どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「イムリ」を25巻まで読んだ。滅茶苦茶面白い…!

2006年からコミックビームで連載されている三宅乱丈氏によるSFファンタジー漫画・「イムリ」。

ずっーと前に1・2巻だけ読んだことがあり気になる作品の1つだったのですが、如何せん半年に1回の新刊発売というペース。

長らく忘却してたのですが、昨年秋100万部突破の告知を発見して、読破してみようかと手に取ったら、もう止まらない…!

イムリ 1巻 (BEAM COMIX)

イムリ 1巻 (BEAM COMIX)

 

謀略と裏切りのサスペンスな展開、緻密な設定が伏線となって見事に回収されていくストーリー…滅茶苦茶面白かったです。

現在25巻まで発売、完結の近そうな雰囲気ですが、新刊出るのはまた結構先だなーということで、とりあえず既刊分の感想。

 

記事前半は簡単に作品内容を記しつつ、後半はネタバレ有りで感想を少し書いてみたいと思います。

 

 

 

階層社会の大国vs滅びゆく原住民

イムリ」という作品の世界では、ルーンとマージという2つの惑星に3つの民族が住んでいます。

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居住地など大雑把ですがこんな感じ。

 

まずカーマという主にマージに住む支配民族。・・・カースト制度とも言える厳格な身分制度を敷いています。

次にイコルという奴隷支配を受けている民族。・・・カーマの階層社会の最下層に位置する人々で、無償の労働が義務付けられています。

そしてイムリというルーンに住む原住民族。・・・必ず双子で生まれるなど様々な特徴がありますが、かつてカーマと争い敗北し、その支配を受けつつあります。

 

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カーマはやや古い西欧的風俗な雰囲気。しかし化学兵器や高度な医療技術などを有する文明を持っています。(イムリ1巻、11巻表紙転載)

 

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対するイムリはどこかネイティブアメリカンを想起させる雰囲気。自然・万物を尊ぶアミニズム的信仰を持っています。(イムリ8巻、10巻表紙を転載)


カーマの高身分の人たちは軍事系と呪術系の2つに分かれているのですが…

ここで作品を構成するもう1つの要素、〝侵犯術〟という魔法みたいなヤツが登場します。ジェダイのフォースとか「HUNTER×HUNTER」の念能力とか、そんな超能力的イメージでいいかも!?


この侵犯術では、他人の精神をコントロールすることができます。

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イムリ」1巻より転載

相手に自白させたり、行動を強制したりできる他、使い方によっては相手を廃人に追いやってしまうことも可能、となかなか怖い能力…!

またこの能力、”身分に応じて使える術のランクが定められている”というところがこのカーマという国のイヤラシイところ。


物語の主人公は、カーマ側の、呪術学校に通うデュルクという青年で、心優しい主人公がこのカーマという国の腐敗を目にし、3つの民を巻き込んだ戦いに巻き込まれていく…というように話が展開していきます。

 

 

何となくネタバレ回避しつつ書けるあらすじはこんな感じなんですが…

こういう壮大な世界観の作品は、その緻密な設定の説明に多くの巻数を割きそうなものですが、この「イムリ」意外にテンポがいいです。

2巻から思いっきり争いが勃発してるし、世界観の説明が多めの序盤も、「この国は何かとんでもないことを隠してるぞ、一体なんだ!?」…とミステリ感覚的に読むことができるように思います。


絵は好みが分かれるところだと思うし、最初数巻は人物の見分けがちょっと難しいんですが、各単行本巻末に、登場人物紹介や用語説明が付いているのが大変親切。ゲーム・オブ・スローンズ」みたいな感じで何とかなる!!そして情容赦なく人が死んでいく…!!

 

さて、ここから先はネタバレ含みつつになりますが、なんといっても…

 

 

悪役のデュガロ呪大師が魅力的!!

序盤からカーマという国が繁栄の裏で恐ろしいことをしていることが明らかになっていきますが、そのトップ層で権力争いする、このじいさんの人を人とも思わぬ蹂躙っぷりが酷くて、憎々しいことこの上ありません。

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イムリ」23巻表紙より

しかし…!!読み進めると実はカーマという国がイムリよりも弱い!?という衝撃の事実が明らかになってきました。そしてデュガロ自身、カーマを強国たらしめるため、そのシステム維持のために犠牲になった子供だった…という、一枚岩ではない悪役なことが分かってきて、このじいさんにも感情移入させられていきます。

 

デュガロは自分の親に身体を不具にされた上、そのことを忠誠心を試す道具にまで利用されました。

内心ではずっーと辛いと思っていたのに、気持ちを偽って、自分が犠牲になった血統主義固執するしかなくなった。

 

「誇りある犠牲には選択肢が用意されているはずです。」
「選択肢を与えられなければそれは献身ではなくただの服従なのです。」

24巻のデュガロのこの台詞、ずずーんと来ました。

人間生きていれば、自分の気持ちをごまかすようにして”これでいいや”と我慢する瞬間もあれば、ちょっとキビしい方を選んででも「これでよし」と思えるような瞬間も、両方あるのではないかと思います。

 

「自分の気持ちに向き合ってよりよい選択をする」というのは案外難しくて、それと気付かず狭められた価値観によって、選べているようで選べていないということもあるのかもしれません。

 

デュガロの親が息子に用意したのは、如何にも子供に選択させているように思わせて、実は最初に根幹の選択肢を奪っているという状況でした。

こういう人を騙すようにつくられた選択の場面もあるのだと思うし、そういう状況で育てられた子供は、選んだ選択肢に依存するしかないのかも…と何ともやるせない気持ちになります。

 

でもこのおじいさんにも省みるところがあって、自分の息子的存在・タムニャドには疑うという選択肢を教えた。その教えがデュガロ(ある意味での父)を超えてくるという24巻がもう本当に凄かったです。

 


ラルドの悲惨な末路が衝撃的

またカーマ側の人間になってしまいますが、デュガロと対照的に善玉っぽい雰囲気のキャラクター・ラルドも印象に残る人物でした。

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イムリ」16巻表紙より。手前がラルド。

あれだけカーマを裏切らずに身を捧げた人間が反逆者として終わるってメチャクチャ残酷な展開…。

カーマの残虐なやり口に目を瞑っていたラルド。

先程のデュガロの台詞を当てはめると、出自から選択がなかったこの人は、献身の人だったのか、服従の人だったのか…デュガロは「賢者の血統」、ラルドは「他者の信用」とそれぞれ盲信するものが異なっていただけで、実は似たところがあった2人だったのかもしれません。

 

でもデュルク、イマク、ガラナダ、ヴィテジ…と、この人の信じ続けた行動が他キャラクターを突き動かしていくから、物凄いキーパーソンではあって、「誓えと言われたからではなく自ら進んで誓った」という言葉は、彼の本当の心だったのだと思う。

第一印象涼やかなイケメン師匠という感じだったのに、掴みがたい複雑な内面のキャラクターでした。

 

 


戦争が終わったあと、どうなるんだろう…

イムリ」は、間違いなく戦争を描いた作品でもあると思うのですが、これが現実の世界と照らし合わせてどうだこうだというのを、語る知性は自分には全くない…。全くないんだけど、「イムリ」からは物凄い”達観の境地”みたいなのを感じてしまいます。


イムリとカーマがぶつかり合う中、イムリたちの中にも勝つためにカーマの侵犯術を取り入れようとのぞむ人間もでてきます。でもそうすると第2のカーマになってしまう。

侵略を受けたなりして他国と争う場合、相手の文明に対抗するために自分たちもそれに迎合していくというのはままあることなのかもと、こういう葛藤の丁寧な描き方がすごいなと思いました。

 

また結局カーマが戦いに負けて和平を打つというところまで来て、「戦争のあとどうなるのか?」…最新の25巻で描いているのが、まさにここの部分で、最後に選択するのは、主役でも脇役でもなく民衆。考えが異なることを認めて分裂してしまうだけにならないのか、上手くTOPが取りまとめることができるのか…どんな着地になるのかとハラハラです。


何よりデュガロじいさんがこんな終盤にもちゃっかり生き残ってて、まだ何か企んでそうで、凍った地下のイムリたち、何より主人公はどうなるんだー!?とまだ一波乱ありそうな感じもします。


結局すごい作品だった!!としか言い表せないのですが、とにかく26巻は発売日を楽しみに迎えたいと思っています。