世の中には続編をつくる気満々で製作したもののさしてヒットせず自然にフェードアウトしたような作品があるものかと思います。
この「レモ」も第1の挑戦というタイトルからしてシリーズ化を狙う気満々だったようですが第2の挑戦には至らなかったようで…(原題はRemo Williams: The Adventure Begins)
確かにお話はめちゃくちゃなのですが、光るところも多々あってあまり陽が当たらないのがとても惜しく思われる作品です。
ニューヨーク市警のサムはある日街のゴロツキを成敗したあと、謎の車に襲われ海に沈められます。
病院で目が覚めるとなぜか自分の顔が別人に…
そこへ謎のエージェントがやって来てサムをある組織にスカウトしに来たのだと話します。
大統領直属の命を受け、法の目をかい潜っている悪を成敗する非公式の組織…今風に例えると「キングスマン」的な世界観でしょうか。
それにしても本人の同意も得ず世間的には死んだことにするって非人道的すぎます。
おまけに勝手に整形までされてしまうも、地味顔から地味顔にチェンジという何とも夢のない変身。
サムからレモと名前まで変えられた主人公、早速本部へ赴くとそこには巨大コンピュータがたくさん。
「全米の情報が集まるコンピュータで悪党共の動きを探ってるんだ。」…そんなすごい機械があるというのにメンバーは、所長、スカウトマン、レモの3人だけという不安すぎる組織。
その上レモに暗殺を命じておきながら「我々の組織では銃を使ってはならない」と厳しい命令を下し、レモはチュンという年老いた韓国人に弟子入りすることになります。
すべての武術の始祖だというシナンジュの達人・チュン師匠、なんと弾丸を避ける…!!
普通に動いてるだけにしか見えないのはきっと気のせい(笑)。相手が撃つときの筋肉の動きから弾道を予測して避けるらしいです。
「マトリックス」以前にこんな厨二患者の夢を叶える存在がいたのかーと驚きですが、このチュン師匠のキャラが本作で1番魅力的な存在。
”アジア人を演じるのが特殊メイクした白人俳優”と昨今のポリコレ的には完全にアウトな存在ですが、口うるさくも主人公をそっと見守り助けてくれるという少年漫画に出てきそうな師匠キャラがたまりません。
「お前らの国のただ1つの芸術だ」と昼メロに夢中なのが可愛らしく、「ファーストフードを食べてるとあの世に早く(fast)行ける」など切れっ切れなジョークも炸裂。
演じるジョエル・グレイはブロードウェイ出身の俳優さんだそうで、ダンスのような動きが綺麗です。
そんな師匠との修行シーンがとても丁寧に描かれているのがまた素晴らしく、観覧車にぶら下がって鍛えるなど画的にも面白い場面が続きます。
レモが徐々に力を付けていくのが胸熱、最終的には水の上を走れるように。コツはなるべく速く走ることって小学生が考えそうなことばっかり真剣にやってくれます。
格闘や銃撃戦がないものの、代わりに見応えがあるのはレモのパルクール的!?アクション。
何かによじ登る、捕まる、土台の悪いところを移動するというアクションが通してみると1番多く、特に補装中の自由の女神でのアクションシーンは大迫力…!!
どうやって撮ったんだろうとヒヤヒヤ、女神の腕をスルーっと滑り台みたいに落ちていくのも童心をくすぐります。
レモの謀殺のターゲットは宇宙産業に投資してる軍需産業の社長。てっきり地球滅亡とか壮大な陰謀があるのかと思いきや、宇宙計画を隠蓑に私腹を肥やしてただけってスケールの大きいような、小さいような…ラスボスの魅力とスパイものの緊張感がまるでないのは残念です。
しかしダイヤを歯に埋め込んだ刺客のお兄さんや味方になるツンデレっぽい女性少佐はキャラが立っていい感じ。
ヒロインとはロマンスに発展するかと思いきや何も無し…けど、このモサい主人公にはそれがピッタリかも。
ラストにレモが弾丸避けまくる姿はカタルシスです!!
2000年代に公開された「チャーリーズ・エンジェル」では銃社会への反論なのか「敵は銃を使うがエンジェルたちには銃を使わせないようにした」とプロデューサーのドリュー・バリモアが語っていました。
「レモ」にはそんな深いメッセージがあるとは到底思えませんが、筋肉と火力がモノを言っていた80年代のアメリカンアクションで銃なしで戦う主人公って珍しかったんじゃないでしょうか。
「特攻野郎Aチーム」をオリエンタルにした感じ??のノリの良い音楽も聴いてると元気がモリモリ湧いて来ます。
なぜか見終わったあとには「守りたいこの笑顔」と思わせる中年男レモに癒される優しい作品です。続編、あってもよかったのにね。