「500日のサマー」みたいな題名だな~なんて思っていたら、ドロドロした史劇…!男と女の壮絶な愛憎ドラマだった…!!
ときは16世紀のイギリス。
本作の主人公・アン・ブーリンは、エリザベス1世の母親として知られているが、そのアンがイギリス国王・ヘンリー8世と過ごした1000日間を描いた歴史ドラマがこの「1000日のアン」。
もともと本作はブロードウェイで上映された”演劇”だったそうだが、「王族の不倫・離婚」などセンセーショナルなテーマだと当時評価され、映画化されたのが遅めの1969年だったという。
歴史の世界&男女の悲しいドラマに没頭の、あっという間の145分だった。
あらすじ…というより知っておきたいイギリス史
自分は昔、ケイト・ブランシェットが主演していた映画「エリザベス」をみて、歴史知らんけどエリザベス1世ってカッコいいな~と夢中でみた記憶がある。
「1000日のアン」も、何も知らなくてもドラマとして楽しめる作品になっていると思うが、事前に知っておくとスムーズにみれる情報もあるかと思ったので、ちょっと整理。
・16世紀あたま、イギリスはヘンリー8世という国王が統治していた
・ヘンリー8世は外交のため、スペイン王家のキャサリン・オブ・アラゴンと政略結婚していた
・キャサリンとの間に生まれた男児はみんな亡くなってしまい、女児しかいなかった
・ヘンリーは女好き&男児を強く望み、生涯6回も結婚した
・当時のカトリックは離婚を認めなかったので、ヘンリー8世のせいで(おかげで)イギリスはローマ・カトリック教会と対立し、独自の道を行くことになった
…と、要は、女好きの困ったちゃんの国王のせいで、めっちゃ揉めまくった…という歴史。
でも娘だったエリザベス1世が結局女王に即位し、お父さんより超有能で、大英帝国の黄金時代を築く…。
壮大な歴史に思いを巡らすのも楽しい1作。
そしてなにより王室を舞台にした「男と女のドラマ」を楽しめる見ごたえのある作品になっていた。
交わらない夫婦の愛
ヘンリーがアンに夢中になっている間、アンはまったくヘンリーを愛さない。
アンがヘンリーに情を向けるようになると、今度はヘンリーの熱が急速に冷めていく…。
「過ごした1000日の中で、お互いの気持ちが重なったのはたった1日だけ」という台詞が強烈。こんな恋愛怖いわー、と思わせるドラマが秀逸だが、2人のキャラクターを少しを追ってみたい。
●アン・ブーリン (演:ジュヌヴィエーヴ・ビュジョルド)
一目ぼれしたヘンリー8世の猛アタックを受けても、王になびかない強かな女性。
ヘンリーが「釣った魚にエサをやらない男」だからと見抜いていたのもあるし、なにより「本来決まっていたはずの自分の結婚を王によって破談にされた」という恨みもあったと思う。
王に見初められたとたん、聖職者や自分の家族が、当たり前のように「国王の愛人になることは名誉なこと」と後押ししてくるの、時代が時代とはいえ、嫌やわ~。
そこで出てきた「王妃と離婚して私と結婚できたら付き合ってやってもいい」という、かぐや姫ばりのムチャぶり。
でも別に「本当に王妃になりたかった」のではなく、「これだけいえば退いてくれるかも」という希望と、まわりをかき乱したかった彼女の”復讐”のようにもみえた。
離婚審議が休廷になったときの泣き笑いのような表情…結婚式後王冠をみて流した涙…アンの結婚をつぶしに加担した”復讐相手”・ウルジー枢機卿が失脚した時の後ろ姿…
頭のいい女性だけに、アンも権力の魅力に溺れそうになっていた節はあったと思う。
悲しいのか嬉しいのか…昇り詰めていく「アンの表情がわかりやすく捉えられない」ようにしているのが、彼女の複雑な心を想像させるようになっていて素晴らしかった。
余談だが、2008年の映画で、ナタリー・ポートマンがアン・ブーリンを演じた「ブーリン家の姉妹」という作品があって、こちらも以前鑑賞した。
この作品だと、最初からアンが野心満々の女性で、狙って王妃になっていった…というお話だったが、人物描写や悲劇性が中途半端だった気がする。
妹(史実だと姉?)のスカーレット・ヨハンソンはひたすら受け身…とどちらにも感情移入しにくく、ヘンリー8世の影ももっと薄かったように思う。
本作のアン、ジュヌヴィエーヴ・ビュジョルドは、前半は「まぼろしの市街戦」のようなイノセントで可憐な雰囲気。それがどんどん魔性を発揮し、ヘンリーの一途さに心打たれて、一度は本気で愛して、雰囲気がまた和らいで……ラスト、ロンドン塔でやつれた姿にて王に啖呵をきるシーンには「女って変わる…!」「母は強し…!」と迫力があって魅せられた。
豪華絢爛な衣装も見どころの1つだが、アンのドレスが、序盤の白や黄色の無垢な色から、濃い色に変化していくのも彼女の内面を表しているようで追うのが楽しかった。
●ヘンリー8世(演:リチャード・バートン)
「自分が王だから、どんな女性もチヤホヤしてくれるが、自分は本当に男性として魅力があるのだろうか??」
雄々しい見た目して繊細な国王。「男児出産」にとことん拘っていたけれど、この人もまた「強い男像」に苦しんだ人なのかもしれないし、政略結婚の犠牲者でもある。
しかしそれにしても、「自分の都合で国かき乱して女性捨てまくる」のはなかなかの鬼畜っぷり。
「国を自分の食卓と考え食い尽くしたくなる」というヘンリー8世の台詞が、「私は国家と結婚します」といってたケイト・ブランシェットのエリザベスとあまりにも対照的すぎて、なんかもう…オトン、しっかりせえや!!ってなる。
演じるリチャード・バートンは演劇畑の人だからか、王の独白シーンも多い、この史劇にピッタリマッチしてた気がするし、自信のない国王(男性)のヘンリーの心情も丁寧に追っていたからこそドラマを楽しめたと思う。
そのほか、国王周辺の脇キャラクターも、なかなか印象的だった。
カトリック側につくか、王の横暴をよしとするか…法律家たちの葛藤…。
1番目の妻キャサリン・オブ・アラゴンの娘、メアリー1世は確か映画「エリザベス」にも出てて、アンの娘で妹のエリザベスを憎んでいたというが、この出自だとやむなしか…。
歴史のネタを知っていれば、照らし合わせて、より深く楽しめる部分はやはりありそうで、鑑賞後には各人物のWikiを追いかけてしまう。
エリザべスの「新たなる希望」感…!!
王妃になったアンは、やがて最初の王妃と同じ道を辿り、見捨てられ、姦通罪をデッチあげられ、ロンドン塔に幽閉される。
「離婚に応じれば命は助ける」「金出すから娘のエリザベスと2人で暮らせ」とヘンリー8世にいわれるアン。自分だったら、迷わずこっち選ぶな~。
しかし 「離婚したら自分の娘・エリザベスが庶子になる」と自ら処刑されることを選ぶアン。
最後にうつる幼いエリザベスの後ろ姿…。
かあちゃんが守った娘がイギリスを導く星になる…!
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悲劇の女性のドラマではあったけれど、なんかちょっと「ローグワン」みたいなラストやな!と後味がそこまで悪くないのもよかった。
またまたTSUTAYAの名盤復活コーナーにてレンタル、ホント外れなし…!!
存分に楽しめる歴史ドラマだった。