どうながの映画読書ブログ

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変種第二号/「スクリーマーズ」、B級でも上出来なディック映画化作品

1950年代に執筆されたフィリップ・K・ディックの短編「変種第二号」。

初期の作品で深い哲学性はないものの、冷戦時代の恐怖が投影された世界観、人間不信のテーマは短いながら凝縮されていて、何よりシンプルなオチでも話のみせ方次第でこんなに面白くなるもんなんだなーと初めて読んだ時にはストレートに感動しました。

「スクリーマーズ」というタイトルで96年には映画化もされています。

 「マイノリティ・リポート」などと比べたらB級感甚だしいけど原作のポイントはしっかり押さえつつ上手く脚色された良作だと思います。

2068年。とある惑星にて新エネルギーが発掘されたものの、放射能汚染が問題となり企業側(NEB)と労働者側(連合軍)に分かれて戦争が続いていました。

惑星には連合軍側が開発した「スクリーマー」と呼ばれる兵器が投入されましたが、次第に開発生産自体を機械に一任するように。

やがてこれが両軍にとって脅威となりはじめて…

アメリカvsソ連となっていた原作の設定が改変されているのは96年という時代の感覚に合わせたものでしょうか。

主演はロボコップを演じていたピーター・ウェラー。植民地の惑星に取り残され不毛な戦争に辟易しているその姿は哀愁漂っていてハマり役です。

そして冒頭から登場する兵器スクリーマー。

小説での描写は「回転する刃で人体を切り裂く銀の玉」となっていますが、映画では予算不足のためかあまり姿を現わさず「土中を潜って襲ってくる」というまるでトレマーズな有様。

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しかしこれが不気味さを出すのに功を奏していて意外な迫力です。

ある日敵軍のメッセージを受けた主人公は基地を出て会談に赴くことに…この基本プロットは原作に忠実。

部下のジェファソンと道中出会った少年を旅の仲間に加えて進みますが…(以下ネタバレ)

なんと可愛らしい少年の正体は機械人間で進化型スクリーマーだった…!!

新兵器開発を機械に丸投げしてたら味方サイドも把握してないとんでもないヤツが出来上がったっていうお話ですが、機械に自ら思考する力を与えたらどうなってしまうのか…今も古びれずにみれるストーリーです。

脚色で1つ気になるのは機械人間スクリーマーが出会ったときに相手を殺さないのが非効率的に見えてしまうところ。

「人間に取り入って基地に侵入しようとするのが目的」と語られる場面はあるものの、原作の「より大きな被害を与えるためより大きな共同体に入ろうとする」知能を持っている怖さが説明不足ゆえ伝わってきません。
(ここがディックの生きた時代、見えざる共産主義への恐怖って感じがして原作のエッセンスだったと思うのですが)

代わりに映画はホラー寄りの描写が目立つつくりで、子供姿のスクリーマーズがわらわらと現れるところはゾンビもののような迫力。

スプラッタ描写もあっさりめながらチラホラあり、何より耳をつんざくような叫び声をあげる(まさにスクリーマー)というオリジナル設定はインパクト大です。

 

少年の正体に驚愕しつつもNEB側と合流した主人公とジェファソンでしたがさらなる恐ろしい事実が発覚します。

さっきのお子様ロボットは変種第3号と呼ばれるタイプらしく、まだ誰も把握できていない2号が存在しているのだと。

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↑1号から急激に進化しすぎ!

2号も人型らしくひょっとしたら既に我々の中に…物体Xやボディスナッチャーなサスペンスが本作の醍醐味。

同じ言葉を繰り返すような人間味のない奴が怪しい…そうすると怖がってばっかりのロスが1番怪しい…けどイキりポエマーのベッカーも怪しい…

ジェファソンが唯一原作にいない立ち位置のキャラでアダルトVRを満喫してるあたり仲間としか思えませんが、墜落した飛行船の唯一の生存者ってのがまた怪しくみえてくる。

原作ではあっさりしてたキャラクターに上手く特徴をつけて盛り上げているところが素晴らしいです。

ひと悶着あってクライマックスは主人公と女兵士ジェシカの2人きりになりますが…こっからはどんなに勘の悪い人間でも先が予想出来てしまうかと思います。

原作は振り切った冷徹さが秀逸で、 

そして青ざめた。第4号だーー第4号。

には「そう来るかー!!」とドッキドッキしたものですが、おそらくあの展開は短編小説だからこそ生えたもの。(映画で同じことをやると騙されてるのが明らかなのに間抜けな行動とる主人公に説得力がなくなると思う)

終盤を大きくアレンジしたのはナイス判断じゃないかと思いました。

機械が与えられた役割を超えた行動をとるというのが原作ではペシミスティックに描かれてましたが(違う機種同士で殺しあう)、映画ではジェシカに情愛が生まれるというロマンのあるドラマに。

そんなに主人公に惹かれるとこあったかな(笑)って思うけど、砂漠と雪原広がる舞台に寂寞感があって男女2人に何か感情が生まれるって展開自分は嫌いじゃなかったです。

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ヒロインの女優さんは黒髪で展開的にもブレランのレイチェル意識してんのかなと思ってしまいました。

 

とにかく原作未読状態だと「他機種同士で殺し合う」という設定が明かされないままなのでスクリーマーの行動が腑に落ちない。最後に出てきた主人公の親友コピーはなんで記憶まで吸収してんだよ…!と粗も多々ありますが、テンポ良く見せ場が次々に出てくるので楽しくみれてしまいます。

ラストは地球に戻ってもうひと展開あってもよかったように思いますが、安直なハッピーエンドにしなかったってとこも原作リスペクトな感じでいいんじゃないかな…
…と上出来なディック映像化作品でした。