前作「X エックス」に引き続き鑑賞。
「X エックス」も大変好みの作品でしたが、確かにこっちはもっと凄い…!!劇場で観なかったことが心から悔やまれます。
おっかないメンヘラサイコパス女の主人公ですが、ヤングケアラーの過酷な日常、逃れられない家族の呪縛など、彼女を巡る悲惨な境遇が負けじと恐ろしい…
技巧が凝らされた前作とは異なるシンプルな作風に驚き。
「X エックス」を飛ばしてこちら単体でみても楽しめそうですが、着地点がみえていることで倍増する怖さみたいなものがあって、自分はこの順番で見れてよかったと思いました。
とにかく主演ミア・ゴスの演技が圧倒的で、まさにアカデミー賞級。
溜まったものが今にも爆発しそうな緊張感が凄まじく、怖いのに愛おしみを感じてしまう、最高に魅力的なホラーヒロインでした。
◇◇◇
1918年。テキサスの小さな農場の一人娘・パールは戦争に行った夫の帰還を待ち侘びながら、厳格な母と共に父の介護と農場の手入れに勤しむ日々。
自由のない抑圧された環境の中で、唯一の楽しみは映画鑑賞。
夜にこっそり家を抜け出しチャリを漕いで映画館へ…銀幕の踊り子たちに魅了され「あたしもいつかスターになる!!」と夢をみるパールでしたが…
前作「X エックス」が70年代オマージュだったのに対し、本作は往年のミュージカル映画やディズニー作品を彷彿させるムード。
動物たちに話しかけながらお仕事、いつの日にかと夢見る姿はまるでディズニープリンセスのよう…と思っていたら、次の瞬間ガチョウに向かって「なんか文句あんのか」とガンを飛ばして串刺しに…

「グッドフェローズ」のジョー・ペシばりにおっかないヒロインに絶句(笑)。
思ったことをそのまま口に出してしまったり、感情が爆発しちゃうとどうにもコントロールできなかったり…元々こういう特性があって社会適応しづらいところのある人なんだろうなーというのがひしひしと伝わってくる、ミア・ゴスのリアルな演技が圧巻でした。
それにしてもかなり不遇な境遇のパール一家。
お父さんをお風呂に入れる仕事を実の娘がやるのどうなん…と思うけど、男手がないから同性介助なんてできない。
普通だと気まずそうな状況なのにそれを意にも介さずパパの前で平気でバスタブに浸かるパールちゃん…やっぱりナチュラルに変な奴なんじゃん!!となってこの辺りの見せ方も非常に秀逸でした。
お母さんは全身不随になった夫を養いながら生活を切り盛りするのに必死、その上一人娘が育てにくい子供だったというのは本当に気の毒。
さらに大戦中のドイツ系への差別もあって相当過酷な状況だったことが窺えます。
しかしその一方、婿実家からの差し入れを「施しはいらない」と言って拒絶、ほったらしにする意固地さなど、かなりクセの強そうな性格。

そんな鉄面皮のお母さんが夜中に1人で号泣。
大火傷して黒焦げになったあとも階段を登って外に出ようとしていた姿からは、決して口先だけの人じゃなかったことが分かって壮絶。
何の楽しみもなく抑圧され続けてきたパールの苦しみも分かるけど、生活するのに必死で義務感だけに囚われてしまったお母さんの気持ちもすごくよく分かる気がする…
前作「X エックス」と比べて登場人物の数が少ないぶん各キャラがより濃く描き出されていて、その中でも善悪簡単に割り切れないお母さんの人物描写は特に素晴らしかったです。
でも子供にとっては親が「こんな人生のはずじゃなかった」と日々憂いているのは辛いこと。
大喧嘩シーンでは夢を掴もうと足掻く娘への嫉妬心を全開にしていたお母さん。
「どうせお前も失敗して自由のない人生になるんだ」…母から吐かれる呪いの言葉が、「X エックス」でパールがマキシーンに向けた言葉と全く同じで、負の感情が連鎖しているのが実に苦々しかったです。
終盤では、パールが小さかった頃にお母さんに子守歌を歌ってもらっていたことを思い出す場面が登場しました。
幼い頃には愛情をかけて育ててもらっていたことが分かって、切なさが倍増。
病や貧困がここまで重ならなければ幸せな家庭だったかもしれないのに…
お父さんに至っては自分の病気のせいで家族が崩壊していくのを目の当たりにするばかりでさぞかし堪らなかっただろうなーと、その救いのなさに愕然とするばかりでした。
自分は特別な存在だと語りつつも、「私って変??」と度々人に尋ねるパール。
冒頭の挙動からして”ズレた人”なのは否定しようがないのですが、本人も〝自分には何かが欠けている〟と自覚しているのがまた悲痛。
社会から逸脱せず普通の人でいなければというプレッシャー、いい人だと思われたい密やかな願い…これらはきっと多くの人が持っているもの。
義妹に「いい友達ね」と言われたあとのパールちゃんの嬉しそうな表情に胸をキュッと掴まれました。

しかし劣等感ゆえの〝愛されたい欲求〟が暴走したパールは、夫以外の男性とも関係を持ってしまいます。
あの映写技師の男性は殺されるほどの悪人ではないものの、あまり同情心が湧かず「メンヘラに自分から手出したら責任とれや(笑)」と思いながらみてしまいました。

(いたいけな女子にエロビデオをみせてニヤニヤしてるみたいだったけど、こっちはカカシをダッチワイフにキメてるド変態やぞ!!)
時代が違っていればウェインとマキシーンのような関係だったのかも…「X エックス」とリンクする物語にもただただ感心するばかり。
浮気に加え現実逃避したいあまり「映画スターになる自分」という誇大妄想気味な夢の世界に浸っていたパールでしたが、ある日町でダンサーのオーディションが開催されることになり、ついに現実デビュー!?することに…
我々観客には不穏な結末しかみえないのに、なぜか異様に自信満々のパールちゃん。
他者との関わりが少ない人ほど自分を客観視できなくて、自己評価が高くなってしまったりするもの。
とても上手いようにはみえないパールのダンスにはひたすら困惑(笑)。
他の候補者を一切映さず相対的にどうだったのか全く分からないように作ってあるのが、また大変面白かったです。
自分イケてると思ったらぜんぜんイケてなかった…って思春期に撃沈することってあるある。
若い時の失敗や挫折は誰にでもあるよ、と普通なら声をかけたくなるけど、文字通り〝全人生を賭けていた〟パールにとっては精神が崩壊する事態に…
「こんな現実絶対に受け入れたくない!!」とゴネまくる、鳴き声のような泣き声に哀れが止まりませんでした。
そしてクライマックス、全てをぶちまける約7分の告白シーン。
途中からはミア・ゴスの顔しか映らないミア・ゴス劇場に…

聞いてる義妹堪らんやろなーとその顔と心境を想像させるのが効果的で、とんでもない緊迫感の恐怖シーンでした。
でもこの告白からパールが決して夢みがちなだけの愚かな女ではなく、彼女なりに現実をみながら抗ってきたことが分かって、より一層パールに同情してしまう。
無神経そうにみえて実は周囲の人の気持ちを理解していて、家族にも彼女なりの愛情があった…その上でああいう行動に出てしまったというのに説得力がありすぎてもう何も言えなくなってしまう。
「楽に生きている人を見るたびに自分の中で何かが腐ってねじれていった」という言葉がずっしりと胸に沈みこみます。
善良な義妹が餌食になってしまうのは可哀想でしたが、ミッツィは果たして本当にオーディションに受かっていたのか…

(当惑気味のあの最初のリアクションからして、自分はミッツィも落選していたのではないかと思うのですが…)
「本当に落ちたのよ」と言葉を貫き通していればもしかしてワンチャン生き残れたのかなーと思ったけど、ああみえて実は現実的で合理的なパールのこと…口封じに殺されるのはどちらにせよ確定していたのかなーと後から色々と考えてしまいました。
パールの中にはそれ以前から積み重ねられた嫉妬の感情があったのは明らか。
持っている人には持っていない人の気持ちが分からないもので、思わぬ一言が関係を終わらせる最後の一押しになってしまうこともある…
2人の関係性にはずっとドキドキ、「X エックス」にあったブロンド嫌いの伏線も回収していて本当にお見事。
後ろから斧を持って無言でやって来るパールのなんとおっかないこと!!

〝タメ〟のある殺人シーンは恐ろしいものだけど、後ろから追いかけて来るというシンプル極まりない見せ方が壮観。
恐れ慄きつつも仄暗いカタルシスもちょっぴり感じてしまう、迫力の名シーンでした。
散々やったあと突然我に帰り、お父さん・お母さんの死体を並べて食卓を囲うパール。

ここは「悪魔のいけにえ」より「誕生日はもう来ない」が頭をよぎりましたが、地獄絵図すぎてドン引き。
「これからは今ある幸せを大事にすることにしたから、夫くん、許してね」とお迎えするのに唖然(笑)。
でも彼女なりに現実と折り合いをつけたことが分かるから壮絶。
女優にはなれなかったかもしれないけど、皆〝何か〟を演じながらこの世界にしがみついているものなのかも…
どこかいたいけで健気、哀愁たっぷりの泣き笑いの表情に最後まで目が離せませんでした。

単体でも文句なしの大傑作だと思いますが、「Ⅹエックス」と併せることで味わえる面白さがあって、一体あの老夫婦はどんな関係性だったのか、あれこれと思い巡らせる楽しみがあるように思いました。
こんなサイコパスヒロインと一生を添い遂げたハワードは一体何者だったんだー!?となること必至(笑)。
惚れたメンヘラ女の面倒を一生みるっきゃねえ!!と腹を括ったのか…それともハワードも元から相当ヤバい奴だったのか…
義妹の話から察するに、ハワード一家も父母が厳格らしく、抑圧されて育ってきたことが窺えました。
裕福な家に生まれるも父に反抗したい一心で、農家の婿養子となり戦争に志願。
ここではないどこかに逃れたい、親とは違う人生を歩みたい…そんな思いを抱えたパールとハワードは本当の意味で似たもの同士だったのかもしれません。
一見全てを飲み込んでくれる〝理解のある彼くん〟のハワード。
死体を処理してくれるワニのセダと同じくらい都合のいい存在に思えるけれど、あのワニだって餌をもらえるからそうしているだけで、実は持ちつ持たれつの共存関係で成り立っている…どこまでもシビアな現実を感じさせました。

でも前作でハワードがパールに語っていた「初めて会った時からお前は美しかった」という愛の言葉も、今作でパールが「あなたみたいな美男子に好かれて嬉しかった」という熱のこもった言葉もすべて本当ではあって、2人の間に愛情があったのもきっと確か。
だからこそ60年ものあいだ「X エックス」に至るまで夫婦として生活を共にできたのではないかと思います。
若い頃から性欲が強く、それを全くコントロールしきれていない印象のパール。。
心の空虚さを唯一埋められるのが愛されているという実感(セックス)だったのかもしれませんが、ハワードが勃たなくなってからは(心臓を患ってからは)パールを満たせられなくなり夫婦関係のバランスが徐々に変化。
また〝逃れたかった家から出れた〟という1点ではハワードはパールと違って望みを叶えていて、パールに借りや負い目を感じていた…だからこそ妻の暴走を咎めずそれに付き合っているうちにああいう殺人鬼老夫婦になってしまったのかなーと思いました。
続編をみたあとだと歪な夫婦の壮絶ラブストーリーだったのでは…となる1作目。
でもそれにしたって実妹も殺されていてあんな地獄の食卓を受け入れられたハワードはやっぱり凄い。戦場でも一体どんな修羅場を潜り抜けてきたんだ!?
次回作は「マキシーン」じゃなくて「ハワード」にしてくれ!!と思ってしまうくらいハワードのことが気になってしまいました(笑)。
「X エックス」ではマキシーンをアバズレ呼びしていたパールおばあちゃんですが、若い頃から貞淑な妻から程遠い人だったのにびっくり(笑)。
また元ダンサーだと語っていたけど、オーディション受けてただけやん!!となって苦笑い。いくら年を重ねても夢みた世界をずっと捨て切れなかったのね…
”やっぱりお家が1番”なんて本人は微塵も思っておらずやっぱり家から出たくて堪らなかった…だからこそのあのマキシーンへの嫉妬に心から納得。
元から続編を作る予定ではなく、「X エックス」でパール婆さんのキャラを作り込んでいるうちにアイデアが湧いて制作したらしいことを知って驚きましたが、技巧派の前作にはない勢いに満ちているものの、しっかり続編/前日譚としての面白さがあるのが凄いなあと思いました。
劇中世界ではスペイン風邪が流行っていてお母さんが「絶対に病気を持ってこないで!!」とピリピリしていましたが、少し前のコロナ禍を思い起こさせて、胸にひた迫る恐怖。
貧困の連鎖やネットで称賛を求める若者など、100年前という設定が単なる舞台装置にすぎず、完全に今の世界とリンクした物語の作りが大胆で巧み。
「今持っているものを大切に」というお母さんの言葉(&最後のパールの結論)には自分はとても共感して人生の1つの真理だと思うのですが、その折り合いが所詮ごまかしに過ぎないと突きつけてくる残酷さには息を呑むばかりでした。
家族との不和やそれゆえの自信のなさ、映画という虚構の助けを借りながらもしかるべきときには現実と向き合おうともがく姿など、親しみと愛おしさが込み上げてくるヒロイン。
次作「マキシーン」のハードルが上がってしまいますが、また思い切り毛色を変えてきそうでワクワク。
予告映像もあえて見ずにこのまま前情報を遮断したまま、来月劇場に観に行きたいと思っています。
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