どうながの映画読書ブログ

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「ナイト・オブ・ザ・コメット」…ゾンビなんて怖くない!!女子高生無双で陽気な終末B級ムービー

彗星の光線により人類ほぼ絶滅&生き残りはゾンビ化。

終末感溢れる世界を女子高生が緩やかに無双する1984年の異色SFホラー。

「28日後…」のような閑散とした街並みが映し出されるもこちらは恐怖より爽快感が勝る不思議なムード。

「もし朝起きて自分が地球最後の人間だったらどう思うか?」…ティーンエイジの子たちに監督が尋ねたところ、「好き勝手遊べていい」などと悲観的とは程遠い答えだったことに着想を得て作られたという本作。

ホラーコメディな味わいですが、ラストは意外と暗さが潜んでいて、妙に深い余韻が残ります。

アメリカ本国でもカルト的人気を誇る1作だそうですが、緩いB級映画なのになぜか胸に残る、お気に入りの1本でした。

 

◇◇◇

クリスマスシーズンの夜…6500万年ぶりに地球へやってくるという彗星に人々は夢中。

町はお祭り気分で空を見上げる人で賑わっていました。

映画館でバイト中の18歳のレジーナは、接客そっちのけでアーケードゲームに夢中。

映写技師の年上彼氏と付き合っているレジーナですが、「彗星なんてテレビでみればいい」という出無精な彼とダルダルなデートで過ごすことに(笑)。

 

ところがレジーナが彼と一晩過ごして朝起きると街に異変が…道には人っ子1人見当たらず、衣服だけを残して人々は赤い塵と化していました。

彗星の放つ光線によりなんと人類は消滅。赤いスモッグに覆われ空は真っ赤に…

グラデーションフィルターで撮影した〝赤い空の無人の街〟には迫真の終末感が漂っていて、ここは低予算映画とは思えない出来栄えに仕上がっています。

 

何も知らずに外へ出たレジーナの彼氏は突然謎のゾンビに襲われて殺されてしまいます。

生き残っていた僅かな人々は汚染され、凶暴なゾンビと化していました。

ジーナもゾンビに襲われますが、バイクで走り出し何とかピンチを切り抜けて妹のいる実家へと向かいます。

 

実家では継母と大喧嘩した妹・サマンサが物置小屋で一夜を過ごし、光線から逃れて事なきを得ていました。 

どうやら鉄の建物内にいたものだけが被害を受けずに済んだようです。

 

軍人の父親に育てられ各地を転々としてきたレジーナ&サマンサ姉妹。

実の母親は失踪、新たな再婚相手は姉妹にキツくあたり若い男と不倫中というとんでもない継母で、嫌な奴が塵になってスッキリ!?

消滅した家族のあとをみても2人ともあっさりした様子なのが呑気で笑ってしまいます。

 

無人の街に驚いた2人は、ラジオ放送を頼りにラジオ局を訪ねることに…

放送は録音音声で局は無人でしたが、DJごっこに興じるサマンサ。

滅亡世界でやりたい放題する仄暗い愉しみは「トリフィド時代」「ゾンビ」などに通じるスピリットですが、子供のように無邪気に遊ぶ姿にみているこちらの心も弾みます。

 

するとそこに同じく生き残り人類だと思われるヘクターという男性が登場。

トラック運転手をやっているごく普通の男・ヘクターと勝ち気なレジーナはなぜか意気投合。早速いい感じに…

その様子を面白くなさそうに見つめるサマンサ。「世界最後の男まで奪う気?」…寂しさや嫉妬もあるけど、お姉ちゃんをとられる気持ちの方が強そうでツンデレな妹がキュート。

クールな姉貴役がピッタリのキャサリン・メアリー・スチュワートと、あどけない魅力の妹役ケリー・マロニーと…2人の組み合わせが最高。

2人ともクルクルパーマの80年代ヘアなのには時代を感じます(笑)。

 

実家の様子を見に行きたいヘクターは1人偵察に出かけ、残された姉妹は留守番中に町を探索することに。

勝手にパトカーを拝借。

無人の街で銃をぶっ放しても誰にも咎められない。

かと思えば急に亡くなった友達や好きだった男の子のことを思い出して涙。年頃の女子高生らしい一面も…

 

元気を出そうと高級デパートを訪れる2人。ファッションショーにダンス、はしゃいでやりたい放題。

♫Girls Just Want to Have Fun~シンディ・ローパーの曲が重なってノリノリの開放的なシーン。

ロメロの「ゾンビ」のような虚無感や深いテーマ性はなく、買い物やオシャレを無邪気に楽しむ女子高生がひたすら眩しいです。

 

ところが密かに生き残ってデパートを支配していた倉庫係の男たちが姉妹を発見。2人は襲われて捕えられてしまいます。

するとそこにさらに謎の科学者軍団が登場。実はこの災難を予測していた科学者たちが地下施設に逃れていました。

科学者たちは男たちを始末し姉妹を救出。

姉のレジーナだけを施設に連れて行き、妹サマンサはヘクターを待って出発するようにと2人は引き離されてしまいます。

 

研究所に連れて行かれたレジーナは、拘束され科学者たちから病気を持っていないか異常な質問攻めを受けることに。

ジーナの他にも子供たち2人が施設に連れて来られていましたが、研究者たちは血清を調べるため生き残り人類から血液を採取していました。

研究が行き過ぎたのか、生存者を生命維持装置に繋ぎ大量の血液を奪うまでに…

この辺り設定がはっきり明かされず分かりにくいのと、科学者たちも10人足らずしか出て来ないのでスケール感に乏しいのが残念。

生き残った子供たちを「優秀じゃない」と堂々見下す科学者軍団はどこか欺瞞的で、抑圧された若者vs支配的な大人のドラマも感じさせます。

 

一方実は発疹を発症していたサマンサは、研究所に連れて行かれることなく地上に取り残されていました。

女性科学者オードリー(メアリー・ウォロノフ)が謎の薬液を彼女に注入。

安楽死の薬かと思いきや、どうやら普通の鎮静剤だったらしく何事もなく生き残る妹。

「換気扇を止め忘れて研究所も汚染されてるのよ」と語ったオードリーは、自らも感染していると悟ったのか、はたまた被害妄想に陥ってしまったのか、仲間の科学者を道連れにして自殺してしまいます。

無軌道な若者とは対照的に、現実と向き合わなければならない大人は未来を悲観視してしまう…明るい前半から徐々にダークさを垣間見せていくところが面白いです。

 

汚染の広まった研究所ではとうとう科学者たちが暴走、レジーナや子供たちに襲いかかります。

ヘクターと妹サマンサがそこに駆けつけ、科学者たちを蹴散らし子供たちも連れて皆で脱出。

やがて雨が降り汚染物質は全て流され、赤かった空は元の青色へ…


ジーナとヘクターは生き残った子供たちの父親・母親代わりとなり”家族”を形成しはじめます。

参観日のお母さんみたいな服装で家族写真を撮るレジーナの姿は、所帯じみていてすっかり大人の女性に…

そんな姉の様子を呆れた顔でみるサマンサ。

妹だけ1人だけアウェーで寂しそう…と思ったらそこに突然オープンカーが現れ、新たな生き残り男が登場。

妹もいい感じの男をゲットして突然ジ・エンド(笑)。

DMG〟のナンバープレートから冒頭レジーナが興じていたゲーム「テンペスト」のランキングメンバーらしいことが伺えますが、伏線というほどのものでもない遊び心に満ちたエンディング。

どこまでも能天気に思えますが、主人公が変わってしまう&血の繋がった妹と決別するエンドには不思議な大人の味わいも残ります。


子供たちに笑顔を強要、門限に口うるさいあたり、彼女自身が最も嫌っていた支配的な大人になってしまったようで何だか複雑。

無人の街でも赤信号を守る一家の姿はどこか不穏にも映ります。

ルールに縛られる(社会に適応した)姿は大人になった証ともいえるのでしょうか…主人公の成長を感じるとともどこか物寂しさも残ります。


大人の世界に入り幸せを手に入れた姉とは対照的に、自由を求めて走り去っていく妹。

それぞれ得るものもあれば失うものもある。

現実に帰っていくようなラストにはほろ苦い青春映画のような余韻が残ります。

文明を守るのも大事だけど、ときどき夢を見るのも大事(笑)。姉妹のスピリット両方持っていたいなあなんて思いました。


ゾンビものを期待するとイマイチ地味な本作。

喋るし動きが早いし道具も使う知能高めのゾンビですが、特に何か見せ場があるわけでもなく数体登場して終了。

そのうちの何体かは妹の悪夢に出てくるだけで色々設定はガバガバなのですが、フワッとした世界観と明るい終末感が唯一無二。

ティーンエイジャーの自由でナーバスな深層心理の世界を描いているというか、モラトリアムの具現化というか、夢的なビジュアルを持つ不思議な魅力の作品。

ゆるーいB級映画だけど、熱烈なカルトファンがいるのにも納得してしまいます。

 

年の暮れにぼんやりみるにはピッタリな気がする、お気に入り異色ゾンビムービーでした。