どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

破天荒青春映画として楽しい「タイタニック」

公開当時家族で観に行ったものの、自分の親世代には「中身がない」「ポセイドン・アドベンチャーと比べ物にならない」と辛辣な評価だった「タイタニック」。

自分も「タイタニック」が感動作かというと違うような気がして、好きで何回か観ているのに1度も泣いたことがないなあと思う。

 

後半の船が沈む場面。ジャックを助けに船底に向かうローズはニュートを助けに戻るリプリーのようにみえてくるし、ジャックの手をとり婚約者から逃げる姿は負傷したカイルを支えながら進むサラ・コナーのようにみえてくる。

キャメロン監督らしい強い女性像には高揚します。

乗務員や乗客の人たちのドラマは哀しいしもっと泣けてもいいはずなのですが、やはり視点は主演の2人なので、どうしてもバカップルの逃走中にわくわくしてしまいます。

ナイフを刺すような冷たさだという海水にどっぷり浸かっても案外平気そう…「ポセイドン・アドベンチャー」のような息の詰まる死の恐怖は全く感じられませんでした。

 


では恋愛映画としては感動できるか。

当時の映画雑誌で「ジャックの死が辛すぎるので助かるエンドを作って欲しいと抗議するファンがいた」…なんて記事を読んだおぼえがあるけど、ジャックが沈む場面も全く泣けないどころかむしろスカッとしてしまった(笑)。

冒頭の年老いたローズの語り口からジャックの死は判明していたようなものだし、むしろあの物語ではジャックの死は必然、女の子が自立して1人で生きていくようになるための舞台装置のような役回りがジャックのように思えます。

 

自由を愛する貧しい絵描き。キャラクターの背景もそうですが、看板で自殺する女性をあんな甘い言葉でひきとめられる男性がいるだろうか、どこまでも身を挺して一途に追いかけてくる様子は不自然といっていいくらい現実感がなく、ローズの幻だった、もう1つの自我だったと言われても納得してしまいそうです。

特に船が完全に沈んだあと、木片を探して案内して亡くなるまでの一連の場面は、もうジャックは既に船と共に沈んでしまっていて実はローズが1人で泳いでいたのではないか…シャマラン映画のように楽しみたくなってしまいます。

 

スコット牧師も仰天のどこまでも希望を捨てない精神力、「君は子供をたくさん産んで幸せに…」の台詞も会ったばかりの恋人が言うにはあまりにも聖人君主すぎる…!

ジャックの手をブチっと振り切ってローズが去っていくところは、「頼れるものがなくても1人で生きていく」と精神成長したローズの姿にむしろカタルシスを感じるシーンでした。

 


映画が大ヒットした当時、実は生きていたジャックとローズが大戦中に再会する…という続編の噂も聞いたことがあったけど、ジャック完全にターミネーター(笑)。

しかしもしジャックが生きていたとしても、あの2人は船を降りたあと別れそうだなあなんて下世話な想像が頭をよぎります。

よく見たらこの絵そんなに上手くないわね…。
2人きりで生活するのって思ったより大変だわ…。

船の中という限定的な空間では魅力的に思えたかもしれないけど、いざ現実生活していくことになったらローズは物足りなくなるんじゃないかなあ、お互い知らない世界を知れる新鮮さが楽しい付き合いで、一生添い遂げる恋愛にはあまりみえないなあとどうにも未来のみえにくい2人です。

 

しかしパニック映画としても恋愛映画としてもイマイチ乗り切れない「タイタニック」にそれでも魅力を感じるのは、やっぱり主人公ローズの解放感に「気持ちよくなれる映画」だからだと思います。

海の上の豪華客船という非日常世界に連れて行かれ、イケメンと恋して、危険な目にあってスリルを味わいつつ、しっかり生き残る…ってすごい女性サービスの映画。

婚約者と親は彼女を理解しない悪者と、テンプレすぎる“抑圧された女性キャラクター〟だけど、一大スペクタクル劇の中で、人生で初めてやりたい放題、破天荒に突っ走ってく主人公をみて楽しめるかどうかの映画じゃないかと思います。

 

ヌード描いてもらうのになぜか嫌いな婚約者の宝石つけるローズの心境はさっぱり理解できず、笑ってみてしまうことろも多いのですが、最後に宝石を海に投げ捨てるおばあちゃんにもビックリ仰天!

宝石は彼女の過去の象徴でそれに頼らず歩んできたという自立心の証…それを誰にも渡したくなかったってことでしょうか。あの部分は婚約者が不憫に思えて、ここはいつみても難しすぎる女心です。

 


ラスト、ローズが飛行機に乗ったり乗馬したりしている過去の写真が映るのはすごくいいなあと思いました。

人生辛いことや別れがあっても、全力で自分の人生楽しんでやる!!という彼女の逞しい精神に清々しい気持ちになります。

恋愛映画としては胸キュンできなかったけど、歳を取ったお婆さんが自分の青春を回想する…その思い出は不確かなものかもしれないけど、辛い時も心の支えになるような体験があった、というところにロマンを感じました。