数年前にTSUTAYA名盤復活コーナーにエントリーしていて気になっていたのを初鑑賞。
70年製作のイギリス映画ですが、舞台は雪国、出演者はマックス・フォン・シドーにベルイマン作品常連のリヴ・ウルマンと陰鬱北欧ミステリーの趣。
シンプルな脱獄モノかと思いきや、なにーそう来るか!!という仕掛けになってて地味な作品ながら面白かったです。
冒頭、要塞みたいな刑務所バックにTシャツ1枚で雪原を駆けるマックス・フォン・シドー。この姿だけで傑作の予感。
主人公セイラムは脱獄後かつて住んでいた自宅にこっそり戻ってきますが、そこにいるのはセイラムの兄妹。そしてこの家族何やらアヤシイ。
2年前に作男を殺した罪で有罪になったセイラムでしたが、どうやら妹エスターとその夫アントンに罪をなすりつけられたようです。
復讐に燃えるセイラムは自分の妻と末妹のエミーを殺し、アントンの所持品を周囲に散りばめ犯人に仕立て上げて罪をなすりつけようとします。
無関係な人間を殺してまでやられた事をそっくりやり返そうとする、物凄い復讐心…!
そして何よりビックリなのは、これだけの犯行を脱獄中に行ったあとに刑務所に戻るという計画です。
夜中にこっそり脱走して犯行を済ませたら何事もなかったかのように朝までに戻っておくってとんでもない無理ゲーだと思うのですが、肝心の脱獄シーンを冒頭には一切みせずに「どうやったんだよ!?」と種明かしを待たせる見せ方も秀逸でした。
しかし舞台の刑務所がさすが北欧というべきなのかかなり平和で驚きます。
同室の囚人にカマ掘られないかと怯え、抜き打ちの持ち物チェックに肝冷やす「アルカトラズからの脱出」のような世界と比べるとぬるいことこの上なし。
結局セイラムの脱獄方法は手先の器用さを生かして合鍵つくって衣服でロープ作って…とオーソドックスな手法でしたが、調達もいとも簡単にできそうな環境なので通常の脱獄モノで味わえる緊迫感がイマイチな部分もありました。
しかしこっからさらなる計画を遂行するためもっかいシャバに出るセイラム。
凍てつく強風の中、クリフハンガーしてメタルギアソリッドして押し進むマックス・フォン・シドーが凄い!!
雪に足跡残んないのかなー、風で消えるもんなのかなーって気になったけど、普通こんな計画思い浮かばないだろうから外の点検もしなさそうでかなりの盲点。
北欧の白夜という設定もいきてる映像だと思いました。
過去の事件の真相はやっぱり妹夫妻が悪かったという展開で、エスターとセイラムが組んで夫ハメようとしてたとかもう一捻りあってもよかったのになあと期待させたけど残念。
理屈的に無理な話になるのは避けられた感じ。
ベルイマン作品でメンヘラ夫妻演じてたリヴ・ウルマンが貫禄ありすぎて冒頭から黒幕にしかみえなかったけど、マックス・フォン・シドーとの対決シーンはこの人の方がサイコパス感あってめちゃくちゃ怖かったです。
最後は無事アントンに罪なすりつけてエンド…だったら凡庸な作品だったと思うのですが、終盤が一気に盛り上がって面白かった。(以下最後までネタバレ)
やっぱり脱獄するより戻る方が大変。勘のいい警部補が刑務所にセイラムがいるか確認しに向かうけど果たして間に合うのか!?
必死のパッチで来た道を戻るセイラム、殺人犯と分かっていてもここはついつい主人公を応援してしまいます。
遂にやり遂げたとホッと一息つかせるやいなや思わぬどんでん返し。
伏線は一応張られていたけど、飼ってたオウムがこっそり服のポケットに紛れ込んでたなんて…
アル中で短気だったというセイラム、妻がアリバイ証言しなかったというのも理由はお察し。
唯一認めてくれてた末妹すら目的のために躊躇なく殺しててかなりヤバい奴なんですよね。
家族全員から見放されてた主人公のことを唯一慕ってたようなペットが仇になるって切なさ極まっててとても秀逸なラストでした。
用意周到に計画して1番大変そうなとこクリアしても想像がつかないとこで足元掬われるって何だかリアルで味のあるオチ。
ミステリとしては凡庸だけど、少ない描写でしっかり陰鬱な家族ドラマ感じさせてくれて、終始薄暗い質素な室内のセットとヘンリー・マンシーニの不穏な曲調も効果的。
隠れた良作というのにも納得です。