どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「VHSテープを巻き戻せ!」…物理メディア消失への危機感

80年代生まれの自分は幼少期から自宅にビデオデッキがあったビデオ世代で、親が映画好きだったこともあって子供の頃からレンタルビデオ店に毎週通っていました。

ズラッと並ぶパッケージにワクワク、まるで宝探しのような遊び場でした。

今では見られなくなった等身大の大きなポップ、貸出中のビデオに付けられるゴムバンド、店長のオススメ!と書かれたシール…昔のビデオ屋さんの雰囲気は思い出しただけで愛おしいものがこみ上げてきます。

 

2000年を過ぎた頃からはTSUTAYAの台頭がめざましく、大好きだった地元のレンタルショップはほぼ全滅。

しかしその後関東に住まいを移した私が夢中になったのは地元とは比べものにならない品揃えを誇ったTSUTAYAで、カルト作品を多く保有していた新宿店には一時期熱心に通った思い出があります。

また秋葉原に行ってはワゴンセールで100円で叩き売りされているようなVHSテープを発掘するのもささやかな楽しみでした。

 

VHSテープを巻き戻せ!

VHSテープを巻き戻せ!

  • メディア: Prime Video
 

この「VHSをテープを巻き戻せ!」は自分と同世代の監督が2013年に撮ったドキュメンタリーなのですが、ビデオ世代は懐かしさと喪失感で胸いっぱいになること必至…!

VHS vsベータの歴史の流れも分かりやすく知れたりして、最初は映画じゃなくて、テレビ録画できることが革命だったんだなあ、当時のデッキのCMとか今みてもすごいロマンが伝わってきます。

その後映画をホームビデオとして販売することを思い付いた人たちによって一大ビジネスが始まるわけですが、映画館だと館数がモノをいうけどビデオだとパッケージとして皆一列に並ぶからどんな作品にもチャンスがあったと。

 

低予算でも多くの人に見てもらえるチャンスを得たことで作り手側の自由を生み出したVHS。

それが80年代のホラー映画ブーム、続いてはVシネマの躍進を主導していったのだと、この辺の流れもすごく分かりよくて面白いです。

フランク・ヘネンロッター(「バスケットケース」)やチャールズ・バンド(「パペットマスター」)といったホラー映画ファンニッコリな人たちも出演しつつ、意外に日本人の出演者も多く、アニメ代表として押井守監督、あとはAV業界の方々も…。

 

普及に貢献したのはエロ!と言い切る人もいて、こういうメディアの普及は結局そこに懸かっているんだろうなあと納得。

「画面に筋が出たら2秒後におっぱい!」には笑ってしまいました。

人々の見た“記録〟が物理的にそのモノ自体に残ってしまうのもVHSの味の1つなんですね。

自分もテレビ放映されたのを録画した「魔宮の伝説」のトロッコのシーンだけを繰り返し見て、もう線が入ってボロボロになってしまったけれど、無限にみれないというところもVHSというものの愛しさなのかもしれません。

 


笑って楽しく見れるドキュメンタリーですが最終的にこの監督が訴えているメッセージ…物理メディア消失への危機感には自分はすごーく共感するものがありました。

ネトフリやAmazonが主権を握るようになった昨今の映画鑑賞。

その世代世代で文化に違いがあるのは当然のことだと思うし、そもそもVHSだって「映画は映画館でみるもの」だった淀川長治さんの世代のようなファンからすれば、危惧すべき変化の流れだったのかもしれません。

自分は今だに地域のレンタル店を利用していますが、このコロナ禍もあって最近本格的に配信サービスも利用し始めました。

いやーコストも時間もかからないし、作品も思ったよりずっと充実していてレンタル店にない作品が簡単にみれる。本当に素晴らしいの一言に尽きます。

なんといってもこの作品だって配信でみたのだし(笑)。

 

しかし、「配信の浸透、物理メディアの消失は映画会社にとって最も望ましいもの」という本作の言葉にはハッとするものがありました。

配信であれば権利者の圧倒的力で簡単に奪い与えることができる…と。

 

ネトフリでもAmazonでも画面を開いたときに一斉に現れるオススメは便利な反面、“他人に管理されている“感を感じるときがあります。

気付かぬうちに偏った作品ばかりになっていて、自分が“洗脳〟されていたらどうしよう…なんて被害妄想がすぎるかもしれませんが。

でもKindleで「1984」を購入したのに契約が切れて読めなくなったと訴えているおじさんの主張、言いたい事なんか分かるなあと思いました。

ある日突然観れていたものが観れなくなることもある…配信は決していつでも手にとれるものではないというのは心に留めておきたいことのように思います。

 


昨今の視聴者が評価の高いものだけを追いかけがちだというのも分かる気がして、B級映画もみろとは言わないけど、そんなに良くない作品をみてこそ鍛えられる鑑賞眼みたいなものって自分もあるように思うんですよね。

この作品で語られている、パッケージやタイトルに騙されての「なんだよ、これ!」っていうレンタルビデオのくじ引き感とか、すごいノスタルジーです。

もっと面白い作品はないのかと自分から追い求めていく精神が失われているっていうのは、ここ何年か映画から完全に遠ざかっていた自分自身がまさにそうなっているなあと思って突き刺さるものがありました。 

 

 

少し前にネトフリを映画として認めるかみたいな議論が上がっていたとき、漠然と両方が映画として共存し得るのだろうと思っていました。

映画館とVHSが上手く共存できたように色んなかたちの選択肢が増えればいい…と明るく考えていたけど、2020年は本当にとんでもない年で多くの人にとって映画の観方が大きく変わってしまったような気もします。

ビデオグラムのことは市場が縮小してもなくなりはしない…とずっと思っていたけど、思った以上に業界の生き残りは厳しいのかなあ、特典映像や吹替といったプラスアルファも消えゆくものだと思うと寂しい気持ちになりますね。


もう7年前の作品ですが、映画がどんなかたちで残っていくのか…観ていて色々思いの巡る、とても見応えのある作品でした。