どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

今更…黒澤明の「用心棒」を観てみました

「荒野の用心棒」の元ネタ。

実質リメイクなのに許諾を得られないままつくられてしまい著作権侵害で訴えられて…の有名エピソードは知りつつも、未見だった黒澤明の「用心棒」を今更観てみました。

思った以上に激似でびっくり(笑)。

ヘル・オブ・ザ・リビングデッド」を観た後に「ゾンビ」を観るような不思議な感覚を味わいつつ!?敷居の高いイメージがあった黒澤作品ですが、シンプルに面白くて、まったく古臭くなかったです。

巨匠の凄さを知るとともに、ここから世界観を再構築したレオーネの凄さも改めて知れて、両方続けて観ると楽しさ倍増でありました。

 

◇◇◇

棒を放り投げて行き先を決める主人公の当て所の無さ、犬が手首持って走ってくる町のヤバさ…アホでも分かる明快なつくり、冒頭から一気に引き込まれます。

古い日本映画あるあるで台詞は所々聞き取りにくかったけど、個性的な音楽が画と抜群にマッチしていて何と小気味のよいことか。

造酒屋を後ろ盾にした丑寅一家と、絹物屋を後ろ盾にした清兵衛一家と…

「荒野〜」の保安官・バクスター一家にあたるのが清兵衛一家ですが、女郎屋のBBAの迫力が凄すぎる(笑)。

一度袖にした主人公を手のひらクルーでヨイショする面の皮の厚さ。「1人切ろうが100人切ろうが縛り首になるのは一遍だけだよ」と宣う肝の据わりよう…

「荒野〜」の女性もなかなか力強かったけど、この女優さんの顔の迫力には足元にも及びません。

 

「荒野〜」の悪玉であるラモン(ジャン・マリア・ボロンテ)に当たるのは卯之助(仲代達矢)。

男前で漫画ちっくなキャラクターですが、ラモンより味付けはかなり薄めに感じました。

他人の女房を横取りして愛人として囲っているところはまったく同じなものの、こちらは女性の登場が唐突で存在感が薄く、ボロンテのような「狂気の執念」は描かれていませんでした。

小さな子供が母親に駆け寄るシーンの悲壮感、アントニオを失ったバクスター家の母親の非業な死に様…

「荒野〜」の方はイタリアのお国柄なのかどこかママっ子味を感じさせる仕様で、イーストウッドの名無しには母親を殺された過去があるのかも…と色々想像させられました。

「用心棒」の三船敏郎のキャラクターはもっとあっさりしていて、私情は一切なく人情みや道義心から行動に出た豪傑な感じ。

思ったことをハッキリ口に出す分かりやすいタイプの三船用心棒に対し、イーストウッド用心棒はより無口でニヒルな性格…同じ孤高の流れ者でも受ける印象は結構違っていて面白かったです。

 

より登場人物が多い「用心棒」ですが、圧倒的な印象を残すのは丑寅一家の亥之吉。

極太眉毛がインパクト大。頭が足りず簡単に人に乗せられてしまう性格だけど、アホな子ほど可愛いみたいな憎めなさが(笑)。

主人公逃亡シーンでは棺桶屋の親父はそそくさと逃げ出し、亥之吉が騙されて片棒を担がされるかたちに…完全にコントですが、ベタな掛け合いに笑いました。

この他出番が少なかったけど、全面対決を前に一両で雇われた先生が満面の笑みで逃亡する姿にも爆笑。

へいこらが目に余る番田の半助など、みみっちい、ちっこい人間が生き生きとしていて、人物の描写がひたすら魅力的でした。

 

町役人を殺った下手人2人と、兵隊の死体2体と…違いはあるけど、切れ者の主人公が2大勢力を手玉にとって争いを焚き付けていくプロットは全く同じ。

主人公の拷問シーンは「荒野〜」の方がやられるシーンをしっかり見せていて痛々しかったけど、負傷具合までそっくり。

風が吹きすさぶ中、酒場の親父を助けに現れるクライマックスの絵面も激似でびっくり。

ただ決闘シーンはレオーネのオリジナルが光っていて、個人的には「荒野〜」の方がラストの盛り上がりは「用心棒」を上回っていたのではないかと思いました。

卯之助の銃をどうやって倒すんだと思ってワクワクしてみていたけど、ナイフ投げて返り討ちにするの、あっさりな展開でちょっと拍子抜け。(事前に練習してるシーンがあったのはよかったですが)

「荒野〜」の方がしっかり伏線を張ったどんでん返しのカタルシスが半端なく、ボロンテのよろめく視界の演出など「悪役の死に様」もキマっていたように思いました。

「用心棒」では最後に争いの背後にいた主たちがやり合う皮肉めいた場面があって、自分はちょっとクドく思ってしまったけど、これぞザ・巨匠の作品、という感じもしました。

あっさりと去っていく主人公の格好良さは完全に一致で、実に胸のスカッとするラストでした。

 

やっぱり名作と呼ばれるものはそれだけの値打ちがあるから食わず嫌いせず見るべし!!改めて反省しつつ、シンプルイズベストな面白い映画でした。

めちゃくちゃ似てるけど、味付けの全く違う料理を2度いただいたような不思議な感覚で、リメイクだろうがパチモンだろうが、オリジナリティが爆発するイタリアの感性は凄い!

2作続けてみれて楽しかったです。