どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「デビルスピーク」…犬に手を出すいじめっ子はヤッチマイナー!!

陸軍士官学校を舞台にした男の子版「キャリー」ともいうべきいじめられっ子の復讐劇ですが、悲壮感なく楽しくみれるB級ホラー。

81年公開作品とは思えないほどアイデアに溢れスプラッタ描写も秀逸、個人的には大喝采したくなる傑作です。

 

学園モノかと思いきや、中世のキリスト教異端審問という意外すぎる場面からスタート。

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サタンを信仰する黒衣の男がいけにえの半裸美女の首を跳ねると、いきなり舞台が現代にとんでサッカー試合の場面になるのですが…

吹っ飛ぶ生首→宙をとぶサッカーボール・・・の場面転換が神がかったセンスで、「2001年宇宙の旅」みたいでかっちょいい!!

もう冒頭から傑作の予感しかありません。

 

主人公のスタンリー・クーパースミスは両親を交通事故で亡くした孤独な男の子で、同級生からいじめられる毎日を送っていました。

とろくて空気が読めないすんごい独特のオーラの持ち主ではある。

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演じるのはロン・ハワード実弟、クリント・ハワード。

「キャリー」は環境が違えば違う人生があったのに、と悔しい思いになりますが、クーパースミスは3回生まれ変わってもクーパースミスなんだろうなと思わせる底力があります。

でも病気の子犬を可愛がる優しい心の持ち主でもあって、どこか憎めない応援したくなる系男子…!

 

陸軍士官学校なのにミッションスクールだというよく分からんこの学校、生徒はみんな覇気がなく、先生は差別的で感じの悪い人ばかり。

なんと実は冒頭にでてきたサタニスト、エステバンが建てた学校で、チャペルの下には人知れず悪魔崇拝の墓標が…というとんでもない学校です。

偶然チャペルの地下から悪魔の古書をみつけたクーパースミスはコンピュータでその内容を解析するのですが…

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ラテン語を打ち込んだら即英語に翻訳!!ってそんなエキサイト先生みたいな技術が81年にあるんかい!!

…ってどうやら悪魔がコンピュータを介して交信してきた模様。

次第にいけにえ召喚を要求する悪魔コンピュータ。女神転生っぽい悪魔召喚システムが時代の先を行っててすごくいいですね。

 

そんな中いじめっ子たちが暴走してクーパースミスの飼っていた子犬が殺されてしまいます。

なっ!何をするだァー!!ゆるさんッ!!

クライマックスは惨劇へと一気に突入…!

 

意外にも犬の殺害シーンはほとんど映らず、犬好きも耐えれるやさしめなつくりなのは嬉しいところ。

しかし人間には一切の容赦がなく、豚に食べられる、内臓掻き出される、首チョンパ、脳天直撃などスプラッタ描写がハデに炸裂。

低予算映画のはずなのにチープさをさほど感じないほど撮影や音楽の出来栄えがよく、とくに悪魔がクーパースミスに憑依する場面…CGのない時代なのに鏡を反射させて撮ったという見事な工夫で、エステバンの顔が浮き上がってくる演出は秀逸です。

そして、炎の中宙に浮いたクーパースミスが剣を持って迫ってくる場面も圧巻で、ヤッチマイナー!!と叫びたくなります。

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ここはワイヤで吊ってるの丸わかりだけど、スススーって来るのが逆に神々しい。

いじめっ子の生徒たちは皆たるんだ顔つきで、教員陣の面々はまるでナチスドイツものに出てきそうな強面連中というキャスティングも面白いですね。

食堂の裸エプロンのおじさんが癒し…!

 

 「キャリー」とは違って娯楽に振り切っているけど、とにかく楽しいホラーです。

 

「野獣教師」…トム・ベレンジャーの金八先生

プラトーン」と「山猫は眠らない」のせいか軍人役のイメージが強いトム・ベレンジャーが教師役に挑戦…!のB級アクションムービー。

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プロの傭兵・シェイルは麻薬組織の殲滅ミッションから解雇され次の仕事を探していた。

そんな折、高校教師の恋人が何者かに暴行を受けて休職してしまう。

荒れた学校に疑いの目を向けたシェイルは身分を偽って代理教師として赴任、やがて学校と麻薬組織とのつながりを掴んでいく…。

結局兵士役なんかーい!なトム・べレンジャー。

不良生徒たちとぶつかりあって心を通わせていく感動作への道は険しく、学校の荒れっぷりがなかなかにすさまじいです。

生徒がナイフや銃で襲ってくるというハードモードな洗礼をアクションで蹴散らしていく、グレート・ティーチャー・ベレンジャー。

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防弾チョッキ着といて助かったぜ。

 

一見ハチャメチャに思える作品ですが、意外にアメリカの暗部にスポットを当てた社会派ドラマな一面もあるように思います。

マイアミの公立校と思われるこの学校ですが、

・学校はフェンスで囲われ、入り口には金属探知機が設置されている。
・高校生なのに子持ちの生徒がたくさんいる。
・学力が極端に低い。

自分はアメリカに住んだこともないしアメリカ社会のこともよく分からんのですが、本作の学校は昔読んだこの本のイメージと重なりました。

ニューヨークの荒れ果てた学校に赴任した教師のドキュメント。

この先生も身の危険を感じて学校に銃や防弾チョッキを持って行ったりしていて、その上貧困層の生徒の学力は驚くほど低いと語っていてショッキングな内容でした。

ベトナム戦争の敵はヒトラー」というギャグのような台詞も、「不良になって麻薬がらみの仕事をしなければ最低賃金で働くだけだ」という生徒のつぶやきも、格差をあらわしたリアルなものに思えます。

 

開始早々バレバレで話が進んでいきますが、学校の治安を悪化させていた黒幕は校長先生。

この悪徳校長は黒人で、元警察官から教育の道に進んだ人物なのですが、(警官時代は)「家が焼かれたり、友人が逮捕されたりした」という台詞が重たい…。

暴動の際にはときに仲間を逮捕しなければならず、挙げ句には身内から恨まれる…
努力しても簡単に報われず、ダークサイドに堕ちるだけの何かがあったんだろうなー思わせる、なかなか味のある悪役なのもよかったです。

 

大人は更生しないけど、生徒たちの中にはベレンジャー先生と心を交わし慕う子たちも出てくる…。

ボンクラ映画のようでいて意外に浮ついてない、真面目さを感じる作品。改めてみても良く出来ているなあと思いました。


クライマックスには、ギャング団vsベレンジャー率いる元傭兵団のミリタリーアクションが炸裂!!

夜の学校を疾走、校舎を軽く破壊しながらドンパチをやって終わるというここはスッキリした仕上がりになっています。

 

96年公開のこの作品、ずーっと国内DVD化がなされておらずVHSのみしか存在していなかったのですが、この夏U-NEXTでめでたく配信が開始されました。

(今月公開の「山猫は眠らない」のプロモーションだったりするのかな)

TSUTAYA名盤復活とかに入れるほどの名作かといわれるとビミョーだけど、なんかヒカるもんがあるアクションドラマ。

久々にみれて嬉しい限りです。

 

「メジャーリーグ」…出てくるだけで面白いチャーリー・シーン

89年に大ヒットした野球コメディ映画。

スポ根モノの感動作とよぶにはドラマが軽すぎるけど、コメディとしてはよく出来ててゲラゲラ笑って楽しめる良作。

メジャーリーグ [DVD]

メジャーリーグ [DVD]

  • 発売日: 2004/03/05
  • メディア: エレクトロニクス
 

クリーブランド・インディアンスは34年も優勝から遠ざかっている弱小球団。

亡き夫の後を継いだ新オーナーのレイチェルはなかなかの悪女で、本拠地への移転を叶えるためだけに、わざとチームを負け越しさせようとたくらむ。

そのために集められた選手は問題児ばかりだった…。

寄せ集め集団が一致団結して勝利していくという王道展開ですが、変人だらけのメンバーがおかしくて野球シーン以外の方が面白かったりして…。

 

最大の問題児はチャーリー・シーン演じるリッキー。

刑務所から出所したばかりのところをスカウトされるという本人っぽいリアリティ。

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ギラついた目が怖いけど、髪はお茶目なカボチャ刈り…!!

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160キロ近い球速を繰り出す豪速球投手ですが、球のコントロールは最悪…しかし途中でなんと近眼だったことが判明。

メガネかけただけでめちゃくちゃ出来る子に…というアホみたいな展開に笑うしかありません。

 

他のメンバーも皆んなキャラが立っていて曲者揃い。

キューバから来たブードゥー教信者のセラノは、キリスト教信者のハリスともめて宗教戦争勃発…!!

「いけにえのニワトリをくれ。」→ケンタッキーフライドチキン差し出される流れにも爆笑。

 

バッティングは下手だけど、華麗な俊足を見せるのはウェズリー・スナイプス演じるウィリー・メイズ・ヘイズ。

のちに「ブレイド」になるとは思えないお調子者キャラだけど、おじさんのたるんだ裸体が多い中1番引き締まったいい身体してるー!!

 

物語的な主役は一応トム・ベレンジャー演じるジェイクで、膝を痛めてキャリアが低迷したかつてのスター選手。

チームの中では頼れる兄貴キャラなのに、プライベートでは別れた元カノ(レネ・ルッソ)に未練タラタラというかなり面倒臭い男。

魅力的なおじさんキャラが多いので、女性は無理に話に絡ませなくても良かったかも…

ストーカーにしか見えない粘着&略奪愛ドラマを、湿っぽいBGM流しつつ真剣ラブだとやり切ってしまうところも、ある意味80年代の豪快さなのかもしれませんが…


途中まったりしつつもラストの対ヤンキース戦は大盛り上がり!!

エキストラの観客は今だとCGになるんでしょうけど、ホンモノの人で埋め尽くされたスタジアムの映像は迫力いっぱい。

弱小チームの奇跡に沸いて、大合唱「Wild Thing」でチャーリー・シーンが登板する場面は色褪せず胸が高鳴ります。

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20代のチャーリー・シーン、どうみても危ない男だけど、子犬みたいな目しててかわいい。

80年代ムービーらしさに今みても笑えてスカッと元気が出ます。

 

貴志祐介「黒い家」…”おかしな人”に疲弊するサラリーマンの恐怖

生命保険会社で働く主人公・若槻はある日顧客の家に呼び出され、子供の死体の第一発見者となってしまう。

ほどなくして両親から保険金が請求されるも、発見時の不可解な点から、若槻は金目当てで継父が殺害したのではと疑い、独自の調査に乗り出す…。

黒い家 (角川ホラー文庫)

黒い家 (角川ホラー文庫)

 

〝保険金目当ての殺人〟という胸の悪くなる題材ですが、過去に保険会社に勤めていたという著者ならではのリアリティがあり、引き込まれて読んだサスペンス小説でした。

 


◆疲弊するサラリーマンが1番怖い

入社以来5年間外国債権を扱う部署に勤務していた若槻は、人事異動によって、初めて顧客と直で接する保険会社の現場で働くことになります。

やはり世の中には悪い人たちがいて、騙してゴネてお金をとろうという人たちも客としてやって来る。

接客業など、あらゆる人に応対しなければならない仕事…医療や行政関係の現場の人たちも同じかと思いますが、そういう仕事で感じ得る恐怖が身近なものとして描かれています。

半ば趣味のようにして、どうでもいいことで支社の窓口に難癖をつけに来る男だった。
いくら高姿勢で怒鳴られても、保険会社側はていねいな応対をせざるを得ない。

それが病みつきになり、日頃自分が社会から疎外されている鬱憤をひそかに晴らしているのだ。

モンスタークレーマーの人たちにも「お客様は神様」という悪しき風習のもと、馬鹿丁寧に接しなければならない…脅迫まがいのことをいってくる人間もいる…そのストレスにこちらもキリキリしてしまいます。


しかし保険会社側を一方的な被害者とも描いてはいないのが面白いところ。

営業成績達成のため、理不尽なノルマを押し付けられた現場の人たちが、ろくに調査もせず、本来なら加入すべきでない条件の人も次々に引き入れてしまっていた…そういう蓄積が次世代の主人公の下に負の遺産となって押しつけられる…目先の利益だけを追いかけるずさんな会社の実態も描かれます。

 

しかし真面目な主人公は会社に弱音を吐かない。

遺族から早く金を払えとストーカーのように粘着され、メンタルを病んでもなお仕事を着々とこなす。 

人事課は若槻のひ弱さを嗤い、到底激務には耐え得ないという評価を記録に残すだろう。

人事異動の季節でもない中途半端な時期に突然本社に帰ってきた人間の姿を思い出すと、たちまち気は萎んだ。

彼らは一様に背中を丸め、昼休みになると1人で昼食を食べに出ていくのだ。

一度でも弱音を吐けばそれが烙印となってしまう…同調圧力の強い会社の中で自分を壊しながら働かなければならない主人公の姿が何よりも恐ろしくうつります。

 

 

◆犯罪者は遺伝か環境か

お仕事ドラマとして陰鬱なリアリティを描き出しつつ、サイコスリラー要素、謎解き要素、スラッシャーものと複数のサスペンス要素が展開して緊張が途切れず、一気に読みたくなる小説です。

 

子供の親が殺人犯だと確信した若槻は、助言を求めて母校の心理学研究室を訪れるのですが、そこで持ち上げられるのが小学校の作文。

何か事件が起こると犯人像を掴もうと、「学生のときはこんな子だったらしい」などとニュースで下世話に報道されることがありますが、疑わしい人物の過去の作文を調べるんですね。

これがまたすごい不気味な文で、「羊たちの沈黙」的プロファイルが展開するのも面白いです。

 

心理学の専門家の1人が問う「サイコパスは遺伝か環境か」は暗く重たいテーマ。

本作では「こういう意見もある」と議論を抜粋しただけで、明確な答えを出しているわけではないのですが…
事件の真相としては「環境によって歪んだ人間の方が真犯人だった」というところに話が落ち着くので、後味が悪すぎないところも含めて上手いなあと思いました。


・「自分の欲求を満たすことだけに終始する人」が増えているという感覚

・そういう人たちを簡単に〝おかしな連中だ〟とレッテル貼りして切り捨てようとする姿勢

差別的に思える専門家の主張の中には、自分も似たようなことを思っているかも…と鏡をみたような嫌な気持ちにさせられます。

重要な役どころである主人公の彼女が強メンタルすぎるのと、警察が無能すぎるところがちょっと残念なのですが、「こんな未解決事件があるのかも」と思わせる怖さは充分でした。

 

1つ事件が解決してもモラルを喰いつくそうとする悪しき輩はどんどんやって来る…ラストはまさに「俺たちの戦いはこれからだ!」エンディング。

一応主人公は生命保険というシステムに再び希望を見出してもいるので、貴志祐介作品の中では意外と明るめな!?幕引きなのかなあと思いました。

 


話題になっていたらしい映画版ですが、こちらは全く面白くなかった…。

黒い家

黒い家

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

妙に演出だけに拘って、仕事ドラマの内容が全く響いてこない。俳優さんもみんな合ってなくて、若槻は抜けてるとこもあるけど優等生キャラなのが魅力なのに、映画だと間抜けにしかみえないのが残念でした。

大竹しのぶの怪演だけは見ものかもしれませんが、でも全く菰田幸子のイメージではなかったです…小説の彼女はあんなもんじゃないよ!!

 

バブル崩壊後の閉塞感、陰惨な殺人事件が話題になっていた90年代の空気。

当時を色濃く反映した作品かと思いますが、今読んでも古さを感じさせない面白さがありました。

 

「学校の怪談」の思い出/夏にみたい良作ジュブナイル・ホラー

自分が子供の頃、トイレの花子さん口裂け女といった怪談話が一大ブームとなっていました。

3番目のトイレには花子さんがいる…1番目と2番目にも誰かいるらしい…じゃあどこに入ったらいいんだよって位塞がっていました(笑)。

自分はトイレに1人で行けなくなるようなことはなかったけど、通っていた小学校の校舎がとても古かったので、人気のない校舎の不気味さ…放課後の見回り当番のときなどは怪談話がふと頭をよぎって怖かった憶えがあります。

 

有名な怪談エピソードの中で自分が1番不気味に思っていたのは「メリーさん」でした。

電話が突然何度もかかってきて、それとともにメリーさんとやらが殺人鬼の如く少しずつ近づいてくる…。

「スクリーム」や「暗闇にベルが鳴る」の類型にも思える怪談ですが、家に1人でいるときに掛かってくる電話ってそれだけで不安感があったから、これも上手く作られたお話だなあと思います。

 

誰かが意図的に作った創作なのか、出所がわからないというところも怪談の不気味さだったのかもしれませんが、こんな独特の挿絵のついた緑色の表紙の本もクラス内ですごく流行っていました。

学校の怪談(1) (講談社KK文庫)

学校の怪談(1) (講談社KK文庫)

 

短編集の如く、怖い話がたくさん載っていた本。


人面犬などファンタジックな話が多かった中、不思議なエピソードが1つ、うろ覚えながら心に残っています。

耳にピアスをあけた女の子の耳が突然痛くなって、耳を触ると突然白い糸が引けてきた。なんとそれは神経の糸で、女の子は耳が聞こえなくなってしまう…。

大きくなって思い返すと「神経が出てくるってどういうことよ!?」と笑ってしまうし、「勝手にピアスあけたら危険だと大人が都合よく作った教訓話的エピソードだったのかもしれない。」なんて思ったりするのですが…

子供の頃はそんなことがあり得るのかもと信じてしまう、ヒヤッとする怖さがありました。

 

一大ブームの中で多方にメディアミックス展開されていたのか、「学校の怪談」は映画にもなっていました。

学校の怪談  [東宝DVD名作セレクション]

学校の怪談 [東宝DVD名作セレクション]

  • 発売日: 2015/08/19
  • メディア: DVD
 

友達の家でビデオで観たのですが、子供の頃からあまり邦画を観ていなかった自分にも刺さって、意外なくらいすっごく面白かったです。

 

恐怖度でいえば、ネタ元の怪談話の方がずっと怖いというレベルでかなりマイルドにつくられたホラー。

でも雰囲気的には「イット」や「グーニーズ」っぽいというか、子供たちが力を合わせて怪談に立ち向かうジュブナイルもので、観ていてすごく楽しかったです。

夏休みを翌日に控えた小学校。立入禁止の旧校舎に偶然入ってしまった5人の生徒が、怪異に襲われながらも必死に脱出を試みる…。

たったそれだけのお話だけど、子供たちがザ・子役してなくて、美形が揃ってるわけでもない。すごく自然体な演技で今みても素晴らしいです。

 

親が留守がちで家のことを任されている長女のお姉ちゃんは、そのストレスから時々妹に辛く当たってしまうことを悩んでいる…。

子供の心を丁寧に見つめたキャラクターがいたりしてお話も上手い。

上級生に敬語で話しかける礼儀正しい下級生キャラ、ついついケンカ腰で話しちゃう男子と女子…小学生あるある/子供の世界が見事に再現されています。


一応途中から大人も登場するのですが、先生がものすごく頼りない人で絶妙にイライラさせてくれるところも含めてオモロイです。

 

登場する〝怪談〟は、メリーさん、花子さん、口裂け女といったメジャーどころもあるけど出番はごく僅かで、知らない怪談の方が目をひきました。

3回怒らせるとバケモノに変身してしまう用務員のおじさん。

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洋画のホラーの方がずっとリアルで怖いと思っていたけど、「物体X」っぽく変身するのにはドキドキ。


そして1番面白かったのは、教室の天地が逆転して、テケテケという霊が上から机とかを落としにくるところ。

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嫌な攻撃だなあ、上下反対の画が面白いなあとワクワクしました。

久石譲ジェリー・ゴールドスミスをちょっと足したような音楽も素晴らしい…!

CGは総じてしょぼいのですが、その稚拙さも含めて子供らしいファンタジックな世界観として楽しめてしまいます。

 

ラストは”お別れ”と子供たちの真摯さにほろっ…。

小学生のときの友達…何も考えずつるんで遊んでた瞬間って本当特別な時間だよなーと「スタンド・バイ・ミー」のような切なさが込み上げてきます。

 

怪談話を真面目に怖がれるのはある種の純粋さがあるからこそで、自分はそういう系統のホラーを楽しむ気持ちをすっかり失くしてしまってるなあと思うのですが…

学校の怪談」はある種の童心に一瞬返してくれる映画として、大人になって観ても充分楽しめる作品じゃないかと思いました。

 

劇場版 学校の怪談 DVD-BOX

劇場版 学校の怪談 DVD-BOX

  • 発売日: 2004/07/30
  • メディア: DVD
 

なんとシリーズ4作あったんですね…!!2は観た記憶があって、よりコメディっぽかった印象があります。3と4もそれぞれ評価が高いようで気になるなあ…。


子供の頃に出会った、怖さという点で強烈な印象を残したホラーというのは別にあるけど、この「学校の怪談」は心洗われるような貴重な思い出作品です。

 

「オペラ座 血の喝采」…アルジェントの目玉いたぶり変態プレイ

フェノミナ」以降、ジャーロもの路線に回帰するも「サスペリア2」のような伏線を回収する鮮やかなサスペンスはみられず、サイコホラーにファンタジーが混じったような、よー分からん作品が多い気がするアルジェント。

でも撮りたい画ありきで好き放題やってるのが観てて楽しかったりして…

オペラ座 血の喝采 完全版 [Blu-ray]

オペラ座 血の喝采 完全版 [Blu-ray]

  • 発売日: 2014/07/25
  • メディア: Blu-ray
 

この「オペラ座血の喝采」はオペラの荘厳な雰囲気に展開するグロシーンがハイセンスにみえてくる、もう映像だけでお腹いっぱいな作品でした。

 

イタリアのミラノスカラ座で上映されるオペラ「マクベス」の主演女優が事故で負傷。代わりに舞台に立ったベティは大成功を収めるものの、関係者が次々に殺されていく…。

オペラ座の怪人」をトレースしたようなストーリーですが、本作で殺人シーンそのものよりエグいのは、拘束されるヒロインの処遇。

犯人は「殺人を主人公にみせつける」ことに興奮する変態さんで、その目が決して閉じられないようにと、目の下に針を貼り付けられます。

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なんて悪趣味なんだ!

ルチオ・フルチの目玉串刺しより、こっちの方がみててキリキリします。目の周りに血が滲んでるとことか痛々しい…こんなの思い付くアルジェントが変態やな。

 

殺される人物で1番印象的なのは友人ミラ役を演じたダリア・ニコロディでしょうか。

犯人を確かめようと鍵穴を覗いた瞬間、目ごと頭部を吹き飛ばされるシーンは、スローモーションがやたらキレーにみえてしまいます。

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それにしても元妻になんたる酷い仕打ち…!

 

そして何といっても1番の見所はカラスを使った撮影。

劇中上演されるオペラは〝生きたカラスを劇場に飛ばす〟という斬新な演出にチャレンジしていて、カラスの視点から始まるカメラワークが面白くて引き込まれます。

この設定がストーリーにも生かされ、同胞を殺された目撃者のカラスを利用して犯人を指差ししてもらう…クライマックスにて展開する大胆な作戦が面白い!

カラスの目視点のカメラが、空中から客席めがけて回転するように迫っていくシーンは大迫力です。

ヒッチコックの「鳥」へのオマージュなのか眼球つつきシーンもCGでない本物の鳥を使っているからか、一層痛々しくうつります。

 


映像的な見所だけでなく、ストーリーも鬱屈した家族関係を匂わせていて個人的にはとっても好み。(以下ネタバレ)

 

真犯人はかつてベティの母親と恋仲で、その母親に頼まれて殺人をするようになったと。

お母さんは「自ら手を下さず殺人をみるのが趣味」という倒錯志向の人で、犯人は娘も同じだろうと昔のプレイをやりに来たっていう…よくよく考えると犯人は「悦ぶと思ってやった」という悪意のない奴なのが気持ち悪くていいですね。

 

ヒロイン役、クリスチーナ・マルシラックは、華奢で童顔だけど意志の強そうな感じのする美人。

他人が殺されても案外動じず、果敢に犯人に向かっていき、「死んだお母さんと一緒にしないでよ!」とトラウマ克服ドラマにも見えてくるのが不思議な爽快感です。

最後に屈折した男を見捨てて現実をとるというところも、「オペラ座の怪人」をトレースしてる感じがします。

 

衣装に付いてた金のブレスレット何だったんだよ、犯人あの状況でマネキンを死体に見せかけて脱出って地獄の傀儡師かよ、と真面目にみたらツッコミが止まらないんですが…。

支離滅裂だけど、お隣さんの女の子と通風口這って逃げてくシーンや、「サウンド・オブ・ミュージック」な景色の中殺人鬼と鬼ごっこするシーンなど、シュールでファンタジックで夢見心地にさせてくれる映像の世界になぜか見入ってしまいます。


ラスト唐突に流れる男性ナレーションのポエム。

「もう誰にも会いたくない。完全に消え去りたい。なぜなら私は彼らと全く違う異質の存在だから。」

あれもヒロインの心の呟きなのかまったく意味不明ですが、アルジェントに「こういう映画撮ってる僕の気持ち、お前らにわかるか、フン」と言われてるみたいで、そんな変態プレイに巻き込まれるのが楽しい1作でした。

 

「VHSテープを巻き戻せ!」…物理メディア消失への危機感

80年代生まれの自分は幼少期から自宅にビデオデッキがあったビデオ世代で、親が映画好きだったこともあって子供の頃からレンタルビデオ店に毎週通っていました。

ズラッと並ぶパッケージにワクワク、まるで宝探しのような遊び場でした。

今では見られなくなった等身大の大きなポップ、貸出中のビデオに付けられるゴムバンド、店長のオススメ!と書かれたシール…昔のビデオ屋さんの雰囲気は思い出しただけで愛おしいものがこみ上げてきます。

 

2000年を過ぎた頃からはTSUTAYAの台頭がめざましく、大好きだった地元のレンタルショップはほぼ全滅。

しかしその後関東に住まいを移した私が夢中になったのは地元とは比べものにならない品揃えを誇ったTSUTAYAで、カルト作品を多く保有していた新宿店には一時期熱心に通った思い出があります。

また秋葉原に行ってはワゴンセールで100円で叩き売りされているようなVHSテープを発掘するのもささやかな楽しみでした。

 

VHSテープを巻き戻せ!

VHSテープを巻き戻せ!

  • メディア: Prime Video
 

この「VHSをテープを巻き戻せ!」は自分と同世代の監督が2013年に撮ったドキュメンタリーなのですが、ビデオ世代は懐かしさと喪失感で胸いっぱいになること必至…!

VHS vsベータの歴史の流れも分かりやすく知れたりして、最初は映画じゃなくて、テレビ録画できることが革命だったんだなあ、当時のデッキのCMとか今みてもすごいロマンが伝わってきます。

その後映画をホームビデオとして販売することを思い付いた人たちによって一大ビジネスが始まるわけですが、映画館だと館数がモノをいうけどビデオだとパッケージとして皆一列に並ぶからどんな作品にもチャンスがあったと。

 

低予算でも多くの人に見てもらえるチャンスを得たことで作り手側の自由を生み出したVHS。

それが80年代のホラー映画ブーム、続いてはVシネマの躍進を主導していったのだと、この辺の流れもすごく分かりよくて面白いです。

フランク・ヘネンロッター(「バスケットケース」)やチャールズ・バンド(「パペットマスター」)といったホラー映画ファンニッコリな人たちも出演しつつ、意外に日本人の出演者も多く、アニメ代表として押井守監督、あとはAV業界の方々も…。

 

普及に貢献したのはエロ!と言い切る人もいて、こういうメディアの普及は結局そこに懸かっているんだろうなあと納得。

「画面に筋が出たら2秒後におっぱい!」には笑ってしまいました。

人々の見た“記録〟が物理的にそのモノ自体に残ってしまうのもVHSの味の1つなんですね。

自分もテレビ放映されたのを録画した「魔宮の伝説」のトロッコのシーンだけを繰り返し見て、もう線が入ってボロボロになってしまったけれど、無限にみれないというところもVHSというものの愛しさなのかもしれません。

 


笑って楽しく見れるドキュメンタリーですが最終的にこの監督が訴えているメッセージ…物理メディア消失への危機感には自分はすごーく共感するものがありました。

ネトフリやAmazonが主権を握るようになった昨今の映画鑑賞。

その世代世代で文化に違いがあるのは当然のことだと思うし、そもそもVHSだって「映画は映画館でみるもの」だった淀川長治さんの世代のようなファンからすれば、危惧すべき変化の流れだったのかもしれません。

自分は今だに地域のレンタル店を利用していますが、このコロナ禍もあって最近本格的に配信サービスも利用し始めました。

いやーコストも時間もかからないし、作品も思ったよりずっと充実していてレンタル店にない作品が簡単にみれる。本当に素晴らしいの一言に尽きます。

なんといってもこの作品だって配信でみたのだし(笑)。

 

しかし、「配信の浸透、物理メディアの消失は映画会社にとって最も望ましいもの」という本作の言葉にはハッとするものがありました。

配信であれば権利者の圧倒的力で簡単に奪い与えることができる…と。

 

ネトフリでもAmazonでも画面を開いたときに一斉に現れるオススメは便利な反面、“他人に管理されている“感を感じるときがあります。

気付かぬうちに偏った作品ばかりになっていて、自分が“洗脳〟されていたらどうしよう…なんて被害妄想がすぎるかもしれませんが。

でもKindleで「1984」を購入したのに契約が切れて読めなくなったと訴えているおじさんの主張、言いたい事なんか分かるなあと思いました。

ある日突然観れていたものが観れなくなることもある…配信は決していつでも手にとれるものではないというのは心に留めておきたいことのように思います。

 


昨今の視聴者が評価の高いものだけを追いかけがちだというのも分かる気がして、B級映画もみろとは言わないけど、そんなに良くない作品をみてこそ鍛えられる鑑賞眼みたいなものって自分もあるように思うんですよね。

この作品で語られている、パッケージやタイトルに騙されての「なんだよ、これ!」っていうレンタルビデオのくじ引き感とか、すごいノスタルジーです。

もっと面白い作品はないのかと自分から追い求めていく精神が失われているっていうのは、ここ何年か映画から完全に遠ざかっていた自分自身がまさにそうなっているなあと思って突き刺さるものがありました。 

 

 

少し前にネトフリを映画として認めるかみたいな議論が上がっていたとき、漠然と両方が映画として共存し得るのだろうと思っていました。

映画館とVHSが上手く共存できたように色んなかたちの選択肢が増えればいい…と明るく考えていたけど、2020年は本当にとんでもない年で多くの人にとって映画の観方が大きく変わってしまったような気もします。

ビデオグラムのことは市場が縮小してもなくなりはしない…とずっと思っていたけど、思った以上に業界の生き残りは厳しいのかなあ、特典映像や吹替といったプラスアルファも消えゆくものだと思うと寂しい気持ちになりますね。


もう7年前の作品ですが、映画がどんなかたちで残っていくのか…観ていて色々思いの巡る、とても見応えのある作品でした。