酷…!!

アクロバティックなアクションシーンなど皆無ですが、荒波の中船に乗り込む命懸けのミッション。

出だしからスムーズに行かないし溺れる人もいる…救助隊が決して無敵のヒーローではなく普通の人なのだと感じさせられて緊張が走ります。

 

そして爆弾処理シーンの圧倒的緊迫感…!!

「極めて犯人の思考に近いところ」を走っているからか、一方で称賛するような眼差しも向けてしまうファロンの危うさ。

不敗のチャンピオンと陽気に口ずさむも、狂気じみた過酷な仕事を続けるにはゲームを楽しむような感覚にでもならないと精神が壊れてしまうのかもしれません。

家族もいないし充分生きた…なんて言っているけどやっぱり死ぬのは怖い…震える手を叩いて自らを叱咤激励する姿が何とも孤独で胸を打ちます。

ささいな行き違いで弟子が先に命を落としてしまう展開は衝撃的。

でももしファロンが先に死んでチャーリーが生き残っていたら、最後の対決はどうなっていたんだろう…皮肉な巡り合わせに色々と考えてしまいます。

弟子のチャーリー役は「サスペリアPart2」でお馴染みのデヴィッド・ヘミングス

2人一緒のシーン、師匠がデキる弟子を可愛がっているのが伝わってきて、見返すとかなり切ないです。

 

一方、乗客の描写は乾いたユーモアみたいなのが漂っていてフッとさせられたりもします。

爆弾騒ぎを隠すクルーに市長が「政治家だから嘘言ってるのが分かる」と言ったり、不倫中の中年女性が「私が死んでも新聞に3行出て終わりよ」とあっけらかんと言ってのけたり(笑)。

宴会係のおっちゃんが凍てついた空気の中普段通りに仕事しようと努める姿は労いたくなること必至。

気の毒なのは子供を庇って亡くなってしまうボーイのお兄さん。苦労人ながら陽気に振る舞う健気ないい人だったのに…子供とオカンが全く気にしてなくて、報われない裏方仕事人の死がこれまた切ないです。

 

警察も淡々と仕事をこなしている印象で、アンソニー・ホプキンスの捜査官は妻子が乗船しているのに私情を訴えることなく黙々と犯人を追います。

これがハリウッド映画だと「家族が乗っているんだぞ!」とか言いながら船に乗り込んで無双しそうなもんですが…

犯人発覚シーンも驚く程あっさりしていて、船の中と外に犯人が2人がいるのかも…時々出てくるヒゲの男性が怪しいな…などと思って自分は観てましたが、ヒゲの人は全く関係なく普通にいい人だったという…

「お前やったんかーい!!」となる地味すぎる犯人・バックランドがかえって強く印象に残ります。


国に尽くしてきた人が報われずテロ行為に走るパターンは、「新幹線大爆破」「ザ・ロック「スピード」など色々思い浮かびますが、主人公の師匠、命の恩人だったと言うのがまた辛い。

「赤と青どっちだ!?」ラストの心理戦には固唾を呑むばかりですが、思わずそっちだったのかーと天を仰ぎみたくなるような結末。

「私はまだやれる」…この犯人、お金も要求しているけれど、現場を外されたことへの根強い怒り、自分を再度認めて欲しいという思いがそれ以上のようでした。

かつての仲間をあっさり裏切る姿は薄情に映りますが、現場で活躍し続ける優秀な後輩への嫉妬と羨望もあったのかもしれません。

鎌をかけて僅かなやり取りで相手の心情を読み切ったファロン少佐が見事ですが、常にゲームの勝者でありたい子供じみた狂気の持ち主だからこそ読めた犯人の思考…〝似たもの同士〟故に勝てたのかもしれません。

ハッピーエンドではあるものの、部下もかつての師匠も失った主人公のラストの姿…哀愁が漂っていて余韻が残ります。

 

演技派俳優が集結している豪華な作品ですが、地味な画に馴染みすぎているからか、オールスター感は少ないように思います。

犯人がどうやって爆弾を運んだのかなど話に粗もあるけれど、気にならないくらいのめり込める面白さ。

仕事人・リチャード・ハリスの格好よさにシビれました。