1944年の古い白黒映画ですが、今みても充分通用するサスペンスで面白かったです。
イングリッド・バーグマンがとにかく綺麗で、脱いだりしてるわけじゃないのに色香が漂いまくってました。
バーグマン演じる主人公・ポーラは両親を幼い頃に亡くしオペラ歌手の叔母に育てられていました。
しかしある日叔母は何者かに殺され、傷心の彼女はイタリアへ声楽を学びに留学。
そこで出会ったグレゴリーという男と恋に落ちるのですが…
出会って2週間でプロポーズ、男の方がかなり年上…とこの地点で「やめときなはれ!」としか言いようがありません。
サスペンスとしては頭から悪役があからさまで謎解き要素はゼロ、シャルル・ボワイエ演じる相手の男がみるからに怪しい。
↑フランスの名優でハンサム…だけどカルロス・ゴーンにみえてきた(ごめんなさい)
結婚をせかした挙句、なぜかポーラにとってトラウマである叔母が亡くなったロンドンの家に引っ越したいと訴えて、新婚夫婦は新居へ…
ここから夫グレゴリーは何かにつけてポーラに「君は忘れっぽいから」と吹き込んでいきます。
彼に渡されたはずのブローチを失くす、家にあるものが消えていく、夫とまるで話が噛み合わない…
全て夫が仕組んだ地味な攻撃なのですが、ちりも積もって精神ダメージを食らっていく。もしかして私が本当に病気なのかしら…と徐々に追い詰められていくのがとても怖いです。
こんなんで引っかかるかなーと思わなくもないけど、主演2人の演技の上手さで説得性倍増。
バーグマンは冒頭から世間知らずの優しいお嬢様といった様子で、自己肯定感が低くちょっと依存的な感じ。
夫にネチネチ責められたかと思えば優しく介抱され…が繰り返されるのがいかにもモラハラ、DVっぽい。
孤立した夫婦関係に上下関係が生じるとこんなことに…でもこう言ってはなんだけど慄くバーグマンがとても美しく、どこか艶かしくみえてきます。
途中ゴシップ好きの近所のおばちゃんが家を訪ねるも、「妻が病気だから」を理由に自宅に誰も入れさせない夫。「おかしな女」と本人に思い込ませることで外出する自信すら喪失させるところも嫌らしいです。
おばちゃんは図々しい人ではあるんだけど、ご近所付き合いもバカにできんなー。
家には使用人も2人いますが、料理番のおばちゃんは耳が遠く頼りにならず、新人メイドはふてぶてしい世渡り上手で奥様を大事にしない…とこのキャラクターも立っててオモロかったです。
しかしポーラ夫妻を遠くから見つめる1人の男が…
ポーラの叔母のファンだったというブライアン(ジョセフ・コットン)がグレゴリーの不審な動きを追跡。
夜な夜な外出しては隣の家の屋上から自宅に侵入、アンタ何やってますのん??
なんとグレゴリーはかつて叔母に付き添ってたピアニストで、叔母が貴族から贈られたという大きなダイアモンドが家のどこかにあるはずと必死で探していたのでした。
おまけに何とプラハに正妻がいるらしく、既婚者だった…!!
何か壮大な目的があるのかと思いきや、ただのコソ泥、美しいバーグマンにも興味ゼロで宝石に取りつかれた小っちゃい男だったというのが意外で面白かったです。
最後に大人しい妻を丸め込もうとして「私おかしいみたいだからちょっと分かんないわ」とやり返すポーラにスカッとジャパン!!
ポーラは昨今の映画と比べたら受け身すぎるヒロインで事件解決も第三者の男に丸投げなのですが、人生で何一つ自分で考えることをしてこなかったような弱々しい女性が静かに怒りを露わにする姿にグッときました。
怒りで目が覚めた表情、なぜこんな男にいいようにされて…というやるせなさ、バーグマンの演技に魅入られます。
エンディングはジョセフ・コットンとくっつきそうな雰囲気になってたけど、しょうもない男に引っかかった失恋を肥やしに!?声楽の道で花を咲かせてほしいと思いました。
タイトルのガス燈は夫グレゴリーが屋根裏を調べているときに階下の部屋の明かりが瞬いてバーグマンがそれを不気味に思って慄くのですが、白黒映画ならではの美しさを堪能できる作品でした。