どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

エロティック・サイコスリラー「お嬢さん」の虜になる

ポン・ジュノ監督の「パラサイト」観たいな〜と思いつつ代わりに自宅で面白い韓国映画みたろと思って借りてきた、パク・チャヌク監督の2016年の作品、「お嬢さん」。

お嬢さん(字幕版)

お嬢さん(字幕版)

  • 発売日: 2017/08/21
  • メディア: Prime Video
 

R18というだけあって、かなりバンバン脱いでのすごいシーンがありました。しかし煩悩が吹き飛ばされるくらいお話が面白い!!


何の前情報もなしで観るのが最高の映画だと思うのですが、あらすじを少し整理すると…

舞台は1939年の日本統治下の朝鮮半島
孤児として詐欺集団に育てらてたスリは、ある日「藤原伯爵」と名乗る詐欺師の壮大な計画にのって、侍女として上月(こうづき)に潜入することになった。

上月家の主人は、日本の没落貴族の娘と結婚した朝鮮人。詐欺師・「藤原伯爵」の狙いは、その家に住む秀子というお嬢さまで、侍女のお膳立てを受けつつ、彼女を自分に惚れさせて、日本で駆け落ち結婚し、財産を横取りしようと企む…。

 

この映画の何がまず凄かったかというと、韓国の俳優さんたちが、日本人/あるいは日本語が堪能なキャラクターを演じているところ。

なんと台詞の半分くらいが日本語で驚きました。

最初はちょっと聞き取りにくいかなあと思ってみていたのですが、段々これも味に思えてくる。

言語訓練を含めての演技、自国の俳優でここまで出来るとためらいなく作れるチャレンジ精神がすごいなぁ、と思いました。

 

ストーリーはサスペンス系の上にさらにドロドロの情愛が絡んでくる感じ…と思わせての…

以下はネタバレありで語っています。

 


前半は、詐欺師コンビがマヌケに見えてしまって、計画に無理あるやろ、緊張感が足りんなどと思いながら観てました。(我ながら騙されやすいなー)

終始受け身な感じのお嬢さん役のキム・ミニよりも、生き生きした侍女役のキム・テリの方が可愛く魅力的に思っていたのですが…

 

第1部の終わりで見事何もかもがひっくり返って、前半つまらなく思えた秀子の表情一つ一つが全く違うものにみえてくるという…もう完全に”お嬢さん”の虜でした。

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右がお嬢さん役、キム・ミニ。左が侍女・スッキ役のキム・テリ。

 

秀子の過去編での児童虐待描写にウッとなりつつも、「こんな環境で育ったからお嬢さんは歪んだ人間になったのか」とまーた騙される(笑)。

そしてエログロ路線か思わせつつ、でもあの朗読会のところまで行ってしまうと、「本、全部エロ本やったんかーい!」ともう笑うしかない。男衆ハアハアしすぎ。

 

しかし…!!

スッキがエロ本捨てまくって、お嬢さんと草原に駆け出し、マイケル・ナイマン風の音楽(←違うかも)が爆音でかかってくるところ、あそこでなぜか涙がボロボロ出てきました。

分かりやすい”抑圧された女性解放系ドラマ”でありつつも、同性愛という壁を越えて愛し合う2人の純愛…! 普段恋愛ドラマにノレないタイプの自分も胸が高鳴りました…!

 

お互い騙し合う立場にあったはずの2人が、見返りを求めないリスクを負っての行動に出る。

自分の辛さ・悲しみに心から思いを寄せて怒ってくれた恋人。横取りできたはずの豪華な宝石や着物よりも、自分を見てくれた恋人。

 

一見子供っぽい感じののスッキ、「母乳あげたい」とか言うし、意外に包み込む母性愛の人なんですね。お嬢さんが惚れてしまうのわかるー。


2人のベッドシーンはいやらしさなんて皆無、握りしめた手がむしろ神々しい、カッコいい、アッパレな気持ちで夢中で見守りました。

 


こんな物語では男性はただひたすら道化になるのみ…だけど、ハ・ジョンウの詐欺師のキャラクターもなかなか憎めず、よかったです。

どん底から這い上がっての一大計画に賭けた男。お金第一といいつつ、彼も結局お嬢さんの虜になってしまったから下手こいたわけだけど、「酷い目にあっても同情はいらない」という言葉通り見事な散り様でした。


変態おいたんはもっと酷い死に方でもよかったと思う。佐々木夫人と一緒にタコに食われて欲しかったです。

 


原作はイギリスの女性作家の書いたミステリということで、「舞台が全く違うのにどんな脚色したんだろう?」と気になって読んでみたのですが…

荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)

荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)

 

話が全然違ってビックリ!!

上巻(映画でいう第1部)まではほぼそっくりトレースしつつ、下巻からは全く違う内容でした。

どちらかというと、爽快感はかなり低く、陰鬱度高めな気が…。

ネタバレになるのであまり書きませんが、朗読パートは映画に比べると極めて軽い扱い。また映画では少ない出番のある人物がかなり違う立ち位置でドラマを担ってました。

 

うまく小説の設定だけ使って、「自分のアイデンティティを偽った男&詐欺師…の偽物の男2人が、女2人の真実の愛に敗北する」という上手い話の構成つくったなーとまたまた感心。

ゴシック小説な雰囲気の原作に対して、和洋折衷とも言い難い、不思議な雰囲気の「お嬢さん」。手袋、ボタン、靴、飴、髪飾り…アイテムの使い方も抜群で、ドキドキさせられっぱなしでした。

 

唯一イチャモンつけるとしたら…ラストカットが、もうあの詐欺師が漕いでたボートの上の、手を繋いだ2人…のとこで終わってたほうが締まったかなー…と個人的には思ってしまったのですが、またまた脱いでくれて、最後まで濃~厚~。

 

とにかく女優2人に魅せられる、意外なほど爽快感たっぷりのラブストーリー、大満足です…!