2000年代のホラー映画作品の中で大満足だった1本。
タイトルだけで薄々伝わる〝生きた人間を蝋人形にしている〟というグロ全開のプロットは、元になった戯曲があるそうで、過去にも同じ題材で2度映画化されているようです。
本作が面白いのは、そのグロ要素に「若者が田舎に行って得体の知れない人に出会う」という「悪魔のいけにえ」的要素をふんだんに盛り込み、殺人鬼との対決ドラマにもさらに一味加えているところ。
舞台はアイオワ州。フットボールの試合鑑賞のためスタジアムに向かっていた若者の男女6人は近道をしようとしたところ車が故障し、地元男性に近くまで送ってもらうことに。
無分別に女性をジロジロみる、動物の死臭が全く平気…と、同じ国、同じ言葉を話す者同士なのに、まったくコミュニケーションがとれない感じがなんとも不気味です。
そして主人公女性カーリー(ドラマ24のキム・バウアー)は恋人のニックと車の部品を買おうとカーナビにもない小さな町にたどり着きますが、人の気配がありません。
音のする教会の方へ行くと誰かのお葬式の最中で、時間潰しに近くにあった閉館中の蝋人形館へ行くと、なんと人形だけでなく建物全体が固めた蝋で出来ているというこだわりっぷり。
排他的な感じのする田舎の雰囲気もイヤだけど、主人公のボーイフレンドもたいがいな奴で、無人とはいえ人様のお宅を勝手に物色して触りまくるという失礼極まる態度。
コイツが最初に殺されるんやろなー、やむなし!!と思ってたら、案の定殺人鬼が現れ、予想以上に悲惨な死に様に。
熱い蝋を全身に吹き付けられ、蝋人形にされたあとも(鼻呼吸ができるからか)しばらく意識がある。仲間が助けに来て眼球だけが動き、涙がぽろっと流れてるところとかかなり残酷…!
館の人形の中身はやっぱり人間だったのかーに当然ゾゾーっとなりますが、教会でお葬式やってたというシーンも…
…と分かる場面は1番ゾゾーっとなりました。
助けに来た残りの仲間勢も1人ずつやられていきますが、素晴らしい死に様をみせてくれるのは、パリス・ヒルトン演じるビッチ。
嬉々と下着姿も披露、「このアホセレブめ!」というみんなのイメージを裏切らない役どころでグロ極まる凄惨な死に様をみせてくれます。気前いいなーと好感度UP。
スプラッタというより五感に訴えかける痛さが怖い本作。
叫ばないようにと口に接着剤をつけられる主人公。イタタタ…。
しかしその後くちびるが真っ赤になったエリシャ・カスバートが妙にセクシーにみえてしまうという不思議(笑)。
続く指チョンパシーンもさることながら、殺人鬼との追いかけっこも「蝋人形たちの中に紛れ込んでやり過ごす」という隠れんぼを交えてのドキドキハラハラシーンが上手いです。
ここからはラストまでのネタバレになりますが…
登場する殺人鬼が2人なのもこの作品の面白いところになっています。
・一見フツーの人にみえたガソリンスタンドの男(ボー/お兄ちゃん)
・蝋人形をつくるアーティストなマスクをかぶった男(ヴィンセント/弟)
と双子の兄弟だったんですね。
子供が親に折檻されているような謎めいたシーンが映画の冒頭にありましたが、結合した双生児だった2人を外科医だったお父さんが切り離し、顔の部分がくっついていたヴィンセントは顔に傷を負ってしまった。
それを隠そうと蝋人形アーティストのお母さんがマスクをつくった。
顔に傷のあるヴィンセントの方が殺人鬼かと思いきや実は見た目の普通な兄の方が子供の頃から癇癪もちだったようで、暴れるのを両親が拘束していた模様。(大人になったボーの手にはその痕がついていました。)
一体兄と弟どちらが歪んでいたのか…姉妹の確執逆転ドラマ「何がジェーンに起こったか?」も実は見事な伏線となっていました。
都会から田舎に逃げるようにやってきたというこの一家ですが、この町でも生きにくかったのかなあ、お母さんが亡くなってからボーの暴走に歯止めが効かなくなって、お兄ちゃんしか拠り所のない弟は異常な人形づくりが趣味になってしまったのかなあ…と、説明らしい説明はないけど、断片的なドラマから色々想像させてくれます。
そしてこれに挑むことになる主人公勢も双子の兄妹というのがまたいい!!
いい子ちゃんの妹と、車泥棒で前科のあるワルぶった兄。
後半はこの兄妹が物理的にかなり強いので恐怖感は薄まりますが、息のあったコンビネーションで殺人鬼を追い詰める展開はみていてスカっとします。
最後はホラーの定番、全部焼けて崩れ落ちるという展開。
人形はもちろん壁や地面さえドロドロに溶けてくところは圧巻の迫力…!!ヌメヌメドロドロしながらの殺人鬼との死闘って斬新!!CGも使ってるだろうけど、ここにもまた離れられない兄弟の悲劇が演出されてラストもビシッと決まってました。
あとから警察が来て、「これだけの人が殺されてたの全く気付かんかった」というのは荒唐無稽な話と受け止めればいいのか…。
面積の広ーいアメリカの州の中で、ひっそりと殺されて気付かれない人たちがいる…というのは案外リアルな恐怖なのかなあと、ホラーに刷り込みされたイメージもあるかもだけどそんな風に思ってしまいます。
監督はのちに「エスター」を手掛けるジャウム=コレット・セラ。
痛さも怖さもしっかり伝わる、個人的にはホラーとして、大変満足な1本でした。