どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「黒薔薇アリス」…愛と繁殖のヴァンパイア・ロマネスク

吸血鬼じゃなくて吸血樹!?

秋田書店さんらしい独特の表紙の雰囲気とホラーっぽい設定に惹かれて読んだ漫画作品。とにかく1巻でドタバタと人が凄まじい死に方をし、とんでもないドロドロのドラマをみせられて、心を鷲掴みにされました。

黒薔薇アリス 1 (プリンセスコミックス)

黒薔薇アリス 1 (プリンセスコミックス)

 

著者の水城せとなさんは、「失恋ショコラティエ」が月9ドラマ化されてたり、「脳内ポイズンベリー」が西島秀俊主演で映画化されてたり売れっ子の作家さん。

意外にファンタジックなSFっぽい作品も書かれていて、「黒薔薇アリス」はそんな中に男女の永遠のテーマみたいなのを突きつけられたような気がする、骨太な作品でした。

2008年〜2011年にかけて「月刊プリンセス」にて連載されていたのですが、全6巻で第1部完という終わり方をし、続きの情報が未定のまま。

面白かったので続きが読みたいよ〜!!と切実な願いを込めて、記事前半はストーリーを簡単に紹介させてもらいつつ、後半は結末まで読んでの感想を語ってみたいと思います。

 

 

吸血鬼じゃなくて吸血樹!?

本作でユニークなのは、まずヴァンパイアの設定。人間の死体に寄生した植物(=吸血樹)という設定がかなり面白いです。

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黒薔薇アリス水城せとな著・秋田書店 1巻より転載

吸血鬼といえば、美女の首にかぶりつき、血を吸われた人間もヴァンパイアと化すというのがよくある話。
牙は男根の象徴とか言われているし、血を吸われた人間が支配下におかれるのは、「身体の関係をもったら男の態度が大きくなる」とかそんな話でしょうか…。

しかしこの「黒薔薇アリス」の吸血樹たちは、吸血行為ではなく、人間女性との性行為そのものによって、子孫をのこします。
しかしその性行為は一度しか許されず、繁殖後は男女ともに死んでしまいます。←昆虫かっ!!

 

また見た目は決して老いることのない吸血樹たちですが、その寿命には個体差が。

首の後ろに皆、黒薔薇の刻印があり、そこから伸びた〝年輪〟が首の前まで来ると、命が尽きて首が落ち、枯れ木と化してしまうのです。

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黒薔薇アリス水城せとな著・秋田書店 1巻及び2巻より転載

自分のよりよい種を残そうと、「自分たちを種族ごと愛してくれる」女性を探す切実な吸血樹たち。

男が愛を求めるのは、本質的に子孫を残すこと。では女性は…?というのがこの物語の核になっています。

 


現代を生きる、自由な女性の選択

漫画の表紙みると、ヒロインはどうみても古風な貴族っぽい女の子。でも実は中身は28歳の教師…!!

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黒薔薇アリス水城せとな著・新装版フラワーコミックスアルファ5巻表紙を転載

 

現代の東京に潜んだ吸血樹の頭領・ディミトリは、自分の初恋の女性・アニエスカの死を受け入れられず、生ける屍として保管していました。

ある日交通事故に遭った瀕死の女性教師・梓に「愛する男性も助ける」という交換条件を持って、アニエスカの身体に魂を捧げるように願います。

申し出を受けた梓は、美少女・アニエスカの身体で再覚醒、アリスという新たな名前を授かりました。

そしてディミトリたち4人の吸血樹から、「未来に残すべきより優秀な要素を持つ吸血樹」を時間をかけて選ぶという大役を担うことに。

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黒薔薇アリス水城せとな著・秋田書店 2巻より転載

 

子孫を残すことを最たる目的としながらも、女性側に選択肢が与えられるというのがなんとも面白いところ。(途中選ばなくてもよいという話にもなる)

ディミトリは、好きな女性の肉体をいつまでも都合よく綺麗なまま飾ってたという、控えめに言ってキモいサイテーな奴なんですが、そんな男が省みて、自我の強い女性の魂をそこに吹き込む。

自由に伴侶を選ぶことの出来なかった古い時代の女性が、選択肢のある新しい時代に蘇る。この物語の構図がとても魅力的です。

 

しかし彼らの〝繁殖〟には一波乱もふた波乱もあって…

繁殖のために個人の幸せを犠牲にすることはよいのか。種の生存こそ未来に向けて実現すべき最優先事項なのか。

黒薔薇アリス」からはこういうテーマ性を感じてしまうのですが、もう他人事とは思えない、日本人というか、物質的に豊かになった世界の人間のどん詰まり感を表してくれているような気がしてしまいます。


そんな読み応え抜群の「黒薔薇アリス」。前置きが長くなってしまったけれど、以下全巻読んでの感想が続きます。↓↓↓

 

 

いやー、主人公・アリスが思った以上にめんどくさい女!!

作中「精神は肉体の見た目に引きずられる」なんて台詞がありましたが、アリスがとにかく感情重視の高校生みたいな恋愛をしてる感じがしました(笑)。

一緒にいて心に波風が立つような、自分を狂わせるくらい好きな人と一緒になる。

三十路近くになれば、一緒にいて心落ち着く楽な相手といたくない!?なんて思ってしまうけど…。でもそれは先長く一緒に暮らす場合の話で、子孫を残すことだけが目的となると何がいいのか。

若いときに結婚した不良っぽい人たちが子沢山な家庭築いてたりする。本能でビビッときたもの同士が1番自分の遺伝子をのこせるのって案外真理だったりして。

だからこそやるなら今だよ!!と最終回をみて玲二と同じ思いを抱いてしまいました。

 

総じて自分は主人公アリスにあまり感情移入できなかったけれど、他にも女性キャラクターが出てくるのが黒アリのいいところで、もう1人の女性キャラ・瞳子さんの落ち着きっぷりが好きでした。

4巻の終わりで、窓辺のポーチをみやり、急に涙を流した瞳子さんは一体何をみたのか。

あの場所はディミトリとマクシミリアンが彰子さんを〝繁殖に利用しようと話し合いをしていた場所〟。
レオの種を受け入れた瞳子さんには、もしかして彼の祖先の過去がみえた??
どういう伏線になってるのかよく分からなかった部分なんだけど、続く「本当に好きになった人を選んだほうがいいと思うよ」という台詞も含めて物凄く気になります。

 

レオはアリスといるより瞳子さんといるときの方が断然カッコよくみえた(笑)。なぜレオがアリスに惹かれたのかが、最後までピンとこなかったのは残念だけど、ああいう真面目で気遣い屋の男の人が、ワガママな女性に惚れて振り回されるのは、あるあるなのかな。(他作品のサエコやいちこに振り回された男たちを思い浮かべるとウッ…!)

レオは実はマクリミリアンではなく、彰子さんを誰よりも濃く継いだ人なんじゃないかなあと思う。


彰子さんは…ものすごい器の大きい慈愛をみせてくれたけど、和泉小路家、利用された感しかない。ディミトリ、彰子さんの最初の婚約者、殺ってるよね??

「彼は飄々としながらも時に残忍で何をするかわからないところがあった。」ブラッドレイの性がそうさせたとみるのがいいのか、どす黒い何かを感じてしまいました。


個人的にはディミトリが1番ない、なさすぎる!!なんですが、憎みきれないのはやっぱり1巻の描写がすごくよく出来ていたから。ロマの出身を隠して差別に苦しみながら成り上がった男。

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黒薔薇アリス水城せとな著・秋田書店 1巻より転載

吸血樹仲間に手の甲にキスされた(人生で初めて尊敬の意を示された)ことで、新しい自分のルーツを信じ、吸血樹として生きること決める。こういう場面の美しさ・切なさにはグッときますね。

 

また光哉と梓の恋愛を6巻の中で綺麗にまとめきっていて、ここが1番少女漫画を読んだ感がしたかもしれません。
妊娠でもしてたら…の台詞はショッキングだったけど、あれは梓じゃなくて「アリス」に言った言葉で、梓を好きだった気持ちは本当だったのが伝わってきた。めんどくさい女だけどこれだけ想われるっていうのがすごいわ~。

 

水城せとな先生は「脳内ポイズンベリー」でも男女は理性か、感情か!?みたいなテーマに挑まれていたような気がしますが、あちらの主人公は、妥協でもって「理性」を取った感がありました。それも1つの幸せかもしれない、と。

脳内ポイズンベリー 1 (クイーンズコミックス)

脳内ポイズンベリー 1 (クイーンズコミックス)

 

こっちの主人公は、「感情で好きになった人を選ぶ」という結末。俄然ロマンチックだけど、6巻の終わりにはどこが不穏な空気を感じます。

それで幸せになれると思ったら大間違いやで!!的な展開が待ってそうな感がバリバリ残ってたし、コッチはそれが見たいんだよね(笑)。


●ディミトリはレオが一番マクシミリアンに似ていると言っていたけど、双子の方がより濃くマクシミリアンを受け継いでるんじゃないかと思う。家長ディミトリを潜在意識では憎悪してたという本性がみてみたい。

●マクシミリアンがブラッドレイに捧げたという最愛の人・アレクサンドリアはどんな人だったのか。ここは過去編不可避。

●レオと瞳子さんの種を継いだ吸血樹は現れるのか!?理性カップルが遺したものがみたい。

 

やはり第1部だけじゃ消化できてない感が強く、続きが読みたい!!

ブラッドレイ血筋以外の吸血樹ファミリーが出てきてもいいと思うし、人間みたいな吸血樹たちがどんな答えを出すのか非常に気になる終わり方でした。

そして今気づいたけど、新装版はなぜか小学館からリリースされている!?なにか事情があるのかな…。

 

水城せとな先生、あちらこちらの出版社からコミックが出てますが、どこでもいいから「黒薔薇アリス」も再開してくれーと切実に願っております。