ブリジット・フォンダ主演の92年のサイコサスペンス。
子供の頃テレビ放映していたのを途中まで観て、翌朝友達と「昨日の映画怖そうだったよねー」と盛り上がった記憶があります。
男関係が絡んで友情に変化が訪れるところ…自分の思う距離感と相手の思う距離感が違っていて重苦しく思われるところ…女同士ならではの独特の空気感みたいなものがよく出ていて、大人になってからみても面白い作品。
やばいサイコパス女を演じるジェニファー・ジェイソン・リーが恐ろしいのですが、地味な不器用人間としてはちょっぴり共感!?悲哀も感じるキャラクターでした。
◇◇◇
ニューヨークで働くキャリアウーマンのアリーは恋人サムと結婚の予定。
しかしサムが元妻と会ってベッドインしていたことを知り、口論に…アリーは彼を追い出してしまいます。
同じアパートの階上にはゲイの友人・グラハムが住んでいましたが、それでも1人が寂しいアリーはルームメイトを募集することに。
大人しく純朴そうな雰囲気のヘドラと意気投合。
2人で暮らし始めますが、そこにサムが復縁を迫ってやって来ました。
アリーはサムとよりを戻そうと決意。ヘドラとルームメイトを解消することにしますが…
子供の頃にみたときも思ったけど、主人公がかなり身勝手。
「結局復縁するとかないよね?」「絶対そうはならない」と言ってたのに手のひらクルー。
事情が変わったにせよ、相手にきっちり謝って埋め合わせするならまだいいけど、ヘドラを邪魔者扱いしてアパートから追い出そうとする陽キャカップルの性格が悪すぎる…
同じ隠キャとしては俄然ヘドラの肩を持ちたくなってしまいます(笑)。
そもそもこのカップル、略奪愛っぽくて「また浮気されるわよ」というヘドラの言葉が的を射てる気がしてなりません。
ヘドラを格下にみて舐めた態度をとるアリーはかなり嫌な女。
部屋に勝手に入って日記をめくったり、持ち物を物色したり、絶対友達になりたくないタイプ。
ヘドラがせっかく譲ってくれたイヤリングを結局身につけず、彼氏から贈られた婚約指輪をこれ見よがしに付けてしまう…
もうちょっと相手を慮る気持ちとかないんかい!!
前半は主人公のブリジット・フォンダにモヤモヤしてしまいます。
しかし後半…舐めてた相手が実はサイコパスだった…!!
ヘドラがその恐ろしい本性を露わにしていきます。
ある日ルームメイトのクローゼットを開けると自分のワードローブと見間違えるほどそっくり。
髪型までコピーされてドッペルゲンガーのように…
さらには自分そっくりの格好をしてアリーと名乗りながら、夜な夜な怪しいバーで男を引っ掛けているのを目撃。
自分の偽物が知らない間に歩き回っている恐怖…自分自身が盗まれていくような感覚…かなりゾクッとさせられます。
でもひとりぼっちが苦手で、無理に背伸びして都会で勝ち抜こうとしてる主人公も、ヘドラと実は似たもの同士なのかも…
アリーも依存心が強そうであまり健康な人間にみえません。
社会に溶け込めるよう流行りの服に身を包み、誰かパートナーを常に置いて〝自分は1人ではない〟をアピール。
テレビやネットを見ていいなと思った人の格好を真似をしてみたり、できる人の仕事のやり方を盗んでみようとしたり…模倣は社会的動物である証で、多少なりとも多くの人が行っていること。
自分に自信がなくて、愛されたくて、憧れの対象そのものになりたいと願ったへドラの気持ちも分からなくはない気がしてしまいました。
アリーとの絆を深めたかったのか、へドラはある日突然子犬を拾って来て飼い始めます。
しかし子犬は〝2人の子供〟にはなり得ず、懐かなかったバディをへドラは転落死させてしまいます。
このシーンは痛ましくてとてもショッキングでした。
へドラに違和感を抱いたアリーはゲイの友人に相談。しかし良かれと思って知り合いの精神科医に紹介しようとしたグラハムをへドラは襲います。
さらにはアリーを完コピした格好で恋人サムの下を訪れ、無理矢理関係を持つへドラ。
「どうせあんたは浮気男よ!!」…ピンヒールを彼氏の目ん玉にブッ刺すシーンにはちょっとスッキリ(笑)。
身体を拘束され、へドラに「ズッ友だよ」と迫られるアリー。
大ピンチを救ってくれることになったのは、奇しくも取引先のセクハラ親父。
厳しい大都会、我が身を助くのは抜け目ない自分の仕事だった…!!
世知辛さを感じる皮肉な展開ですが、このセクハラ親父も大概な奴。
抑圧された主人公が内心許せなかった男たちをへドラが代わりに処刑しているような、不思議な文学味も感じてしまいます。
色々あったけど、なんやかんやで最後は女同士の一騎打ち。
憧れのルームメイトにブッ刺されて息絶える、なんだかあっけないへドラの最期。
双子に生まれて姉妹で比較されて育ったっぽいことが仄めかされていましたが、この辺りの描写は中途半端で思わせぶり…でもいかにも愛に飢えたサイコパスといった佇まい。
普通そうに見える人が闇を抱えていたりして、心許せる他人と会うのって難しいわね…リアルな冷たさが漂うサスペンスドラマでした。
90年代のブリジット・フォンダはスタイル抜群、赤毛のショートカットがサマになっていてとにかく美しい。
対するジェニファー・ジェイソン・リーは垢抜けない喪女がハマり役。
顔が全く似ていないのに髪型が変わると一気に主人公に重なる不思議。その寄せていく様といい、不安定極まるサイコパス演技といい、迫力ある名演でした。
撮影監督はなんと「サスペリア」のルチアーノ・トヴォリ。
築年数が経っていてどこかゴシックなムードのアパートの雰囲気も抜群。鏡の演出やロングコートの衣装など、改めてみるとジャーロっぽさも感じました。
原作小説も以前に読んだのですが、タイトルは「同居人求む」。
小説では主人公はそんなに嫌な奴ではなくて、〝成り変わり〟を巧妙な手口で行うへドラがより分かりやすい悪役になっていました。
グラハムがゲイではなかったり、恋人はバツイチではないけど自ら進んでへドラと浮気したり…所々で違いがあります。
都会でアイデンティティを消失して行く怖さみたいなテーマは明快に伝わってきましたが、へドラを悲哀あるキャラクターにした映画版の方が味わい深い仕上がりになっていると思いました。
グロや殺人シーンは控えめ、意外に性的な描写は多め。
「ゆりかごを揺らす手」など90年代はこういうサイコサスペンス系が多かったような気がします。
ある種サイコパスに心を寄せて社会不安を浮き彫りにしたようなドラマですが、本作は女優2人の共演が印象的で、記憶に残る1本でした。