どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

ベルイマン「ある結婚の風景」鑑賞/泥沼夫婦のおかしな愛憎劇

「ミッドサマー」のアリ・アスター監督が影響を受けた作品らしく手にとってみました。

ある結婚の風景 オリジナル版 Blu-ray

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  • 発売日: 2015/05/22
  • メディア: Blu-ray
 

スウェーデンの巨匠、イングマール・ベルイマンが73年に撮ったテレビドラマで50分×6回、計5時間の大作。(3時間弱に短縮した劇場版もあるらしい)

難解なイメージがあって避けていたベルイマン作品でしたが、本作はありがちなテーマだったからか意外にサクサク観れました。

ほぼ夫婦の会話劇のみで占められてるのに全く退屈せず、普通に話していたと思ったらたった一言で険悪になるのにハラハラ…人物の印象が次々に裏切られていくのがスリリングでした。


主人公夫婦、マリアンとユーハンは結婚10年目。42歳のユーハンは心理学の助教授、35歳のマリアンは家族法専門の弁護士。

2人の娘と共に安定した生活を送る理想の夫婦として雑誌のインタビューを受けていました。

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冒頭から不穏な空気がムンムン。出会いについて夫は「恋愛結婚だった」と自信満々に語るも、妻は「きっかけは寂しさを埋めるためだった」と温度差がすごい(笑)。

インタビューの後日、マリアンは第3子を妊娠したとユーハンに告げますが、「大変な思いをするのは君だからね」と産むのか決めるのは任せると返されます。

こんなん言われたら絶対嫌だわー。

ところがマリアンも本当に子供が欲しいか分からないと悩み、夫婦は中絶を選びます。

やっぱり産む!って言ったあと、中絶手術後の場面にいきなり飛ぶのがめちゃくちゃ怖いです。

その後の夫婦関係はどこかギクシャク。危機を感じて話し合いたいマリアンを遠ざけるユーハン。想いを言語化して安心したい女性と、それを重たく感じる男性…夫婦あるあるな気がします。

しかし3話目で衝撃の展開が。

ユーハンがいきなり、「実は浮気してて、君との生活はもう耐えられないので出ていく」と別れを切り出します。

浮気相手は23歳の学生で、男運が悪い子だから自分が支えてやらなきゃいけないのだとか。

アホ男の言い分に呆れますが、夫に依存しまくってたマリアンは別れたくない!!と泣きつくもユーハンは家を出て行く…

しかし1年後、再会すると立場は逆転。

ユーハンは仕事が全く上手く行かず、若い恋人との関係も重たくなって別れたいとグチグチ。一方妻は新しい恋人をゲットして性生活も絶好調。仕事にも再婚にも前向きと生き生きとしていました。

 

どう考えても夫ユーハンが最低でざまあなんですが、通してみるとどっちか一方が悪いわけではないのかもと思わせる微妙な夫婦関係でした。

自信家と思いきや全然そうじゃなくて繊細な人だったユーハン。

思っていたような理想が仕事で実現できない。実家、休暇、イベントと家庭では同じことを繰り返さなければならない…恵まれているようですごくしんどかったのも分かる気がしました。

自分は若く見える、失うことが怖いと冒頭語っていたユーハンは人一倍老いを恐れていて、若い女性との浮気に走ったのも年取った自分を受け入れ難かったからなのかも。

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自分の弱さをどうにも認められず、「女性を支える強い男」を演じたせいで、マリアンに依存され、その次は若い恋人に依存され…と自滅していく姿が哀れにも思えました。

 

反対にマリアンは弱そうに見えて案外図太い人で、意図せず夫を傷つけてきたところが沢山あるように見えました。

「夫の浮気を友達にグチろうとしたら自分以外全員知ってたー」のシーンはいたたまれなさすぎでしたが、それだけ鈍感だったってことである意味すごいのかも。 

離婚後にユーハンと再会した際には「新しい夫とのセックスはすごい」と悪気0%で開けっぴろげに話して無自覚に元夫を傷つけていました。

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夫婦は隠し事をせずによく話し合った方がいいとはよく言うけれど、100%ぶつけたら相手はしんどいし、言い方もあるよねー、とそのさじ加減は難しいところだと思います。

家族だから理解し合えると愚直に想いをぶつけすぎてもお互い苦しくなるのかも。

ありのままでも隠してもそれが裏目にでて知らぬ間に傷つけてたりする…最も近い人間関係の怖さを感じるドラマでした。


マリアンが「出産後仕事をしていたときに責められた」と語る場面があったりと、時代背景からか”抑圧された女性ドラマ”みたいなのがベタといっていい位分かりやすくあちこちに散りばめられてたように思います。

てっきり最後もユーハンを捨てたマリアンの自立で終わるのだろうと思いきや、意外、最終話は密会不倫する元夫婦の姿で締め括られているのがビックリでした。

スウェーデンの恋愛結婚観、凡人の自分には理解が追いつきません(笑)。

でも自分の弱さを受け入れたユーハンは以前より穏やかそうでしたし、理解しあえない部分があってもその人の良さをみて愛せるようになったという2人の姿はハッピーエンドっぽい感じがしました。でもそれが離れた距離でしか成しえなかったんですね…

孤独を恐れては孤独を望むって自分勝手に思えますが、皆心の中にそんな思いはいくらか持ってるのかも…余韻の残るラストでした。

 

夫婦の問題は夫婦の問題ということなのか、ほぼ2人の会話劇のみで描き切っているからこそこの作品が面白いのだと思いますが、2人の子供たちは家族写真の撮影時に1度登場したきり、残りは一切登場しないというのが徹底していて凄かったです。

子供という存在を考えたらこの夫婦はフリーダムすぎじゃないか、子供を通した絆とかないのだろうかと思ったけど、北欧と日本とでは子供との距離感とか文化が全く違うんですかね。


依存的な関係を炙り出すところや、あまりにギスギスしすぎて1周まわって可笑しくみえてくるやり取りは「ミッドサマー」や「ヘレディタリー」に似ているように思いました。

ベルイマンの他の映画作品もみてみたい。