どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

ベルイマン「ある結婚の風景」鑑賞/泥沼夫婦のおかしな愛憎劇

「ミッドサマー」のアリ・アスター監督が影響を受けた作品らしく手にとってみました。

ある結婚の風景 オリジナル版 Blu-ray

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  • 発売日: 2015/05/22
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スウェーデンの巨匠、イングマール・ベルイマンが73年に撮ったテレビドラマで50分×6回、計5時間の大作。(3時間弱に短縮した劇場版もあるらしい)

難解なイメージがあって避けていたベルイマン作品でしたが、本作はありがちなテーマだったからか意外にサクサク観れました。

ほぼ夫婦の会話劇のみで占められてるのに全く退屈せず、普通に話していたと思ったらたった一言で険悪になるのにハラハラ…人物の印象が次々に裏切られていくのがスリリングでした。


主人公夫婦、マリアンとユーハンは結婚10年目。42歳のユーハンは心理学の助教授、35歳のマリアンは家族法専門の弁護士。

2人の娘と共に安定した生活を送る理想の夫婦として雑誌のインタビューを受けていました。

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冒頭から不穏な空気がムンムン。出会いについて夫は「恋愛結婚だった」と自信満々に語るも、妻は「きっかけは寂しさを埋めるためだった」と温度差がすごい(笑)。

インタビューの後日、マリアンは第3子を妊娠したとユーハンに告げますが、「大変な思いをするのは君だからね」と産むのか決めるのは任せると返されます。

こんなん言われたら絶対嫌だわー。

ところがマリアンも本当に子供が欲しいか分からないと悩み、夫婦は中絶を選びます。

やっぱり産む!って言ったあと、中絶手術後の場面にいきなり飛ぶのがめちゃくちゃ怖いです。

その後の夫婦関係はどこかギクシャク。危機を感じて話し合いたいマリアンを遠ざけるユーハン。想いを言語化して安心したい女性と、それを重たく感じる男性…夫婦あるあるな気がします。

しかし3話目で衝撃の展開が。

ユーハンがいきなり、「実は浮気してて、君との生活はもう耐えられないので出ていく」と別れを切り出します。

浮気相手は23歳の学生で、男運が悪い子だから自分が支えてやらなきゃいけないのだとか。

アホ男の言い分に呆れますが、夫に依存しまくってたマリアンは別れたくない!!と泣きつくもユーハンは家を出て行く…

しかし1年後、再会すると立場は逆転。

ユーハンは仕事が全く上手く行かず、若い恋人との関係も重たくなって別れたいとグチグチ。一方妻は新しい恋人をゲットして性生活も絶好調。仕事にも再婚にも前向きと生き生きとしていました。

 

どう考えても夫ユーハンが最低でざまあなんですが、通してみるとどっちか一方が悪いわけではないのかもと思わせる微妙な夫婦関係でした。

自信家と思いきや全然そうじゃなくて繊細な人だったユーハン。

思っていたような理想が仕事で実現できない。実家、休暇、イベントと家庭では同じことを繰り返さなければならない…恵まれているようですごくしんどかったのも分かる気がしました。

自分は若く見える、失うことが怖いと冒頭語っていたユーハンは人一倍老いを恐れていて、若い女性との浮気に走ったのも年取った自分を受け入れ難かったからなのかも。

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自分の弱さをどうにも認められず、「女性を支える強い男」を演じたせいで、マリアンに依存され、その次は若い恋人に依存され…と自滅していく姿が哀れにも思えました。

 

反対にマリアンは弱そうに見えて案外図太い人で、意図せず夫を傷つけてきたところが沢山あるように見えました。

「夫の浮気を友達にグチろうとしたら自分以外全員知ってたー」のシーンはいたたまれなさすぎでしたが、それだけ鈍感だったってことである意味すごいのかも。 

離婚後にユーハンと再会した際には「新しい夫とのセックスはすごい」と悪気0%で開けっぴろげに話して無自覚に元夫を傷つけていました。

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夫婦は隠し事をせずによく話し合った方がいいとはよく言うけれど、100%ぶつけたら相手はしんどいし、言い方もあるよねー、とそのさじ加減は難しいところだと思います。

家族だから理解し合えると愚直に想いをぶつけすぎてもお互い苦しくなるのかも。

ありのままでも隠してもそれが裏目にでて知らぬ間に傷つけてたりする…最も近い人間関係の怖さを感じるドラマでした。


マリアンが「出産後仕事をしていたときに責められた」と語る場面があったりと、時代背景からか”抑圧された女性ドラマ”みたいなのがベタといっていい位分かりやすくあちこちに散りばめられてたように思います。

てっきり最後もユーハンを捨てたマリアンの自立で終わるのだろうと思いきや、意外、最終話は密会不倫する元夫婦の姿で締め括られているのがビックリでした。

スウェーデンの恋愛結婚観、凡人の自分には理解が追いつきません(笑)。

でも自分の弱さを受け入れたユーハンは以前より穏やかそうでしたし、理解しあえない部分があってもその人の良さをみて愛せるようになったという2人の姿はハッピーエンドっぽい感じがしました。でもそれが離れた距離でしか成しえなかったんですね…

孤独を恐れては孤独を望むって自分勝手に思えますが、皆心の中にそんな思いはいくらか持ってるのかも…余韻の残るラストでした。

 

夫婦の問題は夫婦の問題ということなのか、ほぼ2人の会話劇のみで描き切っているからこそこの作品が面白いのだと思いますが、2人の子供たちは家族写真の撮影時に1度登場したきり、残りは一切登場しないというのが徹底していて凄かったです。

子供という存在を考えたらこの夫婦はフリーダムすぎじゃないか、子供を通した絆とかないのだろうかと思ったけど、北欧と日本とでは子供との距離感とか文化が全く違うんですかね。


依存的な関係を炙り出すところや、あまりにギスギスしすぎて1周まわって可笑しくみえてくるやり取りは「ミッドサマー」や「ヘレディタリー」に似ているように思いました。

ベルイマンの他の映画作品もみてみたい。

 

「魔界転生」…チャンバラが凄い!!Fateなオカルト時代劇

復讐するは我にあり…エロイムエッサイム…

太陽を盗んだ男」のジュリーに惚れ惚れしたので、もう1つの主演作「魔界転生」を鑑賞。

魔界転生(1981年)

魔界転生(1981年)

  • 発売日: 2015/08/01
  • メディア: Prime Video
 

この作品は前にも観たことがあるのですが、ジュリー以外も濃すぎる顔ぶれで目移りしてしまいます。

島原の乱で命を落とした天草四郎時貞が悪魔・ベルゼブブの力で復活!!
自分と同じく現生で無念の死を遂げた者たちを仲間に引き入れ、徳川幕府の世を転覆せんと企む。

ゲーム・アニメで有名なFateシリーズはこの「魔界転生」にインスパイアされたそうですが、歴史の有名人が復活してバトル!!っていう厨二感にワクワクが止まりません。

復活者が現生に未練のある人物というのは、漫画「ドリフターズ」の廃棄物チームがよぎります。

81年公開で監督は深作欣二東映の特撮技術に迫力の殺陣シーンと安い映画になってないのが凄い…!

 

冒頭は島原の乱の戦あとから幕開け、生首がそこかしこにあって完全にホラーな雰囲気。

復活したジュリー 、実際の天草四郎はもっと少年だったんでしょうが、妖しい美しさにゾクゾクします。

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「神はなぜ祈りに応えなかったのか」と怒り心頭で悪魔になっちゃう四郎様、極端やな。

自分たちを迫害した幕府を滅ぼしてやる!!とまずは仲間集めに奔走。

 

1人目の仲間は細川ガラシャ(佳那晃子)。
戦国大名細川忠興の妻。キリスト教に入信してからはつましさを求めて夫に淡白に振る舞うように。

「激しいキミが好きだったのに」…嫉妬させようと浮気に走る忠興→夫好きなのに素直になれず拗らせるガラシャ

その後三成軍が来てたった1人殺されてしまうガラシャ。ホントは寂しかったのによくも見捨てたわねー!! ツンデレというかヤンデレなところがたまりません。

 

2人目の仲間は宮本武蔵緒形拳)。
無敗伝説を誇る剣豪・武蔵。潔い男かと思いきや過去の女性に未練タラタラ。

さらには「そういや柳生親子と戦ってなかったなー」「オラ、もっと強え奴と戦いてえ!」と転生を決意。

緒方拳の顔のドアップ&モノローグで語られる武蔵の回想は、動きの少ない場面なのに唯ならぬ気迫を感じさせます。

 

3人目の仲間は宝蔵院胤舜室田日出男)。
仏門に入っていた武闘家。
「ホントはおなごの胸が揉みたかった」…煩悩にまみれて転生を決意。

女性の着物を剥ぎ取っては乱暴という救いようのないエロ坊主と化します。

 

4人目の仲間は伊賀の忍者・霧丸(真田広之)。
甲賀の里からの奇襲で無念の死を遂げ転生。

霧丸だけ有名人じゃなくない?と思うけど、ジュリーとの妖しげなキスシーンがあり。きっと四郎様のお好みだったのでしょう。(BL脳)


こうしてドリームチームをつくった四郎は作物が不作になるようにと呪いをかけ、ガラシャは大奥に紛れ込み家綱公を骨抜きに…世は混沌としていきます。

そんな中異変に気付いて立ち上がったのは、剣豪・柳生十兵衛千葉真一)。

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魔物を切るのはまた魔物だと妖刀・村雨をつくった刀鍛冶(丹波哲郎)を訪れ、新たな刀を手にして立ち向かう!!

 

本作で圧倒的に素晴らしいのは殺陣シーン。

大きな見所の1つは巌流島の決闘を再現したような武蔵vs十兵衛の戦いです。

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二刀流といわれた武蔵の剣術を再現し、風流な笛の音が鳴り響く中、波打ち際を横走りする2人が格好いい。
CGもワイヤーもなく役者さんの力量のみで撮られた迫真のチャンバラに圧倒されます。

 

そして最大の見せ場は柳生宗矩と十兵衛の親子バトル。

なんと幕府側だった十兵衛の父も闇堕ちして敵となっていました。

宗矩を演じるのは若山富三郎という勝新太郎のお兄さん。〝すとすとぴっちゃん〟じゃない方の「子連れ狼」で有名な方です。

身体が大きいのに動きはめちゃくちゃ素早いというとんでもない運動神経の持ち主で、大人数をバッタバッタと斬り伏せる若山富三郎のとんでもない立ち回りに目を奪われます。

十兵衛に迫る宗矩はどこか楽しそうで、彼の転生の理由は「息子と1回全力で戦ってみたかった」という身勝手すぎるものでした。

他の転生者もそうですが、歴史に名を残すような一角の人物でも死の間際には思うところがあるようで、「自分の人生になかったものを求めてしまう」のが何だか哀れにうつります。

甘い囁きで人の生き様を否定する蘇生者・四郎に十兵衛が「人の心の弱みにつけ込んで!」と怒るシーンは「鬼滅の刃」っぽいかも。

魔界転生」の復活者たちは色欲や名誉欲に囚われての闇堕ちが多く、より脆くて人間臭い感じがするのがいいですね。

 

ラストは大迫力の炎に包まれてのバトル!!
合成でもCGでもなく、実際に燃えてる中で撮影したとのこと。

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こんな絵よく実写で撮れたなあ、よく死人が出なかったなあとびっくりです。


裸体がポンポン出てくる映画で地上波向けではないと思いますが、漫画アニメ好きな今の若い層にもこの映画結構受けそうな気がします。

鬼滅の実写化をやるくらいなら、こちらを代わりに再上映するとかどうでしょう。

魔界転生 オリジナル・サウンドトラック

魔界転生 オリジナル・サウンドトラック

 

音楽もかなりいいのですが、なんとこの年末にCDが復活発売されるみたいですね。

二次元にも負けない美しさとアクションをみせる役者陣に圧倒の、今みても新鮮な時代劇でした。

 

カーチェイスシーンが好きな映画をあげてみる

先日鑑賞した「太陽を盗んだ男」のカーチェイスが素晴らしかったので、映画ファンあるあるネタ!? カーチェイスシーンが好きな作品をいくつか挙げてみたいと思います。

カーレース/カーアクションではなくカーチェイスだと思うものを取り上げました。

うろ覚えの作品も挟みつつな全15本…!


いつかギラギラする日 

いつかギラギラする日

いつかギラギラする日

  • 発売日: 2014/04/23
  • メディア: Prime Video
 

とんかつDJアゲ太郎も真っ青の問題児だらけのキャストが集結。

現金輸送車を襲った強盗4人組が仲間割れ。

金を横取りした木村一八を追うショーケン。さらにそれを追う警察とヤクザの四つ巴カーチェイスが勃発。

100台くらい居そうなパトカーに取り囲まれても諦めないショーケン。パトカーの上を車で走って逃げる、逃げる…!

強盗が生きがいの困ったおじさんの話に違いありませんが、絶対に逃げてやるという強い意志に胸がアツくなってしまいます。


フレンチ・コネクション 

フレンチ・コネクション [Blu-ray]

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  • 発売日: 2009/11/27
  • メディア: Blu-ray
 

ひたすら追いかけっこ、地下鉄に乗るの、降りるの、どっちよ!?のシャルニエ尾行シーンからめっちゃ面白かった。

狙撃してきた男を取り逃してしまうも、市民の車を奪い、高架下を追っかけるジーン・ハックマン。電車を車で追っかけるなんて!!とその執念の行動が衝撃でした。

時折上を見ながら運転するドイルの視線、ビュンビュン来る対向車、乳母車にドキーーッと、臨場感に毛の逆立つようなカーチェイス

 

◆フューリー 

フューリー [DVD]

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  • 発売日: 2006/03/10
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 「フレンチ・コネクション」以上のカーチェイスは誰も撮れないだろうと語っていたデ・パルマのカーチェイス

政府から追われるカーク・ダグラスが尾行を撒こうと非番の警察官の車へなだれ込む。
気のよさそうな警察官2人のおとぼけた感じとカーク・ダグラスの切羽詰まった様子が好対照。

霧のたちこめる路地に入って敵を相打ちにさせる策略が面白いし、限られた予算で撮った工夫が感じられます。

デ・パルマは「フューリー」という作品自体あまり気に入ってないみたいだけど、個人的にはベストに入る大好きな作品。


マトリックス リローデッド 

マトリックス リローデッド [DVD]

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  • 発売日: 2010/04/21
  • メディア: DVD
 

1が圧倒的だけど、2と3もそれぞれ見所があって否定するほどのもんじゃないと思う続編。

2なんてこのカーチェイスシーンだけで充分元は取ったくらいの満足感があります。

バイクで高速を逆走するトリニティ、超能力者の双子…車内バトルは今観るとちょっと「嘘喰い」がよぎったりして。トラックの上での格闘戦はまさに漫画で、日本刀で車ぶった斬るモーフィアスにシビれるー!!

CGがメインとなった時代の作品だけど、昔みたメイキングでは実際に道路を建設して撮ったのだと語っていました。CGで撮る部分にちゃんと意義があって成立してる超大作って感じがします。

劇場でみたときには大興奮でした。


◆リーサルウェポン4

リーサル・ウェポン4 [Blu-ray]

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  • 発売日: 2010/12/07
  • メディア: Blu-ray
 

シリーズで唯一劇場で鑑賞。強敵・ジェット・リーのカッコよさが圧倒的に残るものの、途中のカーチェイスシーンもなかなかの迫力だったと思います。

ビニールハウスみたいなトラックに乗り込むリッグス→ちゃぶ台に引きずられるリッグス→ちゃぶ台の足投げつけるリッグス…が面白すぎる。

マッドマックスも歳をとってハアハア、だけど死に物狂いで頑張ってる!!そんなところも楽しい最終作でした。

 

ターミネーター3 

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ターミネーターにも新ジョン・コナーにも全く魅力を感じなかった続編だけど、カーアクションシーンだけやたら気合いが入ってた…!

逃げるジョン・コナーとクレア・デーンズに迫る女ターミネーター。2の焼き直しのようにバイクで追っかけて来てくれるシュワちゃん

ターミネーターの乗ってるクレーン車が街とシュワちゃんを破壊しながら走りまくるという画が素晴らしい。他があまりにポンコツなのでこのシーンだけ逆にすごく残りました。

 

ブルース・ブラザース

ブルース・ブラザース [Blu-ray]

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  • 発売日: 2012/05/09
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 ツッコミしかない豪華で楽しいカーチェイス

ノリノリでショッピングモールを破壊するシーンも好きですが、「フレンチ・コネクション」っぽいとこを爆走するクライマックスのカーチェイスが大好き。パトカー多すぎ!ネオナチマヌケすぎ!

主人公の乗る車が警察車両の型落ちでパトカーvs パトカーになってるのもシャレが効いてていいですね。

 

◆悪魔の追跡

悪魔の追跡 [DVD]

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  • 発売日: 2007/04/13
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キャンプで休暇を過ごすはずの中年夫婦2組。カルト教団の儀式を目撃したために、頭のおかしな集団にどこまでも追いかけられる…!!

主人公の車が夢の詰まった最新キャンピングカーというのが素晴らしい。

多勢に無勢で挟み撃ちで攻撃されるシーンが恐怖…!バイクも投げつけて派手に車がふっ飛びまくるとホラー映画とは思えないド迫力のアクションが展開。

敵の不気味さも相まって〝絶対に逃げなければ〟という気持ちにさせる、ドキドキが止まらない映画でした。

 

◆わたしは目撃者

わたしは目撃者 [DVD]

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  • 発売日: 1998/11/21
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アルジェントのカーチェイス、短い場面だけど最近改めてみると中々印象的でした。

ちっさくて丸いフォルムのイタリア車が可愛くておしゃれ!!

ドライバーはセクシーな衣装のカトリーヌ・スパークで、時折ブレーキやギアを入れ替えるときに足がチラッチラッ。

同乗の男の汗握るような手…と何だかエロく見えて来ないこともないか(笑)。

 

◆ディーバ

ディーバ [Blu-ray]

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  • 発売日: 2017/05/26
  • メディア: Blu-ray
 

車じゃなくてバイク…だけど、郵便配達の青年が小さなバイクで夜のパリを逃げるチェイス・シーンがカッコいい。

地下鉄の階段をバイクで軽やかに駆け下りて行き、メトロを疾走、そのまま電車にまで乗ってしまう。

途中車を乗り捨てて走って追いかけてくる警察も息切れしそうなすごい気迫。

サスペンスとラブストーリーが混じったような不思議なフランス映画でしたが、綺麗な音楽と映像に酔うようでとても印象的な場面でした。

 

ザ・ドライバー 

ザ・ドライバー <HDリマスター版> [DVD]

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  • 発売日: 2012/10/02
  • メディア: DVD
 

強盗の逃走などを手伝うプロの逃し屋、ドライバー。それを追う刑事と彼を手助けするミステリアス美女…

全く喋らない主人公がとんでもないドライブテクを発揮。音楽なしでひたすらエンジン音とブレーキ音が鳴り響く中、夜の街を疾走するオープニングがめちゃくちゃカッコよかったです。

ライアン・ゴズリングの「ドライヴ」はこれに影響受けてそう。

 

ワイルド・スピードの金庫のやつ 

ワイルド・スピード MEGA MAX (字幕版)

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  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

カーアクションといえばワイルド・スピード!!という人がきっと多いはずなのにこのシリーズをスルーしてるという体たらく。

ワイスピ知らなくてもコレは面白いとオススメされて唯一観たのがこの金庫引きずって逃げ回るやつだったんですが、メガマックス(5作目)っていうんですね。

巨大な金庫を牽引する2台の車。ワイヤーでつながった金庫がグワングワン回りながら街を破壊。

すごい重そうなのにスピード出るのか??と疑問に思ってしまうけど、主人公勢とギャングと警察の三つ巴バトルにもなっててオモロかった。

1作目すら観てないから人物相関図とドラマが完全に置き去りでしたが、それでも何だか楽しめてしまいました。

 

◆ランナウェイ 

ランナウェイ [DVD]

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  • 発売日: 2015/01/21
  • メディア: DVD
 

カーレース映画「デスレース2000」のロジャー・コーマンデヴィッド・キャラダインが再び組んだアクションコメディ。

全っ然内容覚えてないんだけど、面白かった記憶だけあります。(←いい加減すぎ)

デスレースよりケレン味はずっと控えめでゆるい雰囲気。アメリカ南部を舞台にギャングと追いかけっこ…みたいなお話で、とにかく全編カーチェイス、ボートチェイスも挟むという気前のいいアクション映画だったと思います。

ビデオしか存在してないと思ってたらDVD出てたようで、また観たいなー。

 

◆ザ・チェイス 

ザ・チェイス(字幕スーパー版) [VHS]

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  • 発売日: 1995/02/24
  • メディア: VHS
 

 「トゥルーロマンス」っぽいジャケ写が印象的なチャーリー・シーン主演の94年作品。

無実の罪を着せられて、とある女性を人質にとって逃亡することになるチャーリー・シーン。なんと女性は大富豪の娘で、逃亡の果てにチャーリー・シーンと恋に落ちてしまう…

逃げる主人公勢を上から撮るニュースの中継ヘリ。アメリカのニュースに出てくるカーチェイスを観ているようなMTV映画らしい演出が面白かったと思います。

もしかしてDVDすらリリースされてない!?昔一度観たきりで朧げですが、腰に銃を突きつけられてたと思ってたのが実はメントスだった…ってオチだけなぜか憶えてます。

また観たい。

 

太陽を盗んだ男 

太陽を盗んだ男 [DVD]

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  • 発売日: 2006/06/23
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つい先日鑑賞。原子爆弾を手に警察の追手を振り切るジュリー。

高速を無断で封鎖してのゲリラ撮影だったため、道路が閑散としていて「フレンチ・コネクション」のようなリアリティはないのですが、主人公達しかそこに居ないような寂寞感、明け方の朝の冷たい空気が伝わってくるようでなんだかとても切ない。

そして車体の上半分失っても物ともせず追いかけてくる菅原文太が圧巻です。

カーチェイスがどうだといいながら車種に全く詳しくないのですが、主人公の乗っている車はマツダ車(RX-7)だそうで、日本車っぽくないカッコよさでした。

追いかける者と追いかけられる者の熱量がCGや大作感を上回る迫力です。

 

◆◆◆
全編カーアクションな「マッドマックス」と「激突!」は省いてしまいました。
007やMIシリーズのチェイスシーンもいいですね。

ここ数年の作品を追いかけられてないのがなんだけど、「テネット」はDVDが出たらレンタルしてみたい。

 

「太陽を盗んだ男」…”しらけ世代〟の主人公の虚無に呑まれる

タイトルは知っていたもののずっと未見だったのを初鑑賞。アクの濃い暗い映画なんじゃないかと思ってたけど、めちゃくちゃ面白かった…!!

太陽を盗んだ男 ULTIMATE PREMIUM EDITION [DVD]

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  • 発売日: 2001/09/21
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中学校の理科教師がお手製の原子爆弾をつくり、国を脅迫して自分の望みを叶えようとする…

破天荒なストーリーですが、思った以上に政治色がなく、エンタメ映画として成立していることに驚きです。「タクシードライバー」に「ファントム・オブ・パラダイス」のコミカルさを足した感じ!?

79年の作品ですが、以降の日本を覆う停滞感を一喝しているようで、リアルタイムで観てない世代の自分にも突き刺さるものがありました。

 

しらけ世代の主人公・城戸の虚無

学校では大人しく理科の教師をしている主人公が家に帰るとアパートでせっせと1人爆弾作りに勤しむ。

この非日常感がとにかくシュールで、普通の映画ならダイジェストにしてみせるだろう作業シーンを延々と映しているのが新鮮でした。

狭い部屋にあらゆる機器をつめ込み、汗だくでガイガーカウンターと睨み合いながら、誰とも話さず爆弾を完成させる城戸。

なぜそんなことをするのか??主人公の家族背景や内面は一切語られません。

それでも主人公の持つ孤独感、倦怠感は漠然と伝わってきます。

城戸は団塊世代団塊Jr.世代の間に位置する〝しらけ世代〟と呼ばれる層に位置するでしょうか。

この時代を生きていないと分からない空気感だとは思うのですが、盛んだった学生運動が落ち着き、高度経済成長を経てこれからバブルへと突入する日本。

世界が冷戦やベトナム戦争で混沌とする中、国内の景気だけは良く、皆がかむしゃらに働き、物質的な豊かさだけはどこまでもアップしていく。

受験戦争世代の生徒たちは入試に必要なことだけを教えろとどこか賢しい。

この中で静かに狂う主人公が全くおかしな存在とも思えて来ず引き込まれる魅力がありました。

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しかしつくった原爆を盾に政府を脅すも何を要求すればいいのか戸惑う姿が次第に虚しく映ります。大きな力を手にしたところで、夢も野望もない。大金や女や家族が欲しいわけでもない。

次の世代を予見したようなどんづまり感に圧倒されてしまいます。

 

◆警察・菅原文太がカッコいい

爆弾を手に入れた城戸は2人の人物と接触しますが、その1人はラジオDJの零子(池上季実子)。

面白ければ何でもいいと無責任に事件を煽る姿はマスコミ批判なのか何なのか…主人公を受け入れて応援してくれる理想的な女性なのに結ばれるわけでもない。メディアの上辺だけの賞賛は空しいということでしょうか。

石原さとみ似&独特の可愛い声でなぜだか憎めない不思議なヒロインでした。

そしてもう1人は城戸に名指しされ事件の担当となる菅原文太演じる山下警部。なんて濃い男なんだ!!

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ヘリコプターから落ちても、銃で撃たれてもゾンビのように立ち上がってくるとあり得ない屈強っぷり(笑)。

仕事の汚い部分も飲み込みながら職務を全うする〝強い男〟の山下に城戸も心の奥で憧れているようにみえました。ホモセクシャルにも親子的関係にもみえる2人で、どこか世代間の対立ドラマを感じさせます。

「お前のようなやつに人を殺す権利などあるもんか。お前が殺したがっているたった1人の人間はお前自身だ!」

「奴は他人に触れたがっている。」(それが弱点だ。)と城戸を分析する台詞もありましたが、斜に構えてても本心は寂しくて誰かと繋がりたい…前半キテレツな男にみえた城戸が段々と普通の男にみえてくるのが切なかったです。

 

◆ラストの虚無に圧倒される

しかしラストはとても意外な展開で、警察の山下が死に、城戸の方が生き残ってしまいます。

体制側の警察を悪とし、主人公が散る儚い結末にカタルシスを感じる…というのがひと昔前の日本映画らしい結末なのかなあ、なんて思っていましたが予想が大きく裏切られました。

最後は爆発したのか、あの音は城戸の頭の中のものなのか…ハッキリさせていないところがまた洒落てます。

どうにもならないモノを抱えながらそれでも生かされてしまう城戸。あのまま爆弾を抱えて何も変えられないまま被ばくしてゆっくりと死んでいくのではないか…

開き直ったかのように投げやりな主人公の姿に何とも言えない余韻がのこりました。

 

Wikiをみていると、撮影秘話も数々の伝説的エピソードがのこっているようで、「新幹線大爆破」といい、昔の日本映画の気力の凄まじさにびっくりします。

70年代の日本の街がなぜかとても美しく見えて、失われた時代にタイムスリップしたような感覚にさせてくれました。

個人的には「エヴァンゲリオン破」でマヤの出勤シーンで流れていた印象的な曲がこの作品のものであることを知って今更ですが驚きです。

また2018年のドラマ「獣になれない私たち」でパワハラに遭う主人公が退職届を常に懐に忍ばせ「太陽を盗んだ男が核爆弾を持っているようなもの」みたいに語ってた台詞も回収できて嬉しいです。

世代を超えてファンが多くあちこちで引用されている作品だというのも納得。

ジュリーってめちゃくちゃカッコよかったんだなーと退廃的な美しさに惚れ惚れとしてしまいました。

 

「4匹の蝿」…サスペリア2に続く道がみえる動物3部作

この「ハッピー・デスデイ」みたいなジャケ写なんなん…とちょっとパッケージが残念なアルジェント監督3作目。

4匹の蝿 HDマスター版 [DVD]

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アルジェントが撮った最初の3作品は、

歓びの毒牙(原題:水晶の羽を持った鳥)
・わたしは目撃者(九尾の猫)
・4匹の蝿(灰色のベルベットの4匹の蝿)

とすべてタイトルに動物が付いていることから〝動物3部作〟と呼ばれているそうです。

この中でも「4匹の蝿」はVHSがリリースされず2010年にソフト化されるまで観るのが困難とされていた作品。

ずっと見逃していたけど、今回初めて鑑賞しました。

キャラクターや演出がチグハグだなあと思いつつ、話はスッキリしてて、犯人のサイコパスっぷりがなかなか良かったです。

 

今回の主人公はバンドのドラマー、ロベルト。
お金持ちの妻と結婚した若い男で、繊細な感じがするイケメン。

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 髪型のせいかちょっとアルジェントに雰囲気似てる気がします。

演奏の練習中、1匹の蝿がロベルトの周りをウロウロ…同時に見知らぬ男に尾行&監視されてるのを察知!!

飛び回る蝿の鬱陶しさが不吉な予感を表現??と相変わらず独特の映像表現ですが、冒頭から引き込まれます。

帰り道、尾行に耐えかねたロベルトは口論の末に男と揉み合い、誤って相手を刺してしまいます。

その様子をパシャパシャと写真におさめるハッピー・デスデイみたいな仮面の人物。

その後、証拠写真が家に届いたり、無言電話が掛かってきたりと脅迫まがいの被害を受けるもなぜか警察には行かない主人公。

ポエム口調で妻にグチった挙句、〝ゼウス〟と呼び慕う謎の友人のところに相談に行くことにします。

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マカロニ・ウエスタンにでも出てきそうな豪快な雰囲気のおっちゃんゼウスですが、自分の知ってる探偵を紹介してくれた上、聖書を朗読する奇妙な男「教授」に家を見張らせるなど、色々取り計らってくれます。

一方ロベルトの家に仕えているメイド、アミリアはなぜかいち早く脅迫事件の真相に気付いたようで、犯人らしい人物と電話。口止め料を貰うために交渉していました。

公衆電話の電線を辿って犯人の自宅電話へと繋がる映像は、「インフェルノ」で通気口から音がアパートに伝播していくシーンが思い出されます。凝っててカッコいい!!

しかし公園で犯人と待ち合わせしていたアミリアは、惨殺されてしまいます。

日中の人が多い場所に居たはずなのに、遊んでいた子供たちやカップルが一瞬にして忽然と消え、一人ぼっちになってしまう…魔女の呪いでも発動したかのようなオカルトな演出で、ここも面白い映像。

 

そんな中、ロベルトが殺したと思われていた冒頭の尾行男が再登場し、犯人に雇われて仕込みナイフで殺される芝居をしてただけだったと判明。

だから警察にまっすぐ行っておけばよかったのに…しかし協力者のこの男も証拠隠滅のため犯人の毒牙にかかってしまいます。

 

そんなことは露知らずゼウスに紹介された探偵を訪問するロベルト。

現れた探偵は、「3年探偵やってて、1件も事件解決したことない」とオネエ口調で朗らかに語る驚愕の人物なのに、解決を丸投げ。

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でもこの探偵、犯人と思しき人物が居たと思われる精神療養施設を訪れるなど、案外仕事をきっちりしてくれて、真相に近づきすぎたため、トイレで毒物注射されて殺されてしまいます。面白いのに途中退場が勿体ないキャラ…! 

 

一方ロベルトは妻ニーナと事件のことでギクシャクして、ニーナは家を出てしまいました。

堂々と自宅を占領するロベルト、ニーナのいとこのダリアといい感じになり、風呂場でイチャイチャ、浮気に走る…とさらに理解不能な行動へ。

巻き込まれサスペンスなのに主人公に共感しにくいのがなんだかなー。

死亡フラグたてまくった浮気相手のダリアが案の定殺され、その検死に立ち会うと、「死の直前に被害者のみた光景が数時間網膜に映るので、それを今から再生させる!」といきなりブラックジャックみたいな展開に。

なんとダリアの目に最後に映っていたのは…

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 4匹の蝿…とここでタイトル回収 。

警察はサッパリ分からんと首を傾げ、ビビリまくったロベルトは、銃を持って自宅に引きこもります。

※ここから犯人ネタバレ

そこに仲違いしていた妻が帰宅。

ふと彼女の胸元をみると、蠅のオブジェのネックレスが…

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なんちゅーファッションセンスや…じゃなくて犯人はお前かー!!

蝿のオブジェのネックレスが揺れてダリアの目に焼き付いていたってことで事件解決。

でもこういう犯人当てにとことん鈍い自分でも「犯人役って妻くらいしかいないよねー」と疑わざるを得ない存在ではありました。

驚きの動機は「自分を虐待した父親と顔がソックリだったから苦しめて殺そうと思った」というこの上なく理不尽なもの。

女性なのに男児が欲しかったという理由で父親に虐げられていたというニーナ。話の途中、探偵が精神療養施設を訪れるシーンでは「その父親は実父ではない」と語られてましたが、一体どんな家族関係だったのか??

詳細は特に掘り下げられないまま丸投げして終わっちゃうというのがアルジェントらしいですが、結婚前から苦しめる目的で近づいてきた妻って考えただけでゾッとします。

間一髪でゼウスが助けに来て、車に乗って逃亡したニーナはラスト前を走る車両にぶつかり絶命。

スローモーションで粉々に砕けるガラスが突き刺さるシーンはモリコーネのメロディと相まって幻想的で、女優さんの儚げなオーラもあっていい幕引き。

 

全2作に比べて主人公に魅力が乏しく感情移入しにくい、脇キャラの個性が強すぎてサスペンスから浮きがち、とクセのある作品ですが、病的な犯人のキャラクター像や映像の面白さで充分楽しんで観れる作品になってました。

歓びの毒牙」の美術センス、「わたしは目撃者」の殺しのテク、そして「4匹の蝿」のサイコっぷり&ユーモア…
全部磨かれて結集したのが「サスペリア2」…!!最高傑作に至る片鱗がうかがえて、3作品ともそれぞれに見所があるように思いました。

音楽は3作品ともモリコーネだったけど、物足りない感じもする。普通の映画だとうるさいように思えるゴブリンの方がアルジェントにはあっていたのかもね。

こうしてみるとアルジェント、「サスペリア」の前からもう充分スピリチュアルさんでした。

 

「わたしは目撃者」…ミルク飲む?支離滅裂でも面白いアルジェント

アルジェント監督第2作目。前作「歓びの毒牙」に続いてのジャーロものですが、早くも話がとっ散らかってます。

わたしは目撃者 [DVD]

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  • 発売日: 1998/11/21
  • メディア: DVD
 

染色体の研究をしているというテルジ研究所で警備員が負傷する事件が起こった。
侵入の形跡はあるも、奇妙なことに盗まれたものは何もないという。
事件の夜、近くで言い争う声をきいていた盲目の老人アルノは不審に思って独自に調査をはじめるが…

序盤のストーリーはかなり面白そう。

視覚障害者アルノの不穏な予感を描きつつ、犯人の”目”、一人称視点のカメラに切り替わるオープニングの映像は大胆でユニークです。

その後さらに研究所職員の1人、カラブレシという男が謎の死を遂げ、2つの事件の関連を疑ったアルノは新聞社を訪れて、記者ジョルダーニと手を組んで捜査することになります。

 

第1の犠牲者、カラブレシの死に様はなかなかド派手。

駅のホームでいきなり線路に落とされ首チョンパ、回転する胴体…「サスペリア2」のカルロの最期がどことなくよぎります。

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事故現場にいたカメラマンが撮った写真を手に入れようとしたところ、なぜかタイミングよくその直前に犯人が現れ、カメラマンは絞殺されてネガも消失。

こりゃ何かの陰謀に違いねえ!!

 

ジョルダーニは研究所所長の娘、アンナ(カトリーヌ・スパーク)に近づいて、研究所の重要人物は4人の教授だと情報を仕入れます。

・エッソン 融通が効かないイギリス人
・モンベリ 優秀だが無欲
・カソーニ 輝かしい経歴の天才
・ブラウン 毎晩ゲイクラブ通い

また研究の目的は大きく2つあって、1つは遺伝性の病気を治す革新的な新薬の開発、もう1つは個人の犯罪的な資質を染色体から調べるというものだそう。

優生思想へ警鐘を鳴らす超社会派サスペンス…にはアルジェントなので勿論なりませんが、設定はなかなか面白いんですよね。

 

しかし捜査する2人の下にも魔の手が迫り、アルノは孫娘のように可愛がっている少女ローリーを知人のもとに預けることにします。

一方ジョルダーニのところには、配達牛乳に毒物を混入する犯人とおぼしき人物の影が…

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そうとは知らずに帰宅後、いい感じになったアンナといちゃついて、毒入り牛乳を彼女に勧めてしまうジョルダーニ。

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イタリアの牛乳ってこんな袋パックなの?
事後の女性にすすめる飲み物が冷蔵庫にも入れてない牛乳でいいの?

どーでもいいことばっかり気になって話に集中できません。

しかしアルノからの警告の電話で間一髪、毒物の可能性を疑ってミルクは破棄!ことなきを得ます。

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ペロッ、これは青酸カリ!!

危険を省みずさらに調査を続けるも、カラブレシの婚約者のビアンカと、教授の1人ブラウンが殺されてしまいます。

ビアンカの死は「顔を床に打ちつけられる」という「サスペリア2」のジョルダーニっぽい死に方。

話があっちこっち行って分かりにくいけど、このビアンカはどうやら産業スパイでブラウンと繋がってたみたい。

しかししっかり者のビアンカ、カラブレシが遺していた犯人に関するメモを発見していて、それを首にかけたロケットの中に隠し持っていました。

勘の良すぎる謎の犯人もさすがに二重細工されたロケットにまでは気付かなかった様子。

なぜかアルノが「あのロケットの中に絶対なんかあるって!」と怒涛のスピリチュアル推理をみせて、ビアンカの埋葬された霊安室へと2人で向かいます。

 

「あったよ!メモが!」と手掛かりを入手するも、見張りをしていたアルノの姿が消え、真っ暗な霊安室に1人閉じ込められてしまうジョルダーニ。

数分後、扉が開き、そこには恐ろしい形相をしたアルノが血のついた仕込み杖をもって仁王立ちしていました。

え、どういうこと…!?

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このシーン、ビデオの画質が悪いのもあって全くよく分からず、「えっ、アルノが犯人なの!?さすがアルジェント、盲目のお年寄りを犯人にするとか無理なことするわー」と震え上がりました。

ちゃんと観ると、犯人に脅されたアルノがメモ渡した末に揉み合って相手を怪我させたっていうことだったみたい…

いきなり「ブラインドフューリー」みたいな仕込み杖が出てくるし、めちゃくちゃビックリしました。恐るべしアルジェント。

 

さて結局唯一の手がかりはアルノの負わせた怪我だということになり、警察に協力を仰ぐ2人。

ジョルダーニは、仲良くなったアンナが実は所長の養子で義父と性的関係にあるらしいと知り、彼女を疑って問い詰めますが、激昂されて追い返されてしまいます。

手を怪我して登場したアンナ、牛乳プレイといい、すんごい思わせぶりにみせといて何だったんだ…!

 

気を取り直して警察と共に研究所付近を捜索したところ、血痕が発見され、真犯人がいよいよ登場。なんと犯人は………カソーニ!!

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…ってアンタ誰だっけ!?

登場人物がやたら多い映画で最早誰が誰だか分からず、1番印象に残ってない奴が犯人というある意味もっとも意外な展開。

輝かしい経歴を持つ天才と呼ばれたカソーニ。所内で行われた遺伝検査にて犯罪者の素質があるという結果が出てしまい、結果用紙を差し替えるため侵入したものの、同僚のカラブレシに目撃されて脅され、どんどん事件が起こってしまった…というのが真相。

 

カソーニと揉み合うジョルダーニですが、記者なのになぜかチャック・ノリス並みに頑丈な男です。

やけくそになって「誘拐したローリーを殺した」と嘘をついたカソーニは、激昂したアルノに突き飛ばされ、エレベーターホールに転落していきます。

足から落ちていく迫力の映像は、落下している瞬間が引き延ばされた感覚を味わっているよう。ロープを掴んだ手が摩擦で痛む描写も圧巻で素晴らしいシーンです。

そして「サスペリア2」のように唐突にエンドロールへ…


うーん、あらすじ書き起こしてもしっちゃかめっちゃか、話がアッチコッチ飛びまくって何ともまとまりのない作品です(笑)。

これでもかなりカットしたけど、登場人物はもっと多い。

まあやっぱり1番どうかと思うのは、根拠のない説を中途半端に取り上げて、「遺伝検査に引っかかった人が殺人犯だった」という身も蓋もなさすぎる事件の真相ですね。

ただ何のドラマの掘り下げもないまま終わるので後味の悪さも一切ないというのが凄いところです。

障害を抱えた悪者がいなくなって無垢なものがのこるというエンドはダリア・ニコロディに批判された「フェノミナ」のラストにどこか似ているような気もします。


そんなごちゃごちゃな本作ですが、駄作と切って捨てるには惜しく、光るものもあるように思えます。

1番はアルジェントの殺しのテクニックに磨きがかかっていること。

尖ったものに感じる恐怖とか、床に身体打ったら痛いとか、〝身近に感じられる痛みへの恐怖〟の描き方が秀逸です。

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全く本筋に絡まないけど、客の前で剃刀ぶんぶんする床屋のおじさんもスリリング…!

この表現はその後の「サスペリア2」や「サスペリア」で見事に昇華されてるように思います。

舞台装置、美術的な見所は前作「歓びの毒牙」の方が良かったと思いますが、手持ちカメラで表現した犯人視点の映像は面白いし、「サスペリア2」と重なる犯人の目のドアップも印象的。こういう大胆な演出は観ていて楽しかったです。


原題は「九尾の猫」(Il Gatto A Nove Code)というタイトルだそうで…

鍵を握る人物や手掛かりの数が全部で9つあることから、「真相への9本の道か」「九尾の猫の尻尾を1本でも辿れば真相に行きつく」という台詞が劇中で展開されます。

本当に9本の道は特に重なることもなく、思わせぶりな数々のシーンが何の伏線にもならないという潔さはアッパレ!!

話がどんだけとっ散らかっててもオモロイというアルジェント映画の底力を感じさせるデビュー2作目でした。

 

「歓びの毒牙」…アルジェントのデビュー作、オシャレで変態なサスペンス劇場

アルジェントの監督デビュー作ですが、オカルト要素ゼロのジャーロもの(イタリア製サスペンススリラー)。

サスペリアPART2」が大好きな人間には、犯人探しが主体のこの「歓びの毒牙」もすごく楽しめました。

歓びの毒牙 HDリマスター版 [DVD]

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  • 発売日: 2012/07/03
  • メディア: DVD
 

音楽エンニオ・モリコーネ、撮影ヴィットリオ・ストラーロと豪華制作陣で、「これがデビュー作なんてアルジェントめっちゃセンスあるやん!」と惚れ直すような1作です。

仕事のためにイタリアを訪れたアメリカ人のサム(トニー・ムサンテ)。
ある夜画廊で男女が揉み合っている姿を目撃、女性は刺されて重傷を負う。
警察に目撃者として呼ばれたサムは作家特有の探究精神で独自に事件を調査し始めるが…

異国の地で事件に出会す主人公と「サスペリア2」と重なるストーリーですが、冒頭の事件目撃シーンの舞台装置がまず魅力的。

高級マンションのエントランスっぽい雰囲気、自動ドアの間に挟まれ、閉じ込められてしまう主人公。

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見ているだけで何もできないというシチュエーションは「裏窓」っぽいでしょうか…ガラスケースに入れられた昆虫のようで、アルジェントのイヤらしいSっ気を感じてしまいます。

警察はあまり頼りにならないものの、謎のハイテク捜査方法が登場。

犯人の特徴を打ち込むとコンピュータが15万人のデータから容疑者を絞り込む…って1969年にそんな技術あるの!?

他にも犯人からの脅迫電話を録音、声を分析…とアナログな世界観っぽいのにやたら機械が出てくるっていうのも面白いです。

 

そうこうしてるうちに新たな被害者が続出。

後のアルジェント作品と比べるとずっと控えめでグロくない殺人シーンだけど、女性のパンティを脱がす、「殺しのドレス」を彷彿させる執拗なカミソリでの切り込み…など妙な性癖はこのときから漏れ出てる気がします(笑)。

主人公の恋人にまで魔の手が及びますが、分厚い木の扉を小さいナイフで削って穴開ける犯人。いくらなんでもそれじゃ入って来れないんじゃ…とにかく美女をネチネチ追い詰めたかったとしか思えません。

 

一方主人公のサムは最初の犠牲者が働いていたという古物商に赴き、襲われた日に売られたという1枚の絵を発見します。

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ブリューゲルっぽい絵。こういうアイテムにホラーな雰囲気があってイイ。

この絵を描いたという画家に会いに行きますが、このおじさんが何気に1番不気味なキャラクター。猫の肉を食べているって直接の描写はないけど完全にアウトです。

サスペリア2」でもトカゲに釘刺してた女の子が不気味でしたが、さりげなく脇におぞましいキャラを入れてきますね。

結局最後の手掛かりは〝脅迫電話の背景に聴こえる謎の音〟ということになりますが、知人カルロのアドバイスで動物園にいる珍しい鳥の声だと判明。

(ここから犯人ネタバレ)

そしてその近くに住んでいるのはなんと最初に襲われてた女性モニカとその夫だった…!!

犯人は夫かー!!っていくら何でも単純すぎるよね、と勘の悪い自分もここでよくやくピーン。

なんと被害者だと思ってた女性の方が真犯人でした。

子供の時に暴行事件に遭った女性モニカは、例の絵をみたことで過去のトラウマが蘇ってしまい、〝加害者〟に同調して殺人を繰り返すように…それを庇って止めようとしてたのが夫というオチ。

 

冒頭の目撃シーン、実はナイフを握っているのは女性の方だった…と「真相に直結する場面を実は主人公は既にみている」という仕掛けは「サスペリア2」と同じ。

ただこっちの方は観客にはボヤかしてはっきり見せていないので、画のインパクトも含め「最初からみせていた」サスペリア2の方がトリックとしては冴えてると思います。

被害者だと思ってたのが加害者というどんでん返しは普通に面白いものの(元ネタの小説があるらしい)、妻を庇ってたという夫が負傷した彼女を放置してたり、整合性が取れてないように思えるところも…

元より「緻密な伏線回収サスペンス」の作り手ではなかったようですが、ビジュアル面のセンスがこのときから卓越していて普通のサスペンスより数段面白い作品になってると思いました。

居並ぶ鳥の剥製、車庫に眠るバスの迷路、威圧感のあるアパートの階段など、病んだ精神世界みたいな雰囲気が好きな人間にはたまらなく刺さります。

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アイアンメイデンみたいな謎アート、痛そう…!

残酷描写は控えめ、60年代のイタリアの雰囲気はおしゃれと、ホラーなアルジェントが苦手な人も観れる作品のように思えます。

その後「サスペリア2」で出会ったダリア・ニコロディの影響で大きくスピリチュアル路線に傾いたアルジェント…

もしこのジャーロ路線にい続けてたらどんなんだったんだろう…と思ったりもしますが、デビュー作から以降の作品に続く〝らしさ〟に溢れていて、楽しめる1本でした。