「ダークグラス」公開前にアルジェントの2000年代の作品を何本か観なおしていたのですが、この作品は地味だし盛り上がりに欠けるけどなんか好印象だった作品。
英語タイトルはThe Card Player。
オンラインゲームで人質の命をかけて犯人と対決するデスゲームものっぽい雰囲気の作品であります。
警察官のアンナのもとにある日謎のEメールが届きます。
メールを開くとポーカーゲームのオンラインサイトが開き、横のウィンドウには拘束された女性の姿が…
ポーカーをして警察が勝てば人質を解放、負ければ殺すと告げる犯人。
アンナが勝負に乗ろうとすると署長が「異常な犯人の挑発にのるな」と言い放ち、人質は無残に殺されてしまいます。
その後もEメールは送られ続け次々と犠牲者が出る中、アンナはアイルランド出身の警官・ブレナンと意気投合。
違法賭博の店を調査した際に見つけた青年・レモがポーカーに強いことを知って、捜査に協力してもらうことに。
今度は警察署長の娘が誘拐されるという異常事態の中、強力な助っ人を用意したアンナたちは見事ゲームに勝利。
人質は約束通り解放されますが、レモが犯人の卑劣な罠にかかって殺されてしまいます。
一方ブレナンはゲーム中に聴こえた不審な破裂音を探るうち監禁場所を突き止めることに成功しますが…
2004年当時だとまだ新鮮味があったかもしれないネット中継殺人というシチュエーション。同年公開の「ソウ」と雰囲気が少し重なります。
肝心のポーカーに心理戦要素は皆無、サーバーの追跡班はなんの役にもたたない…とこの手のゲームものにある面白味は欠けていてあくまで雰囲気のみ。
殺人シーンはちっこい画面で何をやっているのかよく分からないまま終わってしまいます。
代わりに力が入っているのは検死の場面。
目耳鼻をこじ開ける「羊たちの沈黙」ばりのグロ描写が炸裂。
特殊効果は「フェノミナ」「デモンズ」のセルジオ・スティバレッティが担当していたようで、死体のモノがよく出来ていました。
そして犯人探しですが…
署長の娘が誘拐されたり、ヒロインの自宅に不審者が突撃してきたりと「絶対警察内部に犯人がいるだろ」となって早々に当たりがついてしまいます。
動機はヒロインに構ってほしかったからなのか、元々こういうスリル狂で暴走してしまったのか…
最後の対決でみせる往生際の悪い姿がまさに小物で、異常性も変態性もあまり感じられない薄い犯人です。
「webカメラ越しの殺人中継が実は録画だった」というのが最大のトリックになっていますが、ゲーム自体はやらせじゃなかったようなので違う勝敗結果を辿っていたらどうなってたんだろう…途中で拘束解いてた人はなんだったの…とストーリーはちぐはぐ。
不思議に魅力があるのはキャスト陣で、若くもないし可憐でもないけど力強いオーラを放つヒロイン役の女優さんはステファニア・ロッカ。
これまた美男でない相棒役の男性はリアム・カニンガム。
2人ともストイックな刑事らしさが出ていてとても良かったです。
恋愛要素は余計でドライなパートナー関係の方がよかったんじゃないかと思いましたが…
キャラ描写やドラマの見せ方は「ダークグラス」の方が上手かったと思いますが、こちらもヒロインがトラウマ(ギャンブル中毒だった父親の死)を乗り越えて悪に打ち勝つ、振り返れば意外に明るめなストーリー。
ラストの対決の舞台が線路上なのが地獄の決斗って感じでよかったです。
ご懐妊ですエンドが唐突すぎてビビりますが(笑)、ブツっと終わるのもアルジェントらしい気がしました。
音楽はクラウディオ・シモネッティ、「ハロウィン」のようなピアノの旋律とテクノサウンドが重なってカッコいいです。
全体的に控えめな印象ですが、もう既にいいお歳のアルジェントがネット殺人なんて新しい題材にチャレンジしてるだけで結構凄かったのかも…
そしてそんな今風の題材なのに「アルジェント映画をみたな」という気持ちにしっかりさせてくれる不思議な1本でした。