今だと絶対つくれないであろう、モラルもへったくれもないトンデモ設定のカルトSF。
低予算の超B級もいいとこなのですが、1周まわってイカしてみえるというミラクルな1本。
ときは西暦2000年。
大衆は大陸横断レースに熱狂していたが、なんとそのレースは走行中に人を轢き殺すことで、ポイントを加算していく死のレースだった…。
大丈夫か、この設定…。
しかも女性、子供、老人はポイントが加算されるという超鬼畜ルール。
アメリカ連邦なるものが世界を統治しているディストピアな未来設定で、まるで教祖様な大統領はどこまでも胡散臭く、レース実況をするテレビアナウンサーたちも狂ったようなハイテンションです。
そして肝心のレースはスーパーカーが登場してすごいアクションを繰り広げるのかと思いきや…
デデーン!!
なんだこの田舎のヤンキーが頑張って改造したみたいな出来栄えは!?
しかしこれがダサいようで1周回ってカッコよくみえてくる…!!
競い合うチームは全5組、車も乗り手も皆それぞれキャラが立っていて…
カウガール、カラミティ・ジェーンの乗る牡牛号は牛を形どっていて、尖ったツノが威嚇的!!
ローマ時代のコスプレ野郎、暴君ネロが乗るライオン号は金ピカっぽく派手め。
ナチス娘のマチルダが乗る誘導爆弾号は、まさに爆弾詰んだミサイルのかたち…色々怒られそうなヤツ。
そして注目株・マシンガン・ジョーを演じるのはなんと「ロッキー」前夜、若き日のスタローン。
車は突き刺すナイフに両サイドは銃というアホみたいなデザインがカッコいい!!
しかしこのスタローンはなんとライバル役で、主人公はフランケンという過去レースで優勝しまくりの伝説のドライバー。
その名の通り、身体はレース中の事故によりつぎはぎだらけになっていて、顔半分を失ったらしいのですが… マスクをとると…
デデーン!!
こういうアニメ的キャラはマスクとったらイケメンっていうのが定石じゃないんでしょうか…しかしこのビミョーな感じがまたたまらん。
フランケンの相棒として同乗するのはアニーで女性陣は可愛い子多め。
レース休憩地点では皆で全裸マッサージを受けるという謎のエロサービスシーンがありますが、忘れられないのは、フランケンとアニーが2人部屋でダンスするシーン。
黒パンツ一丁のフランケン、キャラダインのちょっとたるんだビミョーな身体つき、未来感ゼロのただの広い部屋…と別に笑わせに来てるシーンじゃないはずなんですが、爆笑してしまいます。
果たして5組の誰が優勝するのか…というのが大筋ですが、レースシーンは意外にも迫力たっぷり。
早回しで見せているだけのところも多いですが、時折コミカルなプログレっぽい音楽もキマッていて疾走感があります。
轢き殺すシーンはちょっとスプラッタだけど、そんなに気持ち悪くないし、どこまでもゆるーい感じ。
そもそもこのレースの日に外出する人がいるのか、という疑問が湧いてきますが、この面々も非常に工夫されていて、飽きさせません。命知らずのバカはどこにでもいるんですねー。
そして安楽死デー、なんて不謹慎なんだ!!
さらにはこのデスレースに反対するレジスタンス勢もあらわれて、撹乱していくのがまた面白いです。
低予算映画だから背景の群集が紙芝居みたいな絵に切り替わったりするビックリなシーンがあるし、ひたすらアメリカの田舎道ばかりというロケーション…
それでも各キャラクターの狂った感じからディストピアの雰囲気はしっかり伝わってきて、この辺のセンスは「未来世紀ブラジル」にも負けてないかも!?めちゃくちゃなのにSFらしさがちゃんと成立しているのがスゴイです。
以下、ネタバレ全開でオチまで語ってしまうと…
なんと主人公・フランケンは実はその中身がこれまで何度も入れ替わっている、政府が用意したマスコットキャラのような存在でした。(闇が深い!)
しかしこの何代目か分からない今年のフランケン、レジスタンスと似た志をもっていたのか、反逆精神をもって最後に大統領を殺してしまう。
大衆の絶大な支持を得たフランケンが次の大統領になるも、今後デスレースは一切禁止するという。
「しかし閣下の人気は暴力が築いたものでは?」
「競争と殺戮はアメリカの文化だぞ。暴力のどこが悪い?」
どうした!?急に真面目か!!とツッコミたくなるメタ的社会派メッセージにポカーン。
民主化を進めるはずの次のトップもまた異端者を暴力で排除するという皮肉なエンディングを迎えます。
この「デスレース2000」は1975年の作品なのですが、時期的にはベトナム戦争終結の年。
アメリカは暴力で力を得てきた国、テレビメディアの圧倒的力…そういうものをシニカルな目線で描いた意外に社会派な作品なのかもしれません。
エンドロールには「暴力と人間」いう哲学思想みたいなのが流れてくるんですが、全体的になんか雑…もっと丁寧につくるか、とことんアホなまま終わるかどっちかにしてくれ、とラストは賛否が分かれそうですが、勢いだけで強引に終わる感じ、自分は嫌いじゃないです。
プロデューサーはB級映画の帝王と呼ばれるロジャー・コーマン。
監督は光るカルト映画をたまに撮っているポール・バーテル。
フランケン役はその生涯で200本の映画に出演したといわれるB級映画界の重鎮!?デヴィッド・キャラダインですが、自分は再放送でみた「燃えよ!カンフー」のケインが大好きで、キャラダイン映画を追いかけて観たのがこのデスレースでした。
「燃えよ、カンフー!」も「デスレース2000年」も今だとあちこちから怒られて絶対に撮れない作品じゃないかなあ。
自由すぎる70年代の空気感に酔える、不思議な魅力の1本です。