どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「ボーはおそれている」…過干渉な母親と父親不在の家庭で育った子供の生き辛さ

アリ・アスター監督の最新作、前2作が好きだったので観に行ってきました。

上映時間3時間、普通に長かった(笑)。

個人的にはワンシチュエーションでしっかりホラー映画してた前2作の方が好み。

今回は主人公の精神世界を描いたドラマ要素が強めの作品でした。

ただこの監督の描く家族像は自分の家族とも重なる部分があったりして、ボーに共感もしつつ、クライマックスは観入ってしまいました。

 

(以下ネタバレ)

ボーの住んでいるアパート周辺の治安が最悪、ゾンビものかよ!!な混乱状態でびっくり(笑)。

自分が常に攻撃されていると感じる人の意識ってこんな感じ??

多分リアルを描いているわけではないんだろうなーと思いつつ、動いてないのに警察官に動くな!!と言われ続けたり、水と一緒に飲まないと死ぬ薬に恐怖したり、どんだけ理不尽なんだよ!!と所々笑ってしまいました。

 

帰省しようとしてたのに、鍵をなくして家から出られなくなってしまったのも潜在意識下で「本当は帰りたくないから」…??

オカンが癖の強そうな人なのは、もう冒頭の出産シーンで助産師さんに喚き散らしてるところからお察し。

しかしまさか死亡が大嘘だったとは…自分の葬式をでっち上げてまで息子の愛を試すオカン、恐るべし。

トゥルーマン・ショー」みたいなコラージュのポスターに自分の出会った人たちが映ってるのと、精神科医までグルだったところに1番ビビりました。

 

「正しいことかどうかアナタが考えて決めなさい」と言いつつ、意に反した行動を取ったら後からネチネチ責め立ててくる。

食の安全に拘った結果インスタントフード。変な薬にハマるどころか自ら薬つくって売り出す。

めっちゃ病んでるのにやり手ビジネスウーマンなのがすごい(笑)。

事業が息子のためを思って…の内容になっていて、それが世の母親たちのニーズと合致したのか巨大企業に成長していたのいうのがまた強烈な皮肉。

主人公一人暮らししてるやんと思ったけど、最初のアパートハウスも母親の慈善事業の系列ハウスみたいなものらしいと分かってゾッ。

頭皮にいいシャンプーも販売してるみたいだけど息子がハゲてるのはジョークなのかなんなのか(笑)。

 

束縛的な親から逃れるには自立するしかないと思うのですが、親が経済的に頼れない存在だったり、お金がない状態だと必要に駆られて働くしかない…でもそうすることで親以外の社会との接点が出来て、「ズレ」に気付けたり、自分で選択して失敗する経験を否が応でも重ねていく。

けれど本作のボーのように親が裕福だった場合、そうしたチャンスが逆に奪われてしまうこともあるというのが恐ろしいことだと思いました。

あの名前入りパジャマといい、衣食住全てを支配される怖さ…

母親視点では育てにくい子供だったとか色々推察もされますが、子を守りたい母の愛という大義の下、自由を奪い続けてしまうの、子育ての落とし穴なのかもしれないなーと、割とどこにでもある家族像を描いているように思いました。

 

思春期には出会った女の子への恋愛感情を握りつぶされ、凄まじい性的抑圧を受けるボー。    

「お父さんはヤってる最中に死んだ」「あなたはセックスすると心臓麻痺になる遺伝性の病気」っていうの、本当だったのか嘘だったのか…

自分は「キャリー」の母親を思い出したりもして、お母さんが男に捨てられたのを都合よく記憶改竄して嘘ついたんじゃないかな…と勝手に想像してしまいました。

結局ヤッても死なんかったやんと思ったけど、絶頂した女性の方が死んでしまって…ここは「ヘレディタリー」のガブリエル・バーンを思い出しつつあまりの理不尽さに不謹慎ながら爆笑。

母親に逆らった自分は幸福感なんて感じちゃいけないんだ…幸せになることを恐れているボーの心理状態を誇張したものなのかなと思いました。

 

不条理はさらに続いて、屋根裏にいたお父さんがチンコの化け物として現れるシーン。

徹底的に醜悪な存在として描かれる父親は、母親の男性に対する嫌悪が具現化したものではないかと思いました。(そしてボーはそうした価値観を押し付けられてきた)

「あなたのお父さんは碌でもない人間」「私だけがあなたの味方なのよ」と子供を囲って支配するのも、過干渉オカンあるある。

 

ボーも内心では母親から逃れたい気持ちがずっとあって、演劇の場面では自身の中にある父性への憧れに気付いたり、母親が嘘をついている可能性に思いを巡らせたりしているようでした。

物語に触れることで心が成長するのかと思いきや、また呆気なく泥沼へ…(そんな簡単に人は変われるもんじゃない)

母親の首を絞めて(=人生で初めて大きな反抗にでて)独り立ちするのかと思いきや、またもや「親を失望させた罪悪感」に呑まれてしまうボー。

 

大勢の人が集まったアリーナで行われる裁判のシーン。

親に否定され続けて育った子供は常に人の目線が気になってしまう…常に他人に非難されているような気持ちになってしまう…ボーの心の内を表したかのような心象風景。

ビデオを再生するように、過去に起こった嫌な出来事を事細かに憶えていて、頭の中で繰り返される自問自答。

内心では親のことを理不尽に思って腹が立っているけど、親のことをそんな風に思ってしまう自分がやっぱり悪いのかもしれない…そんな板挟み思考がギリギリと迫ってくるようでした。

案の定、母親の言い分とは全く相容れずフルボッコ、他責思考の母親に育てられた自罰思考の息子のメンタルは結局再生しないまま…

虚しく沈み込むバッドエンドに「ヘレディタリー」と同じく強い敗北感が残りましたが、そこにカタルシスも感じてしまうから不思議。

家族だからといって理解し合えるわけではない…傷つけ合うことだってある…監督の家族観にある種の誠実さを感じるというか、安堵感も憶えてしまいます。

エンドロールではあれだけいたオーディエンスがあっさりと姿を消していて、「他人(自分)のことなんか、人はちっとも見てない、気楽に行こうぜ!」「結局自分の人生を真剣に生きるのは自分しかいない」…そんな気持ちも後に残りました。

 

全体的には面白かったのですが、途中のミザリーパートと森のパートが長すぎて…もっとタイトにまとめて欲しかったと思いつつ、でもあの長さあってこその徒労感なのかな、とも思いました。

一見いい人そうだったミザリーパートの家族は、息子を失った悲しみを埋めるために他人を助けるのに奔走。

表向きには慈善的で高い理想を掲げているような人が、実は身近な人をないがしろにしていて家庭内がボロボロ…こういう人本当にどっかにいそうと思うリアルさで、人の嫌なところを滑稽に&恐ろしく描くのが上手いなーと改めて思いました。

幼い子供の目をしたホアキン・フェニックスは素晴らしい名演技。

遥か年下女子にすすめられたタバコ1本も断れないの切ない…

不機嫌な親を怒らせないように必死に機嫌をとってきて、怒ることが出来ない男の姿がひたすら可哀想でありました。

 

パンフレット、1100円と高かったですが非常に凝ったデザイン。

劇中登場するアイテムのレプリカ的なものが封入特典のように入っていて、世界観に浸れる素晴らしいつくりでした。

アリ・アスター、このまま一生家族映画を撮り続けるのかな…と思っていたら、パンフを読むと次は家族3部作とは離れた西部劇をつくる予定だそうで…他ジャンルではどんなものを撮るんだろうと次作も気になります。

 

自分の中では「ヘレディタリー」がダントツで抜き出ていて、あちらは豪快なストレートを1発決めてくれた感じ。今回は弱いジャブを連打されている感じ。

でもあとからジワジワ効いてくるかもしれません。

色々宗教的な考察とかもありそうですが、過干渉マッマはしんどいわ!!…これに共感する人は案外多いのではないかと思う親しみやすいファミリードラマ。

勝手に色々感じ入って観てしまった3時間、なんだかんだで面白かったです。

 

「ミュート・ウィットネス 殺しの撮影現場」…第2のヒッチコック!?出色サスペンス・スリラー

「ファングルフ/月と心臓」のアンソニー・ウォラーが監督・脚本・製作を手掛けた95年のサスペンス・スリラー。

コメント欄で教えていただき、面白そうなので観てみました。

特殊効果を担当する口のきけない女性ビリー。映画撮影のためモスクワを訪れている最中、本物の殺人を目撃してしまう…

「裏窓」を想起させる、巻き込まれ型サスペンスのストーリー。

緊迫感が凄い前半とユーモラスな笑いとアクションが展開する後半と…途中でトーンが変わりますが、とても面白かったです。

 

(以下ネタバレ)

捻りが効いていて一気に引き込まれる冒頭。

メイクも髪型もザ・ヒッチコック女優の女性が、女装した殺人鬼にメッタ刺しにされますが、なかなか死なない(笑)。

どうやら映画の撮影中らしいと判明しますが、虚構に虚構を重ねた、「悪魔のシスター」のような皮肉の効いたオープニングの掴みが素晴らしい。

撮影終了後、特殊効果担当の女性・ビリーが忘れ物をして1人スタジオに戻ると、今度はポルノ映画の撮影が行われていました。

そっと見ていると目の前で女優が本当に無惨に殺されてしまいます。

閉め切られたスタジオから脱出しようとするビリーでしたが、気配に気付いた殺人犯が後を追って来ます…

 

耳は聞こえるものの、発声障がいがあるヒロインは電話で助けを求めることも叫ぶこともできない…手話で助けを求めようとしても犯人に手を押さえつけられてしまうなど、設定が効果的に生かされていてスリリングでした。

異国の地ロシアが舞台というのも効いていて、終始暗めな雰囲気。

何を話しているか全く分からない警察とのやりとりがもどかしく、言葉の通じない土地でのアウトロー感も際立っています。

 

殺人はフェイクで主人公の勘違いなのでは…と疑心暗鬼になるようなストーリーにはなっておらず、ロシア2人組が真っ黒にしかみえません(笑)。

犯人グループは不法移民の女性に売春させて、ポルノ映画に出演させ、挙げ句過激なスナッフフィルムのため本当に殺害していた模様。

スナッフフィルム愛好家のドンをアレック・ギネスが演じているのにはびっくりですが、もしかしたらこの世のどこかにこんな世界があるのかも…と思わせる設定が闇深。

「怖い映画を楽しんでみている観客の自分」と「リアルな恐怖を追い求めるスナッフフィルム愛好家」が重なったりもして皮肉の効いたストーリーでもあります。

 

とにかく圧巻なのは前半約15分間の殺人犯との追いかけっこ。

主人公を前側に、追跡する犯人を後ろ側においた構図が効果的で、「殺人鬼の視界に入らない回避ポイントまで移動する」ホラーゲームのような緊迫感に手に汗握ります。

主人公が直線ダッシュして犯人が真後ろを追いかけてくる場面は画面がグワングワンに揺れて、出口が遠のいていく…まさに悪夢ってこんな感じ…!!

映像表現もユニークで見事でした。

 

後半は恐怖度が薄めになっていきますが、童顔で線の細そうなヒロインが意外に強い…!!

包丁をバンバン投げつけるわ、マッパになって覗き魔に助けを求めるわ、やれることは躊躇いなく全てやるヒロインが潔くて爽快。

さらに主人公の姉とその恋人の映画監督も巻き込まれててんやわんや。

途中助けてくれる刑事のおっちゃんが味方なのか裏切り者なのかどっちだー!!終盤の展開は「北北西に進路を取れ」のオマージュ??

ラストがちょっと雑で、ディスクの始末を最後まで見届けない組織が杜撰すぎるし、偽装殺人のやり返しをいつの間に仕込んだのか、ツッコミどころは多数。

が、「口の効けないヒロインだからこそ目の表情を読み取れた」というオチは良かったと思いました。

 

主人公の孤軍奮闘ではなく仲間のキャラが登場するのは「ファングルフ」もそんな感じだったと思いますが、この監督さん、アルジェントやデ・パルマのような変態性や孤独感には欠けてる気がします。

でも賑やかなB級映画テイストな後半も自分は好きで楽しめました。

冒頭〜前半の迸る才気は半端なく、第2のヒッチコックと呼ばれたのにも納得…!!

続けて傑作連発できなかったのは残念ですが、まさに掘り出し物の1作でした。

 

印象的な映画の食事シーンをあげてみる

映画の中で度々描かれる食事シーン。

人物の内面を描写する重要な場面になっていることもあれば、特になんの意味もなく誰かがなんか食べてるだけのシーンもあったりして…

個人的に印象に残っている、映画の中の食事シーンをいくつかあげてみたいと思います。

 

◆「フレンチ・コネクション」の高級料理vs安いピザ

麻薬取引を追跡するドイル。

あったかいレストランでステーキだのエスカルゴだのいいもの食べてる敵さんたちとは対照的に、手がかじかむような寒い中、突っ立ったまま相棒が持って来た差し入れピザに食らいつくドイル。

冷めたコーヒーをじゃーっと捨てる姿も…

執念の尾行を一層応援したくなってしまう名シーン。

 

◆「殺しが静かにやって来る」のチキンを頬張るおっさん

雪景色が舞台の異色マカロニ・ウエスタン。

主人公が訪れる無法地帯の村の酒場で豪快にチキンを頬張る賞金稼ぎのおっさん。

口に飯入れたまま喋るわ、ギットギットの油まみれの手をコートで拭くわ…汚いことこの上ないのですが、ワイルドな食いっぷりになぜか見惚れてしまいます。

 

◆「続・夕陽のガンマン」の豆煮を食べるリー・ヴァン・クリーフ

よそ宅に突然上がり込み一家の飯をスプーンでかき食らうリー・ヴァン・クリーフの迫力。

こんな鋭い眼光の人が来たらビビってすくんでしまいそう…

この男只者じゃないと一気に引き込まれる冒頭、そして確かにこいつは「悪い奴」…!!

 

◆「パルプ・フィクション」のバーガーを食らうサミュエル・L・ジャクソン

ビッグマックはフランス語で何と言うか…冒頭から始まる何の意味もない飯の雑談。

「続夕陽〜」へのリスペクトなのか、突撃したチンピラ宅で相手の買ったハンバーガーを横取りして目の前で食べるジュールス。

「スプライトで胃に流してもいいか?」…これ観るとバーガーが食べたくなっちゃいます。

 

◆「イングロリアス・バスターズ」のランダ大佐といただくシュトルーデル

とにかく飯のシーンが多いタランティーノ

ランダ大佐がミルクを飲む冒頭のシーンも「続夕陽〜」っぽかったですが、大佐とヒロインが邂逅するシーンにもドキドキ。

クリームの載ったシュトルーデルはとっても美味しそうですが、ショシャナは緊張できっと味どころじゃない。

最後によその国の名物料理にタバコ押しつけて去っていく姿が実に憎々しく、紳士な態度とすごいギャップであります。

 

◆「或る夜の出来事」のコーヒーに浸すドーナツ

じゃじゃ馬娘とツンデレ男のラブロマンス!?古い作品だけどこれ系ロマンスの元祖で面白いです。

朝食に出てきたドーナツをコーヒーにびちゃっと浸して食べるヒロイン。

それをみて「浸すのは一瞬だけ、ちょっとだけにしてみろ」と自分の流儀を教える男。

庶民の男とお嬢様にも意外な生活の共通点が…2人の距離が縮まる名シーン。

 

◆「スタンド・バイ・ミー」のパイ食い競争

幼馴染のAちゃんは「スタンド・バイ・ミー、何回見てもパイ食い競争のとこしか覚えてへんねん」と言っていた(笑)。

異質でちょっとホラーテイストな感じもしますが、自分もこのシーン大好き。

アメリカってこういうイベントを異常なテンションでやってそうな勝手なイメージ。

 

◆「フレンジー」のイギリス人妻がつくる激マズ料理

連続殺人事件を追う警部の妻は料理教室に通っているらしく、帰宅すると珍料理ばかりを出してきます。

泥水みたいな魚介のスープ、豚の足丸ごとの美的センスゼロの肉料理…

イギリスのメシマズイメージがますます加速。

ショッキングな殺人シーンと裏腹にこういうユーモラスなシーンを混ぜてきて笑わせてくれます。

 

◆「ゴッドファーザーPart2」、3人で食べる始まりのスパゲッティ

若き日のドンの回想シーン。

みかじめ料を払うかどうか話し合いになり、「俺が話をつけてくる」と語るドン。

ドンの奥さんがつくったミートスパゲッティが運ばれ、それを食べるクレメンザとテッシオ。

強い絆の生まれた瞬間…だけど内1人は裏切るんだよなあ…2人のキャラの違いが明確に描写されているのも面白いです。

1であれだけ大きなファミリーになった出発点はこんな小さな食卓からだったんだ…としみじみ感じさせる名シーン。

 

◆「月の輝く夜に」の母娘で食べるトースト

ブコメだけど、全編食べるシーンと言っていいくらい食事の場面が多い映画。

中でも印象的なのは、シェール演じるヒロインが母親と食べる「パンの真ん中をくり抜いて目玉焼きを入れるトースト」。

手料理を振る舞われたニコラス・ケイジが胃袋を掴まれて突然恋に落ちたり、家族が食卓でケンカしたと思ったら仲直りしたり…食べる=生=性みたいな映画で、観るとなぜか元気が出ます。 

 

◆「バベットの晩餐会」、人生の迷いを全て吹き飛ばす最高の食事

高齢化が進む敬虔なキリスト教徒の村。

フランス人シェフ・バベットの一級の料理が人生の良い思い出だけを蘇らせ、許しと感謝の心をもたらす…

言葉がなくても老人たちの表情で伝わる料理の美味しさ。

料理(芸術)の持つ圧倒的パワーに心が清められたような気持ちになる、至高の食事映画。

 

◆「戦場のピアニスト」の命を繋ぐパンとジャム

飢えの恐怖がひたすら迫ってくるような映画。

なけなしの食料を奪われ泣き叫ぶおばあさんと地面に落ちたそのご飯を犬食いする男…小さなキャラメルを一家で切り分ける切実な姿…次の隠れ家に移動するため一息つく間もなく大急ぎで食べるスープ…

ホーゼンフェルト大尉がくれた新聞紙に包まれたパンを受け取り、ジャムを舐める主人公の恍惚の表情にはこちらも生き返ったような心地に…

細い生命線を辿るような食事シーンに圧倒されてしまいます。

 

◆「ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還」、突撃する息子と食事する父

無謀な突撃を命令され死地に赴くファラミアたち兵士と、その対比として描かれる父デネソールの食事。

ピピンの歌声が鳴り響く中、食事をとるデネソールの食べ方がワイルドというか原始的というか…

ゾンビ映画のようなグロさが炸裂、悲壮感が際立っています。

 

◆「ヘレディタリー」の地獄の食卓

楽しいはずの一家団欒の食事、家庭によってはギスギスした重苦しい空気に… 

妹の死はお前のせいだと長男を責める母親。 

間に入るオトンも限界、息子が気の毒すぎて絶句。

メンタル病みまくりのオカン、フォークの持ち方がもうおかしいって…

思わずうめき声をあげたくなるような、心に突き刺さる地獄の食事シーン。  

 

◆「クレイマー、クレイマー」、父子でつくるフレンチトースト

バラバラだった父子が見事な連携をみせてつくるフレンチトースト。

その成長と絆の強さに目を見張りますが、別れが近づいていて同時に哀しさも込み上げます。

アイスクリームダメ!!のシーンも、ジャスティン坊やが可愛くて心に残る名シーン。

 

◆「カーリー・スー」の宅配ピザとポップコーン

ホームレスの父娘が主人公のコメディ。

基本毎日お腹を空かせているので食べるシーンがやたら多かった記憶。

裕福なお姉さんが注文してくれた宅配ピザにかぶりつくシーン、女の子の食べっぷりが素晴らしい。

この他にも、映画館で隣の人のポップコーンとコーラを勝手に拝借してタダ食いするシーンがあり、めちゃくちゃだけど緩いテキトーさに爆笑。

 

◆「風来坊/花と夕日とライフルと…」、豪快に豆煮を食らうガンマン

とにかく飯をうまそうに食らうガンマン、テレンス・ヒル

画面越しに臭ってきそうなくらい汚い服に身を包み颯爽と登場。

石かと思うくらい硬そうなパンを引きちぎり、フライパンごと豆煮を豪快に食らう姿に皆唖然となるも、こんなに美味そうに完食してくれたら作った方も嬉しいかも(笑)。

 

◆「マッドマックス2」、ワイルドな世紀末の食事

荒廃した未来では人間もドッグフードを食らう…!!

犬缶を頬張るメル・ギブソンがなんともワイルドで格好よく、美味しそうにみえてくるから不思議。

中身はコンビーフにみえますが…

上下関係をしっかり分かっているワンちゃんが賢くて可愛いらしく、その名演技に魅了されます。

 

◆「アルカトラズからの脱出」の変な白いパスタ

トレイに載った不味そうな刑務所メシ。

千切れたうどんにしか見えないけど、向かいの囚人が「パスタは好きかね?」と聞いているので多分パスタ。

ペットのネズミにご飯を分ける囚人と、長い麺を大口あけて啜るホモの「これからお前を犯る」のサイン…アメリカの刑務所ものあるあるが濃縮されたような印象的なシーン。

 

◆「いとこのビニー」、南部のコーングリッツ

ニューヨークから南部にやって来たポンコツイタリア系弁護士がモーテルのダイナーでいただく朝ごはん。

メニューが「朝食 昼食 夕食」とアバウトすぎる(笑)。目玉焼きとベーコンをとんでもない量のラードで焼くのにもびっくり。

ところがここで初めて口にした”グリッツ”が弁護の行末を変える突破口に。

アメリカって地域によって食文化も何もかも違うのかな…そのカルチャーギャップに驚くシーン。 

 

 

◆「脱出」、束の間のあたたかい食卓

田舎で楽しむレジャー休暇が一転して地獄のサバイバルに…

どえらい目にあって帰還した主人公たちを迎える地元の人たちの食卓。

心温かく迎え入れられ、ほんのいっとき全てが洗い落とされたような気持ちになります。

 

最後にグロ系ホラーを3つ。
↓↓↓ 

◆「ビヨンド・ザ・ダークネス/嗜肉の愛」、解体直後に食事する強者メイド

死体を愛する坊っちゃまと彼に付き従う年上のメイド。

死体をバラバラに解体して溶かした直後、着ていたエプロンもそのままに煮物を豪快にかき食らうメイドのおばちゃんが強烈(笑)。

メイドを見てオゲーッとリバースする坊ちゃん、それをニタニタ笑ってみるメイド…一体なんのプレイやねん、と困惑するもなぜか記憶に残る名(迷)シーン。  

 

◆「スクワーム」のスパゲッティ

子供の頃、レンタルビデオ店でグロいジャケ写を発見。「これ観ながらカップラーメン食べれるかやってみようや!」などと言いながら友達とはしゃいでいた記憶…(結局そのときは観なかった…)

凶暴化したゴカイが大量発生し異常を訴えるも、仕事をしない保安官はデートでミートスパゲッティを食べてる最中。

否が応でもミミズを連想させて何とも嫌らしい(笑)。

食欲をなくすような映画なのに飯関連のシーンが印象に残る1本であります。

 

◆「食人族」、食人族の飯を口にする教授

ジャコウネズミを切り裂くシーン、生きた亀をそのまま解体するシーン…目を背けたくなるような残酷なシーンが多いですが、自分が毎日食べている肉魚も命をいただいているものなのだと改めて実感させられます。

現地の調査にやって来た教授は地元の人たちから差し出された人肉を拒まず口に入れる…

違う文化の人たちを見下さず郷にいては郷に従えを実践した教授と蛮行に走った学生たちの対比…

ゲテモノ映画のようでいて、道徳の授業のような大切なことを教えてくれる作品。

 

◇◇◇

食事シーンのある映画、思い起こすとたくさんあって印象に残る場面が多い気がします。

食欲をそそられるもの、人間ドラマを感じさせるもの…それぞれ味わい深いです☆彡

 

映画「ゴールデンカムイ」…素晴らしい出来だったけど野間の勇姿がもっと見たかったッ…!!

地雷に違いないと思っていたら、かなり評判がいいらしいので観に行ってきました。

隠されたアイヌの莫大な金塊の行方を追って、善玉悪玉混じっての三つ巴バトル…

原作は読んでいて、漫画の第1巻を読んだときは「続夕陽のガンマンみたいなのが始まった…!!」と頭から一気に引き込まれた作品でした。

二瓶鉄造のエピソードあたりで終わりかなと予想していたら3巻入ってすぐのところで終了、かなり序盤までの内容になっていました。

でもテンポはいいし、話が綺麗にまとまっていて、原作未読の人にも取っ付きやすそう。

金カム序盤からめちゃくちゃ濃かったよなあと思い出されて、全く退屈しない128分になっていました。

 

脚色もキャストの再現度も素晴らしく大満足だったのですが、1つだけ不満が…

杉元と第七師団(玉井伍長、岡田、野間の3人)が邂逅する場面…野間の勇姿が大幅にカットされていて、うおおー惜しい!!あそこ完璧に再現して欲しかった…!!と思ってしまいました。

この第七師団の3人、登場シーンはごく僅かなものの、強烈なインパクトを読者に与えるキャラクターでありました。

杉元の飛び込んだ穴倉がヒグマの巣穴だと知らず発砲してしまい、凶暴なヒグマの強襲を受ける3人。

死を前にしても全く怯まず立ち向かっていく常軌を逸した胆力…!!これが地獄のような戦場を生き抜いたものたちなのか…

第七師団がいかに強敵か、いかにネジのぶっ飛んだ奴らの集まりであるかが伝わって来る。

敵だろうが悪人だろうが全力で生きる姿をみせる人間には魅せられてしまう、フリードキン映画のような人物描写…この作品の魅力がギュギュっと濃縮されたような、序盤の名場面だったのではないかと思います。

 

雪山で谷垣と玉井伍長たち4人が登場した瞬間、原作から抜け出てきたような完璧な佇まいにはそっくりー!!とテンション爆上がり。

玉井伍長役の山内圭哉さん、「獣になれない私たち」でパワハラ上司を演じていた人だと後で知りましたが、あまりにも別人でびっくり。

スキーも見事に滑ってくれて、玉井伍長の「もういい、撃とう撃とう」の台詞の自然さにこんな言い方だったのかと感動(笑)。

顔面が引き剥がされるところも再現されていて素晴らしかったのですが、続く野間の勇姿…

穏やかにヒグマに話しかけながら狙いすました1発を頭部に撃つも脳が小さくて命中せず咬まれてしまう…しかしそれでも「かかって来いッ!」と笑いながらヒグマと対決する姿が最高に煌めいていて格好よかったのですが、この大事な場面が大幅にカット。

「爺さんに昔教わった…」の台詞だけは残されていて、「杉元視点」の穴倉からのアングルは映画ならでは。

ホラー的な見せ方はむしろ面白かったですし、グロシーンを考慮したり、シーン全体をみて短くした方が引き締まって良いという判断になったのかもしれず、カットされていても悪いようにはなっていなかったとは思います。

でも役者さんたちが素晴らしかっただけに「落ち着けよ熊公」がみてみたかった…別アングル視点の映像や未公開シーンなどがあればどうにかBlu-ray特典でもいいから是非…という思いが残りました。

 

全体としては素晴らしい出来。

山﨑賢人の杉元は序盤ちょっと堅い感じがして、杉元はもっと柔らかいイメージ。戦闘のときと普段の様子にもっと激しいギャップがあるイメージだと思いましたが、アシリパさんや白石と絡むと段々良い感じに。

アシリパさんは顔芸の再現が本当に素晴らしかった。

白石は原作より三枚目な印象かと思いきや、漫画にはなかったアクションシーンの立ち回りの動きの表現なども完全に白石。

皆原作から抜け出てきたような人ばかり。クライマックスのアクションでは原作にはない対戦カードが拝めて、これはむしろファンサービスだと楽しませてもらいました。

 

予告が出た時にもネットで言われていたようですが、全体的に衣装が綺麗すぎるというのはあって、マカロニウエスタンのように臭ってきそうな位汚い方がよかったかも(笑)。

エンドロールのテロップで「この作品は動物を傷つけていません」みたいなのが出てきて姉畑支遁の顔が頭をよぎってしまいましたが(笑)、グロ描写は控えめにしつつご飯のシーンも概ね再現、トリオ結成で終わるところもとても良かったです。

 

自分は知らずに観に行ったのですが、大ヒット御礼の入場者特典が配られていて、原作者描き下ろしのイラストカードがいただけました。

↑厚手のしっかりした紙に両面印刷…!!

この特典配布があったからなのか、劇場は大きなスクリーンが満席に近い状態で、幅広い客層の人が来ていました。

漫画にしろ小説にしろ、原作の実写化って違う部分を挙げてはついつい批判してしまいたくなることが多く、自分も「野間がー」とどうしても言いたくなってしまったけれど(笑)、予想に反して原作リスペクトな素晴らしい出来栄え。

続きも絶対に観たいと思わせてくれるクオリティの作品でした。

 

刑事マルティン・ベック「煙に消えた男」…スウェーデン至高の警察小説第2作目

前作「ロセアンナ」に引き続き、「刑事マルティン・ベック」シリーズの第2作目を読んでみました。

猟奇殺人系の怖さが漂っていた前作と比べると、今作はより渋い印象。

冷戦時代、東側諸国であったハンガリーを主人公が訪れるストーリー…というと取っ付きにくそうな感じがしますが、政治色はなく、単純にサスペンスとしてしっかり楽しめる内容になっていました。

地味だけど、苦々しい人間ドラマ成分が濃いめ。今作もとても面白かったです。

 

◇◇◇

夏休みを取得して家族と出掛けたマルティン・ベックでしたが、休みの初日に職場から電話が…

やめときゃいいのに職業病で現場に急行してしまうベック。

ブダペストで消息を絶ったスウェーデン人ジャーナリスト・マッツソンの行方を追って欲しいと、外務省から直々に命令されます。

マッツソンは仕事が早いと評判の記者でしたが、酒を飲むと粗暴になり過去にトラブルを起こしている人物でもありました。

鉄のカーテンの向こう側」で記者が行方不明になると国際問題になりかねない…ベックは秘密裏にハンガリーへ飛び立つことに。

マッツソンの足取りを辿って地道に聞き込みを続けるも、前作同様なかなか手掛かりが掴めないベック。

名探偵ポワロ刑事コロンボとは違って、特に秀でた推理の才能があるわけではない、どこまでも〝普通の人〟な主人公が何ともリアルでジリジリさせられます。

 

ベックは相棒コルベリが本国で聞きつけた情報をヒントに、マッツソンと交流があったと思しき元水泳選手・アリという女性の下を訪れます。

「マッツソンのことは全く知らない」と語るもこの女性、なんか怪しい…ベックのいるホテルにまで押しかけて突然服を脱いで迫ってきますが、それを退けるベック。

原作者の主人公イメージは〝若い頃のヘンリー・フォンダ〟らしいですが、映画版を先に見た自分はメタボ体型のお爺ちゃんで脳内再生されて、何だかいけないものを見てしまった気分に(笑)。

 

その後何者かに尾行されていることに気付いたベックは突然男2人から襲撃されます。

ハンガリー警察の援護のおかげで難を逃れたベックでしたが、女性アリと襲撃犯はグルで麻薬密売チームだったことが発覚。

なんとマッツソンもチームの一員で、取材で東欧諸国を訪れるのを隠れ蓑に、アリたちが売る麻薬を購入してはスウェーデン闇市で高値で売り捌いてボロ儲けしていたのでした。

「東欧には何もないと思われてるから出国時に荷物検査もない」…この辺りこの時代のヨーロッパの闇??を映しているようであります。

 

しかし結局麻薬チームはマッツソンの失踪には関与していないと判明、手ぶらでスウェーデンに帰国するベック。

ブダペストでマッツソンを目撃したという人たちが語る服装の情報は皆一致していましたが、同じ一式セットがトランクの中に残されたままだったことにベックは違和感を覚えます。

「もしかしたら誰かがマッツソンの振りをしていたのかもしれない」…ベックたちはマッツソンの過去のトラブルや酒場仲間の情報を洗い出します。

 

(ここからネタバレ)

動機は本当に些細なこと…大掛かりな陰謀など何もなくこんな些細なことだったのか…と溜息がでるようなオチ。

ベックたち警察の日常を描いた小説の冒頭では「飲んだくれが下らない喧嘩で起こした事件」が取り上げられていました。

ドイツ人を母に持つ男性がナチ野郎と揶揄われて腹が立って相手を殴って殺してしまった…ある意味どこにでもありそうな下らない揉め事…

メインの事件の真相もこれとほぼ同じ、原因は本当に何でもない下らないことだったという…

被害者であるはずのマッツソン、本当に碌でもない奴で、どっちにしろ方々で恨み買ってていつか誰かに殺されてたんじゃないかと思うようなクズ男です。

ある意味犯人は運悪くババ引いたという感じもしますが、突発的に殺すまでやってしまうのはやっぱり同情できない…できないけどほんの一瞬の衝動的怒りで人生が台無しになってしまうの、本当に何でもないだけに恐ろしいなーとなるオチでありました。    

 

こういうサスペンス系の作品に出てくるジャーナリストといえば「ドラゴンタトゥーの女」然り権力者と戦うヒーロー的存在として描かれることが多いように思いますが、本作に登場するジャーナリストは見事にクズばっかり(笑)。

酒と女にだらしなく上から目線で横柄、徹底的に嫌な奴として描写されているのが新鮮で面白かったです。

麻薬密売が発覚したあたりからもうマッツソンが救いのないクズ野郎だったことが分かって、「こんな奴死んでも自業自得」「真相を暴いても誰も幸せにならない」と複雑な気持ちを抱くベックやコルベリたち…けれど仕事人としては解決を逃すことは到底許されず、刑事の仕事の心労の多さに改めてズーンとした気持ちに。

最後の犯人との対決シーン、静かなのに息が詰まるような緊迫感で、刑事2人の阿吽の呼吸に圧倒されました。

 

主人公が古都ブダペストを訪れる場面は観光地や食事の描写がとても丁寧で、読んでいるだけで美しい景色が迫ってくるよう。

ベックのピンチを救ってくれるハンガリーの協力者・スルカ少佐のキャラクターも魅力的でした。

無愛想な男かと思いきや地元の名物料理をやたら推してきて飯の雑談を始めるところ、大浴場でおっさん2人があたたまるところなど、ユーモラスな場面もいい具合に挟まっていました。

 

ベックがドナウ川を行く蒸気船に乗る場面。

美しい船だと心動かされるも、機関室で石炭をくべる火夫が汗だくなのをみて複雑な気持ちになるベック。

美しいもの、良いもの、平穏で豊かな生活…それらは知らない誰かの泥を啜るような労力でまわってるものなのかもしれない…

ささやかな場面のささやかな描写が、胸に残りました。

 

旧訳版タイトルは「蒸発した男」だったようですが、読み終えると「煙に消えた男」のタイトルが二重の意味になっていることに気付き、センスに脱帽…!!

地味だけど2作目も自分はとっても面白かった。

続きのシリーズも、少しずつ読んでいきたいと思います。

 

「キルボット」…殺人ロボとショッピングモールで地獄の決斗!!80年代ゴキゲンB級映画

今期のホラー・マニアックスシリーズ、知らないタイトルが沢山なのですが、ジャケ写が1番気になったのがこちら。

ショートサーキットみたいなロボットがショッピングモールで人を殺しまくるホラーっぽいのですが…(原題:Chopping Mall)

 

77分の作品で驚きのテンポの良さ。

80年代らしい能天気さ、「ゾンビ」よろしくな夜のショッピングモールを爆走する非日常感、散りばめられた映画の小ネタ…とにかく楽しいゴキゲンB級映画でした。

◇◇◇

大型ショッピングモールに配備された3台の最新型警備ロボット。

社員証で侵入者か否かを判断、悪者は麻酔弾やレーザービームで撃退する…というまるでロボコップな代物。

ところが導入早々、突然の落雷で制御不能の殺人ロボと化してしまいます。

そんなアクシデントは露知らず、モールで働く8人の男女が金曜の夜にパーティーを開いて遊んでいました。

肉欲一直線の体育会系カップルに、新婚旅行の代わりに家具店でイチャイチャすることに決めた謎に堅実な車の整備士カップル。

ラブラブな幹事役カップルの女性はバーバラ・クランプトンが演じていますが、皆よりちょっとお姉様な色気。

そしてパーティーの数合わせ的に呼ばれたのが、陰キャ男のファーディとドジっ子ウェイトレスのアリスン。

家具店を自宅のようにしてベッドでやりたい放題。

こんな店利用したくねえ(笑)と思いつつ、オタクオーラを放つ主人公カップルだけプラトニック。

SF映画をみてソファで身を寄せ合う姿が微笑ましく、なんだか応援したくなってしまいます。

 

しかしそんな中突然殺人ロボットが襲来…!!

最初に殺されるのは全く関係ない清掃のおじさんですが、突然の感電死が漫画みたいで笑ってしまいます。

その後に殺されるのは案の定体育会系バカップルですが、ロボが近付くと「クラトゥ・バラダ・ニクト」と唱える男。脳筋野郎と思ったらお前もオタクやったんかい!!

異変を知った残り6人は「銃を集めろ、ペキンパーの店に行くぞ!!」と武装し反撃。

女性陣は「エイリアン2」のように通風孔から脱出するのかと思いきや断念。ひたすら銃と火薬で立ち向かっていきます。

 

思ったよりロボットの殺人シーンはあっさりめでスプラッタを期待すると肩透かしかもしれません。

伸びるアームで首を切ったりするも、主な攻撃はビーム。

カスっても焦げ付かないのに、いきなり女性の脳天が吹き飛ばされるのはびっくり。ナイスショットすぎる(笑)。

炎に包まれるバーバラ・クランプトンは1番うざい役回りでしたが、良い叫びっぷりでした。

仲間が1人ずつ減っていく中、無情なロボの追跡にヒロインが反撃するカタルシス

死亡したかと思われた陰キャ男がゾンビのように蘇り、2人抱擁するボーイミーツガール的な幕引きになぜか心が温まりました。

 

主演は「悪魔のサバイバル」「ナイト・オブ・ザ・コメット」のケリー・マロニー。可憐な美人タイプというよりは個性的な美人ですが、なぜかとっても魅力的。

製作総指揮がロジャー・コーマンだからなのか、ポール・バーテル&メアリー・ウォロノフがちょい役で出演。

その他にもこの手のジャンルでみかける名脇役がチラホラ出演。

逃げ隠れするペットショップの名前がロジャーのリトルショップだったり、レストラン内に貼ってあるポスターや読んでいる本など、知る人ぞ知る小ネタが沢山散りばめられているようでした。

 

予想と違ってロボの殺人描写、SF的世界観はかなり薄味。

それよりも人間のキャラクターが生き生きしていて思いの外魅力的でした。

解説を読むと撮影したモールは「コマンドー」と同じ場所だそうで、そういえばエレベーターまわりの景色が似ていたかも。

「ゾンビ」のモールほどの重厚感はなくて作品もずっとチープだけど、活気と夢に溢れた80年代らしい雰囲気がゴキゲン♫

めっちゃ笑って楽しく観ました。

 

「バベットの晩餐会」を午前十時の映画祭で観てきました

普段ホラー系が好きな自分がなぜか好きだった作品。

リバイバル上映ばっかり観てる気がしますが、映画館で初鑑賞してきました。

人生のとても厳しい部分を描いているはずなのに、観終わったあとには晴れやかな気持ちになる不思議な魅力。

晩餐会のシーン、食事は楽しまないと言っていた爺さん婆さんがたちが美味しそうに食べまくるところでは笑いが起きていて、自分も大いに笑って泣きながら観てきました。

 

◇◇◇

19世紀後半、デンマークの小さな村ユトランド

牧師の父親の下で清貧な暮らしを送るマーティーネーとフィリパの姉妹が住んでいました。

求婚者と結ばれることもなく、持っていた才を仕事に活かすこともなく、献身的に村人たちに尽くす日々を送る姉妹。

しかし父の死後、村の高齢化が進み、自分たちも歳をとって日々の生活は厳しさを増すばかり…

そんな中ある日フランスからバベットという女性が命からがら亡命してきました。

姉妹はバベットを家政婦として受け入れることに。

14年後、バベットは姉妹の亡き父親の生誕祭を祝う晩餐会の食事を担当させて欲しいと願い出ますが…

 

一見海辺の自然が美しい村が舞台にみえるけど、実際は爺さん婆さんばっかりの閉鎖的な限界集落…中々しんどい話であります。

「あんたと浮気しなきゃよかった」「あのとき意地悪されたのまだ恨んでるからね」…過去の出来事を掘り返しては言い争う村民たち。

信仰心はどうしたのよ、と言いたくなりますが、みんな歳をとると気が短くなってくる。身体が弱ると心も弱ってくる。

かつて村に滞在し姉のマーチィーネーにぞっこんだった士官ローレンスは、結局立身出世に邁進する道を選び一角の人物になりましたが、人生に虚しさを覚えているようでした。

どんな人生を送っていても、年を経た時にふと選ばなかった方の人生が心に思い浮かんでしまう…多くの人が幾ばくか胸にしまい込んでいるものなのかも、と思いました。

 

姉妹にももっといい人生があったんじゃないだろうか…愛する人と結ばれた人生、歌手としての才を花開かせた煌びやかな人生…父親の価値観に殉じてそれが本当の幸せだったのだろうか…

そんな疑念も湧いてきて、やはり結構哀しい話でもあるな、と思いました。

自己犠牲と献身って紙一重というかなんというか、自分が望んでやったことならばと言うものの、人間そんなにキッパリ割り切れるときばかりじゃないよなあと思ったりもします。

でもこの作品には救いが用意されていて、バベットの素晴らしい料理がそんな迷いを一気に晴らしていく。

幸福な食事のひとときが魔法のように人生の良い思い出だけを蘇らせる。

食事ってほんとに大事なんだなあ、文化も宗派の壁も超えて人の心を動かす芸術の力、晩餐会のシーンにはひたすら圧倒されてしまいます。

 

「選択肢があると思うのは愚かで結局今ある人生に感謝するしかない」…将軍のスピーチの言葉は如何にも”神の思し召し”という感じで宗教的なのですが、変えられない過去をどうこう考えても仕方ない、叶わないこともあったけどいい思い出もあったさ…!!と開き直る姿が清々しいです。

老姉妹の人生は多くの人に賞賛される華やかなものでは決してなかったけれど、村で姉妹に助けられた人たちは確かに沢山いて、バベットもまさしくその1人でした。

自分が大切に思う人たちを幸福にすることができたならそれは何物にも代え難い、とても尊いことなのかもしれません。

 

将軍に再会したときに姉が向ける熱のこもった視線。

最後に妹がバベットがパリに戻る道を選ばなかったことを知って向ける少し悲しげな視線。

姉妹も口には出さなかったけれど、「違う人生」を思い浮かべる瞬間があったのではないかと思いました。

妹の方はパパンの熱烈な求愛に迷惑しているようにもみえたけど(笑)、歌の道に本当は興味があった…でもお父さんとお姉ちゃんのことを気遣って村に残ることにした…

当てた宝くじでパリに戻って「人生をやり直すこと」だって出来たのにそれを選ばなかったバベットに、芸術への道をあきらめたかつての自分の姿を重ねた妹。

神の救いの言葉を述べつつも、その抱擁には哀しみもこもっているようで切ない…人の持つ献身の精神の美しさに心打たれつつも、一抹の切なさは残りました。

夫と子供を殺され料理の腕を振るう機会も全て奪われたバベットの境遇は最も過酷に思われますが、それでも見知らぬ土地で生きることを選んだ。そして宝くじで最高の料理をつくってやるぞ!!と潔く決断した。

仕事をやり終えたあとにみせる一瞬の表情の格好よさ。

一世一代の恩返し、損得勘定など遥か超えて自分が納得できる最高の仕事ができたときの充足感。この刹那的な美しさにカタルシスを感じます。

 

「知らんもん食わされて怖いけどスルーしよう」と一致団結していた爺さん婆さんたちが、いざ料理が出てきたらめっちゃ食べて飲む姿には笑ってしまう。

物凄く食欲をそそられるけど、ちょっとグロいフランス料理の見た目も面白く、謎の生命力を感じます。

満天の星空の下で手を繋ぐ老人たちの愛らしさに心が洗われる…

穏やかな笑い声に包まれた劇場で観れて、至福のひとときでした。