アルジェント監督第2作目。前作「歓びの毒牙」に続いてのジャーロものですが、早くも話がとっ散らかってます。
染色体の研究をしているというテルジ研究所で警備員が負傷する事件が起こった。
侵入の形跡はあるも、奇妙なことに盗まれたものは何もないという。
事件の夜、近くで言い争う声をきいていた盲目の老人アルノは不審に思って独自に調査をはじめるが…
序盤のストーリーはかなり面白そう。
視覚障害者アルノの不穏な予感を描きつつ、犯人の”目”、一人称視点のカメラに切り替わるオープニングの映像は大胆でユニークです。
その後さらに研究所職員の1人、カラブレシという男が謎の死を遂げ、2つの事件の関連を疑ったアルノは新聞社を訪れて、記者ジョルダーニと手を組んで捜査することになります。
第1の犠牲者、カラブレシの死に様はなかなかド派手。
駅のホームでいきなり線路に落とされ首チョンパ、回転する胴体…「サスペリア2」のカルロの最期がどことなくよぎります。
事故現場にいたカメラマンが撮った写真を手に入れようとしたところ、なぜかタイミングよくその直前に犯人が現れ、カメラマンは絞殺されてネガも消失。
こりゃ何かの陰謀に違いねえ!!
ジョルダーニは研究所所長の娘、アンナ(カトリーヌ・スパーク)に近づいて、研究所の重要人物は4人の教授だと情報を仕入れます。
・エッソン 融通が効かないイギリス人
・モンベリ 優秀だが無欲
・カソーニ 輝かしい経歴の天才
・ブラウン 毎晩ゲイクラブ通い
また研究の目的は大きく2つあって、1つは遺伝性の病気を治す革新的な新薬の開発、もう1つは個人の犯罪的な資質を染色体から調べるというものだそう。
優生思想へ警鐘を鳴らす超社会派サスペンス…にはアルジェントなので勿論なりませんが、設定はなかなか面白いんですよね。
しかし捜査する2人の下にも魔の手が迫り、アルノは孫娘のように可愛がっている少女ローリーを知人のもとに預けることにします。
一方ジョルダーニのところには、配達牛乳に毒物を混入する犯人とおぼしき人物の影が…
そうとは知らずに帰宅後、いい感じになったアンナといちゃついて、毒入り牛乳を彼女に勧めてしまうジョルダーニ。
イタリアの牛乳ってこんな袋パックなの?
事後の女性にすすめる飲み物が冷蔵庫にも入れてない牛乳でいいの?
どーでもいいことばっかり気になって話に集中できません。
しかしアルノからの警告の電話で間一髪、毒物の可能性を疑ってミルクは破棄!ことなきを得ます。
危険を省みずさらに調査を続けるも、カラブレシの婚約者のビアンカと、教授の1人ブラウンが殺されてしまいます。
ビアンカの死は「顔を床に打ちつけられる」という「サスペリア2」のジョルダーニっぽい死に方。
話があっちこっち行って分かりにくいけど、このビアンカはどうやら産業スパイでブラウンと繋がってたみたい。
しかししっかり者のビアンカ、カラブレシが遺していた犯人に関するメモを発見していて、それを首にかけたロケットの中に隠し持っていました。
勘の良すぎる謎の犯人もさすがに二重細工されたロケットにまでは気付かなかった様子。
なぜかアルノが「あのロケットの中に絶対なんかあるって!」と怒涛のスピリチュアル推理をみせて、ビアンカの埋葬された霊安室へと2人で向かいます。
「あったよ!メモが!」と手掛かりを入手するも、見張りをしていたアルノの姿が消え、真っ暗な霊安室に1人閉じ込められてしまうジョルダーニ。
数分後、扉が開き、そこには恐ろしい形相をしたアルノが血のついた仕込み杖をもって仁王立ちしていました。
え、どういうこと…!?
このシーン、ビデオの画質が悪いのもあって全くよく分からず、「えっ、アルノが犯人なの!?さすがアルジェント、盲目のお年寄りを犯人にするとか無理なことするわー」と震え上がりました。
ちゃんと観ると、犯人に脅されたアルノがメモ渡した末に揉み合って相手を怪我させたっていうことだったみたい…
いきなり「ブラインドフューリー」みたいな仕込み杖が出てくるし、めちゃくちゃビックリしました。恐るべしアルジェント。
さて結局唯一の手がかりはアルノの負わせた怪我だということになり、警察に協力を仰ぐ2人。
ジョルダーニは、仲良くなったアンナが実は所長の養子で義父と性的関係にあるらしいと知り、彼女を疑って問い詰めますが、激昂されて追い返されてしまいます。
手を怪我して登場したアンナ、牛乳プレイといい、すんごい思わせぶりにみせといて何だったんだ…!
気を取り直して警察と共に研究所付近を捜索したところ、血痕が発見され、真犯人がいよいよ登場。なんと犯人は………カソーニ!!
…ってアンタ誰だっけ!?
登場人物がやたら多い映画で最早誰が誰だか分からず、1番印象に残ってない奴が犯人というある意味もっとも意外な展開。
輝かしい経歴を持つ天才と呼ばれたカソーニ。所内で行われた遺伝検査にて犯罪者の素質があるという結果が出てしまい、結果用紙を差し替えるため侵入したものの、同僚のカラブレシに目撃されて脅され、どんどん事件が起こってしまった…というのが真相。
カソーニと揉み合うジョルダーニですが、記者なのになぜかチャック・ノリス並みに頑丈な男です。
やけくそになって「誘拐したローリーを殺した」と嘘をついたカソーニは、激昂したアルノに突き飛ばされ、エレベーターホールに転落していきます。
足から落ちていく迫力の映像は、落下している瞬間が引き延ばされた感覚を味わっているよう。ロープを掴んだ手が摩擦で痛む描写も圧巻で素晴らしいシーンです。
そして「サスペリア2」のように唐突にエンドロールへ…
うーん、あらすじ書き起こしてもしっちゃかめっちゃか、話がアッチコッチ飛びまくって何ともまとまりのない作品です(笑)。
これでもかなりカットしたけど、登場人物はもっと多い。
まあやっぱり1番どうかと思うのは、根拠のない説を中途半端に取り上げて、「遺伝検査に引っかかった人が殺人犯だった」という身も蓋もなさすぎる事件の真相ですね。
ただ何のドラマの掘り下げもないまま終わるので後味の悪さも一切ないというのが凄いところです。
障害を抱えた悪者がいなくなって無垢なものがのこるというエンドはダリア・ニコロディに批判された「フェノミナ」のラストにどこか似ているような気もします。
そんなごちゃごちゃな本作ですが、駄作と切って捨てるには惜しく、光るものもあるように思えます。
1番はアルジェントの殺しのテクニックに磨きがかかっていること。
尖ったものに感じる恐怖とか、床に身体打ったら痛いとか、〝身近に感じられる痛みへの恐怖〟の描き方が秀逸です。
この表現はその後の「サスペリア2」や「サスペリア」で見事に昇華されてるように思います。
舞台装置、美術的な見所は前作「歓びの毒牙」の方が良かったと思いますが、手持ちカメラで表現した犯人視点の映像は面白いし、「サスペリア2」と重なる犯人の目のドアップも印象的。こういう大胆な演出は観ていて楽しかったです。
原題は「九尾の猫」(Il Gatto A Nove Code)というタイトルだそうで…
鍵を握る人物や手掛かりの数が全部で9つあることから、「真相への9本の道か」「九尾の猫の尻尾を1本でも辿れば真相に行きつく」という台詞が劇中で展開されます。
本当に9本の道は特に重なることもなく、思わせぶりな数々のシーンが何の伏線にもならないという潔さはアッパレ!!
話がどんだけとっ散らかっててもオモロイというアルジェント映画の底力を感じさせるデビュー2作目でした。