どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「SF /ボディスナッチャー」/個人か集団か、普遍的恐怖が伝わる78年度版

知らない間に何者かによる侵略がはじまっている…「遊星からの物体X」や「Vビジター」に先駆けたようなエイリアン乗っ取り系サスペンス。

これ系ばっかり観てたら偏りそうだけどやっぱ面白いもんは面白い…!

同じ原作を題材に4度も映像化されてるというけどやっぱり1番評価が高いのは78年度版!?

手作り感満載の特殊効果と不穏を煽るカメラワーク、そしてインパクトのある俳優の顔…低予算映画とは思えず今観てもすごくよく出来てます。

冒頭、白く渦巻く胞子が地球に降ってくる映像はネイチャー番組のような妙な神々しさ。漫画「寄生獣」の冒頭はこれに似てるかも。

宇宙→地球→サンフランシスコと胞子の視点で切り替わるカメラが大胆で一気に引き込まれます。

謎の植物が密かに根付くと街には「家族や隣人がすっかり別人になってしまった」という騒ぎが後を絶たなくなり、主人公のマシュー(ドナルド・サザーランド)も同僚エリザベスから「恋人が一夜にして変貌した」と相談を受けます。

皆が通勤しているごく普通の日常の景色、けれど人々がなぜかよそよそしく心がないように見える…都会の孤独感を現したかのような不穏なショットがいちいち上手いです。

マシューの車の窓が嫌がらせで叩き割られ移動中の視界に常にヒビが入っているのも見えざる脅威にさらされているような、何とも言えない不安感を煽ります。

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事件について相談しようと精神科医のキブナーを訪れるマシューたち。演じるレナード・ニモイがまた独特の雰囲気。

「心のインフルエンザさ」「(恋人を別人に思うのは)別れたい君が口実を探してるだけ」この精神科医なんか胡散臭いなー。

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けど他の明らかに乗っ取られた感のする人達に比べるとよく喋り表情も豊かなのでこいつはシロ…と思っていたら何と彼もスナッチャー

寄生獣」の広川みたいに「人間だけどみずから望んで侵略に加担した」とかでも面白かったかも。

一方このキブナーを嫌うジャック(ジェフ・ゴールドブラム)とナンシーの夫婦は陰謀論者の如く疑いまくりますが、売れない詩人&泥風呂サウナで働くマッサージ師とやたら個性が強くて溢れる人間味にほっこりとなります。

ジャックがうたた寝をしてたら知らん間に自分の姿形によく似た繭人間が…!!

宇宙からやって来た謎の生命体は人々が眠っている間にその人の完全な複製をつくり、元の人間の方を亡骸にしてすり替ってしまう…脳を乗っ取ったりせずわざわざ身体作るってのがエラい手間かかってるように思われますが、インパクトは抜群。

気付けば街中スナッチャー、「寝たらゲームオーバー」な無理ゲーの中逃げ回るマシューたち。

学習せず何度も警察に電話するドナルド・サザーランドにイライラしますが自分が行政の人間だから諦めきれずに信じちゃうのかな。

無表情にそれっぽく歩けばバレないかも、という「ショーン・オブ・ザ・デッド」のような作戦が意外な効果をみせるも人面犬の出現に絶叫を我慢できずとうとう追い詰められてしまいます。

既にスナッチされた人曰く「心も記憶も継承されて辛いことはなくなる。悪いもんじゃない。」……

98年の映画「パラサイト」でも「寄生されちゃった方が皆と一緒で寂しくないわよ」…ってぼっち高校生にエイリアンが迫ってましたが、いっそ支配された方が悩み苦しまなくて楽なのかも、ってちょこっと思わせるところが怖いです。

キビキビと連携をとりながら動くスナッチャーたちは有能そうで、合理性を突き詰めた彼らは彼らで豊かな社会を築いているといえるのだろうか…

個人を重視した社会と統一された社会とどっちが幸せなのか…最近の映画だと「ミッドサマー」も個人主義アメリカ人vs全体主義カルト教団という構図でしたが、この人間の迷いは今に至るまで通用するテーマでだからこそ長く親しまれているのかもしれません。

道中エリザベスと想いを通わせ2人でずっと手を取りあって逃げていただけにやはり感情を失ってしまう展開には切なくなりました…ラストはホラー的にも満点の迫力…!!


◆比較すると面白い56年度版

ボディスナッチャー=78年度版のイメージでしたが、オリジナルである56年度版も監督ドン・シーゲル、脚本にはサム・ペキンパーも参加…とかなり渋い製作陣で評価が高いようなので気になって観てみました。

78年度版とほぼ同じ立ち位置の男女キャラクターが4人登場、リメイク版は結構オリジナルをトレースしてたようです。

こちらでは舞台が都会ではなく狭い田舎町。78年度版は分かりやすくスナッチャーたちは「感情のない非人間」になってましたが、こちらは変化がもっと分かりにくく、普通に町の人たちから知らない間によそ者にされ村八分されるような疎外感がありました。

ひっそりと集まるスナッチャーたちの不気味さ…原作は55年に書かれたものだそうですが、みえざる共産主義の脅威、異なる少数派を弾圧する赤狩りのような過度な運動への懸念…などこの時代特有の不安が伝わってくるようです。

別の作風ながら78年度版は56年度版をかなりリスペクトしてたようで、

・マシューとエリザベスが乗り込むタクシーの運転手を演じているのはドン・シーゲル

・マシューの車に掴みかかって「あいつらはもう来ている!!」と絶叫する男は56年度版で主人公を演じてた俳優さん

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この56年度版主人公の使い方はオリジナルをみると100点満点の粋な計らいだったことが分かり唸らされました。

自分はやはりホラー要素の強さと映像にキレがある78年度版がいいと思ったけど併せてみても楽しめるようになってました。

やっぱりこれ系のSFサスペンスはいつみてもオモロイです。