気になる作品がたくさんあったけど、まったく追いつかなかった6月。
評判がいいらしく昼間の上映がまだ残っていた「ドールハウス」を遅ればせながら観に行ってきました。

全然ジャンルが違うけど、矢口史靖監督は「ウォーターボーイズ」と「ハッピーフライト」の2作をみていてどちらも好きだった作品。
Jホラーは普段あまりみないけど、人形ホラーは怖そうで興味津々。
日本人形といえば…自分が子供の頃、雛人形の代わりに祖母がくれた市松人形が家にあったのですが、阪神大震災のときに首が折れて頭を大きく破損。
震災当日、家族全員布団で雑魚寝していた私の枕元に大きな鏡台が倒れてきていて、角度がずれているか飛び起きるのが遅ければ危なかったかも…
母が「お人形さんが身代わりになってくれたね」と言って、しばらく布にくるんで部屋に置いていたのを、数年後に人形供養で有名な門戸厄神さんで供養していただいたのを思い出しました。
お人形、特に日本人形には独特の趣がある気がして、怖いけれど惹きつけられる何かを感じてしまいます。
そんな日本人形特有の情緒が遺憾なく発揮された本作。
序盤の見せ方には「チャイルド・プレイ」的なものを感じつつも、後半もCGなどを使わず〝動く人形を静的にみせる〟演出が冴え渡っていて秀逸。
サイコホラー&陰鬱家族ドラマが上手く重なり合ったストーリーもお見事。
横溝正史的ムードに「エクソシスト」的バトル、時折挟まれるユーモラスな笑いに、ジョージ・C・スコットの「チェンジリング」のような悲哀。
冒頭からラストまで大満足のホラーに仕上がってました。
(以下ネタバレあり)
子供たちを家に残して買い出しにいくお母さん…不審者の噂話や怪しげな男が映りこむ、静かに不穏を煽る冒頭からドキドキ。
娘の死体を発見するシーンは、長澤まさみの表情と絶叫だけを映した見せ方が秀逸で胸を抉られるよう。
包丁や風呂場にはあれだけ気を配っていたのに、思いもよらないことが命取りになってしまうの、現実にありそうで本当に怖かったです。
ハンス・ジマーのような重低音とともに出て来るタイトルバックからもう一気に引き込まれました。
その後の人形に入れ込む姿には「あんなことがあったら精神のバランス崩すのは当然」と抜群の説得力。
思った以上に時間経過のあるストーリーには驚きましたが、その後新たな娘を授かる夫妻。
新しい命が宿ると一気に現実に戻って来る佳恵が意外に思われましたが、女性ってそんなものかも…母親の強かさを感じさせて何だかリアル。
しかし成長し5歳になった娘・真依がクローゼットから仕舞われていた人形を発見。今度は娘が人形に入れ込んでいきます。
生きている本当の友達であるかのように会話し、片時も人形を離さなくなる真依。次第に娘の身体に傷跡が…
自傷行為なのか母親が無意識でやったのか…「エクソシスト」然り、前半現実寄りの描写を丁寧に重ねていることが恐怖を底上げ。
混乱した佳恵がアヤ人形を思い切り強打、それが娘だと発覚するシーンにはめちゃくちゃ恐怖しました。
ゴミ出しするも、その都度戻ってきてしまうアヤ人形。
一度は世話になった人形なのに厄介払いって薄情やなーと思ったけど、物の扱いってそんなものかも…と自らを省みてしみじみ。
次の子供が生まれたら、一気に塗り変わってしまった部屋の写真の切ないこと。
愛を失った人形のことを気の毒に思ってしまいますが、こうした同情心が大きく裏切られるラストの展開まで本当に上手く観客をミスリードしていて、全編見終えたあとでひたすら感心するばかりでした。
やがて夫・忠彦も怪異を目の当たりにし人形供養を頼ることにしますが、供養人が碌でもない守銭奴だった展開も面白い。
YouTube動画といい、時折軽いシーンを挟んでの緩急の付け方が秀逸。
忠彦が子供の歯形をみようとして真依ちゃんが目を開けるシーンでびっくり、人形だったのか本物の子供だったのか正視できないまま終了してしまいました(笑)。
後半は曰くつき人形の過去を探る「リング」的展開になりますが、病院勤務の夫の職業設定も生きて、MRI検査により人間の骨で出来ていることが発覚。
あまりの特級呪物っぷりに警察まで現れる事態となりますが、お祓いのエキスパートがついに登場。
メリン神父枠かと思いきや、足を負傷してあっさり退場、全然頼りにならない(笑)。
霊と交信中、カメラのフラッシュでアヤちゃんの不気味な姿を捉えたシーンはホラーゲーム「零」のようで、静的な見せ方にずっと留めているのが却って恐怖を倍増させていました。
子供が描いた不気味な絵など散りばめられたヒントが回収され、ついにアヤ人形の過去が明かされますが、生前は病気がちだったアヤちゃん。
母親が無理心中しようとするもアヤちゃんだけが死亡。
人形師だった父親が娘の骨と髪を使い、娘人形を拵え、母親と同じ墓の中に…しかし高額な価値があると墓を掘り起こされたお人形は母の遺骸から引き離され、骨董市場へ…
「人形をお母さんのところに返してあげよう」…絶海の孤島というロケーションも相まって大盛り上がりのクライマックス。
人形を墓に戻し、無事に家に帰ったと思ったらいきなり幻覚世界が展開。
長女の亡くなった場所である洗濯機と、狭いお墓が視覚的にリンクするのが鮮烈。
亡くなった長女の霊がお母さんを守ってくれたのかな…家族3人で手を繋ぐところは切なさいっぱいでじんわり。
満を辞してのハッピーエンドかと思いきや、最後に驚きのどんでん返し…!!
完全にアヤ人形に取り込まれてしまった佳恵と忠彦は、次女の存在を忘れ、アヤを生きていた長女として愛でながらベビーカーに乗せ散歩へ…
すれ違うエレベーター、別世界に囚われた「サイレントヒル」的ラストはバッドエンド極まりないけど、ホラー的には100点満点。
「娘は母親に虐げられてたから戻しちゃダメだった」って、お祓い師、そんな大事なことに後から気付くなんて(笑)…
「お母さんを交換して欲しい」と話していた真依ちゃんとの会話、子供の背中にできていた傷、佳恵が真依を殴るシーンなど、あとから考えると伏線が凝らされていて、自分がされてきたことをどこかで訴えたかったのかな…悪霊だけど切ないものが胸に残ります。
普通の人間は「親子一緒が1番」と思ってしまうけど、それが押し付けにすぎないこともあるのね…
施設にいた方が安全だったのに親元に戻って命を落としてしまう子供など、現実世界のやるせない出来事が頭をよぎりました。
心中失敗後、アヤちゃんのお母さんがすぐに亡くなったのは娘に呪い殺されたからだったのか…人形師のお父さんがお骨を同じ墓に入れてしまったのは我が子が母親に虐待されてるのを全く知らなかったからか…
〝親子3人手繋ぎシーン〟で子供の足が浮いていて持ち上げられてたのは、歩ける子供じゃなくてお人形のアヤちゃんだったから…あとからハッとなる恐怖シーンが散りばめられていて、細部まで工夫が凝らされているのにただただ感心。
ポスタービジュアルにある「だれにもわたさない」というキャッチコピーも、人形に夢中になった母親のセリフかと思いきや、愛してくれる親をようやく見つけた人形の方のセリフだったのか…と驚かされました。
途中で主人公視点が長澤まさみから夫役の瀬戸康史にバトンタッチ。
恐怖のテンションが一旦途切れてしまうのがどうかと思ったけれど、力の抜けるパートが用意されていてホラー初心者にも所々で優しめ。
しかしラストは情け容赦なく、両親を奪われ閉じ込められた空間から絶叫する次女の姿が冒頭の長女の姿と重なり戦慄。
それまでのアヤ人形の立場と完全に〝入れ替わり〟になっていて、完成度の高い絶望エンドに叩きのめされました。
主人公夫婦は結局最初の悲劇を乗り越えられなかったんだ…となる絵面も胸に来るもんがあります。
劇場は若いお客さんが多めでしたが、中には肝試し気分の人もいて賑わっていました。
完成度の高いホラーで、恐怖と共に思い切り楽しませてもらいました。