どうながの映画読書ブログ

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「サスペリア・テルザ」…俺たちはファミリー!!ガッカリでもニッコリな最終作

少し遅れて知ったのですが、11月26日に女優のダリア・ニコロディが亡くなられたとのこと。

サスペリア2」のジャンナ役が1番有名かと思いますが、アルジェント作品ではよく見かけるお顔。

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ダリオ・アルジェントとは籍は入れてなかったみたいですが結婚してたようなもんで、娘アーシア・アルジェントを出産。別れたあとも元夫の作品に出演したりと親交は続いていたようです。

今年は映画界も訃報の多い1年でしたが、70歳とまだそんなにお年でもないのに悲しいニュース。

追悼ということで今回は魔女3部作の最終作「サスペリア・テルザ 最後の魔女」を振り返ってみたいと思います。

サスペリア・テルザ 最後の魔女 [Blu-ray]
 

昔々、ある3人の邪悪な魔女がおりました。

フライブルグに住んでたマーテル・サスペリオルム(嘆きの母)はバレリーナにやられて死亡。ニューヨークに住んでたマーテル・テネブラルム(暗闇の母)は正体を悟られ館を燃やしてどっかに消失。

最後の1人マーテル・ラクリマルム(涙の母)が登場するのが本作です。

主人公はアーシア・アルジェント演じる美術の修復作業を学ぶ研究生サラ。(お父さん似)

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ある日謎の遺品入れが館長宛に届くも「先に開けちゃおうよ」と勝手に調べ出す副館長。

短剣やローブ、見ざる聞かざる言わざるみたいな変な像が入ってるのを確認するも、どこからともなく実物の猿と化物のような人間が突然あらわれ、襲われる副館長。

はらわたを引きずり出され自分の腸で首を締められるというグロすぎる死を遂げます。

サスペリア」や「インフェルノ」も残酷だったけど、不快さは少ない、フェティシズムを感じる殺し方で、「痛さが伝わってくる」のが素晴らしかったと思うのですが、こっちはグロいだけの何だか汚い死に様。アルジェントのセンスの低下を感じざるを得ません。

副館長死亡を目撃したサラは警察で事情聴取を受け、館長で恋人のマイケルのもとに身を寄せるもオカルト科学の話をされてポカーン。

しかし!!実は先の品々は魔女の遺物で、それによって力を取り戻したマーテル・ラクリマルムによって、ローマの街は混沌と化していくのでした。

そしてサラは魔女の仲間だと思われる一味になぜかつけ狙われるようになるのですが…

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ハロウィンで騒ぐヤンキーみたいで、全く怖くない魔女一味。

その正体をひた隠し、静かに使う魔力で物事を支配していた「サスペリア」の魔女たちには本物感があって恐ろしかったのに、なぜこんな知性のかけらもなさそうな一味にしてしまったのか…しかも警察が来たら普通に逃げる(笑)。

サラも事件の犯人だと疑われて警察に追われますが、脳内にオビ・ワン・ケノービのように語りかけてくる女性の声をききます。

声に導かれ意識を高めると透明人間になれるというサイキックを発揮…!

さらには電車まで尾けてきた魔女一味の1人をトイレのドアをガンガンぶつけて頭部破壊、返り討ちに!!ここはアルジェントっぽい&フルチっぽい感じがするいい殺し方。

 

例の遺品が発見された村を訪れたサラは、母の友人だったという霊能力者マルタと出会い、自分の出生の秘密を知ることになります。

サラの母エリザはかつて最強の白魔女で、マーテル・サスペリオルムを死ぬ寸前にまで追いやり、その戦いの代償として亡くなった。
そしてサラにもその能力が引き継がれているため魔女軍団が彼女の命を狙っているのだと言います。

なんかハリー・ポッターみたいな話になってきたな。

でも「サスペリア」の魔女(マルコス)が息も絶え絶えのバーサンだったのは、大バトルのあとだったからなのかーと後付けの設定にちょっとワクワク。

 

マルタのもとに身を寄せたサラは母の霊を視認できるようになりますが、この霊体母エリザを演じるのがアーシアの実母ダリア・ニコロディ。

亡くなったのは若い頃だろうに、なぜか実年齢分の年取ってるエリザ。アルジェントの霊世界謎すぎんよ。

けど娘のピンチに現れてこの世の人間までとっ捕まえちゃう母ちゃんカッコいいです。

 

しかし恩人マルタのもとにはマーテル本人があらわれ、槍を股に突き刺されて頭まで裂けるという悲惨な死を遂げます。

ところどころCGを使ってるようですが、なんか安っぽい。昔の作品にあったような殺されるまでの不穏さ、殺しまでのタメがないのもガッカリですね。

しかしローマはますます混沌とし、走るゾンビみたいな人間が街を占拠。「私が魔女を殺るしかない!」と立ち上がったサラ、どっからともなく現れた刑事とともにマーテルの本拠地に突入。

アジトがローマの地下墓地なのは雰囲気があっていいです。

魔女一味に捕らえられた2人はピンチに陥りますが、サラがサッと魔女のローブを剥ぎ取ると、アラ不思議。

いきなり地面が揺れ、魔女は絶叫し倒れてきたオベリスクに刺されて死亡。邪悪なものはすべて打ち砕かれてハッピーエンドを迎えます。

 

今回のラスボス〝涙の母〟は過去にも一度「インフェルノ」でその姿を見せていましたが、そのときは猫を抱く謎めいた美女でした。

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一言も話さない、ただその姿と窓から入れる風で全てを思いのままにしてしまう…ほんの僅かな出演シーンでとんでもない強敵感を醸していたものでした。

それに引き換え本作では、洗濯失敗して縮んだみたいなシャツ着て騒ぐだけと、どうみても小物だったのは本当に残念です。

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年を取ってからも全盛期のように傑作を撮り続けられる監督はごく僅かだと思うのですが、過去2作と比べると相当のパワーダウン。クラウディオ・シモネッティの音楽ともどもかつてのような切れ味は全くなくてガッカリ映画になってしまっているのだけど…

でもなぜか見終えたあとにホッコリしたあったかい気持ちが訪れる不思議な作品になっていたと思います。

最後にアジトから脱出し、いきなり笑い出すサラと刑事。

1作目「サスペリア」と全く同じ終わり方ですが、今度は雨も止んでいて1人じゃなくて2人。
よかったね、とこのシーンを観ただけでなぜだか嬉しくニッコリとなってしまいます。

 

もともと魔女3部作の1作目「サスペリア」はダリア・ニコロディが出した案によって作られてたと言われていて、それまでジャーロものを撮っていたアルジェントにとっては大きな路線変更でした。

自身が「サスペリア」のスージー役を演じるつもりだったらしいニコロディ。恋人だったアルジェントとはきっと色々あったのでしょうが、その後の作品にも出演し続けていました。

ときに目玉を弾丸で撃ち抜かれ、顔をズタズタに裂かれ…別れても最大の理解者だったのでしょうか。

これがヨーロッパの成熟した夫婦ってやつなのか分かりませんが、ダリア・ニコロディの役は主役じゃなくても印象に残るものばかりでした。

この魔女3部作の最終作でニコロディが霊体とはいえ「実はサスペリアの魔女と相打ちしてた最強の女」の座を得ているのはアルジェントの過去への贖罪もあるのかもしれません。(何も考えてなさそうな気もしますが…)

そして何といっても、父母娘と3人で最終作を力合わせて撮ってるってところに見終わったあと「俺たちはファミリー!」と叫びたくなるような、家族映画感が漂っていて、明るくどこか憎めない作品となっていました。

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本当に死後の世界があってあんな霊体がいてくれたらいいのにな。

素晴らしい演技を沢山魅せてくれてありがとうございました。