どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「ジャグラー/ニューヨーク25時 4K修復版」…ノンストップ激走!!時代の空気感が最高なサスペンス・アクション

先日「笑む窓のある家」をシネマートさんに観に行った際、予告が流れていてとても面白そうだった「ジャグラー/ニューヨーク25時」。

1980年に劇場公開、度々テレビ放映されてカルト的人気を得るも、その後権利関係でDVD化困難に…幻の映画となった知る人ぞ知る1作とのこと。

 

富豪の娘と間違えられて誘拐されてしまった庶民の娘。元刑事のお父さんが走って走って走りまくって犯人を追いかける!!

ノンストップでひたすら走り続ける怒涛の勢いは「コマンドー」。

ドキュメンタリータッチの臨場感溢れる映像は「フレンチ・コネクション」。

当時のニューヨークをそのまま映し出した映像の空気感が半端なく、「クルージング」のように、アメリカのタイムトラベル裏ツアーに参加したような心地になりました。

中身は硬派な社会派作なのかと少し身構えていましたが、良い意味でB級映画風味。

抜けたような明るさがあって所々で爆笑、頭からっぽで楽しめる懐かしアクション映画の味わい。

全力疾走する中で出会う町の人たちが、皆生き生きとしていてめちゃくちゃ楽しかったです。

 

(以下ネタバレあり)

狼たちの午後」などを手掛けた超有名撮影監督ヴィクター・J・ケンパーが本作を担当していたとのことですが、白昼堂々の誘拐シーンは車のサイドミラーをスクリーンいっぱいに映してのカメラワークが大胆でスリリング。

ここからは目の前で娘を攫われたお父さんが、ひたすら走る、走る!!

道が渋滞していて走ってきたお父さんが普通に追いついちゃうところなど新鮮で面白い。

タクシーの運転手さんが「変態野郎か、とっちめてやる!」と盛大に協力してくれるのに笑いましたが、怒涛のカーチェイスシーンが展開。

移民のタクシー運転手のおっちゃんに助けられ、次には宗教家のおじさんの車に乗り込むなど、スピード感満載のチェイスシーンに”ザ・アメリカ”が詰め込まれているのがなんだか凄かった(笑)。

車が衝突したあとは間髪入れずまたまた走って追いかけっこ。

どうみても嫌がっている女の子を無理矢理引き連れて走る犯人…誰か通報しろやと思うけど、無関心なのかこういう出来事が日常茶飯事なのか、人々が見向きもしない大都会にビビります。

 

ついに父親を引き離した犯人・ソルティックは荒廃した住宅街にキャシーを連行。

瓦礫だらけのアパート周辺がこれまたすごい景色。

黒人やプエルトリコ系ばかりになったと変わりゆく街を嘆くソルティック。治安を悪化させて安く土地を買い叩いた悪徳不動産業者にその怒りを爆発させます。

当時のニューヨークの負の一面を覗かせる犯人のバックグラウンド。〝忘れ去られた人たち〟の怒りの矛先や現在にも続く分断など、リアルな暗さも感じさせました。

 

不動産王クレイトンの娘を誘拐して100万ドルの身代金を要求する計画を立てたソルティックでしたが、間違って連れてきたのは庶民の娘・キャシー。

「うちの家は貧乏、パパは元刑事」とキャシーが言っても「金持ちは嘘をつくのが上手いな」と全く取り合わず平行線のまま。

金持ち家族を巻き込んだ大混乱が描かれるのかと思いきや、ここはあっさりしていて誤解が解けないまま終わるのが意外。

「太っているからダイエットしている」と自信なさげに語るキャシーに、「ガリガリより肉付きのいい方がいい、君はそのままでいいんだ!」と言って励ます犯人(笑)。

さらには亡くなった母親の着ていたワンピースをキャシーに着せるソルティック。マザコンロリコンとか勘弁してくれや(笑)。

お父さんっ子で地元を愛する純朴娘のキャシーと、同じく家族大好きっ子だったと思われるソルティック。複雑な心の交流に、病的というよりなんだか切ないものを感じてしまいました。

キャシーが15歳にとてもみえず12歳位かと思ってしまいましたが…スレてない良い子で子役の女の子の素朴な演技もとてもよかったです。


一方父親ショーンは犯人追跡中に街のあちこちを破壊、警察に捕らえられてしまいます。

そこへショーンに恨みを持つ元同僚バーンズが接近。仕返しにと平然とショーンに暴力を振るいます。

物凄い形相で主人公を追跡するダン・ヘダヤ、まさか犯人以外の人間とこんな壮絶チェイスを見せてくれるとは(笑)。

警察署に女を連れ込んでたのをショーンに報告されて、停職処分&家庭崩壊…ってそれ完全にあんたが悪いやろ。

通行人がいるのもおかまいなしにショットガンを連発するシーンは、完全にトチ狂ってて笑いました。

 

ストリップ小屋近くで犯人が何かを落としていたことを思い出したショーンは、聞き込みのため風俗店を訪問。

しかし皆売り込みに夢中で裸を見せてくるばかり、一向に話を取り合ってくれないドタバタ劇が可笑しくて大爆笑。

どうにか紛失物を拾っていた女性と接触し、落とし物の飼い犬登録証を入手。動物保健局へ向かい見事犯人の住所を特定するショーン。

ここからなぜか保健局の美人女性が仲間に加わり一緒に行動。

離婚した元妻の出番はあっさり終わって、気付けば美人ヒロインがしっかり登場、こういうところもB級映画っぽくて愉快。

サウス・ブロンクスへ向かうと途中でウォリアーズのような不良グループに絡まれる一幕も…ウォリアーズよりしつこいし話の通じるタイプじゃないのが何だかリアル。

助けてくれるタクシーのおばちゃんもいいキャラしてて、「偉そうに話したらダメ!」とか教えてくれるのがあったかい(笑)。

 

雑多で汚いニューヨークの町。

ワゴン車を置いてたら次々に人が現れ部品を根こそぎ持って行くところなど治安が悪いことこの上ないですが、なぜか逞しさすら感じてしまう人々の動き。

皆日々の生活に必死、街の描写が〝そのまま〟という自然さで目を奪われっぱなしでした。

一見すると冷たい印象があるけれど、中には手を差し伸べてくれる人もいる…そんな街の人たちとの刹那的交流に胸がアツくなりました。


最後は野外ライブ場で犯人と対決。

序盤でネズミを殺そうとしていた職場の風景と重なる”地下”の設定が上手い。

金を渡してもキャシーを返さないソルティック。もう寂しくてたまらん!!っていう喪男オーラ全開でなんともいたたまれない気持ちに…

ストックホルム症候群というより、キャシーは人に寄り添える優しいいい娘なんだわーとちょっとウルっときました。

あれだけ走って最後は意外と地味でしたが、見事娘を取り返すお父さん。

ラストは保健局の女性と3人で新しい家族になることを予期させて、ファンキーなディスコ調音楽とともにハッピーな気分に浸りました。


食事シーンが印象的な本作。

目玉焼き&ソーセージのプレートセットで似顔絵を作る犯人の冒頭の姿からワクワク。

子供のような無邪気さとともに、突き立てたケチャップからは社会への怒りが滲み出ていて何とも不穏。一気に引き込まれるオープニングでした。

またショーンがホッドドッグに蝋燭を載せてキャシーのお誕生日祝いをするシーンも印象的。バレエのチケットにマクドナルドでのディナー…何気ない描写でこの素朴な親子に感情移入させるところも上手かったです。

そして度々登場する太っちょ刑事(ゴッドファーザーのクレメンザ)はヨーグルトアイスバーを試食。製造方法をきいてウッとなりそそくさと店を退場(笑)。

大ポカした部下の頭をひっ叩いたりもするけど、権力者に迎合しない昔堅気の刑事。

人間味を垣間見せる場面が息抜き的に入るのも楽しかったです。

印象的な食事シーンのある映画はいい映画が多い気がしますが、お気に入り1本がまた増えました。

 

トークイベントのある回にて鑑賞させていただきましたが、上映終了後に鶴田法男監督と夏原武先生が登壇。

「ダン・ヘダヤのショットガンシーンはゲリラ撮影にみえる」とやはりカメラワークを絶賛。 

犯人が女の子を連れて走っても皆気付かないのは周りの人が皆ジョギングしてるほどの空前のジョギングブームだったから…知らない時代背景なども伺えて興味深かったです。

フナイビデオ就職に至ったという本作の特別な思い出を語った鶴田監督と、テレビ放映でみたため吹替版が待ち遠しいと語った夏原先生。

ビデオバブル時代の思い出トークなど貴重なお話を拝聴することができて楽しかったです。


公開から3日目、上映回数も多いからか入場特典のポスターはとっくに終了。

コラボメニューのジャグラードッグも売り切れていました。

Tシャツも品切れでしたが、パンフレット(800円)は無事に購入。

トークイベントでも触れられていましたが、日本では蓮實重彦氏だけが本作を絶賛、それが皆に勇気を与えたらしく!?その評論文が掲載。 

800円と思えない充実の内容で、有難く読ませていただきます。

 

監督(ロバート・バトラー)が「ウハウハザブーン」「乱気流/タービュランス」の人だったことに驚き。時折笑いながら思い切り楽しめるアクション映画に…B級だけれど光るものを感じる1級品。

この当時のニューヨークの空気感やアメリカの暗い部分をまざまざと感じつつも、そんな中にも人の温もりに触れた感じがして、鑑賞後には元気の湧いてくる大変エネルギッシュな1本でした。