「X エックス」「Pearl パール」に続く3部作の完結編「MaXXXine マキシーン」を早速劇場で観てきました。
「パール」がとにかく凄かったのであまりハードルを上げすぎないようにしよう…でもポスタービジュアルがカッコよくて80年代スラッシャー映画のノリで盛大にかましてくれるのかな…と期待したら思ったより大人しめ。
前2作のようなエログロに乏しく、思てたんと違う…
キャストはいいのに、マキシーン以外のキャラクターが魅力に欠けていて残念。
映画内映画の構成が凝っているけど色々頭で考えてみてしまって没入して楽しめる感じではなかったなーと思いつつ、あの時代の空気感と思わぬラストの方向性!?は個人的には好みでした。
B級映画賛歌を感じつつも、相変わらずテクニックや作家性を強く感じる作品になっていました。
(以下ネタバレあり)
1985年。世は空前のビデオバブル。惨劇を生き延びたマキシーンはポルノ界のスターに…
映画業界でさらなる躍進を狙うものの、ポルノ出身者は普通の映画からは爪弾きにされてしまう厳しい現実に直面していました。
そんな中ある日大ヒットホラー「ピューリタン2」のオーディションのチャンスが…迫真の演技をみせたマキシーンは女性監督エリザベス・ベンダーの目に止まり見事役を勝ち取ります。
一方世間では〝ナイトストーカー〟と呼ばれる謎の殺人鬼が騒ぎになっており、五芒星を刻まれた女性の無惨な死体が発見されていました。
「大物の集まるパーティーに行く」と話していたマキシーンの女優仲間たちも死体で発見。
やがてマキシーンの下にも奇妙な脅迫が届きますが…
前作とは打って変わって80年代のアメリカの都会の景色。
風俗店などが立ち並ぶストリートは小汚いけれど活気に満ちていて、マキシーンの住むアパートの1階はなんとビデオショップ。
「ホラー映画からスターになった人を5人あげて」
「ジェイミー・リー・カーティス、ジョン・トラボルタ、ブルック・シールズ、デミ・ムーア…」
映画好き店長と交わされる会話が楽しかったです。
マキシーンが出演することになった「ピューリタン2」の1作目には熱心なファンがついているとのこと。ラストが壮絶な止め絵になってエンドロールが流れてくるところなど如何にもこの時代のB級ホラーっぽい(笑)。
「人々の記憶に残るのは〝愛と哀しみの果て〟よりこっちの方」…結局アカデミー賞とか権威的なものより長く人々に愛されるかどうかが作品の価値なのでは…監督の映画への熱い想いや反骨精神を節々に感じました。
一方スタジオ近くでは「ホラー映画は害悪」とデモ行進する人たちの姿が…現実の殺人事件と絡めて悪影響を訴える人たちがいたのもこの時代の空気感を捉えたもののようです。
でもホラーやエロが悪いという主張はずっとあるあるで、声高に正しさを訴える人が自由を抑圧していく景色は今でも馴染み深いものに思えてしまいました。
そんな中、逆境に立ち向かう女性監督・ベンダーが登場。
ポルノ出身のマキシーンを雇うことに業界内で反発があったものの、監督の鶴の一声でキャスティングされることに…
エリザベス・デビッキはその佇まいといいファッションといいめちゃくちゃカッコよかったのですが、〝怖い監督〟と言われている割に普通の人でもっとクセの強いキャラがみたかったかも…
「サイコ」のモーテルやノーマン・ベイツの家が登場するところは、マキシーンと共にツアーに参加している気分になりました。
ある日から不審な男に後を付けられるようになったマキシーン。自宅には脅迫状めいたものが届きます。
「テキサスの惨劇に関わっていたのをバラすぞ」…あの事件は一応正当防衛で責められる所以はないのでは…と思ったけど、スター街道まっしぐらのときにスキャンダルは大きな痛手。
また仲間を失って自分だけ生き残った罪悪感や、老婆に出会ったときの恐怖や殺した感触など、蘇ったトラウマがマキシーンに襲いかかります。
特殊メイクの型取りをするのに顔を塞がれるのにドキドキ、今回このシーンが1番好きだったかも(笑)。
個人的にマキシーンはパールと同じくらい突き抜けた変な人だと思っていたので、意外に普通の人だったことに驚き。
…かと思いきや、突然怒涛の暴力性を発揮する場面もあって、マキシーンのキャラがどっちつかずというか、掴み辛くなってるように感じました。
バスター・キートン仮装の男に「しゃぶれ」と銃を突き出し股間をデストロイ…!!
脅迫男の雇われ探偵・ケヴィン・ベーコンを即席メリケンサックで殴り、車ごとコンプレッサーでサンドイッチ…!!
ケヴィン・ベーコンは不気味な見た目で怖い男なのかと思いきやヘタレ、トイレで追い詰めるシーンも「俺はプロだから」などと言いつつあっさり逃げられていて頼りないことこの上ない。
このキャラクターは個性があって面白かったです。
事務所の社長が情に厚い人でよかったね…と思ったけど、弱みを握られて出世しても絶対に離れられなくなるのかな…
その後、マキシーンは雇われ探偵から聞き出した謎の邸宅に向かうことに…殺された同僚たちがパーティーに参加すると話していたのを思い出した彼女の顔には決意の表情が現れているようでした。
〝自分さえよければいい〟じゃなくて、自分と同じ夢見る女性たちがまた餌食になるのを食い止めたい…そんな思いが湧いたようで「X エックス」から飛躍的に成長。
前半部分で同僚女性たちとの絡みをもっと入れてくれてたらドラマが盛り上がったのになー、「X エックス」の脇キャラクターの方が少ない描写で人間性が感じられてよかったなーとここも残念に思われてしまいました。
黒幕は一体誰なのか…ハリウッドの大物とかそんなオチなのかと思いきや、なんと犯人はマキシーンの父親という超王道展開。
娘を悪魔(ポルノ業界)に盗られたと主張する父親が娘を取り返そうと画策。
また世に悪影響を与えるポルノ女優たちを改心させようと儀式を行い、拒否する女性たちを殺してその様子を撮影していたようです。
カメラ目線の異様なハイテンションで演説し出すところなど、「あんたがホラー映画や!!」とツッコミたくなるオトン(笑)。
謎教団がガチのエクソシストを撮影、役者志望だった刑事の死に様がいかにも芝居じみていたり、「映画内映画」が展開しているような非常に凝った構成。
しかしオトンの狂いっぷりに完全に付いていけず、自らも映画を撮ることでマキシーンを有名にしたい気持ちもあった…??あくまで布教の道具として使いたかった…??
家族関係が丁寧に描かれていた「パール」と違ってぼんやり想像するしかなく、この親子一体なんだったんだー(笑)となってしまいました。
冒頭では娘の演技をカメラに収めていてステージパパというか、娘を教団のヒロインやマスコット的存在として利用しようとしているようにも映りました。
「シャービズ界では怪物と恐れられてこそスター」という冒頭の言葉といい、エンドロールの歌といい、「何がジェーンに起こったか?」で有名なベティ・デイヴィスに目配せ。
ジュディ・ガーランドの墓で死体が発見されたり、〝子役/子供を搾取するエンタメ業界〟を糾弾するテーマみたいなものがあるのかなーなど色々考えてしまいました。
オトンが盛大に頭ボカンで死ぬ様は「マニアック」!?マキシーンはついに親と決別。
父親を撃ち殺す前にほんの一瞬夢物語の幻覚をみたマキシーン。
事件で一躍有名になり大スターになる…というのはきっと現実にならないのだろうけど、最後はホラー映画の撮影現場に無事復帰。
世界中から愛される華々しいスターではないかもしれないけど、自分の咲ける場所で真剣に仕事に臨むラストの彼女の姿は清々しい。
パールの夢が少し報われたような気もしつつ、やはり2人は別人だった…似ているからといって同じ運命を辿るわけではない、そこに安堵感や解放感も感じました。
そして監督をはじめ撮っている人たちの真剣な姿は「X エックス」の仲間たちの姿とも重なり胸熱、こういうB級ホラー映画への深い愛が伝わってくるようでした。
カメラがスタジオから抜け出て空を舞っていくエンドロールが美しい。意外なほどに明るい余韻に胸がスッとなりました。
パンフレットを購入、A24の特製袋に入れていただけました♫
すごく凝った装丁で豪華、表紙/裏表紙がキラキラでキレイ。
中身も時代背景や関連作など解説されていてとても嬉しいです☆
ビデオ店長がみていたワニ映画はホラーマニアックスでリリースされてたけど買えてなかった「パニック・アリゲーター」…??
「セント・エルモス・ファイヤー」は昔一緒だった上司が人生のベストだと熱く語っていた記憶(笑)。
またハリウッドの丘を登っていくクライマックスのロケーションや映画撮影で終わるラストシーンなど、デ・パルマの「ボディ・ダブル」が思い出されました。
先の2作に比べると求心力に欠けていて、ジャンル映画としての魅力、キャラクターの描写が不足しているのが残念。
色々文脈が隠されていて、前2作はそれがキャッチしきれなくても存分に楽しめたけど、今回は分かりにくくて見ながらあれこれ考えてしまうのが勝ってしまった気がする…
でもラストではなぜかスッキリ。「マキシーン、よかったね…!!」となって、爽やかな気持ちで劇場をあとにすることが出来ました。