8月末から開催のホラー秘宝まつり。
昨年「オペラ座 血の喝采」が上映されるのを知って観に行きたかったのですが、スケジュールが合わず断念。
今年は「メサイア・オブ・デッド」「悪魔のしたたり」「デリリウム」の変態ホラー3本が上映されるとのこと。すごいマニアックな選出…!!
前からタイトルだけは知っていて観たいと思っていた「メサイア・オブ・デッド」をみてきました。
消息を絶った父親を追って海沿いの小さな町を訪れたアルレッティ。やがて奇妙な人々に取り囲われ、自身も正気を失っていく…
ストーリーは短編ホラーのようなシンプルな内容ですが、「ゾンゲリア」のような寂寞感が立ち込めていて大変好み。
雰囲気や色彩感覚が素晴らしく、ギョッとする怖いシーンが所々にあって、静かな作品だけれどとても面白かったです。
真っ暗な夜の町に浮かび上がるガソリンスタンド。「サスペリア2」のナイトホークスのような幻想的空間、観ていると寄る辺ない孤独感が押し寄せてきます。
暗闇に発砲するガソスタ店員、めっちゃ変な奴が出てきたと思ったらもっと奇妙な寄り目のおじさんが(笑)。
理屈とか全く通用しない、別の世界に連れて来られた感覚にさせてくれる冒頭から一気に心鷲掴みでした。
主人公は画家だったお父さんの自宅を捜索しはじめますが、これがまたすごいアート感覚の部屋で圧倒。
遠近法を使った巨大な絵、釣りブランコのようなベッド…こんなところで寝起きしてたら酔ってしまいそう(笑)。
その後も変な人が続々と登場。
画商なのに盲目のおばあちゃん。この土地にまつわる奇妙な話を語るホームレスのおっちゃん。
おっちゃんの隣になぜかテレビが配置されていて構図がいちいち面白かったです。
土地の伝承を調べている青年・トムと知り合うアルレッティでしたが、取り巻きのガールフレンドを2人も連れているトム。
この人たちも十分ヘンテコなのですが、ゾンビではなく普通の人間だったという(笑)。
トムのガールフレンドやかろうじて町に残っていた正気の人たちから少しずつ襲われて行きます。
本作のゾンビは人肉に喰らいつく感染系〝ゾンビ〟とは異なる佇まいでしたが、話が通じそうで全く通じない、得体の知れない人間に出会したかのような恐怖感が迫真。
肉売り場で生肉に齧り付く集団を発見するスーパーマーケットのシーン。
なんでもない日常的な場所と異常な光景が重なるのが鮮烈。
真っ暗な夜から人工的な光への場面転換、陳列棚の向こう側に佇むゾンビなど不穏なカメラワークにも引き込まれました。
そして本作イチのハイライトである映画館でゾンビに襲われる場面。
後ろの座席に少しずつ知らない人が座ってきていて取り囲まれるの、めっちゃ不条理感があって怖い。すぐに襲ってこないのが一層不気味。
そのほか天井窓に虫のように張り付いている姿など、ゴア描写は控え目なのに視覚的にインパクトのある場面がとにかく多かったです。
諸悪の根源は100年前に海からやってきて人肉を口にした者(神の道から外れた者!?)らしくこの辺りはラヴクラフトっぽい話の造形。
自我がありながら体からゆっくり死体に近づいていき、精神に変調をきたしていく後半は虚無感でいっぱい。
審判の日を待つようなエンディングも終末感に満ちていて、どこか哲学的な気分にさせてくれる、素晴らしい幻想ホラーでした。
上映終わりにはトークイベントが開催されて、高橋ヨシキさんとてらさわホークさんが登壇。興味深いお話をたくさん伺うことができました。
監督・脚本のウィラード・ハイクとグロリア・カッツのコンビはのちに「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」の脚本を担当したそうで、「スタウォーズエピソード4」のシナリオにも関わっていたとか。
この作品はヨーロピアンな感じだったので、意外なキャリア。
映画館のシーンはヒッチコックの「鳥」と言われるとなるほどーと納得。
影響を受けている作品として「恐怖の足跡」もあげられていて、確かにゾンビというより得体の知れない亡霊のような佇まい、少しずつ侵食されていく感覚など、共通する雰囲気。
トム役と「海からの訪問者」の役者さんが同じ人だったのは全く気付かなかったので見直してみたくなりました。
こういう映画は絶対に忘れない…自分も記憶に残るいい映画をみたという満足感に浸ることができました。
入場特典でいただいたポストカード。切手スペースまで素敵☆
パンフレットも販売されていたので購入。
3作品で1冊、「メサイア〜」のところしか読んでいないけど、作品のトリビアが満載で興味深い話が盛りだくさん。
あとの2本も気になりますが、とりあえず1番みたかったのをみれてよかった…!!
思っていたようなゾンビ映画ではなかったけれど、すごいアート感覚の作品で劇場でみることができて貴重な体験でした。