どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「バトル・オブ・シリコンバレー」…ジョブズvsビル・ゲイツのパソコン興亡史

スティーブ・ジョブズビル・ゲイツも実は盗人!?

アップルの設立者であるスティーブ・ジョブズと、マイクロソフトの設立者であるビル・ゲイツの2人を主人公に、1970年代〜90年代後半までのコンピュータ界の歴史を振り返るようなドラマになっています。

バトル・オブ・シリコンバレー [DVD]

バトル・オブ・シリコンバレー [DVD]

  • 発売日: 2011/12/21
  • メディア: DVD
 

元々はテレビ映画だったのにアメリカでは99年の放送時から評価が高かったそうで、のちに劇場公開、TSUTAYA名盤復活コーナーにも登録されている作品です。

 

原題は「パイレーツ・オブ・シリコンバレー」という、ジョニー・デップかよ!なタイトル。

これはおそらくジョブズ本人が口にしたと言われる「海軍に入隊するより海賊でいたい。」という言葉からとったと思われますが、互いを出し抜き争い、いかに技術を他所から盗むか…かなり赤裸々な、というかよく怒られんなーという内容になっていました。

ソーシャル・ネットワーク」のような「ああ人間って孤独!」とひとりごちたくなるような重厚な人間ドラマではありませんが、勉強になるよく出来た伝記ドラマだと思いました。

 

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俳優さんが頑張ってて2人ともすごい似てる!!


映画のあらすじ(シリコンバレー史)を振り返ると・・・

まずジョブズの方は70年代にブルーボックスという“料金を払わず不正に電話をかけることができる装置〟を友人ウォズニアックにつくってもらい、それを売って利益をあげていました。

ジョブズはアイデアマンで、実際にすごいものをつくってみせるのはウォズニアックという人の方なんですね。

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スリムすぎるウォズニアック。

 

コンピュータは企業だけが使うバカ高いモノという認識であったこの時代に「個人が使うパーソナルコンピュータ」のアイデアが既にあった天才ジョブズ。しかし企業からは「大衆がコンピュータを何に使うのよ!?」と全く理解されません。(時代の先を行くってそんなもんなのかー)

しかしインテル社にいたマイク・マークラから出資を受け、アップル1を製作、さらに後続機種アップル2は発表と同時にコンピュータフェアで人が殺到し、大ヒット商品に。

 

このコンピュータフェアの場面にて、まだ無名のビル・ゲイツジョブズに、「自分は言語をつくってる。手を組まないか。」と声をかけるのですが、袖にされてしまいます。
実際の歴史がどうだったのか知りませんが、もしここで2人が結託していたらまた全然違うパソコン史になっていたのでしょうか。

 

ビル・ゲイツの方は、戦前からの一大帝国であったIBMに対し、まだつくってないOSをつくってると盛大なハッタリをかまして契約。(気弱なギークかと思いきや豪胆な詐欺師!)
シアトル・コンピュータ・プロダクツから買ったOSに改良を加えて転売して大儲けしました。

 

一方アップル社は、“マウスを使ってのパソコン操作〟という画期的な技術をゼロックスから根こそぎ奪ってしまう…!!ゼロックスの発明だったことにびっくり!!)

ここが盗人、海賊というタイトルの所以なのかなと思ったのですが、違法を犯したわけじゃなく使用権の購入というお互い合意の上のもの。

映画の中ではゼロックス側の女性がアップルに対し、「私たちが開発したのに」と愚痴をこぼす場面がありますが、ジョブズのおかげでゼロックスの技術が腐らず普及に至ったという見方もあるのかも…。

しかしゼロックスの会社の重役たちが「なんだよマウスって、ネズミの死骸かよ!」とコケにする姿はなんとも残念…。技術の取り合いの世界で上が無能だと現場の人やりきれんなー。


しかし大成功したジョブズパワハラやりまくりの独善的すぎる姿勢からやがてアップルで孤立、業績の停滞も重なって退陣に追い込まれます。

人格否定の圧迫面接、怒鳴る、週90時間働こうTシャツを配る…。

プライベートでは出産した元恋人と娘リサを放置、大金持ちになっても一銭もやらん!!だけど新作のコンピュータの名前はなぜか娘と同じリサにする…ってサイテー男通り越してサイコパスにしか見えない…。

 

一方ビル・ゲイツは、強かな面もありますが、穏やかで落ち着いた物腰にみえます。私生活では倹約的、慈善事業にも熱心、という人柄のイメージがなんとなく一致する人物像でした。

しかし最後の最後に「マッキントッシュをまるパクリしたといってもいいウィンドウズ発売」をしれっとやってのけるゲイツ。そしてジョブズに「君のつくったものには敵わないから別モノだよ。」とお茶を濁すというとんでもないコミュ力を発揮(笑)。

映画の後半は駆け足で、ジョブズはまたアップルに戻るけれども「マイクロソフトがアップルの株所有」となんとなくゲイツ勝利という雰囲気で幕を閉じます。

 

うーん、ビル・ゲイツが1番すごかったのは、自分が他所から技術を買った時は買い切りだったのに、いざ自分が売るときはしっかりライセンス契約にしたというところじゃないでしょうか。

高性能の機械、アートをつくること執心したジョブズに対し、あくまで企業が仕事で使うソフト開発(大人数に必要なもの)に注力したからこそ、時間をかけてトップに登り詰めた…そんな印象を受けました。


しかしこの作品の未来を生きてる私たちにとっては、「このあとiPod、さらにiPhoneが出るし」とツッコミたくなってしまいます(笑)。

ジョブズの発想力がまたすごいものを生み出す。本人が作る人じゃないからこそ全てを度外視して人に「つくれ!」といえてしまうところがすごいのかも!?

ジョブズに関しては”変人だけど天才”という漠然としたイメージしかなかったので、この映画で描かれてるヤバイ人っぷりにどうなんだ!?と思ってしまいました。すごい人なのも伝わってきたんですけどね…。


何もかも真実というわけではなく、フィクションとして楽しむべき作品かと思いますが、あとから色々調べても小ネタとかも上手く使ってすごく良くできてる作品なんじゃないかと思いました。コメディタッチで2人の変人っぷりには大いに笑ってしまいます。

リドリー・スコットが撮ったというマッキントッシュのCM(1984)もちょっと出てくるけど、カッコいいー。

 

 

「セッション」のラストはハッピーエンドに思えてしまう

このゴールデンウィーク、新作「イエスタデイ」をレンタルしてみたら全く肌が合わなくて、お口直しにこちらを再鑑賞することに。

セッション [DVD]

セッション [DVD]

  • 発売日: 2017/08/02
  • メディア: DVD
 

音楽大学を舞台に狂気の鬼教師とそれに喰らいつく新人ドラマーの対決を描いた、もはや音楽映画というより、サイコスリラーといえる作品。

公開時にみられず大分遅れて昨年に鑑賞したのですが、作品の評価/感想がキッパリ分かれているようで、ネットでレビューをみるのも楽しい作品でした。

中にはフレッチャーは素晴らしい教師だ」と彼の人格を称えるような見方もあり、それはないわーとびっくり(笑)。

 

パワハラクソ野郎に違いないフレッチャーですが、「自身がミュージシャンになれなかった嫉妬心を生徒をいじめて発散している」というような狭量な人間でもまたないように思います。

・次のバディ・リッチを育てる。その生徒がバディ・リッチなら自分のしごきにも当然堪える。

・よいジャズを生み出すために自分のやっていることは素晴らしい努力である。

もうこれは彼の確固たる信念、宗教といっていいものであり、そのために人をどれだけ傷つけているか一切省みない…悪人というよりもう狂った人間というしかありません。

 

目的のためには時々「本当は生徒のためを思っている」という“飴〟の一面を演じてみせるのも上手く、序盤は「もしかしていい先生なのか?」「愛と青春の旅立ちで終わってくれるのか?」と無駄な期待をもたせられましたが、ハラスメントの加害者に振り回される心理を追体験しているかのようでした。

 

物語の主人公がごく普通の青年であったなら「パワハラ上司に追いやられておかしくなったワーカーホリック人間の悲劇」と受け止めて終わりますが、ニーマン自身がそもそも「元気な金持ちの90歳として忘れられるより、文無しで早世して名を残したい」と語るような相当なエゴの塊なので、この主人公にとってはこれがハッピーエンドなのかな、と思ってみてしまいました。

 

ニーマンが親戚たちと食事をする場面。
お互いマウンティングをしあっているようなどこか殺伐とした雰囲気ですが、ここでは「芸術という分野では大成功しない限り道楽者としてしかみられない」という厳しい目線がありました。

 

仲間を蹴落とさなければならない厳しい競争、全てを練習に注ぎ込むための極端な生活、それが周囲から理解されず孤独を極める道…自らこれで良しと選択したニーマンは普通にみてたら嫌な奴。…だけど「人からどう思われようとやりたいようにやってやる!」という断固とした姿勢は単純にすごいなあと思ってしまいます。

 

出番が少ないながら父親も印象的なキャラクターで、一見優しそうにみえながら、実は息子の夢を全く応援していない。内心は夢をあきらめて安定した道に行けばいいと思っていそうな親で、理解されない子供という点でもニーマンはずっと孤独だったのかもしれません。


ラスト、フレッチャーがニーマンを呼びだして赤っ恥をかかせたのは悪意以外の何ものでもなく、パワハラを告発された腹いせに自分の舞台をおじゃんにしてもいいからやり返すって相当歪んだ性格でないと出来ない芸当でしょう。

 

しかし土壇場の土壇場、なにくそ!!とさらにやり返しに行ったニーマンにはなぜか胸がアツくなってしまいます。

フレッチャーの狂気を跳ね返すのもまた狂気で、感動的なラストという言葉はしっくり来ませんが、まさに”2人だけの世界”という言葉がピッタリ!!

フレッチャーの熱い目線を受けての演奏には何だか笑いたくなってしまい、この狂人2人にはこれがハッピーエンドでいいんだ!と不思議に爽やかな気持ちになってしまいました。

 

自分はジャズも知らないし音楽演奏の経験もないのですが、途中のフレッチャーの台詞…

「世の中甘くなった。ジャズが死ぬわけだ。」
「明白だ。カフェあたりで売ってる“ジャズ〟のCDが証明してる。」

いち鑑賞者の傲慢な意見ですが、自分は最近の映画つまらなくなってないかなー、昔の映画はすごいなーとか思うことがあったりして…

昔の作品のおそらく今だと色んな規定でアウトになってしまう危険な映像ってあるよなあ、死人がでてもおかしくないジャッキーのアクションのスタントとか、女優さんを精神的に追いつめて撮ったといわれてるラブシーンとか…

一線を超えてつくられた傑出したものに感動していることはあるよなあ、芸術の分野はそういう過程でできたものが生き残る面もあるのかなあ…と、この映画の2人を理解不能の狂人とバッサリ切り捨てられないような、複雑な気持ちも残りました。

 


追って同監督の「ララランド」も鑑賞。
理想高く夢を追うには何かを捨てなければならない…「セッション」ほど極端ではないにせよ、少し似たものを感じる作品でした。

結果一定の成功を手に入れたような人間でもめぐる思いがあるもんなんだなあ、人生で何もかもを手に入れるというのは難しいことだけどそれぞれ幸せがある…ラスト15分で胸に迫ってくるものがある作品でした。

仕事、夢、人間関係の成立し難さみたいなのを、ありきたりなドラマではないモノでみせてくれて、すごい監督だなあと思いました。

 

個人的には、きらびやかな「ララランド」の主人公たちより、童貞感漂う泥臭い努力のニーマンの方に強く惹かれてしまいましたが(笑)。

音楽も聴かせるところで一気にきかせてくれて、一般的な音楽映画じゃないのでしょうが、その部分でもスッキリさせてくれる映画でした。

 

「スライディング・ドア」…並行世界のラブストーリーがみせるキビしさと優しさ

おしゃれなラブ・ストーリーかと思いきやちょっとSFな作品。

主人公が〝電車に乗り遅れた世界〟と〝電車に乗れた世界〟の2つがパラレルワールドとして展開していく構成。肩肘張らず楽しめながらも、人の運命とは??となかなか思いの巡る作品にもなっています。

スライディング・ドア [DVD]

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  • 発売日: 1999/03/20
  • メディア: DVD
 

主人公のヘレンは、ある日勤める広告会社をクビになり、失意のまま家に帰ろうとします。
一方ヘレンの彼氏のジェリーは作家志望ながらヒモ同然の生活を送り、さらにヘレンに隠れて元カノと浮気を繰り返していました。

 

冒頭…乗ろうとした地下鉄のドアがピシャリと目の前で閉まり、それに乗れた世界線(A)と、乗れなかった世界線(B)に分かれて進んで行くのですが…

 

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Aの世界線のヘレンは、早くお家に帰れたことで、彼氏の浮気現場にハチ合わせ。

仕事と恋を同時に失ってどん底に落ちますが、捨てる神あれば拾う神あり…!!

電車で隣に居合わせたジェームズと再会し、明るく誠実そうな彼といい感じに。

仕事も良縁が舞い込んで、広告の仕事を自分で立ち上げていきます。

 

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Aのヘレンは、失恋後すぐに金髪ベリーショートにしてイメチェンするので、どっちの世界線か分かりやすい♫


一方Bの世界線のヘレンは、電車に乗れず帰宅が遅れたため、彼氏の浮気に気付かないまま。2人の生活を支えるためにアルバイトを掛け持ちし、時々彼の不審な行動に疑問を感じるも、はぐらかされてばかり…。

 

どっちの世界線でも、ヒモ彼氏のジェリーはクズ(笑)。

浮気してたくせに別れた方の世界線では、未練たらたらヘレンを追いかけてくるという始末。

浮気相手の女性の方も相当意地が悪そうですが、男の方がどっちつかずだから、イライラしてしょうがないというのは分かる。なんでこんな男に執着しちゃうかなあ。  

 

2つの世界が交差して描かれるのが実にスタイリッシュで、「電車乗り遅れただけで、天国と地獄とまでは言わんけど、幸せ度がこんなに違うなんて…」と2人のヘレンを複雑な気持ちで見守るほかありません。

自分の意志で選択したものによって結果が変わるというならまだしも、自分の意志ではどうにもできないような些細なことにこうも人生が翻弄されるとは…そんな無情さをひしひしと感じてしまいます。

また〝どちらの世界でも必ず起きる出来事〟というのが度々描かれ(体調不良や妊娠)、避けられない大きな運命の流れみたいなもの、そんなものが人生にあるのかしら…と思わせたりもします。

 

ラブストーリーとしても個人的にはなかなか好きな雰囲気で、グウィネス・パルトロウ、「第2のグレース・ケリー?それはないわー」と思っていたのですが、この作品のグウィネスは、シンプルなファッションがキマっていて魅力的なモード系美人。

ちょっとネガティブで流されやすいところのある主人公というのも親近感です。

 

そんなヘレンが新しく出会ったジェームズは、モンティ・パイソンのジョークを放つユーモラスな男。

ハムナプトラ」のお兄ちゃん役を演っていたジョン・ハナー、3枚目以外の何ものでもない人が相手役というのがまた意外。

1つ秘密を抱えていて、そこに関しては「なんで早く言わんのよ!」とツッコまずにはいられず・・・家族の病気で大変なこともあるだろうに、他者に機嫌よく明るく接しているところなんかはすごく惹かれるんですが…。ベタベタだけど「一緒にいた女性は妹でした」とかの方がよかったかなーと、ここだけは残念。

 


そして、ここからはラストまでのネタバレになりますが…

 

絶好調に見えたAの世界線のヘレンはなんと交通事故に遭って死亡してしまいます。
Bの世界線のヘレンも時を同じくして階段からの転落事故に遭いますが、こちらは何とか生き残る。

 

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驚くべきことに、絶好調に見えたAの未来はデッドエンドで、絶不調なBの方が結果的に良かったというんですね。

Aの人生を思うとものすごく残酷なんですが、このストーリー見方を変えると、「今上手く行ってない」と思える人生も、トータルでみたらそれが良かったんだということもあるのかもしれないよ…厳しさと表裏一体に優しさも同時に最後にみせてくれている気もしました。

 

生き残ったBの世界線の最後…ヘレンはまたエレベーターのドアが閉まるかどうかの〝別れ道〟に遭遇し、次のエレベーターに乗ったヘレンはまたジェームズと出会う。

まさに〝運命の出会い〟。ラストカットが洒落ててなんともロマンチック…!

 

タイムトラベルものやループものにあるような「何としてでも運命を切り開いてやる!!」というあの気概溢れる雰囲気にも惹かれますが、この「スライディング・ドア」の、「人生どうにもならんこともあるけどその中で生きてる」という無情かつ少しだけ優しい世界の描き方もまたいいなーと、地味だけどすごく好きな作品です。

 

エンドロールで流れる曲、昔エミネムがカヴァーしてたっけ、Dido"Thank You"も好きでした。

 

「ハッピー・デス・デイ」1&2 …どっちも面白かった!!

話題になってるだけあって面白かった!!

マスクを被った謎の人物に殺される1日を何度も繰り返すタイムリープ・ホラー。

延々と同じ日を繰り返す閉塞感に精神を蝕まれていく恐怖。それでもひとつの目的を何としてでも達成しようとするひたむきさ。

ループものは結構好きなジャンルだけど、この「ハッピー・デス・デイ」はとにかく軽かった。

主人公がかなり強いタイプな上、「死の痛みの描写」が皆無なので、死ぬ恐怖というものがまるで伝わってこないのですが、疾走感を重視したこのつくりもありかーと、ホラーというよりライトSFコメディのノリで楽しんで観れました。

 

主人公ツリーは、妻子ある男性と堂々不倫もするわがまま女子大生で、「死んでもあまり可哀想と思えない」キャラクターだったのは、ホラー映画の法則を逆手に取ったような設定でよかったです。

痛い目をみて改心し!?果敢に敵に立ち向かう姿にちょっとずつ惹かれていきました。

続編は蛇足かなと思ったら、意外に健闘していて両方ともよかった!!

 

↓ ↓ 以下盛大なネタバレで語っています。


【1作目】

「犯人は誰だ!?」…当てずっぽうに考えを巡らせながら鑑賞するのがこういう作品の醍醐味。

まず疑ってみていたのはカーター。

普通なら一蹴するであろう主人公の話をきいてくれて、いい奴すぎて怪しい…と思っていたらツリーを庇って殺人鬼に首ボキッとやられて、ええっー。

「カーターのいない世界線には戻らないわ!!」ツリーの死にっぷりがカッコよかったです。

ビッチ女&童貞オタク青年はなぜか萌える組み合わせ。

部屋に「ゼイリブ」「レポマン」のポスターを堂々貼り、「恋はデジャブさ。」と事件を総括するただの好青年でした。

 

カーターのほかに疑っちゃったのはお父さん。家族が犯人という鬱展開をついつい期待。

でも実物がようやく出てきたら、どう見てもいい人でこれはないかなーと。

 

そんなこんなでツリーが眠るように死んだとこから「あっ!ケーキか!」と真犯人ロリにやっとこさピーン。

ポスタービジュアルがあのカップケーキだったので、この人が犯人ならなんか露骨だなあと思って逆に疑わなかったのですが…。

ツリー、相当のクズだったし、ルームシェアなんかしてたら殺意わくかも(笑)。犯人の言い分をちょっと聞いてあげたい気持ちになりましたが…

 

「彼に手を出すからよ。」

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えっ、あなたもコイツと付き合ってたの??

教授が1番のクズやん!!

途中のリープ過程でツリーが別れを切り出したら「お前に単位はやらん」って、ゲス極まってたなー。

 

病院に収監された連続殺人鬼が犯人だという展開は、どう考えてもミスリードだろうなあ、あんな凝ったオルゴールまで用意してどう考えても怨恨だよ、と思いつつも、お話がよく練られていました。 

 

ループするたびツリーが衰弱するっていう設定が、もう強すぎて全く危機感がなかったのと、日付またいだらその身体は治るってことでOK?…と細かいところは気になってしまいましたが…

死の恐怖は薄くても、繰り返すループの閉塞感はよく伝わってきて、裸で校庭歩いちゃうとことか自暴自棄な感じが出てて良かったです。

 

続く2作目、なんならあのクズ教授がハッピー・デスしてほしいわ、と思いながら鑑賞。

 


【2作目】

ハッピー・デス・デイ 2U (字幕版)

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  • 発売日: 2019/09/20
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それにしても2Uってタイトル、なんてシャレがきいてるんだ!!

 

視点を変えつつ前作のすぐ後だと分かる話のスタートに上手いなあと感心。

そして前作の停電の描写を〝前から考えてましたけど〟といかにも伏線のように活かす豪胆さにも感心。

物理学部がなんかすごい装置作ってた!!

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この大学、生徒の学力に差がありすぎないか??

 

なぜツリーがループ世界の〝観測者〟になっちゃうのかよく分からないけど、なんやかんやで主人公に戻ってくる。しかしそこは別の世界線

「死んだお母さんが生きているこの世界線に残りたい」と悪戦苦闘しますが、結局自分の生きてきた過去は否定できないということで、元の世界線に戻ることに。

このあたりのドラマは感情移入できるように出来てましたが、途中わざと死を繰り返すツリーがコメディすぎて、なんでそんなにわざわざ痛い死に方するのよ(笑)。

そして相変わらず強すぎて全然弱ってるようにみえない…!

 

元の世界に戻る前に、こっちの世界線の殺人鬼始末しといたるわ!!と思い立って挑みにいったところ…

この世界線の犯人はお前かー!!

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まさに次元を超えるクズ。奥さんもサイコパスやな。


しかし…最後ツリーが戻った世界線では、やっぱりロリは殺人犯で、2人は殺し合った仲なんですよね。

こっちの世界線では、少しだけこころを通わせる…。

 

多次元宇宙論の世界観はやっぱり面白くて、天国とか地獄は信じられないけど、パラレルワールドの設定はロマンがあるなあと心惹かれてしまいます。

並行世界がいくつもある中、人の生死や行動の善悪がその中で違っていたりする。

人はちょっとしたことで悪い方向にも良い方向にも行き得る…。

それでも自分は自分の世界を一生懸命生きて、その中にある人との関わりを大事にしなくちゃいけない…。


この作品は相当軽くコメディよりだったけど、ループものの面白さ、ドラマ性は上手く活かしてるなー、と引きこまれました。

2作目は最早ホラーとはいえないし、犯人探しの面白さと疾走感は大幅ダウンしたものの、前作のキャラクターへの強い愛を感じさせつつ全く同じことはしないという気概もあり、1・2併せてとても楽しく観れました。

 

主演の女優さん体当たり演技ですごく良かったですが、「ララランド」でエマ・ストーンと一緒に踊ってた4人組の人なんですね。


エンドロールのあとにも一悶着あって、もう1作作る気満々な感じ。

隣の世界線では「奇跡の人」やって協力してくれたし、ダニエルそこまで悪い子じゃないと思うんだけどな(笑)。

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ひと時とはいえ彼氏とられた腹いせかな。

3も出来たら観たいですね。

 

「続・荒野の用心棒」…愛と反骨のマカロニ・ウエスタン

♫ジャンゴ〜 棺桶ずるずるずるー

「続・夕陽のガンマン」という作品を鑑賞したあと…すごい大傑作を観てしまったから1ヶ月くらい他の映画みれんかもしれんなどと思いながら、1週間後に借りてきて観たのがこの「続・荒野の用心棒」でした。

どう考えてもこれ「荒野の用心棒」の正式な続編じゃなさそう、「夕陽」みたあとじゃ何みても霞みそう、と期待薄で臨んだところ、まさかのこれも大当たりという…一体このジャンルはどうなってるんだーと叫びたくなりました。


オープニングから♫ジャンゴ〜と雄々しいボーカル入りの主題歌が爆音で鳴り響き、黒ずくめの男が棺桶ひきずってる後ろ姿しか映らない。

 

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しかも地面はなぜかドロドロしてて、西部劇っぽい乾いた雰囲気からかけ離れている。

さらに女性が鞭打たれるというショッキングなシーンが続き、おどろおどろしい吊り橋に底無し沼みたいな川と妙にホラーな景色が展開される…

夕陽のガンマン」とまったく次元の違う世界に連れてこられて、なんじゃこりゃーと一気に虜になってしまいました。

 

本作の監督は、セルジオ・コルブッチという、アメリカ映画の巨匠に憧れたレオーネと対極的に、イタリア魂を貫いたような職人監督。

主人公を演じたのはフランコ・ネロ。この当時ほぼ無名の新人。

 

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ブルーの瞳が美しいイケメン。なんと撮影時23歳。

 

タランティーノの「ジャンゴ」にゲスト出演もしていましたが、もとから老け顔の人は年取ったとき逆に若々しくみえる!!


「続・荒野の用心棒」の大体のあらすじは…

流れ者の主人公ジャンゴが辿り着いたのは、メキシコ国境の街。ここでは元南軍のジャクソン少佐とメキシコ人のウーゴ将軍が対立していました。

ジャンゴはウーゴに、ジャクソンが管理をするメキシコ政府の砦にある金塊を盗もうと話をもちかけます。

その真の狙いは…。

基本、〝流れ者が町の2大勢力相手に大立ち回り〟するお話で、プロット自体「荒野の用心棒」によく似ているから〝続〟と付けられたようですね。


勢力の一派、ジャクソン少佐は嬉々としてメキシコ人を惨殺するとんでもない人種差別主義者。

元南軍ということで、この一味は赤いスカーフを付けていますが、中にはKKKを彷彿させる赤い頭巾を被っている者も…。

 

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社会的メッセージを訴える演出なのかと思いきや、

じつは低予算のため人が足りず、同じ人物が何度も死ぬのを隠すためであり、〝まとも過ぎる〟エキストラの顔を隠すためでもあったという。

「SCREEN特別編集マカロニ・ウエスタン BEST SELECTION50」より

まさかのB級映画ならではの大工夫(笑)。

 

メキシコ人のウーゴ将軍の方も、人の耳を切ってそれを食わせるというスプラッターなリンチをする非情な奴。

でもメキシコ革命の夢を抱くリーダーでもあって、豪快さが不思議と憎めない人物。


序盤の見せ場はなんといっても、ジャクソン一味に取り囲まれたジャンゴの棺桶の中身が明かされるとき…!!(※重大なネタバレ)

 

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ダダダダダダダ…!!

 

機関銃で敵40人を一気に殲滅!!

必殺アイテムかと思いきや大事なときに沼に落ちて消滅というすごい雑な扱い方がまたイタリアン。


主人公のダークヒーローっぷりに加え、ストーリーに女性がしっかりと絡んでくるところも先に観た「夕陽」と異なるところでした。

アメリカ人とメキシコ人のハーフであるヒロインのマリアは、差別を受けて虐げられる存在ながら、意志を持って抗おうとする強さのあるキャラクターとして描かれています。

マリアの愛を知って、人間性を取り戻すジャンゴ…と殺伐とした世界でラブ・ストーリーを展開。

脇役のはずの娼館の女性たちも、独特のインパクトがあり、漂う場末のスナック感がまたたまりません。

 

クライマックス…両手を潰されたジャンゴは、圧倒的ハンデを抱えて決闘に向かっていく…。

コルブッチ作品にはこの他にも、「殺しが静かにやって来る」(声の出せない主人公)「ミネソタ無頼」(視力を失っていく主人公)と、障害を負った人が戦う作品がありますが、レオーネのような格調高い感じはしないのに、「逆境に立ち向かう反骨精神」みたいなドラマを感じます。

手の使えなくなったガンマンはどうやって闘うのか…??ラストの決闘シーンはシビれるカッコよさです。

 

記事を書くのにググって今知ったのですが、

今年はセルジオ・コルブッチ監督没後30周年ということで、「続・荒野の用心棒」デジタル・リマスター版が1月末から公開されていたようです。

django-2020.com

春から上映のところもあったみたいなのに、コロナのせいで映画館も大ダメージ。

時期がずれてもいいから、また公開されるといいな…。

 

自分にとっては、「夕陽のガンマン」「続・夕陽のガンマン」、そしてこの「続・荒野の用心棒」が、このジャンルの入り口になってくれた映画でした。全部すごい作品だった…!

 

「続・夕陽のガンマン」…人生で1番面白かった映画

前作「夕陽のガンマン」の続きだと思って、「あんな綺麗な終わり方の作品に続編つくるなんてけしからんなー、多分つまらんやろ。」とかなりの期待薄で鑑賞に臨んだ「続・夕陽のガンマン」。

続 夕陽のガンマン [Blu-ray]

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まず「続編じゃない!」ということに驚き、しかもめちゃくちゃ面白くて、ラスト約20分は座って観ていられないくらい大興奮でした。

 

南北戦争のさなか、隠された20万ドルの金貨。行方を追う3人の男、一体誰の手に渡るのか!?

至極単純なストーリーですが、手に入ったのが各々違う情報だったりして、お互い協力もしなければ見つけられない…。

夕陽のガンマン」同様の〝三つ巴〟的展開だけど、こちらの方が、より裏切りと暴力が入り乱れていく…予測がつかないストーリーに物凄く引き込まれました。

 


主演3人のキャラクターは…

まずは悪玉、リー・ヴァン・クリーフ演じるエンジェル・アイ。モーティマー大佐と違って、ひと目で悪者だと分かる面構えに。

 

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3人の中で圧倒的に出番が少ないですが、存在感は負けておらず、リー・ヴァン・クリーフはやっぱりすごい役者さん!!

他人様の家でやりたい放題な冒頭の場面は、「イングロリアス・バスターズ」の酪農家訪問シーンと雰囲気がよく似てる~。


2人目は、善玉、クリント・イーストウッド演じるブロンディ。

〝いうほど善玉か?〟という気もするけど、灼熱砂漠歩かせたトゥーコになんだかんだでお金半分あげるし、見ず知らずの死にゆく兵士にタバコ分けてあげたり…やっぱりいい人な気がする。

 

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イーストウッドってブロンドなのかといつも疑問に思ってしまうんだけど。

 

3人目は卑劣漢(〝きたねえ奴〟がしっくりくる)イーライ・ウォラック演じるトゥーコ。

凄腕ガンマンで頭もまわると思いきや、どこか抜けてるイディオット、なんとも言えぬ愛らしさ。

 

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神父の実兄と再会したときにチラリと覗かせる過去。貧困から抜け出せなくて盗人になるしかなかった…ブロンディの前では「自分は兄から愛されて友達もいる」と見栄を張って嘘をついてしまうあたり、痛々しいし寂しい奴…

カッコいい男ではないけど、笑わせてくれて、哀愁があって、なぜか1番応援したくなる、実質の主人公!!「続・夕陽」をどれだけ好きになれるかはトゥーコのキャラクターを愛せるかどうかではないかと思います。

 


この「続・夕陽のガンマン」という作品には、アメリカや日本で公開された162分版と、イタリアで公開された178分版が存在しています。

近年発売のBlu-rayや配信されてるのは178分版ですが、自分が初めて観たのは162分版。ぶつ切りでよろしくないという評判もあるみたいですが、テンポがよく、〝エンタメ寄り〟になってて、すごく面白かったです。

 

178分版をあとから観ると…比較して増えていたシーンは、南北戦争の描写やトゥーコの内面を掘り下げるようなシーンだったと思うのですが、より壮大な叙事詩感が漂っています。

ちょっとだけ登場するキャラクターが戦争負傷者(身体障害者)だったりするのも印象的ですが、南軍の捕虜を北軍が管理している収容所のシーンは、ザ・戦争映画という感じがしました。

南軍兵士が虐げられ、悪玉エンジェルは捕虜から金品を巻き上げて拷問している…

捕虜が強制的に演奏させられている優しい音楽の裏で、トゥーコが目玉を潰されそうになるシーンなんかはかなり残酷。

南北戦争というと、奴隷解放のために戦った北軍が善玉というイメージがあるけど、戦争の勝者敗者、大義に関わらず、現場の兵士は苦しめられている…すごく冷めた視点での戦争批判を感じます。

 

もう1つ、後半の橋爆破シーンも大作感があってここも戦争映画っぽい雰囲気。

 

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ここで登場する北軍の大尉は長期戦争で疲弊しきっています。「シミのような地図の1点を守ることに意義を感じない、そもそもなんで戦ってるのか…」

全くの部外者のブロンディとトゥーコが、橋を木っ端微塵にする爽快感。

 

政治色を全く感じない作品ですが、戦争に全く関心のない人間が戦争の不毛さをみる、その視点がダイレクトに観客と共有される…

客観的な視点での戦争批判が、純度100%のエンタメにブッ込まれていて、まるで物語が2段構えになっているようですが、この構成が成功する映画って稀有じゃないのかなあ、と何度観ても新鮮さがあります。


タイトルが”The Good,The Bad And The Ugly"なのも、人間そんな簡単に善悪で割り切れるもんじゃないという皮肉にも思えたりしてきますね。

 


そして・・・壮大になったかと思われた物語が、ラスト20分にはまた3人の男の話に戻ってきます。

「アーチ・スタントンの墓、ほんとにあるのか!?」と、トゥーコが墓地を走り回るシーンでかかる「黄金のエクスタシー」に大興奮で一緒に走りたくなる!!

 

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すんごい景色の円形墓地ですが、もともとあったものでなく、映画用に偽の墓を5000個つくったとか。CGなんて敵わない迫力!!

トゥーコの手を左右に振る謎の走り方が妙にかわいくて笑ってしまいます。


そしてクライマックスの三角決闘のシーンへ…

多人数で銃を向け合ってすくむ場面は、90年代のガン・アクションでもあるある。

それが溜めに溜めて、どんだけ溜めんねん!ってくらい時間をかけて見せてくるのが物凄く新鮮にみれて、どーなんのよ!?と、心臓バクバクでした。

 

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流れる音楽”The Trio ”の圧倒的カッコよさ…!

 

トゥーコの向いた方向をみると、この人もエンジェルを先に撃っていました。開始から悪玉の敗北だけは決まっていたのかも…

ラストの〝初めに戻る〟ような締めくくり方も何とも粋でカッコいいですね。

 


つい先月、TSUTAYAの名盤復活コーナーに待望だった「サッドヒルを掘り返せ」という作品が入荷されました。 

サッドヒルを掘り返せ(字幕版)

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  • 発売日: 2020/03/11
  • メディア: Prime Video
 

 ↑「続・夕陽のガンマン」のファンが、埋没したロケ地を復活させるという昨年日本でも劇場公開されたドキュメンタリー映画です。

 

子供に戻ったかのように、大はしゃぎするファンたちにこちらも胸がアツくなり、改めて知るメイキング的内容にも大満足、構成もお洒落で非常によく出来た1本でした。

 

10代の頃…自宅で夜中1人「続・夕陽」を鑑賞したとき「こんなに面白い映画はない!」「最高の映画を今みている!」と思った興奮が今も身体に残っているような感じですが、老若男女問わず好きな人にはとことん刺さるという作品なんだと思います。

 

邦題の「続・夕陽のガンマン」、最初は「続編じゃないのに」と思ってしまったけれど、三つ巴の二転三転ストーリーは「夕陽」を大きく受け継いでいて、”続”というタイトルも案外相応しいものなのかもと、後から思いました。

 

マカロニ・ウエスタン初心者が観る「夕陽のガンマン」

西部劇ってとっつきにくいジャンルだよなあ、映画好きだった自分の親もあまり観なかったなあと思うのですが、高校生のときに観てハートを奪われたのが、この「夕陽のガンマン」。

タランティーノ映画の元ネタ追いや、当時読んでいた「映画秘宝」という雑誌の中で、マカロニ・ウエスタンという言葉を知り、何となく借りてみた1本だったのですが、その世界観にシビれ、「この世にクリント・イーストウッドよりカッコいい男がいるのか!!」と愕然となってしまいました。

なかなかハードルが高いように思われるこのジャンル。自分も沢山観れてはいないのですが、とにかく最初にみた「夕陽のガンマン」はすごく面白かった!!と感想を語ってみたいと思います。

 


◆マカロニ・ウエスタンって何だ!?

読み飛ばし可な軽い内容ですが、少しだけこのジャンルの説明的なのを…。

自分はアメリカの西部劇もあまり観ていなくて、「結局マカロニっていうのはイタリアがつくった西部劇ってことなんだよね??」という認識だったのですが、以前とある上映会で詳しい人が説明してくださったお話でとても面白いのがありました。

 

例えばアメリカの西部劇、ジョン・ウェインの「アラモ」では、川下りのシーンで、「みんな銃を頭上に掲げている」と。

 

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それに対して、マカロニの「続・夕陽のガンマン」という作品では、登場人物が浴槽から銃を取り出してバンバン撃つ。

 

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火薬しけるだろー!!って話してて、ホンマや、そんなん思いつかんかったわ、と爆笑してしてしまいました。

要するに、

・真面目に作ってるのがアメリカの西部劇
・面白ければ何でもいいのがマカロニ・ウエスタン

だというんですね。

大雑把なライン引きではあると思いますが、マカロニってそんな感じ!!とすごくイメージのつく楽しい説明でした。

ちなみに作家の池波正太郎先生はエッセイで、「女性が良妻賢母なのがアメリカ西部劇、女性が強姦されるのがマカロニ」なのだと大っぴらに語っていました。そんなもんなのかな(笑)。


さて、マカロニ・ウエスタンの中で、「夕陽のガンマン」の監督であるセルジオ・レオーネは、1964年公開の「荒野の用心棒」をきっかけに爆発的マカロニブームをもたらした人であります。が・・・

個人的には、レオーネ作品を観た後で、その他のマカロニ作品を観ると、ちょっと毛色が違うなあと思ったりしました。

何というか、レオーネ作品は他の作品より、美しく、格が高い感じがするというか…。


「レオーネは、単純なエンタメを超えて、戦争の愚かしさを描いたり、人間ドラマを展開させたりしていて、厳密にいうとマカロニとはいえない。」・・・なんて議論もあったのだと、映画秘宝だったか以前どこかで読んだ記憶があります。

1作品撮るごとにアメリカ映画の巨匠の階段を登っていったレオーネ作品…。

 

しかし「夕陽のガンマン」に関しては、ドラマは〝個人の復讐〟がテーマで、あくまでエンタメに特化している、マカロニらしいマカロニといえるのではないかなと思います。

順序的には「荒野の用心棒」が先だけど、「夕陽」の方がずっと面白いし、入りやすいんじゃないだろうか…。とにかく西部劇みなれてない自分にも、すごく観やすい1本、それが「夕陽」でした。

 


◆めちゃくちゃ面白い「夕陽のガンマン

前置きはさておき、ここからは大好きな「夕陽のガンマン」の見所を語っていきたいと思います。

まず、主要登場人物3人が全員イケメン…って軽い言い方ですが、ダンディーな男前おじさんばっかりです!!

 

まずは汽車での登場シーンからシビれてしまうダグラス・モーティマー大佐(リー・ヴァン・クリーフ)。

 

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すごく個性的な顔立ちですが、彫刻で彫ったような美形だと思います。

 

全身黒の衣装に、スラッと高い身長、ギラリとした眼光。なんとも絵になるその姿…!!

 

もう1人は大スター、めちゃハンサムなクリント・イーストウッド。当時35歳…テレビ俳優やったあとのマカロニと遅咲きだったんですねー。

 

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リー・ヴァン・クリーフと並ぶ俳優さんは甘めのマスクのイケメンだとお互いを引き立て合うなあ、なんて思ったりしますが、正統派イケメンでかつ渋い風格を漂わせる〝名無し〟(モンコ)も滅茶苦茶カッコいいです。

 

そして…リー・ヴァンのモーティマー大佐とイーストウッドのモンコが手を組んで追いかける賞金首がジャン・マリア・ヴォロンテ演じるインディオ

 

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この人もよく見るとかなり男前じゃないでしょうか。緑がかった瞳の色が何とも綺麗で魅せられてしまいます。

 

主演陣の迫力もさることながら、悪役からほんのちょっとしか映らない脇役に至るまで、〝人の顔がすごく面白い〟!!

 

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誰か知らんけど、冒頭大佐に殺される悪役の何ともいえない顔つき。



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大佐vsクラウス・キンスキー。すごい顔圧の2人!!

 

基本マカロニの世界観は、モラルもへったくれもないような世界で、男が自分のガンさばきだけを頼りに生きていく…という大変厳しいものです。

〝人の必死で生きている顔〟というのがすごい迫力で伝わってくる映画だなーと思います。

 

そしてなんと言っても最大の見所は、男同士のタイマン、決闘、ガンさばきの対決となっています。

「夕陽」でカッチョええ〜とシビれたのは、有名な帽子撃ちのシーンですね。

大佐とモンコが町で邂逅して、モンコが挑発するように大佐の帽子をバキューンと撃って、大佐は何度もそれを拾いに行く。2人がかなり離れたら、もうモンコの弾丸は届かない距離で、大佐が見事に撃ち返してくる。

動きも台詞も極めて少ないシーンですが、「2人の凄腕っぷり」「大佐の冷静さ」が分かる。アニメ的ともいえる見せ方が斬新にみえました。

 

また大佐の持っている銃の銃身の方が長く、当然使う銃によって射程距離が変わる!!…そういうディティールの面白さも分かりやすく伝えてきてくれます。

 

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冒頭から改造銃をみせてくれていた大佐。すごい人がすごい武器持ってる!!というワクワク感。


〝帽子うちシーン〟はあえて音楽なしでキメてきますが、その他の決闘シーン(インディオvs裏切り者と、ラストのインディオvs大佐)は、モリコーネの音楽がオペラのようにジャンジャン鳴り響きます。

冒頭の軽快ながらどこか孤独感漂う口笛のテーマ曲もカッコいいですが、劇中で音と映像がシンクロしてグアーっと迫ってくるところがやっぱりすごい。

 

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クライマックス、「続・夕陽」とも似た構図ですが、まるで切り取った絵画のよう。

 

オルゴール音が重なってきて、管弦楽器が♫ファララーとくるところで、鳥肌がたってきます。


そしてモーティマー大佐が、実はお金目当てではなく、仇討ちのためにインディオを追っていたということが明らかになります。

極めて落ち着いた人物にみえた大佐ですが、奥底では物凄い熱い怒りと哀しみを持っていたんですね。

最後モンコの助太刀を受けての待ちに待った決闘の瞬間…鉄面皮だった大佐のみせる人間らしい涙ぐむ表情に物凄い色気を感じます…押し寄せる大佐萌え…。


対するインディオは大悪党ですが、この人もこの人で失った恋(といっていいのかな)があって、過去が忘れられず自暴自棄になって狂気に駆られている感がどこか哀しみをたたえていました。

インディオ、ホントはずっと死にたかったんじゃないだろうか…2人の男の人生に決着がついた決闘、実に渋い…!!

 

全編通してストーリーは三つ巴的な展開で二転三転あって普通に面白く、サラリと盛り込まれたバディもの要素。

友情よりも淡白…しかしお互い敬意を払いあうデキる男たちのパートナーシップ…ホントに漫画チックな世界観ですが、今観ても全く色褪せない面白さです…!!

 

 

最後に余談ですが、先に挙げた「アメリカ西部劇とマカロニの違いは〜」は、2010年にシアターN渋谷で開催されたマカロニ・ウエスタン50周年記念、ディ・モールト映画祭で伺ったお話です。

 

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なかなか西部劇はビデオ屋さんの品揃えも悪く、観にくいところがあったりしますが、この上映会は全30作品を14日間で上映(レオーネはなし)という貴重な機会でした。

土日の4回分の上映しか行けなかったのですが、トークショー付きの回もあって、ロケ地のスペシャリスト、銃火器の専門家というように、ディティールを追いかける昔からのファンの方たちの物凄い熱量も感じることができました。

でも自分みたいな「カッコいいおっさんたまらん!!」というお気楽な見方でも単純にめちゃくちゃ楽しめる映画です。

 

それにしても・・・その後にみた「続・夕陽のガンマン」がまた更に面白いとは全く予想だにしておりませんでした…。