どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

闘病映画としてみる「エクソシスト」

全然ジャンルが違う作品ですが、先日鑑賞した「奇跡の人」は個人的にホラー映画の「エクソシスト」と似ているなあと思いました。

・突然我が子に異変が起こる
・訪問者が苦しむ少女と家族を救う
・サリバン先生はキリスト教の信仰者
・子供との取っ組み合いシーン

…など色々重ってみえるところがありました。

怖いホラー映画のイメージが強い「エクソシスト」ですが、リーガンのモデルとなった少年の症状は今では抗NMDA受容体抗体脳炎という病気が当てはまるのでは…と言われているそうです。

「観る人によって解釈が異なる」とフリードキン監督も語っていましたが、「エクソシスト」は〝闘病モノ〟〝医療ドラマ〟としてみるのも1つの楽しみ方なのかな、と思う作品です。


◆子供が突然病気になる恐怖

自分が初めて「エクソシスト」を観た際、もっとも恐ろしいと思ったのは冒頭、「悪魔が取り憑いた」と思わせる静かな場面でした。

不審な物音がして子供部屋の窓がなぜか開いている…ただそれだけで突然何の因果もなく災いがやってきたのだ…と分かるシーンがなぜかすごく怖かったです。

様子のおかしい娘を母親が病院に連れて行くと、「よく分からないが多分この症状なのでとりあえず薬出しときますね」などと言われてしまうのも何だかリアルです。

お医者さんが決して悪いわけではなく、明瞭ではない分野の病気があって確かな治療が存在していないというところが圧倒的ホラーです。

昔読んでいた映画秘宝という雑誌にて、
エクソシストで最も残酷なシーンは悪魔の特殊メイク云々ではなく子供が病院で精密検査を受けているシーン」
…なんて書いてあった憶えがあるのですが、確かにこういう場面が観ていて1番しんどい。

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検査の音は大きなノイズとなって耳に入りリーガンのストレスがそのまま伝わってきます。

そして小さな子供が物凄く痛い思いをして検査して大人数の医者が集まっても結局何もわからない。

正体不明の難病にかかるというのはこんな気持ちなのだろうか…と目の前が真っ暗になるような絶望感を味わされます。

 

子供に悪魔が取り憑いたというのを、いきなりの豹変ではなくじっくり観せてくるところが「エクソシスト」の素晴らしいところですが、「思春期にストレスが重なってリーガンのメンタルが病んでるだけなのかも」と思わせる丁寧な描写も秀逸です。

母親の仕事の都合で各地を転々と暮らす、1人遊びをしていることが多い、父親の無関心をなじる母の電話を1人でこっそり聞いている…とリーガンはどこか孤独な子供です。

母親のクリスは信仰心のない人として描かれていますが、特段悪い人とも思えません。

娘を思う気持ちは本物で、なりふりかまわず周りに助けを求めました。

その気持ちを汲み上げたのがカラス神父でした。

 

◆介護に悩むカラス神父

実質物語の主人公ともいえるカラス神父は親の介護で悩んでいます。

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お母さんは最初に足を悪くしたようで、それから外に行けなくなり地域から孤立。加えて認知が低下し始めたようで息子の話をきかないという姿が何ともリアルです。

イエズス会のサポートを受けつつ精神科医になった優秀なカラス神父。常日頃は人の悩みを聞く立場で、なかなか仕事もやめられない。ワシントンから少し離れたニューヨークまで毎日介護には行けない。

ギリシア系移民で貧しい子供時代を過ごしてきたと思われ、キャラクターのこれまでの人生、暮らしぶり、そのしんどさが克明に伝わってきます。

とうとう病状の悪くなったお母さんが入院する精神病棟のシーンもとても怖くて強烈に残る場面でした。

身内によい医療を提供できないという罪悪感、精神疾患を抱えた人の置かれる環境の厳しさ、優しい人さえ自分の愛する人がそうなった時に優しく出来ない姿…このシーンだけで怒涛の感情が押し寄せてきます。

なぜ人生こうもしんどいことばっかりなのかと信仰を疑うカラス神父。

しかしリーガンを救ったのはメリン神父ではなくこのカラス神父の方でした。

 

ブラックジャックでサリバン先生なカラス神父

悪魔祓いの歴戦の猛者だというメリン神父は密かに心臓病を抱えていましたが、教会の人たちはその実情を把握しないまま人事を決定しています。

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↑「墓掘るくらいなら元気!」とは限らなかった…

一方悪魔祓いの経験のないカラス神父は最後まで聴診器でリーガンを〝診察〟していました。その姿は聖職者というよりむしろ医者にみえます。

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原作小説では最後の闘いの前にカラス神父が子供時代に飼っていた犬の死を思い出す場面がありました。

病気でごはんを食べられなくなった飼い犬にミルクを飲ませようとするも上手くいかない…近所の男性からジステンバーだから早く注射するように教えてもらうもその矢先に犬は死んでしまう…

理不尽な死を嘆く姿と命を助けたいと願う強い想いが印象的でした。

 

ラスト悪魔との対決で心折れそうになるも、母親クリスの一言がカラス神父を再起させます。

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「娘は死ぬの?」……愛する人を失いたくないクリスの気持ちは、カラス神父の母親に対する思いと全く同じものでした。

信仰の垣根を越えた共感、同じ痛みが分かるからこそ何としても助けたいと願った献身が最後に子供を救ったというところに感動があると思いました。

その姿は同じ障害を抱えるものとして教え子を導いたサリバン先生や、自ら過酷なリハビリを経験したゆえに必死に生きる患者を助ける医師のブラックジャックのような人物像と重なります。


メリン神父と悪魔パズスの対決は運命めいたもののようですし、信仰心がテーマの作品なんだろうなあ…キリスト教の素養があればもっと広く深く楽しめる作品なんでしょうけど、病気、闘病を描いた作品としてみても心に迫るものがある作品だと思いました。


めちゃくちゃ強そうな師匠キャラのメリン神父があっけなく死んでしまってカラス神父が1人残されるところは、「うわあああー!!」と叫びたくなる怒涛の少年漫画的展開でバトル物的面白さも感じます。

カラス神父役の俳優さんは決してイケメンではないけれど、悩み苦しみながら戦いに向かって行く姿はヒロイックで、すごく色気と愛おしみを感じる主人公で大好きでした。