どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「獣になれない私たち」…とっても暗いお仕事ドラマ、ゆっくり心にしみる良作

普段あまりテレビドラマ(国内ドラマ)をみないのですが、たまたま1話を視聴したら、そのまま最終話まで完走してしまった作品。

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「逃げるが恥だが役に立つ」の脚本家・野木亜紀子と主演女優の新垣結衣が再タッグを組んだという注目作だったと思うのですが、〝逃げ恥〟のような大ヒットには全くならず、評価は賛否両論真っ二つに分かれて、「暗い」という意見も多かったようです。



仕事がしんどい。気を遣うのもしんどい。明日はどっちだ!?

自分はこの暗さに惹かれてしまいました。協調や自己犠牲を美徳とするような日本人の生きにくさみたいなのを描いた意外と骨太な作品!?なのかなあ、と。

キャラクターの掘り下げが中途半端だったり、テンポが悪かったり…思うところは色々あったんですが、アホなのにあれこれ頭で考えようとするメンドクサイ自分みたいな奴には刺さるものがある作品でした。

昨年の視聴でうろ覚え部分もありつつですが、感想を綴っていきたいと思います。

 

 

上野と松任谷さんという絶妙にムカつく同僚

色々人気俳優も出演していたにも関わらず、トータルで1番印象にのこったのがこの2人(笑)。

・無気力で会食中に大胆にも居眠りする新人・上野はミスを指摘されたら落ち込んで翌日欠勤、主人公が慰めに行く…。

・先輩の松任谷さんは、いい加減で人任せが当たり前、同僚が有給使って休んでても平気で電話かけてくる…。

こんな同僚嫌やわーというのがすごくリアルでした。

 

吉高由里子が出演していた「わたし、定時で帰ります。」は半分しか観れなかったんだけど、働くママの内田有紀がいて、めっちゃ大変で誰かがカバーしなくちゃいけなくなっても、ゴメンとか大丈夫?が皆で言い合えてたと思う。取引先でセクハラ・パワハラ騒動があったときにも、気にかけてくれる誰かがチームにいたりしたと思う。

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ああやって「お互い気遣える誰かがいる」のが成立しているだけで、仕事のしんどさが大分違いそうと思ってしまいました。

傍若無人な同僚2人に振り回されて疲弊していく主人公のガッキーが見てて辛い作品ではあったけど、働いててとことん恵まれない人間関係ってこういうときもあるんじゃないかと思う。

ただ上野と松任谷さんが人間的には全く意地の悪い人ではないのも分かる。最終話でやっと2人ともちょっと成長して、「今かーい!」って感じでした(笑)。

 

 

「いつも笑顔の人は気持ち悪い」という本音

ガッキー演じる主人公の昌(あきら)は、基本八方美人というか、好き嫌いを表に出さず、いつも笑顔で気の利く女性なんですが、これをあるとき、行きつけのビール屋さんの常連に「アイツいつも笑っててキモイ。」みたいに言われるんですね。

ここも抉ってくるなーと思ってみてました。

 

和を貴んで、周りに合わせていることが幸せなのか? 本当は自分が嫌われたくないからニコニコしてるだけで心から笑ってるわけじゃないの、腹黒いよ。…ってなんか言いたいことちょっと分かる気もします。

でも生きてく上でなんでもかんでも表に出してたら只の我儘人間になってしまうし、仕事なら成り立たなくなる場面があるし、相手が家族・友人であっても失うものがあるかもしれない。

 

結局、「言いたいことがあっても言えないときがある。でも言わないを選択することがトータルで自分にとって徳。」と割り切れるときには割り切るしかない…なんて自分は思うんだけれど(笑)、このドラマの主人公は優等生タイプで周りからの期待もでかいからどんどんストレスを溜めるし、自分の彼氏の前ですら物分かりのいい人間でいようとする。(←もうコレは彼女の育った家庭環境に因ると思うのですが)

そんな主人公と対照的なキャラクターが何人か出てきて、「こういうタイプの人もいる」という違った角度をみせてくれて、そこもまた面白いドラマでした。

 

 

♬ありのーままのーな、菊地凛子さんほか…女性キャラ3人

菊地凛子さんはあまり好きな女優さんではなかったのですが、この作品で演じた呉羽(くれは)をみて何だか好きになってしまいました。

我が強そうで、いかにも自分がある…!って感じの女性。ファッションもモードで攻めてますという雰囲気。直感で人を好きになれて、あれこれ考えない。この人も周りを振り回したりはしてるんですが、でもここぞというときの、好きな人への気遣いは案外出来る人。

昌が呉羽に憧れてしまう、タイプの違う2人が案外仲良くなれる…というのになんか納得です。最後の会見シーンで謝らなかったのもよかった。

 

もう1人、昌と違う意味で対照的だったのは、会社を辞めて引きこもりになってしまった朱里(黒木華)。

「凪のお暇」は観てなかったんだけど、気を遣って疲れてしまった働く女子枠…ガッキーよりずっとリアルにみえそうです。

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主人公がちょっと都合のいい出木杉君だったので、個人的には不器用なこの人の方が共感しやすい、凄く良いキャラになりそうだったんですが、突拍子もない行動が多くて感情移入できなくなってしまったのは非常に残念でした。

朱里が働くようになってデスクに貼っていた付箋の言葉…「落ち着いてガンバレ」「必要とされる人間になる」…本来は真面目な彼女の性格が出ているようでここはとてもよかった。

以前はブライダル業界にいて、嫌な同僚がいて辞めてしまった…「元は意欲のあった彼女がなぜそうなったのか」…ココこそ回想などを入れてドラマがあってもよかったんじゃないかなあ、そうすればあの田中圭との訳の分からん三角関係ももうちょっと納得してみれたのかなあ、と思いました。

 

あと最後に1人、このキャラも意外によかった…!というのが、田中美佐子の演じていた千春さん。

「彼氏のママ」ポジションで、さぞかし主人公を苦しめる鬱陶しい人なのだろうと思ったら、アラ意外、昌と1番共感しあえる存在がこの人だったという展開。

千春さんは寝たきりで意思疎通もしにくい旦那さんの介護をしていて、どこか報われない想いで孤立していて…。

介護に主体でやっている人にしか分からない苦しみや望みがあるというのもリアルでした。ただお父さんとの過去話の回想シーンはもう少し短くてもよかったかも!?別のドラマかと思うような唐突感を感じてしまいました。

 

 

会社を辞めるラストでよかったのか?

色んなキャラクターがでてくるものの、結局このドラマのラスボスは、会社の上司、九十九社長。

社長自身、すごく仕事ができるし、自分に厳しい人間。こういう人には尊敬する面も大いにあると思うのですが、他人にも異常に厳しく、怒鳴ったり、24時間ラインしてきたり、ブラック残業平気で課したり…と、もう”悪役”が過ぎて途中からイライラ。キャラクター的には、「わたし、定時で…」のユースケ・サンタマリアの上司の方が深みがあったかなあ。

でもこの社長が原節子の大ファンで、デスクトップにも画像を置いているのいうのが面白かったです。

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松任谷さんが「私じゃ社長の原節子になれない」…なんて言っていたと思うけど、社長にとっての良心的な女性、理想の女性の象徴だったのかもしれません。

 

 「今の若者は打たれ弱くすぐ辞める」という社長の言葉には真に迫るものがあります。

でも、役職だけが与えられて課される仕事の量だけが増えていく…いつどこにも電話やメールが追ってきて仕事と私生活のオン・オフがつけにくい…代わりがいることを前提に使い捨てにされる…今の世代が感じているしんどさに全く目を向けないで、ひたすら向上することだけを望む”昔の価値観”の社長との対決のドラマなんだなあ、と思いました。

 

しかし物語は結局主人公が会社をやめるというラストへ向かいます。

あのままいても結局雇用形態は改善されなかったから昌も朱里もやめてよかったと思わなくもないけど、昌を失ってから、職場の皆が少しずつ変わり始めて、社長も省みて変わっていくかもしれなくて…。

主人公が犠牲になる形で報われないなあ、とハッピーエンドには思えませんでした。

でも、失って、失い続けてようやく気付く…。その前に組織が変わらなくてはいけない…。重たいけど見ごたえのあるドラマだったのではないかと思います。

 

 

松田龍平との恋の行く末はいかに…?

確かにこのドラマ、恋愛ドラマだと思ってみると、視聴がしんどい作品だったのかも。いつまでたっても恋が始まらず、最後に手をつないで終わるだけなんて(笑)。

でも2人で鐘をききに行くラスト、自分はロマンチックでなかなか好きでした。

呉羽みたいに、感情で人をすぐに好きになれるタイプの人もいれば、お互いの中身をゆっくり知って、「居心地がいい」「飾らなくていい」と思える相手と一緒にいることを選ぶ…その選択肢もいいんじゃない?と2人にエールを送りたくなりました。

 

9話のアレはなくてもよかったんじゃ…と思ってしまったけれど、「しんどいときに縋りついただけの人間関係は碌なもんにならない」わけで、そんな関係にしたくなかった…ということの強調なのかなあ、と思います。

 

最後は登場人物が皆集まっての大団円かと思いきや、主人公組だけ「以前の人間関係」から離脱しているという少し寂しい感じ。

「常連が突然来なくなる」「また新しい客が来る」…人間関係移ろい変わりゆくもの…という締め方も、こういったタイプのドラマにあまりみない独特の味を感じました。

 

それにしても松尾貴史演じるタクラマカン斎藤が経営するビール店・5tapの雰囲気がとてもいい…!!お酒を飲んでいる昌が1番幸せそうにみえてしまいました(笑)。

シンドイと思ったときに心を潤してくれる自分の好きなもの、自分の好きな時間に主人公が救われているというのがまた良かったと思います。 

 

確かに暗いドラマだったなーとは思うんですが、個人的にはあまりテレビドラマっぽくない意外な作品で、視聴後にゆっくり、ジワジワと良さがしみるような良作でした。