病院に運びこまれた自殺未遂の青年。彼は他人に自分の悪夢を転送してしまうテレパシストだった…
82年制作のイギリス製ホラー。
大人しめの作品ではありますが、テレパスの設定が上手くサイコサスペンスに生かされており、また幻覚の映像表現も独創的で印象に残る作品でした。
休日家族連れで賑わうビーチ。
突然現れた暗い顔の青年が大きな石を身体に抱えて入水していきます。
なんでこんな場所で自殺するのか、一心不乱の異常な様子。青年は一命を取り留め病院に運ばれます。
身元不明で記憶喪失を患っていた青年は「ジョン・ドウ♯83」と名付けられました。
ボスの院長は彼に電気ショック療法を施そうとしますが、担当の女医・ゲイルは献身的に青年を治療しようとします。
そんなゲイルの周りで奇妙な出来事が勃発。
家に空き巣が入った…と思ったら割られてたはずの窓が割れてない…医局の冷蔵庫が虫だらけになってる!!…と思ったらなってない…
なんと青年は悪夢を他人に転送し受信した人間はそれをリアルな幻覚として受け取ってしまう、特殊なテレパシストだったことが判明します。
同じく病院を舞台とした超能力ホラー「パトリック」と印象が重なる作品ですが、あちらの主人公が終始悪意で能力を使っていたのに対しこちらの主人公は力のコントロールが一切不能。
けれどこれがなかなかに恐ろしくて普通に生活してたらいきなり悪夢が転送されてくる(=幻覚が始まる)。静的シーンから動的シーンへのジャンプが唐突で、大人しめの作品かと思いきや意外にドキドキさせられます。
青年が再び自殺を図ろうと考えていると女医のいたバスルームの鏡がいきなり割れて血が噴き出す…など心象とリンクした表現もユニーク。
特に出色なのは青年が電気ショック療法にかけられる瞬間、無意識のうちに病院中に破壊的な幻覚を転送する場面。
スローモーションで人がぶわーんと吹っ飛びまくり、さらに幻覚が切れた瞬間に逆再生で元に戻っていく…このシーンは力が入っていて凄いインパクトです。
病院は大パニックになるも女医のゲイルは幻覚が青年との唯一のコミュニケーション方法だとその中からヒントを拾って青年を救おうとします。
幻覚の中に現れた文字や数字を追うのはどこかホラーゲーム的な感じもしますね。
そんな中青年の母親が病院を訪れてきて「息子を返して欲しい」などと訴えてきます。
ところが警察の調査で青年の母親は5日前に亡くなっていたことが判明。
オカンも幻覚やったんかい!!(でもこれは初登場時から何となく気付いてしまう)
どうやら青年を苦しめていた元凶はこの母親のようです。
青年は赤ちゃんの頃から母親と意識の転送(相互受信)できたのだといいます。
異常に過保護な母親とずっと2人暮らし、ある日母親が青年と心中自殺しようとしたのを拒否して逃げてきた…らしいことが察せられます。
「サイコ」と「キャリー」が思い浮かぶような親子の歪んだ特別な絆。
唯一の依存先だった母親が亡くなり外界とコミュニケーションをとる術がまったくなく能力が大幅に増大した…と考えると腑に落ちるような感じもします。
幻覚のオカンは青年の母親への罪悪感なのでしょうか、お母さんと一緒に死ななきゃいけなかったのに…そんな想いがオカンの姿になって襲ってきます。
青年役の役者さんの演技が秀逸、また女医役の役者さんもジェームズ・キャメロン映画に出てきそうな強さ・母性を感じさせる女性で息子を守る母親対決のようにもみえてきます。
精神病院の雰囲気もリアルな感じがして、一見普通にみえるのにベトナム戦争のPTSDを抱えた黒人の青年など、奇をてらったような描き方でなく真に迫ったものを感じる描写でした。
ラストはB級ホラーらしいベタな終わり方ですがゾクッとさせられます。
青年が退院に向かうまでが唐突でもう少し前後の描写があってもよかったのかな、母子エピソードにもう少し厚みがあればかなりの傑作になったのでは…と所々惜しく思われますが、幻覚テレパシストの設定とその見せ方がユニークで物哀しい雰囲気も好み。
地味ながら記憶に残る作品でした。