どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

漫画「チ。」/地動説に挑むアツき男たち

週刊スピリッツにて連載中、現在単行本が2巻まで発売中の漫画「チ。」。

帯には「寄生獣」の岩明均先生の絶賛コメントが付けられていて、気になって読んだところめちゃくちゃ面白かったです。

↑首吊られながら天体観測してる表紙の絵、カッコいい

舞台は15世紀ヨーロッパ。教会は教えに背く異端の研究を固く禁じ、改心しないものには容赦なく拷問、処刑を行なっていました。しかしそれでも地動説を信じる者たちが密やかに研究を続けていて…

教養のない自分は「表紙の男の子はガリレオなのかな??」と思って読み進めたのですが……歴史上の誰かという設定にはなっておらず、あくまで漫画独自のキャラクターという位置付けでした。

そもそも実際の科学史においては、教会は地動説を批判していたわけではなく宗教と科学は既に分離されていたと言われているようです。

ガリレオの「それでも地球は動く」もかなり脚色されたもので、ガリレオ自身がかなり曲者だったことから特殊なケースだった…など諸説あるみたいです。

なのでこの漫画の世界観はフィクションだと割り切って読むものだと思うのですが、「弾圧されつつも真実を追い求める者のドラマ」がとことんアツく、グイグイ読ませました。

歴史ものにみせかけて、スポーツ漫画、バトル漫画のようなアツさが魅力だと思います。

 

1巻の主人公の男の子は、貧しい家の生まれながらも奨学金で神学部に進み、安泰な人生を望む〝抜け目なく賢い人間〟。

そんな人間が知の欲求に突き動かされて、好きなことを追い求めていく姿に胸が熱くなります。 

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「ち。」第1集より

登場人物の誰も「自分の名を後世に残したい」などという名誉欲は一分も持っておらず、ただ知りたい、好きなものを追い求めたいという個人の欲求に突き動かされていく姿にある種の清々しさを感じます。

続く2巻では天国を頑なに信じるが故に現世に生きる意味を見出せないという男がその価値観を揺さぶられていくのですが…

あるかどうかも分からない死後の世界をどうこう考えるより、自分の今生の人生を楽しんだ方がいい…っていうのは自分もそう考えていたいな、と思う姿勢です。

科学的な部分をさておいても、「どう生きるか?」という普遍的な人間ドラマに心を掴まれました。

 

地動説への足掛かりがバトンリレーのように引き継がれていくところも面白く、学問は誰か1人の偉人によって成し遂げられるとは限らず、それまで先人の積み重ねてきたものが新たな道を切り開いていく…というドラマの片鱗が既に垣間見えるところにも胸が高鳴ります。

漫画に迫力があるため「史実もこうだったの⁉」とイメージを混同してしまわないか心配ですが(自分みたいなアホは危険)、この漫画をとっかかりに興味の幅が広がったというところもあって、Wikiを読んだり関連本に手を伸ばしたりしてみました。

↓読みやすくて面白かった本。

天動説vs地動説という単純な構図ではなく双方の考えが積み上げてきたものが道を切り開いてきたこと、地動説を立証する上で皆何に躓いてきたのか?分かりやすく解説されていて、人物の伝記としても楽しめる1冊でした。

人間が自然の法則に美しさを求めてしまうというエピソードはまさに「チ。」が描いているところであって、その感情が糧になることもあれば壁として立ち塞がることもある…そのドラマも併せて読むとより感慨深く思われました。

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「ち。」第1集より

信仰がないから科学を探求したのではなく、あるからこそ真実を求めたってところが面白いです。

作者の方は相当調べた上であえて史実に寄せずフィクションとして作っているのでしょうが、話をどういう風に決着させるのか気になるところです。

今月末には3巻が出るようなので、すごく楽しみ。