ホラー映画の中では今年1番の期待作!?
オスカーにもノミネートされていた話題の「サブスタンス」を観に行ってきました。
※以下内容に少し触れています
思った以上にド直球のホラーでびっくり。
スマホが出てきたから現代が舞台であることが察せられたものの、全体的に80年代っぽいムード。
クローネンバーグの「ザ・フライ」や「ザ・ブルード」を彷彿させて面白かったのですが、140分がちょっと長く感じられたかも…
テンポはすごく良くて緊張感がずっと途切れないのは凄かったけど、最後の展開がしつこい(笑)。
オマージュてんこ盛りの大騒ぎは楽しかったものの、ずっと視点が一貫していたのがあそこでブツッと切れてしまった気がして、どこかノリきれないまま終わってしまいました。
それでもデミ・ムーアの本人のイメージを生かした体当たり演技は圧巻…!!
強引に思われるところはありつつも、やりたい放題ホラーしてて大いに楽しませてもらいました。
※ここから詳細ネタバレあり
かつての世界的大女優が段々と落ちぶれてエアロビ番組のホストに…(モデルはジェーン・フォンダ??)
しかし50歳を迎えたエリザベスはその番組さえも失い、プロデューサーからお払い箱にされてしまいます。
傷心のエリザベスはある日謎の薬品”サブスタンス”の案内を受け取り、「完璧な自分を手に入れられる」という誘い文句に惹かれて薬に手を出してしまいますが…
この”サブスタンス”を提供する組織の設定とかは丸投げ、そこが潔かった(笑)。
USBをぶっ刺したらいきなり動画が流れてきて、これがVHSでもよかったくらい…細かいことは気にせず勢いで話が突き進むところが80年代っぽくてよかったです。
エリザベスの住んでいる高層高級マンションの外にある看板はあんな高いところにあっても広告効果ないやん(笑)と思いましたが、〝こうあるべし〟の自分の理想像に常に追い立てられている主人公の心象風景みたいなものなのかも…
終始精神世界を描いているようにも受け取れる構成が大胆で面白かったです。
大スターやセレブの生活ってすごいプレッシャーがあって華やかさとは裏腹に過酷そう。
〝本当の自分自身〟を押し殺して超多忙な日々を送るうちに心も体もぶっ壊れてしまうようなことがあるんだろうなあ…
とんでもないDIYスキルで作られたあの隠し部屋(笑)、見た目をあーだこーだ言われまくって整形手術に走ったり、鬱になってドラッグやお酒にハマったり…注射器だらけの部屋のなんと闇深なこと。
セレブの裏私生活を垣間見たような気持ちになりつつ、自分がこうありたいと願う姿と現実の自分とのギャップに苦しむドラマは明快で感情移入しやすかったです。
1番ゾクッとさせられたのは、元同級生と食事の約束をしたエリザベスが身支度してるうちにトチ狂うシーン。
服もメイクもしっくり来なくて四苦八苦、何が正解か分からなくてドツボ、鏡の前で戸惑うことってあるある(笑)。
多くの女性が共感するであろうシチュエーションをここまでの鬼気迫るトンデモホラーに仕上げているのが壮絶でした。
若い分身(理想)と比較して自信消失、すっかり人の目線が怖くなってしまったエリザベス。
「全く興味がない男に縋ろうとしている自分の惨めさ」を本人も自覚していて、そんな相手にこんなアピールの強いカッコするの馬鹿らしくない!?と我に返ったというのもあるのかも…複雑な女性心理を描いているようで、とてもユニークな恐怖シーンでした。
あの元同級生の男性も水溜まりに落ちたメモを平気で渡すなど配慮に欠けた人のようで、付き合っても果たして幸せになれるのか微妙に思えるところがまた絶妙。
そういう欠点があっても思わぬいいところもあるのかも…とりあえず1回はデートしてみたら!?と思ったけど、エリザベスの本音としてはハナからノーサンキューなんだろうな…
分身が家に連れ込む男は若くて強そうなイケメンばっかり(笑)。
「結局あんたもルッキズムやん」と主人公を冷めた目で見てしまう部分もあって、この辺りも嫌なリアルさを感じました。
〝1週間で交代〟という設定がスリリングでしたが、本体がチキンを食い散らかして翌日に分身が激怒している場面も滑稽ながら妙に切実。
〝夜中にポテチを食べたら体重が増えてて昨日の自分が憎い〟みたいなの分かる気がする(笑)。
2人で1つ、今日の自分と明日の自分は地続き。でも頑張るのも大事だけど息抜きも大事だよね…”すべてはバランス”というのが本当に言い得て妙だと思いました。
注射器に剥がれ落ちる爪、背中を縫合する場面など痛々しいボディホラーのシーンが多かったですが、最初にダメージの出る箇所が〝手〟というのも面白かった。
そうよ、そこも気になる場所なのよ〜(笑)。
女性監督ならではのサディスティックさ!?みたいなものを感じるところが随所にあって、若い分身が老婆の本体を殴りつけるシーンが執拗に暴力的でびっくり。
そんなに年取った自分が嫌なんかい!!となりましたが、現実の自分をとことん否定する姿が痛々しかったです。
武富士ダンスのようなエアロビダンスや胸を露出した女性たちがステージに立つ大晦日イベントなど、昭和というかとても現代とは思えない80年代っぽい雰囲気。
時代を跨ぎつつ、監督が性的搾取や抑圧されてきた女性の悲劇を描きたかったんだろうなーというのは伝わってきました。
特にデニス・クエイド演じるプロデューサーはステレオタイプが過ぎるほどに嫌な奴(笑)。
でもこういう業界にこういう男の人いそう…職場や親戚の集まりでも1人はいそうなおっさん。
余計なこという人はスルーしとけばと思うけど、デリカシーない一言に傷ついてそれがいつまでも尾を引いてしまうこともあるのね…
みている途中で「分身が分身を作る無限ループエンドに行くのかな」と予想。
あの蛍光グリーンの注入薬を分身が入れたところで終わる「死霊のしたたり」エンドかな、と思いながら見守っていましたが、予想を遥か超えた大カタストロフに…
それまでずっと主人公2人視点で一貫していたのがあそこでブツッと切れてしまって、心理サスペンスとして機能していたのがここで一気に瓦解した感じがして残念に思われました。
明らかに見た目の異なったモンストロエリザスーを周囲の人がスーとして迎え入れるのは、アイコン的女性のことを本当は誰もよくみていないという暗喩なのか…
モンストロエリザスーがエリザベスの写真を顔に貼りつけたのは「若くなくてもやっぱり本当の私をみて!!」という主人公の心の叫びなのか…
新しいものに飛び付いては消費するばかりの我々大衆にも牙を向けた、毒っ気たっぷりのクライマックスであることは伝わってきたものの、爽快感がイマイチ。
「デビルスピーク」のクーパースミスのようなハッチャケ感がなく、肩のあたりにくっ付いている〝エリザベスの顔〟が終始困惑気味というか苦しそうな表情だったので、どういう気持ちなのかな…とよく分からないまま観てしまいました。
それでも突然始まった怒涛のホラー映画の洪水にはニンマリ。
「バスケットケース」みたいな見た目になった主人公が「キングコング」みたいな目にあって、「キャリー」のように大暴走。「シャイニング」な廊下も血まみれになって「ザンガディクス」を上回る血の量に絶句。そして最期は「溶解人間」のように息絶えてしまう…
「50歳であれが終わる」「おっぱいが顔についてたらいいのにな」の台詞が伏線回収されるのにはなんだか感動してしまいました。
けれどお星様を見て我に返るでもなく、最後まで他人の賞賛を夢見て死んでいった主人公はやっぱり切ない…
一度スポットライトを浴びた人にとって関心を持たれなくなるということはさぞかし恐怖なんだろうなあ…現代風「サンセット大通り」なエンディングに映りました。
かなりハードルを上げて見てしまったので物足りない感じが残ってしまいましたが、デミ・ムーアの体当たり演技は圧巻。
「GIジェーン」で坊主頭になったり、「素顔のままで」でヌードになりつつ娘と親子共演したり、なんでもやるわよ!!な野心家。アグレッシブな彼女のイメージと本作の主人公がいい具合に重なり合って、奇跡のキャスティング。
マーガレット・クアリーがデミ・ムーアの若い頃に似ていなくて、〝2人で1つ〟と言ってるのに同一人物ではないってこと??…と最初は困惑しましたが、〝今の現代に受け入れられやすそうな理想の姿〟ということで決して昔の自分ということではないのかな…
そんなに似ていないのに〝本体と分身は同じ人〟にしっかり見えてきて、マーガレット・クアリーの演技もとてもよかったです。
還暦とは思えないボディとお顔、ある意味自然に年を重ねていないといえるのかもしれませんが、デミ・ムーアめちゃくちゃ綺麗だなーと驚嘆。
でも彼女をそういう目線でみること自体がこの作品の趣旨に反するのかしら…何とも複雑な気持ちになる仕掛け(笑)。
でも女性の容姿変化に留まらない恐怖が描かれていたところがよかったなーと思って、家族も友人もいない人がある日突然仕事も失って孤立、関心が自分だけになってしまって静かに狂う恐怖、一度自分はダメだと思い込んだらとことん落ち込んで浮き上がれない怖さなど真に迫っていて、他人事と切り捨てられないものを感じました。
入場特典でいただけた接種証明シール!?このゾンバイオオマージュは見るからに胡散臭くてよかった(笑)。
オスカー獲れなかったのはある意味納得!?思った以上にホラーに振り切っていてびっくり。
終盤の好みはきっぱり分かれそうですが、監督が撮りたいように撮ったのが伝わってくる大胆な作品で、大いに楽しませてもらいました。