どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「プロジェクト・ヘイル・メアリー」…少年漫画的ロマンとなろう小説的高揚感

「火星の人」(映画「オデッセイ」は自分はかなりイマイチだった)のアンディ・ウィアーの最新作で2021年のベストセラー「プロジェクト・ヘイル・メアリー」を読みました。

ネタバレなしで読むのが最高の作品、読み始めると手が止まらなくて2晩で一気に読んでしまいました。

友情・努力・勝利の胸熱展開、主人公がチート級の頭の良さで極難を次々に乗り越えていく高揚感には少年漫画やラノベのような楽しさがあり、親しみやすいSFでした。

未来に対して異様に楽観的というか、人類は意外にしぶとい…「火星の人」も本作も昔読んだJ・Pホーガンの「星を継ぐもの」に似たものを感じました。

(※以下ストーリーを軽く説明しています)

 

病室のような部屋で目を覚ました記憶喪失の主人公。

どうやら自分が居るのは宇宙船だということに気付き、徐々に地球での記憶を思い出していきます。

地球ではある日から突然太陽エネルギーが減少し、氷河期の危機に直面していました。

未知の地球生命体(といっても微生物)が太陽エネルギーを食べているのが原因らしいと調査で発覚します。

主人公のミッションは唯一その生命体に感染していない恒星に赴き、地球救済のヒントを得ることでした…

 

温暖化も深刻な問題だけど自然様のご機嫌ひとつでまたとんでもないことに…

このままでは30年以内に氷河期が来て人類の半数が餓死すると予測、全ての国が集まり叡智を結集して爆速で進む宇宙船ヘイル・メアリー号を開発します。

実際皆こんなに協力できるのか、現実はもっとお互い出し抜いたり争ったりするんじゃないだろうか…

「人間は誰でもお互い助け合うのが基本で本能だ」…「火星の人」もこんな超絶ポジティブ思考でしたが、これはあえてお花畑にしているというか、作者の祈りや願いが込められているように感じました。

 

いまの人は…いまがどんなに恵まれているか、まるでわかっていない。過去はたいていの人間にとっては情け容赦ない過酷なものだった。

産業革命は農業を機械化した。そしてそれ以来、わたしたちは他のことにエネルギーを注げるようになった。でもそれは過去200年間のことよ。

絶望に駆られた飢えた国々が食糧を求めて互いに侵略し合うようになると、食糧生産量は減る。戦争は工業を破壊するの…

「火星の人」でも主人公が必死にジャガイモを育てる姿に農業(食料)が人の生活の根幹なんだとまざまざ痛感させられるような気持ちになりましたが、本作でもそれは共通していて、考えてみればこれは「漂流教室」とか「トリフィド時代」なども同じ。

深刻な部分はあえて語るだけに留められつつ、でもその怖さは充分想像させられました。

本来宇宙というスケールでみれば人間の争いは塵芥に過ぎないものなんだ…本作では頭のいい人たちが何のしがらみもなく皆協力し合うという理想的な姿があえて描かれています。

…とはいえ主人公の他に同乗していた宇宙飛行士2人(中国人とロシア人)が昏睡状態から目覚めずアメリカ人の主人公1人だけが無双する…という展開はなんだかんだでアメリカ万歳だなあ(笑)。

宇宙船が問題の生命体を燃料にして進むという解決策がまた面白く、宇宙は人類をより豊かにする何かが眠っているでっかい宝島なのかもしれない…

トップガン マーヴェリック」にもあったようなアメリカの力強さ、フロンティアスピリットみたいなものを感じる作品でした。

 

(※ここから重大なネタバレ)

そして本作ではなんと異星人が登場します。

太陽のエネルギーが減って他にも困ってる生命体がいて異星人の〝彼〟と協力し合うアツい友情物語に。

こんなに上手くコミュニケーションとれるのか!?って思いましたが、なぜ全く異なる環境で生まれた2つの生命体の知的レベルがそこそこ同じだったのか…にもそれなりの解釈が加えられていました。

相手がどんな奴なのか分からなくて悪い可能性も思い浮かぶけど、それでも1人より絶対に得られるものがあるはずだ…扉を開く主人公の心境にドキドキさせられました。

見た目や食文化がまるきり違っていても「なぜ…?」と興味を持って相手を尊重する優しい世界。

1人ではできないことが得意分野の違う2人の交流によって可能性が大幅に増えていく…この展開が胸熱です。

 

「火星の人」がハッピーエンドだったので、この主人公も地球に帰れるだろうと予想しながら読んでいました。

主人公・グレースが地球に戻って年取った教え子たちに囲まれる。ヨボヨボのお婆ちゃんになったストラットに『あなたのこと、別に好きだったわけじゃないんだからね…!!』とか言われたりして…と能天気に考えていたら意外なラスト。

途中まで「今回の主人公『火星の人』と全くおんなじでグレースがマークに代わってても違和感ゼロやわー」と思っていましたが、最後の最後で主人公の正体が明かされるというか、本当は宇宙船に志願して乗っていたわけじゃなく強制で乗せられていたことが発覚する。
(昏睡耐性もめっちゃ選ばれし者設定やなあ、と思いましたが)

半ば強制的に利他的な行動をさせられていた主人公が最後にロッキーを助けるため本物の自分の意志で献身的な行動をとる。

人の善性を強調したような物語だと思いました。

けれど主人公の人生には確実に犠牲になったものがあって「火星の人」よりも苦味が残るというか、自己犠牲の代償がしっかり描かれていたように思います。

地球が助かったかどうか判明するまでの主人公の心労は相当なものだっただろうし、至れり尽くせりとはいえ生存に適さない環境で生きるのは過酷なことでしょう。

一応所違えどやりたかった仕事は実現していて、帰還に向けた支援と本人の意志が最後に示唆されてもいました。

映画の「オデッセイ」は主人公が地球に帰るところまで映しきってるのがダサいなあ、皆宇宙船に乗って帰るとこで終わった方が余韻があってよかったのになあ…と思っていたのですが、でもこの「ヘイルメアリー」は最後に地球に戻ったお爺ちゃん主人公の姿がみてみたいなあ…そんな風に思うラストでした。

 

それにしても映像化は中々難しそうな作品であります。

「火星の人」は主人公の日記(ログ)という形の独白になっていて、本当はもっと辛いけどあえて自分を鼓舞している&遺書になる可能性が高いので他のクルーや家族が傷つく可能性を考慮してあえてネガティブなことは書かない…そんな主人公の人間性が垣間見えて心打たれたのですが、映画の「オデッセイ」はそういう部分が全く描けておらず悲壮感が伝わって来ないのも非常に不満でした。

今回も記憶喪失前→現在を行ったり来たりするのが謎解き的要素として作品の1つの醍醐味になっているので、脚色の良し悪しがはっきり出そうです。

主演はライアン・ゴズリングの予定だそうですが全然イメージ違うなあ、もっと若々しくて朗らかなイメージ。

トップガン マーヴェリック」のマイルズ・テラーはどうかな、ストラットはジェシカ・チャステインを思い浮かべながら読んでしまいました。

 

「ヘイル・メアリー」はアメフト用語で「神頼み的パス」を意味するのだとか。

これだけ頭のいい人が集結しても思い通りにいかないことは多々あって運を天に任すようなものなんだ…自然や人生の無情さを感じさせつつ、知恵と希望を持って立ち向かっていく主人公が胸熱で夢中で読んでしまいました。