日本公開版なる128分版を収録したBlu-rayが最近発売された「カプリコン・1」。
この作品、なぜか公開当時、日本だけバージョン違いのカット版がスクリーンにかかったという事情がある作品のようです。
自分は先日Blu-rayを中古でゲットしたんですが…
こっちは123分版(世界公開版)しか収録されてないヤツでした。
先月発売されたのは123分版と128分版(日本公開版)の両方が収録されているという豪華2枚組。
パッケージデザインが同じだからややこしくて間違えちゃったあー! 新作の割に安いと思ったんだよね。(←よく確認しろよ)
鑑賞するまで「アポロ11号の月面着陸を偽装工作する人たち」 という印象があった本作ですが、月を火星に置き換えているので、現実の歴史にはノータッチ。
しかしアポロは嘘だという陰謀論に向かっているのはどうみても明らかで、アポロ月面着陸が1969年、本作公開は1978年…ピーター・ハイアムズは1972年に脚本を書いたそうなので、設定的には70年代前半のアメリカということでしょうか。
アメリカとソ連の宇宙開発競争自体、国威を高めるだけだけの不毛なものだという批判が当時からあった…という背景は知らずとも伝わってきて、SFと見せかけて、政治サスペンスに転換するドラマの作りがほんっとーに面白いです。
しかし捏造されたものに知らず知らずのうちに騙されている…というのは本当に今観ても真に迫るテーマで怖い…!
そして、無理やり協力させられることになった宇宙飛行士たちが不憫すぎる…!
3人ともミッションのために己の全てを賭けて訓練してきたような人たち。それが家族を人質に脅されて、努力を踏みにじられ、嘘をつくよう強要されて…。
奥さんにメッセージのこしたブルーベイカーの機転がカッコいいですが、殺される展開は明らか。早く逃げて〜。
昨今の宇宙飛行士といえば、「ゼロ・グラビティ」のコワルフスキーしかり、「オデッセイ」のマーク・ワトニーしかり…パーソナリティの素晴らしさが際立つ優秀な人が、宇宙で逆境にも立ち向かう…というストーリーを思い浮かべてしまいますが、人間の悪意のせいで、あろうことか地球で過酷なサバイバルをしなければならなくなるという皮肉めいた展開が強烈です。
そして壮大な陰謀を疑いはじめるジャーナリストのコールフィールド(エリオット・グールド)。
この役者さんは好みが分かれそうな気もしますが、自分は結構好き。
これがダスティン・ホフマンとかだったらシリアス味が増しそうで、レッドフォードとかだったらカッコ良すぎて宇宙飛行士側が完全に霞んじゃいそう。
コールフィールドのユーモラスな雰囲気のおかげで重たくなりすぎず、過酷なブルーベイカーたちのドラマといい対比になってるのがいいのではないかと思います。
そしてクライマックス、プロペラ機vsヘリの対決に大興奮…!! おじちゃん(テリー・サバラス)が凄腕パイロットすぎる!!
農薬散布会社の社長という絶妙な!?配役。
やれアメリカの夢だ、フロンティア・スピリットだの宣ってる人たちが大嘘ついてて、こっちはマジで広大な農業助けて生きてんだよ!!的おじさんが、悪を叩き落とす展開にスカッとジャパンです。
128分版は結局未見なので5分あるなしでそんなに印象が変わるのか疑問ですが、10ヶ月あまりの出来事を描いているドラマにしてはいずれにせよ短い尺にまとまってるであろう本作。
人物視点の切り替えが抜群に上手く、とにかくテンポがいいですね。
・鳥が飛んでると思ったらヘリコプターだった…!
・崖やっと登りきったと思ったらヘリが上にもう待ってた…!
・洗面台のキャビネットは空っぽ…と観客に確認させてかーらーの、ドラッグ発見
ややベタであるあるな見せ方かもしれませんが、今観ても充分な切れ味を感じました。
アポロ計画を推進していたのはケネディだけど、ラストでスピーチしてた大統領はシルエット的にもニクソンをイメージしてるのかな。ウォーターゲート事件のせいか悪役の印象が強い大統領。
ケラウェイ博士が、「(この陰謀は)ごく限られた人間しか知らない」と語ってたけど、誰がどこまで知ってたのか…。
マヌケな雰囲気の副大統領は、女性のお尻を双眼鏡で追っかけてたくらいの緊張感のなさだからシロだと思うけど、メガネの太ったおっちゃん(デヴィッド・ハドルストン)はクロっぽい。この方はNASAの長官なのかな。
冒頭の双眼鏡の遣り取りで「権力でなんとでもしようとする人間」であることを仄めかしつつ、スタッフのおにいさんも本当のトップの人間には対応変えてるという中々の胆力…こういうところどころにあるドライなユーモアある掛け合いが面白い作品だなあと思います。
ラストシーン、駆け寄る主人公2人がスーパースローでこちらに近づいてくる…!
その後どうなったか、を一切映さないでここで幕引きなところがまた粋で、足掻きにあがいた男たちの勝利に胸がアツくなります。
ジェリー・ゴールドスミスの音楽もキレッキレで、初めから終わりまで、文句なしに面白い最高の1本でした。