アルバート・ブルックス主演&監督&脚本。メリル・ストリープ共演の91年のコメディ。
(海外版のDVDジャケ写はカルト宗教の広告みたいですが…)
「ボーはおそれている」のパンフレットにて元ネタ作品として解説されていたのですが、クライマックスのシーンが確かに激似。
自分の生前の行いがスクリーンに映し出され「天国行きに相応しい人間」かどうか判断される…相応しくない人間はもう1度生まれ変わって現生をやり直す…
結構ブラックな内容で、キリスト教というより閻魔大王の裁き、仏教の輪廻転生に近しいものを感じて、世界観が大変面白かったです。
ロマコメとしてはイマイチで、ラストもう一捻り欲しかったなーと残念だったのですが、90年代らしい明るさとトチ狂ったホラー味の両方が混在していて、かなりユニークな作品でした。
◇◇◇
サラリーマン・ダニエルは気弱だけれどジョークを連発しながら職場で笑いをとる〝道化師的存在〟。
波風立てずに生活しているからか周りからの評価は決して悪くない様子。
しかし誕生日に同僚から貰ったCDを聴いてドライブしていたところ、バスに激突してあの世へ…
白い服を着たおじいちゃん・おばあちゃんたちに囲まれて勢いよく車椅子で運ばれて行くオープニングタイトルが鮮やかでお見事。
「ジャッジメントシティ」なる町に連れてこられたダニエルは、〝進歩した人間〟として天国に行くか、学びが足りないとされて再び下界で生まれ変わることになるか…天上人たちの裁きを受けることになります。
人間界に似ているものの、快適さが重視された巨大アミューズメントパークのような雰囲気のあの世の世界。
食事を頼むとすぐに絶品料理が出てきて、どれだけ食べても太らないのは羨ましい(笑)。
裁きに携わる天上人たちは「愚かな輪廻転生の輪」から抜け出せた上級天使のような存在だそうで…下界の人間が3%しか脳を使ってないところ、この上級人間たちは47%も脳みそを使っているのだとか(笑)。
ところがこの天上人たち、バリバリ人を見下してきてあんまりいい人にみえません。
もし天国行きになったとしてもここで労働しなきゃいけないパターンもあるのか…と思うと上級天使になるのがあまり魅力的に思えなかったりして(笑)。
ルールだらけの天国、威圧的な天使という世界観がシュールでユニークです。
〝裁判〟では、人生の9日間にスポットが当てられ、自分の過去映像がスクリーンに映し出されて「この行いは正しかったか」などと検事にネチネチと責め立てられまくります。(このシーンがボーに激似)
審判のポイントは「恐怖を克服できたかどうか」…強い人間だったか、成功者であったかに重きが置かれていて、競争激しいアメリカ社会ならでは!?
金銭面で儲けたかどうかも激しく検事に問いただされて、ユダヤ人男性のプレッシャーあるあるなのかよく分からないけど、天国って貧しくて優しい人に開かれているわけじゃないのか…とびっくりするような世知辛さであります。
映し出されるダニエルの過去の日々は、「友達に意地悪されてもやり返さなかった日」、「貧乏で盗みを働いたクラスメイトを庇って自分が教師に代わりに怒られた日」などなど…
主人公優しくていい奴やん!!強い成功者タイプばっかりじゃなくて色んなタイプの人間がいて世の中回ってることもあるでしょうよ…と自分は陰キャ主人公を全力で擁護したくなりました(笑)。
交渉すべきときに怖気付いて自分の言いたいことを言えずに損したり、大勢の人の前に立つのに緊張したり…こういう点を克服できればもっと人生エンジョイできたのかも…と思う勿体ない面もチラホラ。
でも人には得手不得手があったりするもんで、「ねえ、あなた、もっと成功できたはずでしょ!?」とネチネチ責めてくる女検事がなかなか酷であります(笑)。
初対面では嫌味ったらしく映った弁護士のおっちゃんが意外にいい仕事をしてくれて、「暴力を我慢した」「他人を思いやる思慮深さがある」といい風に解釈して持って行こうとしてくれるのがナイスアシスト。
主人公をおおらかに受け止める父性の弁護士と、口うるさく否定を繰り返す厳しい母親像の検事。
2人のキャラクター配置が面白く、この辺りもボーがインスパイアされたところなのかなと思いました。
また主人公と対照的な存在としてジュリア(メリル・ストリープ)という女性が登場します。
社交的で自信に満ち溢れた朗らかな性格。誰とでもすぐに友達になり、ビビる主人公とは対照的に街のアクティビティをエンジョイしまくり。
このジュリアと主人公がなぜか出会ってすぐにフォーリンラブ。
天国行きの確定したジュリアと同じ道を歩みたい主人公が余計に裁判に必死になる…というラブストーリーが本筋になっているものの、恋に落ちる過程が唐突であまりしっくりこないのが残念。
前世で2人に繋がりがあったとか、説得力ある伏線があれば良かった気がするのですが…
メリル・ストリープは「主人公と真逆のなんでもこなす優等生キャラ」という点ではハマり役に見えるのですが、ロマコメの雰囲気にあまり合っておらず、ミスキャストに思えました。
クライマックスにはジュリアを諦めきれなかった主人公が爆走してルールを無視して彼女を追いかける…!!
そんな様子をみていた上級人間がダニエルの勇気を認めて同じ天国に行かせてあげる…!!
ラストは一見甘く感動的なようでいて、生前の主人公の人間性は否定されたままのようで複雑。
「主人公ならではの優しさ」が認められて…の方が感動的だったのではないかと思いました。
序盤に出てきたバスのお婆さんや他のキャラクターとの絡みがなかったのも残念。
好意的にみれば主人公が成長したロマンチックエンドだとは思うのですが、結局この息苦しい天国のルールにハマったままなのかー、恐れがあることって悪いことばっかりなのかなーとか自分は色々考えてしまって、個人的にはカタルシスに欠けるエンドでした。
傑作になり損ねた感じがしつつ、作品の空気感や笑いのセンスは大変好み。
日本に勢いがあった90年代ならでは…??ジャパニーズカルチャーがなぜか度々登場しますが、寿司屋のやり取りは〝外国人からみたらこんな感じ〟がよく出ていて意外と面白かったです。
なぜか1番心に残る、主人公の乳幼児時代の回想シーン。
アル中の父親と母親が喧嘩していて、泣きたい気持ちをグッと堪える子役の演技が名演技すぎて、こちらの涙が出そうになりました。
コメディしつつ、強い男らしさを求められる男性の苦悩のドラマを真面目に描いた作品ではないかと思いました。
死後の世界なんてないんじゃないかなー…あっても人間には想像もつかないようなもんじゃないのかなー…なんて自分は思ってますが、こんな世界があったら一度体験してみたいかも(笑)。
国内ではDVD未発売のタイトルですが、なぜかU-NEXTで配信中。〝ボー〟と併せて楽しむことができて良かったです。