今期のホラーマニアックスシリーズ、知らない作品が多いのですが、2月に買った「キルボット」が大当たり。
もう1つジャケ写がすごーく気になってしまったのがあって…
少年が首チョンパしてる刺激的すぎるジャケット。
監督はイタリア出身のロマノ・スカヴォリーニ。
特殊効果はトム・サヴィーニが関わったとか関わってないとか一悶着あった作品のようで…
冒頭からのショックシーンが壮絶ですが、全体的にはじっとりしたムード。
監督がイタリア人だからなのか撮る画がいちいち面白く、ロケーションがとても魅力的。
陰鬱家族ドラマ、サイコパス少年ものの要素が強く、静かな病みまくりムードが堪りませんでした。
◇◇◇
深夜ジョージが目を覚ますとベッドは血の海。赤く染まる足元には女の生首が転がる。
彼は幼少期に両親の痴態を目撃し、衝動的に2人を斧で切り殺して以来、毎夜悪夢に取り憑かれ、いつしか再び殺人妄想に取り憑かれていく…
冒頭からクライマックス…!!
ゴッドファーザーの馬の首みたいやな…と思いつつ、生首の出来栄えといい、ギョッとするシーンで一気に人を惹きつけようとする80年代らしい大盤振る舞い。
SMプレイに耽るパパとママをいきなり惨殺したジョージくん…らしいのですが、自分は解説みるまでは父親が娼婦と遊んでいたのだとばかり思っていました。
台詞も説明も一切なく進んでいくクールなスタイル。(でもちょっぴり分かりにくい)
身につけている蝶ネクタイが醸し出す謎の坊ちゃんオーラ。
日頃は厳しく躾けられていて、自分が崇拝していた厳格な両親の醜態を目にして変な性癖に目覚めてしまったのでしょうか…そこはかとない闇を感じさせるジョージくん。
長らく精神病棟に入院し実験的治療を受けていましたが、ある日突然脱走。
主治医は「投薬が上手く行ってるのでヨシ!」と放ったらかしに…医者のおっさんが1番おっかない(笑)。
病院を出た大人ジョージがほっつき歩く80年代ニューヨークの景色の賑やかなこと。
ポルノショップや映画館が軒を連ねるストリート。
覗き小屋を訪れるジョージですが、シャッター付きブースで囲われた円形の部屋でダンスするストリッパー…何の映画か一瞬忘れる位この景色が凄かった(笑)。
ガラの悪い風俗街の雰囲気は「バスケットケース」にも似ているかも…汚いけれど活気に満ちています。
その後ジョージは何かに駆られるようにフロリダへ向かい、とある家族を遠くから監視しはじめます。
その一家はシングルマザーが3人の子供を育てている家庭で、お母さんは悪戯好きの末息子・CJに手を焼いていました。
殺人鬼を装ってベビーシッターを襲ったり、刺されたふりをして血まみれ姿になり家族を心配させたり…度を越した悪戯にお母さんは辟易。
CJは本当に救いようのない悪い子供なのか…それともお母さんの気を引こうとしているだけで、本当は愛に飢えているのか…
子供放ったらかしで、毛むくじゃらの男とイチャイチャしてるオカンもなかなかヒステリックで、少年の孤独感みたいなものも同時に胸に迫って来ます。
ロケ地の住居も大変いい雰囲気。
部屋数は多そうな大きな家なのに、手狭な感じがして、日本家屋にも似ていて親近感。
散らかっているけどお母さんの部屋だけボタニカル柄で綺麗に統一。でもこれが絶妙に古臭くて…画面から漂う生活感に惹かれました。
ジョージが道すがら惨殺した女性と少年の死体が発見されると、少年の友達だったCJがやったのでは…と疑いの目が向けられてしまいます。
不審者・ジョージの接近に唯一気付いたものの、狼少年と化したCJのことを誰も信じてくれません。
孤立し危うさを漂わせた少年と、成長した大人殺人鬼・ジョージと…2人の姿がオーバーラップしていくのが何だか文学的。
家族とは理解しあえない存在…そんな寂寞感が全編漂っています。
(ここからネタバレ)
ある日お母さんは恋人とパーティーにお出かけ。
再びベビーシッターが子供たちの面倒を見ることになりますが、やって来た恋人とイチャイチャしはじめる子守のお姉さん。
皆子供より自分の肉欲が優先…!!
そこへジョージがやって来て、シッターカップルを惨殺。
目撃者となったCJにも襲いかかります。
しかし自宅に隠されていた拳銃を取り出し見事に殺人鬼を銃撃するCJ。
何度でも立ち上がってくるジョージが理不尽すぎてまるで悪夢…
タイトルが「ナイトメア」だし、大人ジョージはCJの妄想(=願望)だったとかそんなオチになるのかしら…と思ったら、しっかり現実路線で最後にとんでもないどんでん返しが…
警察がやって来て死んだ犯人・ジョージの顔を母親が一瞥すると「夫だわ!」と叫びます。
なんとCJとジョージは血の繋がった親子だったというオチ。
廻り続ける親殺しの宿命…CJが悪い子だったのはお父さんも異常だったからなんだ…「血は争えない」的バッドエンドがストレートに重たくのしかかりました。
最後のCJの笑顔が取ってつけたようなのと、日にちでチャプター分けしてる演出に必然性を感じなかったのと…色々粗も感じましたが、何パターンもエンディングを考えてたとは思えない位、綺麗なオチに思えました。
台詞がほとんどないのに圧倒的存在感。大人ジョージの俳優さんがハマり役で病みオーラが半端なかったです。
画質はイマイチなもののBlu-rayは特典が充実。トム・サヴィーニのインタビューも収録されていて噂の真相が明らかに…
制作陣が思い思いに昔を振り返るトークも面白く、低予算ゆえありものを総動員させたような、この年代のホラー製作の裏話が楽しかったです。
ジャケ写のイメージより自分的には大人しめの作品でしたが、陰鬱家族ドラマ、断ち切れないバッドエンドループ、怖い子供…と王道ホラー盛り盛りな内容。
80年代ホラーの雰囲気でありつつ、あまりアメリカ映画っぽくない独特の空気が漂っていて、とても好みの作品でありました。