「アノーラ」「ロングレッグス」「地獄の逃避行」リバイバルなど今月は気になる作品が色々あったのですが、おっさんが密室でわちゃわちゃしてる映画ってハズレなさそう…
本年度オスカー有力候補の1つだった「教皇選挙」を観に行ってきました。
激混みで週末は近隣の劇場のチケットがとれず…平日休みをとって席数の多い新宿の劇場まで行ってきましたが、大盛況。
パンフはとっくに品切れになっていました。
ポスターのビジュアルからはもっとパキッとした鮮やかな映像をイメージしていたのですが、思ったよりどんよりと暗めな重厚感のある映像。
引きの画が多く、誰が何を発言しているのか分かりにくかったりして、でもそれで一層注意を引き立てられて緊迫感が増している、拘りを感じる画づくりでした。
意外に音が大迫力で、おじさんの呼吸音にまでドキドキ(笑)、劇場でみてよかったと思える作品でした。
予備知識がなくても楽しめるエンタメ作品として成立しているのが嬉しく、2時間があっという間。上質なサスペンス映画をみた満足感が残りました。
(以下ネタバレあり)
心臓麻痺で教皇が突然逝去。
主席枢機卿のローレンスが次の教皇選挙〝コンクラーベ〟を取り仕切ることになります。
教会も時代に適応して多種多様な民族の枢機卿が集まるようになっていましたが、結局座るテーブルは同じグループで固まってたりして…(職場の飲み会とかでもあるある)
人間集まれば派閥ができるし、どうしたって権力は魅力的。
各候補者の汚い部分が暴かれていくのがスリリングで、序盤からずっと面白かったです。
ナイジェリア教区のアディエミは多様性のビッグウェーブに乗って初のアフリカ系教皇に!?
多くの票を集めますが、実は過去に女性と関係を持って隠し子がいることが発覚。
私生活がだらしなくても仕事をしっかりやってくれる人だったら…と思わなくもないけど、教会のトップに立つ人間にはそぐわなさすぎる。
「若気の至りだった、誰にでも過ちはある」って言い訳してたけど、自分30歳で女性19歳って責任能力バリバリある年齢やないかい(笑)。
もしかしてかなりのクズなんじゃ…涙で訴えながらも脱落。
ベネチア教区のテデスコは保守派というか原理主義的な伝統回帰派。
イスラムを敵視、同性愛迫害とか中絶絶対禁止とか極端なこと言い出しそうでおっかない。
歯切れのいい物言いは欺瞞がなく耳障りよく聞こえたりもするけれど、これまでの道のりを一気に元に戻した時に起こる軋轢とか何にも考慮してなさそう。
コンクラーベの途中では、イスラム過激派がテロを起こしその知らせが皆を揺さぶります。
一瞬吹いた風によってべらぼうに極端な人が担ぎ上げられて分断が加速してしまうこと、現実にもありそうでドキッとさせられました。
テデスコほどの過激派じゃないけど、カナダ・モントリオール区のトランブレも保守派。
ジョン・リスゴー、怪しいなあと思ってたら、聖職者のポストを買収していたことが発覚。
さらには有力候補のアディエミをハメるため、例の女性シスターを現場に送り込んでいたのも彼だった…!?
「教皇の指示に従っただけだ」という必死の弁明は真に迫っていてとても嘘とは思えず、チェスで常に8手先を読んでいたという切れ者の前教皇が用意周到にトランブレとアディエミをハメたのかも…
「私たちには目と耳があります」…シスターの告発がナイフのひと突きとなって脱落するトランブレ。
シスターも前教皇派だったらしいので、あらかじめ何かを託されていたのか、それとも遺志を継いでの自発的な行動だったのか…疑念を残すところもサスペンスフル。
イザベラ・ロッセリーニ、出番が少ないのに凄い存在感でした。
リベラル派の候補もいて主人公の友人・ベリーニが有力候補の1人。
主人公もこの人を支持しますが、イマイチ票が集まらない。
教会外の人間からみると今の時代に適応した常識的目線の人に映りますが、保守派を敵視し歩み寄る気もさらさらない強硬な姿勢…この人もこの人で凝り固まった〝確信〟の人と言えるのかも。
絶対に当選させてはいけないテデスコを落選させるためには手段を選ばず意外と老獪。さらにはトランブレの買収にも関わっていたことが発覚。
また友人だったはずの主人公を疑って「お前が教皇になる気だな」と口撃する姿も毒々しい。
自分自身が教皇になりたい野心を持っているから、相手もそうに違いないと疑ってしまうのよね…
でもあとから主人公にちゃんと謝るところは人間臭くて、ジジイ同士の友情に胸キュンでした。
そしてダークホースとなるのが突然現れたベニテス。
メキシコ出身でアフガニスタン教区からやって来たという異色の経歴を持つ人物。
実際に戦地に赴き人助けしまくってた現場主義の人らしく、溢れる聖人オーラ。
主人公の持ちかけた根回しにも乗らず「自分が教皇に相応しいと思った人物に投票する」と曇りなき眼で語る姿が神々しい。
テロ事件が起きて過激派が分断まったなしのゴタクを並べる中、皆の心を打つスピーチを披露。そんなこんなで結局この人が教皇に…
前教皇も何か一石投じたくてこのベニテスを招集していたのかもしれませんが、ここまでのことになるとは予測してなかったんじゃないでしょうか。
人間がどれだけ策を弄してもそれが吹き飛んでしまうような大波乱もある…一筋縄でいかない感じが面白かったです。
しかし最後の最後にさらなるどんでん返し!!
(※ここからラストまでネタバレ)
〝謎の病歴があった〟という伏線が未回収だったのでベニテスも何かある人なんだろうなーとは思っていましたが…
麻薬やってたのかな、アル中だったのかなとか色々考えてたら、なんとボディの一部が女性だったという…
主人公も含め上っ面のリベラルをぶん殴りにかかってくる驚愕のエンディング。
演じてる役者さん、こういっちゃなんだけど、おばちゃんにもおじちゃんにも見えて絶妙な顔。
「神の与えた肉体だからこのままでいい」と言われるともう頷くしかない(笑)。
真相が明るみになると受容できない人もいて単純なハッピーエンドとは言い難いのかもしれませんが、最後にシスターたちに目線を向ける主人公の眼差しには温かいものを感じて、不思議と心地よい余韻。
時代は常に変化しているし、教会は決して男だけのものではなかった…
なんかもう、最終的にはあれこれ心配するより進むっきゃねえみたいな覚悟を感じて、思いの外爽やかなエンディングでした。
レイフ・ファインズ演じるローレンスの苦労人っぷりには心から同情。観客目線の感情移入しやすい主人公でしたが、入っちゃいけない教皇の部屋に突入したり、疑いすぎて信仰心を失いそうになってたり、所々ダメな部分もあって人間的。
教会という閉ざされた世界にいるけれど、コピー機は使うし、音声付きのエレベーターに乗っているし、みんな近代化したこの世の中を生きている。
地面に打ち捨てられたタバコの吸い殻は好感度低いけど、生きてりゃ皆ゴミを出すし、汚い部分も多々持ち合わせている…聖職者たちを卑近な存在として描いているのが面白かったです。
「私たちは理想に仕える身で理想そのものではない」と言う台詞が印象的でした。
そして何より前半でググッと心掴まれた、選挙前のローレンスのスピーチシーン。
「確信こそ罪、疑念を持って進む者が教皇に相応しい」という言葉が胸に迫りました。
常に自己を疑ってこそ人間前進できる…決めつけてかかるのは簡単なことだけど、安易に断定して他者に厳しくなったときが1番危険なのかも…今一度耳を傾けたいと思う名スピーチでした。
殺伐とした雰囲気の作品かと思いきや、厳しい中に温かみも感じられてラストも爽やかだったのが意外。
今年鑑賞した初の新作映画ですが、いい作品をみれて大満足でした。