どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「ヒッチャー」…ルトガー・ハウアーの”荒野の狂った殺人鬼”が凄い

今月からリバイバル上映が開始されている「ヒッチャー」。

公式サイトみると荒木飛呂彦先生や声優の諏訪部順一さんがコメントを出してました。人気作ですね!!

ヒッチャー [DVD]

ヒッチャー [DVD]

  • 発売日: 2012/04/13
  • メディア: DVD
 

「ママはこんなことすんの絶対やめとけって言ってた」

親切心からヒッチハイカーを乗せたらとんでもない殺人鬼だった…!!

開始早々自ら人殺しだと静かに打ち明けるルトガー・ハウアーがぶっ飛びまくり。

次のシーンでは家族があっさり殺され、警察行けば安心かと思いきや皆殺し…淡々としてるのに展開がジェットコースターなのにビビります。

ハウアー氏から〝砂漠に現れた幽霊〟と評される殺人鬼ジョン・ライダー。

素性が全く明かされず目的も不明というところが不気味ですが、一方の主人公もどこの誰だか背景が特に語られるわけでもありません。

広大な田舎、どこまでも続く一本道というロケーションもこの世ならざる狂った精神世界のよう。

今時の映画だったら「ジョンは主人公の別人格でしたー」ともったいぶったオチつけたりしそうな気がしますが、「ヒッチャー」は余白があってその余白をそのままにして陳腐になってないところが稀有なのではないかと思います。

最初にみたときはストレートに「激突!」に似てるなあと思いました。

あちらは自信を失った男性が男らしさを取り戻すというテーマ性があって、カーチェイスが擬似的なそういう行為に思えなくもない??
…「ヒッチャー」も主人公が少年から男の顔つきに変わっていき、2人の追いかけっこにどこかエロスを感じる作品です。

ヒッチャー役最初の候補はテレンス・スタンプだったそうで…

あの俳優さんも雰囲気があって不気味だけど、ルトガー・ハウアーが醸し出す”寂しさ”がこの作品を唯一無二なものにしてる気がします。

当時18歳のC・トーマス・ハウエルとの年齢差、体格差も絶妙。「自分を殺してくれる人を待ってた」のがロマンチックに思えてきます…

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どこからともなく現れその凶行が全く予想もつかず、スリラー映画としても迫力満点!!

個人的にビビったシーンは…

1: 前の車に乗ってんだけど!!
目の前を走ってるファミリーカー、クマのぬいぐるみからジョンがヌッと姿を現しギョッ!!疾走感ある音楽もハマっててすんごい焦ります。

2: 指ポテトにオエーッ
ドライブインのレストランでハンバーガーをご馳走になるジム。ポテトを気怠げに口に入れてるとあれっ!指が!!オエーッ。
ジョンがこっそり忍び込んでて紛れ込ませたのかな…神出鬼没すぎて怖いし、こういうので精神削ってくるのがいやらしい…

3:いきなり警官ズドーン
警官に連行されるジム。走ってるパトカーの横にいきなりジョンが現れて警官の頭をピンポイントでズドーン!ホントに毎回どっから来るのよ。
あまりの理不尽さ、唐突さに叫びまくって泣きじゃくる主人公がそりゃこんな反応になるわーと気の毒すぎます。

4:引き裂かれるナッシュ
道中唯一拠り所だったナッシュがトラックに縛り付けられる…吹かすエンジン音が心臓に悪いことこの上ない。「2000人の狂人」みたいにバラバラになるとこまで映してる方がよっぽど怖くなかった…想像してしまう怖さにブルッとなります。


滅茶苦茶やってるようで「極度にみせてこない」のが上品。

ジムが警察に拘留されうなされて寝ているシーンでは、夢の中でジョンが車の窓ガラスをトントンと叩く音が警官を撃ち殺す銃声に…

細やかな演出で成り立っててとてもB級では片づけられない作品だなあと思います。


こんなに面白い「ヒッチャー」なのになぜかBlu-ray未発売。

日本だけでなく世界的にBlu-ray化されてないようで、権利関係が問題の作品なのでしょうか…今回の劇場公開は貴重な機会ですね。

東京は現在新宿でしかやってないみたいでこれから続々全国公開していくようですが館数は少なめ。コロナももうちょっと収まってたらな…と自宅鑑賞してしまいましたが映画館で観れる人は羨ましいです。

善人役のルトガー・ハウアーも好きだけど、悪役やったときの迫力は圧巻!

この世の片隅にこんな人がいるのだろうか…ものすごいハマり役でした。

 

「ウェドロック」…バトルロワイヤルでも手錠のままの脱獄するルトガー・ハウアー

ルトガー・ハウアーが近未来刑務所で大暴れ!!
紛うことなきB級作品ですがアイデア勝負な脱獄モノとしてよく出来ている1本。

ウェドロック [DVD]

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  • 発売日: 2002/04/05
  • メディア: DVD
 

ルトガー・ハウアー演じるフランクは電子工学の天才と呼ばれる男。婚約者と友人のたっての願いでダイヤ強盗に加担することになります。

しかし婚約者は友人と浮気していて2人してフランクを裏切り、たった1人捕まってしまいました。

フランクが送られた刑務所は柵もなく、看守の人数も異様に少ないという実験的な刑務所。

囚人たちは電子ロックの首輪を付けられます。

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首輪は他の囚人と電子信号でリンクしていて90メートル以上離れると…

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ドカン!!と爆発。めちゃくちゃ「バトルロワイヤル」っぽい。

首輪のリンク先は皆ペア同士になってると言いますが、「片割れ」が誰なのかは判別不能

全員一斉に動いて脱獄したらどうすんのよ、と細かい設定が気になりますが、その場合は遠隔操作でドカンと行くってことでしょうか。

90メートルって結構近い気もするしザル設定が否めないけど、こういうボンクラ映画は深く考えずに観るのが1番!

囚人たちがお互いを見張り合うというシステムはそれなりに功を奏しているようで、味方だと思っていた奴が看守のタレコミ屋だった…など刑務所モノとしての面白さが序盤から存分に発揮されています。

なぜか男女一緒の生活空間で囚人同士の性行為も認められているというガバガバな刑務所。

囚人の逃げる気力を奪うという1点に注力してて経費節減してるっぽいです。

囚人たちは皆本名でなく〝色〟にちなんだコードネームで呼ばれるという厨二心をくすぐる設定も出てきますが、フランクのあだ名はマジェンタ。何だか響きがカッコいい。

 

仲間の裏切りで投獄されたフランクでしたが、実は捕まる直前にダイヤを別場所に隠していました。

裏切った2人は刑務所の悪徳所長とグルになり、ダイヤの居場所を吐かせようと嫌がらせが繰り返されます。

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こちらは水房と呼ばれる懲罰房。

水の貼った真っ暗な棺に延々と閉じ込められるという結構酷い目に遭っています。こういういかにもB級映画なセットがいいですね。

しかし囚人同士の争いでパニックがあったある日、トレイシーという女性に先導されてフランクは脱獄することになります。

「看守と寝てあなたが〝片割れ〟って知ってたのよ」と語るなかなか豪胆な女性(ミミ・ロジャース)。

首輪を付けたままの脱獄、しかし2人は決して90メートル以上離れてはならない…制作陣がやりたかっただろう設定が半ば無理矢理スタート。

途中別々のバスに乗ってしまい一気に距離が開いたのを必死で走って追いかける…!!

高層ビルのエレベーターに1人だけ乗せられてしまい離れ離れになる2人…階段駆け降りーの、ロープでビルから落下しーの…で必死に追いかける…!!

設定を生かしたアクションが面白いです。

 

やがてどうしても脱獄したかったというトレイシーの過去が明らかに。

ウェイトレスだったトレイシーは裕福な議員とお付き合いしていましたが、家柄が釣り合わないという理由で彼の家族から麻薬歴をデッチあげられ無実の罪で刑務所送りになっていました。

裏切った男の結婚式をぶち壊しに行くのだというトレイシー。

なんとフランクもトレイシーも恋人から捨てられた者同士。

合わない2人が徐々に惹かれあっていく…ラブコメの波動を感じずにいられません。

 

しかし!!

実はトレイシーも所長と内通していて脱獄はダイヤの場所を見つけるため仕組まれたものでした。(この展開は割と読めてしまう)

フランクまた裏切られちゃうの!?切ないわーと思ってみてたら、裏切りに罪悪感を覚えたトレイシー、フランクの味方に付きます。

2人の首輪を爆発させようとした所長たちですが、さすが電子工学の天才、とっくに外しててブラフかまします。爆弾返ししてどっかーん!!にスカッとしないボンクラ人間はいないでしょう。

「どうする?もう一緒にいなくていいんだぜ。」と言いつつ抱き合う2人。

崩れた教会あとの景色も何だかロマンチックでラストはエンダァァァと叫びたくなります。

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アクションにラブロマンスに脱獄モノと一粒で3度美味しい作品。

後半の雰囲気はトム・クルーズキャメロン・ディアスの「ナイト&デイ」みたいな感じで癒されます。

ロケーションもビール醸造工場でバトルなどいかにも90年代前後のアクション映画っていう絵面がどこかノスタルジック。

ルトガー・ハウアーがハマり役かというとこれは疑問で彼の冷たい厳かな美しさは控えめです。

謎の民族衣装、変な柄のジャケット、ちょんまげ結びの髪型…となぜか驚異的にダサい格好ばかりで登場しますが、逆にレアでこれはこれでお楽しみ。

敵役の女性が「サルート・オブ・ザ・ジャガー」のジョアン・チェンでヒロインと全く違う雰囲気の女性ってところも良かったです。

 

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囚人の中には何と若き日のダニー・トレホが…!!

B級だけど何だか満足!!ルトガー・ハウアー作品の中で意外にめっけもんな1本です。

 

「サルート・オブ・ザ・ジャガー」…マッドマックスでクィディッチしてるルトガー・ハウアー

どんなB級映画に出ても美しい男、ルトガー・ハウアーがマッドマックス的世界で大暴れ!!

世界観と舞台装置だけでニッコリしたくなる素晴らしきB級作品です。

荒廃した未来。人々は皆、暴力的なあるゲームに夢中になっていました。

何やってるか分かりにくいけど、一応競技として成立してるっぽいこのゲーム。

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・1チーム5人で対戦。
・基本ラグビーに似ていて、犬の頭蓋骨(ボール)をゴールに持っていた方が勝ち
・頭蓋骨を持てる選手はチームの中の1人だけ
・その他の4人は妨害行為にでる(=殺し合いのような暴力が繰り広げられる)

こんなルールっぽいです。

ボールを持てる選手は1人だけでその人がゴールすれば即試合に勝利ってところは、何となくハリー・ポッター」のクィディッチに似ている気がしますね。

絵面があんな爽やかとは程遠いですが(笑)。

妨害選手にはそれぞれ決まった武器があるようで、チェーンをぶんぶん振り回す役の人とかがいて、これだけでオモロイです。

試合時間は「石100個を吊るした皿に投げつける」という係のおじさんがいて、その人が投げ終わったら終了というカウント方法が取られています。

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時計という文明の利器も存在しない世界を見事に表現!!しかしおっちゃんのさじ加減でどうにでもなりそうなテキトーさ。

劇中何度も「石何個分まで試合してたぜ!すげえ!」みたいな会話が当たり前のように交わされますが、何がどうすごいのかイマイチ伝わってきません(笑)。

さらに選手は皆頭部をヘルメットのようなもので覆っていて見分けがつきにくく、チームの色分けすらない状態なので、とにかく全編何が起こってるのか分かりにくいです。

しかしこの世界にはもうこの娯楽しかないということ、そして選手には負傷が付き物で怪我をした者は苦しい引退を迫られるということが、荒々しい中にきちんと描写されていて説得性を感じる世界観になっています。

 

ルトガー・ハウアー演じる主人公はサロウというかつて強リーグに所属していた選手。

金持ちの愛人に手を出したため追放され、今は流れ者チーム所属になっていました。

とある村を訪れた際、選手になりたいと願う女性・キッダがサロウに憧れてチームに弟子入りします。

キッダ役、ジョアン・チェンは華奢なエクゾチック美女で大男+少女っぽい組み合わせがアニメらしくてまた良し。

他メンバーもそれぞれ個性が出ていて、炭治郎のようにずっと箪笥を背負っているおっちゃんが良キャラです。

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しかしある日サロウは片目を負傷してしまいます。過去にどうしても付けたいケリがあったのか、かつて所属していたリーグが在る街へ向かいたいと訴え、メンバーはそれについて行くことに。

街はエレベーターで深く潜る地下都市で、暗い中たくさんの人が物を売り買いしている様子が何とも言えぬ荒廃感です。

街を支配するローブを着た白塗りの顔の貴族…爬虫類や昆虫のゲテモノ料理…金網越しに試合を大興奮で観戦する群衆…

特に印象的なのは地下世界のホテルで、梯子を登っていくと壁に吊るされたベッドがたくさん並んでいる景色は異世界感に満ちています。

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サロウはこの街でかつての仲間・ゴンゾと再会します。

長身の大男で顔は傷だらけ、頭の一部はブリキで出来ているという特殊メイクも素晴らしいキャラデザ。

そしてサロウのチームが挑戦者というかたちでゴンゾチームと対決することに。

貴族からサロウを痛めつけるようにと指示を受けていたゴンゾですが、意外に正々堂々と戦ってくれ、キッダが大活躍をみせ勝利!!

群衆の歓声に包まれ、デスゲーム設定はどこに行ったのか、爽やかなスポーツもののようなエンディングを迎えます。

でもサロウはもう歳で負傷もしてるから街には残れない。若者だけスカウトされてチームは解散。そんなほろ苦ラストにも余韻が残ります。

肝心の試合シーンをもうちょっと分かりやすく見せてくれれば一皮剥けた傑作になったんじゃいかなーと思う反面、そういうのを無視したからこそ味があるような気もするし…
尖った作品のようでスポーツ映画らしさがしっかりあるところが素晴らしいです。

設定資料集とかあったら欲しくなるタイプの作品。

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ルトガー・ハウアーはゴツゴツ衣装着てても隻眼になっても美しく、こういうアニメ的世界にはピッタリ、それだけでも美味しい映画でした。

 

ドラマ「岸辺露伴は動かない」がディ・モールトベネだった!!

年末NHKで三夜連続放送されていたのを録画にて一足遅れて鑑賞。

(1)「富豪村」

(1)「富豪村」

  • メディア: Prime Video
 

 「ジョジョの奇妙な冒険」第4部に出てくる岸辺露伴というキャラクターを主人公にしたスピンオフ漫画が原作。短編集になっている漫画の中からエピソードを選んでドラマにしたみたいです。

地雷じゃないかと恐る恐るみたところ、高橋一生露伴が予想以上に良かった!!

見た目は和顔ですが、ちょっとサイコパスっぽい威厳ある冷たい目線がピッタリ。

「…じゃあないッ!」といったジョジョっぽい話し方も自然に再現されてて、これぞ露伴先生って感じでした。

スタンドや杜王町と言うワードはあえて出さず、とってつけたような説明シーンが一切ないのも潔かったです。ジョジョを知らない人にとってもこの方が案外とっつきやすかったのかも。

他者を本にしてその人の情報を得られる&書き込んで行動を操作できるって改めてみてもなかなかチートな能力。

アニメっぽくみせずに、横溝正史江戸川乱歩っぽい大人向けの雰囲気に落とし込んでたのがとても良かったです。

2巻ある原作漫画のうち自分は1巻だけしか読んでなかったのですが、1番面白いのを最初にぶつけてきたんじゃないかな、と思ったのが1話目の富豪村。

 

1 :富豪村
山奥に豪邸が立ち並ぶ謎の富豪村。その所有者は各界で成功した大富豪ばかりだと言う。
担当編集・京香の誘いにより村を訪れた露伴だったが、この村で土地を買うには厳しい「マナー」の試験をクリアしなければならなかった。

荒木先生自身ホラー映画がお好きなようでエッセイ「荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論」にて「田舎に行ったら襲われた系ホラー」について語っていました。

見知らぬ土地の密室感、コミュニケーションの断絶。最近でいうと「ミッドサマー」的不気味さが本作にも溢れています。

マナーで他者から測られるという焦燥感は身近に感じられる恐怖でもあって設定だけでもう面白い!

正しい正しくないでヒトをあんまり追い詰めるのどうなんよ、マナーより大事なのは思いやりだろうとやり返す露伴先生が爽快でした。

編集者・京香ちゃんの大切なものが愛犬と恋人っていなんていい娘なんでしょう。

彼女のレトロスタイルな服装も可愛らしくて作品の雰囲気にピッタリ、マナー判定の子も原作に忠実ないで立ちで衣装も含めすごく良かったです。


2:くしゃがら
漫画ではなく小説版のエピソードだったらしく話を全く知らないまま鑑賞。

露伴の同僚の漫画家、志士十五は担当編集が寄越したという放送禁止用語リストに夢中。なぜかその意味が記されていない「くしゃがら」という言葉に取り憑かれたように強く興味を持ち、次第に言葉に乗っ取られていく…

言葉の持つ魔力に狂わされるというオカルトホラーな1篇で、十五役の森山未來の狂気の演技が鬼気迫っていて引き込まれました。

露伴先生と編集者の京香はくしゃがらの言葉を聞いてもなぜか飲み込まれず…好奇心旺盛でも(いい意味で)自分優先で執着はほどほどな人だからセーフだったのかな。

最後の番組のワーニングまでホラーに徹していたのがいい演出でした。

 

3:DNA
インテリアデザイナーの真依は6年前の事故で夫を失い、1人で娘の真央を育てていた。
逆さま言葉でしか話せず目の色も皆んなと違っている真央は家に引きこもり気味。そんな真央が懐くようになったのは、交通事故で記憶を失った京香の恋人・太郎だった…

臓器提供された側にかつての故人の記憶や生来の性格が引き継がれてしまっていた…という、東野圭吾の小説にそんな話なかったっけというオチのストーリーでした。

娘を守ってるつもりが隠してた、個性を普通で片付けられたら困ると悩むお母さんの心情が丁寧に描写されてたのが良かったです。

顔がメモ帳になるだけでなく、本そのものになってしまったヘブンズ・ドアーの見せ方にちょっとビックリしたけど、並べた本と家族3人手を繋ぐところが重なる演出も綺麗でした。

原作では富豪村エピソードにしか出なかった京香がドラマでは完全にレギュラーになっていてかなり脚色されてるようでしたが、1話から出てた中村倫也の記憶が元に戻るかと思いきや、別の新しい人生を歩む、そのラストが意外。

私の好きな彼はもういないとアッサリ見送れる京香ちゃんが潔くて、大人しいヒロインに収まらずジョジョらしい女性キャラクターになってると思いました。

露伴先生のキッチリしてて案外面倒見がいいところも3エピソードでしっかり滲み出ててよかったです。

富豪村が漫画でも飛び抜けて面白かった印象ですが、この他記憶に残ってるエピソードといえば、懺悔室と密猟の話。

ドラマの撮影は夏だったそうですが、比較的映像化しやすいのを選んだのかなと思います。

アニメ版の脚本も担当されてた小林靖子さんが今作も担当されてたとのことですが、原作破壊せず上手くアレンジした安心の実写でした。

スタッフロールみてたら櫻井孝宏さん(アニメ版の露伴の声)も声だけのゲスト出演していたようで、ついつい確認。

1話目…差し入れ渡してくれる刑務官
2話目…冒頭ラジオの声
3話目…病院のアナウンス

そんなファンサービスも嬉しかったです。

 

「地獄の門」…ビヨンドの10歩前、フルチのグロ炸裂ホラー

なんて罰当たりな話なんだ。(いいぞ、もっとやれ)

イタリアンホラーの巨匠、ルチオ・フルチが「サンゲリア」と「ビヨンド」の間に撮っている1本。

地獄の門 HDリマスター版 [Blu-ray]

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  • 発売日: 2014/07/02
  • メディア: Blu-ray
 

ジャンル的にはゾンビものですが、ロメロや「ウォーキングデッド」系ゾンビではなく、世界がまるごと死者の世界に変異するような、よりオカルト色の強い作品となっています。

話は安定の支離滅裂、しかし気前よくグロが炸裂した雰囲気満点のホラー。

 

アメリカのとある町、ダンウィッチにてトマス神父という人が自殺。なんとこの神父、聖職者の自殺という冒涜行為により地獄の門とやらを開こうとしていました。

キリスト教圏の人からすればこれだけでガクブルなお話なんでしょうか。

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土台がないけどどうやって飛び降りたんだよ、とどうでもいいことばっかり気になってしまいます。

一方ニューヨークで降霊会に参加していた女霊媒師・メアリーはその様子を遠隔地から霊視、あまりの恐怖にショック死してしまいます。

墓に埋葬されますが、棺の中でなぜか蘇生。真っ暗な中ドンドンと棺を叩きます。

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閉所恐怖症には堪らない恐ろしさ、「キルビル」にもこんなシーンがあったな。

偶然通りかかったジャーナリスト・ピーターがメアリーの叫び声を聞き、棺をぶった斬って助けてくれますが、メアリーまで一刀両断しそうでヒヤヒヤ。

メアリーを送り届けたピーターは、彼女のボスっぽい霊媒師から「今からダンウィッチの町に行って地獄の門を閉じないとこの世が終わる。4000年前の本にそう書いてある」と意味不明なことを言われます。

4000年前の本ってアンタ読めるんかい!って思うけどエノク書旧約聖書の1部とされる)のことを言ってるみたい。

なぜかピーターとメアリーの2人が組まされ、地図にも載ってないというダンウィッチの町をひたすら勘に任せて車で探し回ります。

 

一方当のダンウィッチの町でも鏡が突然割れるなど怪奇現象が勃発してました。

なんとこの町は元々魔女と異教徒の住む場所だったといいます。

悲しいことに若者が犠牲となってしまいますが、まずは車デートしてたローズとトミーのカップル。(トミー役は若い頃のミケーレ・ソアヴィ監督)

イチャついてる最中、急に視線を感じて外を見ると自殺した神父が突然現れる…!!その目を見つめるとローズの目から突然血の涙が流れ出し、口から内臓をゴボゴボと吐き出します。

ホルモン、レバー、ミノ、ハラミ…勢いよく次々にゲロゲーロ。

食事中には絶対観たくないグロさ。そして男の方は頭蓋骨を絞られあっさり死亡してしまいます。

さらにもう1人、エミリーという若い女性も神父の霊に襲われ殺されますが、町の人々は証拠もなしにボブという変わり者の青年を犯人だと決めつけてしまいます。

そして町の親父が電気ドリルでボブの頭を貫いて惨殺!!

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霊的世界と全く関係のない恐ろしい人間の仕業。

恐怖に駆られた人間は何するか分からないという深い人間ドラマ?が展開されます。

 

そんな中メアリーとピーターはダンウィッチにたどり着き、町の精神科医ジェリーと合流します。

ジェリーが神父の怪死事件について語ろうとしたその時、突然窓が開き、大量のウジ虫が吹雪となって降り注ぎます。

50キロの本物のウジ虫を巨大掃除機で飛ばしたという狂ってるとしかいいようのないシーン。

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俳優さんは皆真一文字に口を閉じています。

何としても虫を口に入れてたまるかという演技じゃなくてマジのやつ。

しかしCGも使わずこんな狂気の沙汰をやらかしたおかげでこの世がヤバい世界になってるという危機感は存分に伝わりました。

町の明かりが次々に消え、薄暗い中逃げ惑う姿もホラーな雰囲気バツグン。

神父の墓をようやく見つけたメアリーたちは、地下墓地に降りて行きますがそこには沢山の蘇ったゾンビたちが…

ジェリーが十字架の釘で現れた神父の霊を刺すとあら不思議、神父も周りのゾンビも全て燃えて灰になりました。

しかしハッピーエンドかと思いきやラスト、地下墓地から戻ってきたメアリーたちに町の子供が駆け寄ってくるといきなり画面に黒い亀裂が現れ叫び声が…少年がゾンビになった演出?らしいですが意味不明です(笑)。

明るいエンドにしたくなかった気持ちは分かりますが、あまりに投げっぱなし!

 

ラストも含めお話的には支離滅裂なのですが、本作で登場するゾンビは瞬間移動したかのようにとつぜん現れるというのが面白いです。

急にふと出たかと思えば瞬きすると消えている…人の恐怖心に反応して実体化するとかの設定に昇華できそうな気もしますが、そんな理詰めの映画にしたらフルチらしくなくてつまんなくなってしまうでしょうね。

この世が死者の世界に呑まれるという世界観は次作「ビヨンド」と共通していますが、あちらは三途の川を垣間見たかのような気分にさせられ、その画の美しさも寂寞感も圧巻でした。

地獄の門」も墓地の雰囲気や風吹きすさぶ荒涼とした町の景色は雰囲気満点ですが、生死の哲学すら感じさせた「ビヨンド」はまさに奇跡の1作、それに及ばずあと10歩といったところ。

今回眼球破壊シーンはないものの、目のアップはやたら多かった(笑)。

CGなしのハンドメイドなグロ描写は見応えたっぷりで「好きなことやってる」感が伝わってきて何だか元気の出るホラーです。

 

「ゴッドファーザー1・2」の印象的な脇キャラクターをあげてみる

先日最終章を鑑賞したものの、やっぱり1&2が最高すぎたゴッドファーザー

マイケル、フレド、ソニー、トムといった主役/準主役の魅力もさることながら脇役キャラの濃さもピカイチ。

各々の思惑、いつから裏切ってたかなど考えさせられ、サスペンスとしての面白さも1.2は抜群でした。

原作のエピソードも交えつつ改めてみて印象に残ったキャラクターを10人あげてみたいと思います。


◆テッシオ(登場:1、2)

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テッシオがいつから裏切ってたのか、はっきりしませんが、前半はずっと味方で、ドンの座がマイケルに譲られてから明らかに落胆した様子。「独り立ちしたいし強いもんにつくぞ」とそこからバルジーニ側に呑まれたように思えます。

Part2の若き日の回想シーン、ファヌッチにみかじめ料をせびられ「払えばいいだろ」と言うクレメンザに対し、割りに合わないとビトーと同じ考えのテッシオ。

その後ビトーが話をつけてくると言ったときもテッシオは落ち着いてビトーに事を託していて、ドンの偉大さをみる先見があったんだなー、賢かったんだなーとクレメンザとの違いが立ってて面白かったです。

Part2ラスト、ビトーの誕生日回想シーンではケーキを持って登場。
クレメンザ役の人は出演しなかったのに、この役者さんはこんなちょっとの出番だったのに出てくれたんですね。

「仕方がなかった。I always liked him.」

堅気の道行ってたマイケルが好きで認めてたのはホントだったんだろうなあ。

ベテラン管理職のあの人がなぜ転職!?みたいな人で裏切り者だけど大人になるとじーんと沁みるキャラでした。

 

◆カルロ(登場:1)

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妻を紹介してくれた義兄ソニーを平気で売り飛ばし、妊婦にも手を挙げるDV野郎と、度し難いクズなのでラストに粛清されるシーンにはスッキリしてしまいます。

カルロはいつから裏切ってたのか??

原作を読むと結婚前からスパイだったわけではなく、権力者一族に入ったものの重職に就かせてもらえずドンを逆恨み、コニーを殴ることで自分はコルレオーネより上だと優越感に浸る。

しかしソニーにDVがバレてさらなる報復を恐れた&抗争激化で自分の担当の賭博場もなくなり不満が蓄積したので裏切り…そんな流れっぽいです。

シシリア人と北イタリア人のハーフらしく、コルレオーネファミリーを初めから見下してそうな感じ。

胸糞キャラとして光ってました。

 

◆パン屋のエンツォ(登場:1、3)

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強制送還されるところをドン・ビトーに救われたパン屋の義理の息子。「ゴッドファーザーのためならなんでも」と病院に花束持って駆けつけアツい義理人情をみせてくれます。

ピンチ切り抜けたあとブルブル震えた手で煙草持つエンツォに対し、全く震えてないマイケルの胆力、2人の対比が素晴らしいです。

先日みた最終章ではパーティーで豪華なケーキ運んでました。ずっとファミリーと付き合いあったんだなあとほっこりです。

 

◆ルカ・ブラージ(登場:1)

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冒頭結婚式のシーンで何度もお祝いの練習してるのが微笑ましい強面の殺し屋。

まさか登場後あっけなく死んでしまうなんて…衝撃の展開に一気に引き込まれます。

結婚式でのビトーの態度がそっけなく見えますが、原作読むと自分の赤子に手をかけるというかなりヤバい人物だということが判明。

汚れ仕事専門とビトーが距離を置いているのに納得させられました。

 

◆アルベルト・ネリ(登場:1,2,3)

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フレドを射殺した用心棒。1作目後半から既に登場していて、警官姿でバルジーニを射殺、ラストシーンにてケイと隔てる扉を閉めてたのもこのアル。

原作読むとマイケルにとってのルカ・ブラージがこの人だと言われています。優秀な警察官だったけど行きすぎた行動で処分を食らってたのをコルレオーネファミリーが救出してスカウト。

最終章でも裏切り者の大司教殺りにバチカンに潜入って優秀すぎる…!

冷徹な気質がマイケルとぴったり合ったのか3作全部に登場という通してみると作中1の忠臣でした。

 

ロッコ・ランポーネ(登場:1,2)

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出番が非常に少なく顔も覚えにくいですが興味深い言動で気になるキャラクターです。

1作目ではクレメンザと組んでポーリーを車の背後から絞め殺す、女とベッドに入ってたフィリップ・タッタリアを射殺と、汚れ仕事をテキパキこなしていました。

最大の見せ場はPart2終盤、ハイマン・ロスを空港で射殺するシーン。

殺ったが最後、自分も帰って来れないのは必然だろうにそれでも行ったのはやはりかつてのボス・クレメンザの仇をとるためだったのでしょうか。

同じく2の冒頭、ロスの部下・ジョニーがマイケルに謁見する際には意味深にオレンジを手渡し人払いされてもなかなかその場を離れませんでした。

「クレメンザは心臓麻痺じゃなくてコイツらに殺された」とボスのマイケルに怒りを訴えていたように見えます。地味にみえて徹底した仕事してる渋キャラの印象。

 

◆パット・ギアリー上院議員(登場:2)

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こんな政治家いそうやな、と思わせる素晴らしいクズキャラでした。

「君たちのような人種は好かん」と堂々差別してたのにコルレオーネに弱み握られてからの公聴会、「イタリア系はアメリカの大地の塩」とか人権擁護の演説を堂々と宣うのが滑稽すぎて笑えます。

とんだ保身野郎ですが敵のままにしとけばネチネチ責めてきそうなので味方にしといてきっと大正解。

SMプレイしてたら女性が血まみれに…身寄りのない売春婦は消されてもなにも残らない…。実際にこういうトラップがありそうだと思わせる恐いシーンでした。ここみるとマフィアあかんわーと一気に正気に戻ります。

コッポラのオーディオコメンタリーによると「ポマード頭などの台詞は役者さんのアドリブだった」と言ってて、この人もかなり上手な俳優さんだったのではないかと思いました。

 

◆ハイマン・ロス(登場:2)

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マネーロンダリングの構造を発明したといわれる実在の知性派ギャング、メイヤー・ランスキーをモデルにしたキャラクター。

フランクをわざと生かしてFBIの証人にさせるという巧妙な策略が恐ろしい。

キューバの利権分割を象徴したケーキカットのシーンも印象的ですが、本人は「小さいピースでいい」と一言。

マイケルには巨額出資(賄賂)を用意させておきながら実はロスも革命を読んでいて自分は大損しないように手を打ってたりして…

マイケルがゲリラ兵士のことを「金のために戦ってない」と言ってましたが、一見2人の覇権争いにみえつつモー・グリーンを失った復讐劇も抱えている…お互いどこまで読んでいたのか複雑で観るたび考えさせられます。

殺し屋が向かった際、タイミングよくゲリラ軍が勝利したため政府の軍がそれを知らせにロスの下へ…間一髪で死を逃れる〝運の強さ〟も強敵感に満ちていました。

演じるリー・ストラスバーグアメリカきっての有名俳優養成所の先生。パチーノやデ・ニーロの師匠がボス役やってるというのも胸熱で圧倒的な迫力でした。

 

◆フランキー/フランク・ペンタンジェリ(登場:2)

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クレメンザ役の役者さんが脚本の内容に口出しして出演しなかったため代わりに登場したキャラクター。

クレメンザ不在は残念ですが、この役者さん、かなり上手で不足を充分補っていたのではないかと思います。

冒頭のパーティーからアメリカ人に帰化してたまるか!のイタリア頑固親父っぷりを見せてくれ、合法アメリカ人を目指すマイケルと対照的。崩れ去るPart1の男の世界を体現してくれてるようでした。

公聴会のシーンは兄が人質にされたからブルって発言撤回したのだと思ってましたが、あの兄の登場でロスの策略だったと全て悟ったような節がありそれだけ信用できる兄貴だったということでしょうか。

兄を殺すマイケルが兄弟の絆を利用するのも何だか皮肉に思えます。

金網越しにトムとローマ帝国の話をする場面。自殺を強要している恐ろしい場面ですが、遠まわしな会話ですべてを理解し家族は守られると納得するフランクが切ない…

マイケルにとってはさぞ扱いにくい部下だったでしょうが、抗争に翻弄される姿がどこか哀れでした。


◆アポロニア(登場:1)

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彼女の死は2、3にまで続くマイケルの悲劇だったなーと通してみると1番悲壮な死だったように思います。

親父さんに許可もらってのデート、道歩いてて躓いちゃう不器用さが可愛い〜と思ってたら、原作読むとマイケルに近づくためにわざとやってたことが分かりその強かさにびっくりです(笑)。

生きていれば逞しい母となりコルレオーネ家を支えただろうなー、皆に可愛がられただろうなーと想像してしまう。マイケルもフレド殺さなかったんじゃないだろうかとその死がいつまでも悔やまれます。

最終章、なぜ彼女のダンスシーンをカットしてしまったし。

 

久々に原作本も読み返してみましたが、1作目全部と2のビトー回想シーンを網羅、映画では出番の少ない歌手・ジョニーのエピソードが掘り下げられていて面白いです。

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1つのキャラクターとっても多角的に話を解釈できるのがゴッドファーザーのすごいところだと思います。また定期的にみかえしたい。

 

「ゴッドファーザー 最終章 マイケル・コルレオーネの最期」/強いコッポラの思い入れ、外伝ならアリか

最終章とタイトルが変えられてのPartⅢがこの度初リリース。U-NEXTも期間限定で配信していたのでそちらで先に鑑賞しました。

制作当時からコッポラはこのタイトルを希望してたものの会社から了承が得られず泣く泣く変更したそうです。

1、2でめちゃくちゃ綺麗に話が終わってて、Part3と言われると釈然としないけど外伝的な立ち位置だと言われるとありかも。

トム役のロバート・デュヴァルが出演を断り、マイケルの娘役だったウィノナ・ライダーが土壇場で降板、ソフィア・コッポラにチェンジとトラブルも多かったみたいですね。

個人的にはキリスト教の教養がないのと、あとコッポラのマイケルへの思い入れが強すぎてちょっと美化して描きすぎじゃないかなーと、やっぱり前2作と比べると格段に落ちる印象でした。

老いて自分の人生を振り返るという内容的にもより歳を重ねたときに良さが分かる作品なのかもしれません。

 

バチカンは真っ黒

前作から約20年、1979年ニューヨーク。
マイケルはやっぱり偉かったみたいで非合法ビジネスから脱却しつつも大金持ちになってました。

財団をつくりバチカンから叙勲もされましたが、半沢直樹に出てきそうなクズ、バチカン大司教から「7.7億ドル損失しちゃった。お金振り込んでくれない?」と財政危機救済を懇願されます。

代わりにバチカンと繋がりの深い世界有数の企業の経営権を譲るということでしたが、金振り込んだあとに経営陣から激しい妨害に遭い、話はパア。

なんとバチカン司教と経営陣は最初からグルでマイケルから金をむしりとっただけとトンデモない悪党です。

今作に登場する敵役は実際にあった事件や政治家をモデルにしてるそうですが、ラスボスが教会っていうのは面白いです。

 

ソニーの息子、ビンセント現る

一方マイケルの息子アンソニーはフレドの死をひきずりマフィア家業を忌み嫌っていました。なんとオペラ歌手になることを希望。

跡継ぎどうするよ!?コニーの薦めでソニー婚外子(Part1の結婚式でやってた女性の子供)ビンセントを側に置いて見習いさせます。

ソニーに似て短気、どうみてもドンの器じゃなさそうで他に人材いなかったのか!?と思ってしまいます。

そしてそんなビンセントとマイケルの娘メアリーがいとこ同士で恋に落ちてしまうのですが…

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ニョッキ捏ねてたらフォーリンラブ!!って斬新だわ。

ソフィア・コッポラは当時叩かれたそうですが、無垢なお嬢様って感じで今みると別に悪くない。

それより2人の恋の設定があまりに古典的すぎて全くノれませんでした。
最後にメアリー死ぬにしても恋愛エピソードなしで充分悲しみ伝わったんじゃないかな。(アポロニアと対比したかったんだろうけど)

むしろ親の呪縛から離れて好きな職業に就く息子とのドラマの方がもっと観たかった気がします。

他メンバーではトムの息子が聖職者になっていました。ドイツ系アイルランド人のトムは元々カトリック系?イタリア人になりたくてもなれなかった父親の想いを継いでこの道を選んだのかな…出番がないのにトムの悲しみを感じるようでした。

 

◆フレドの死の真相は皆知っている?

息子アンソニーとケイは完全にマイケルがフレドを殺したと確信していて、娘のメアリーも「お父さんが殺したの?」と尋ねていました。

ファミリーの内輪で勘づくくらいフレドの死は不審なものだったんでしょう。

ところがコニーは、
「時々湖で溺れ死んだフレドの事を思い出すの。神に召されたのよ。悲しい事故だったけど。過去のことよ。」などと話していました。

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この後コニー自ら名付け親を手にかけることを考えても、「そういうことにしときましょう」と兄を慰めてるのかと思いました。お兄ちゃん、あの殺人は仕方なかったよ、と。

1のカルロ殺害に激怒してた頃から考えると物凄い成長のコニー、逞しいです。

反対にマイケルの方が弱って普通の人になってしまいました。

 

◆許されたいマイケル

マイケルはバチカン内で信頼できる人物だというランベルト枢機卿を訪問することに。

ここでフレドを殺した罪を告白しますが…
「恐ろしい罪だ。神は救ってくださるが。」

救ってくれるんかい。キリスト教の「悔い改める」っていう行いが理解できてないのでこの辺りも感動が薄いのが残念です。

ランベルト枢機卿ヨハネ・パウロ1世がモデルだといわれていて、クリーンな人物だったために就任後わずか1ヶ月で毒殺されたという暗殺説が残っている人物。バチカンどうなってるんだ。

 

しかし宗教のことはさておき、「歳をとったらいい人生だと思って死を迎えたい」っていうのは皆老いるとそういう気持ちになるものなのかなと思います。

ケイと再会してかつてアポロニアと住んでいた町を巡るシーン。
「別れた妻が自分をずっと思ってくれている」と、女から見ると都合よくみえますが、年取ると丸くなり、昔のことを多少は水に流せるようになって、古い絆が恋しくなるものなのかもしれません。

名監督が晩年に撮る作品には自分の人生の贖罪みたいなのがあるのかなーと思いますが、コッポラにとってはこの作品がそれなのかなと思いました。


◆古き良きマフィアの死

今回旧知のマフィアとの抗争も描かれますが、1番いいキャラしてるのはイーライ・ウォラック演じるドン・アルトベッロ。

「わし、もう欲はないんじゃ。」と朗らかに語る優しそうなおじいちゃんが裏切り者。イタリア政財界の大物と組んでマイケルを亡き者にしようとしてました。

反対にマイケルに力添えしてくれるのはドン・トマシーノという1にも2にも出てきた地元の信望厚いおじいちゃん。

マリオ・プーゾの原作によると、シシリアンマフィアの起源については「教会や貴族からの搾取で苦しんだ人たちが救いを求めた保護者的存在がマフィアだった」とあります。

スコセッシは「ゴッドファーザーはマフィアを良く描きすぎ」と言ってたらしいですし、実際そんないいもんだったのか疑問ですが…

しかしPart2のビトの回想シーンを観ても、弱者への救済が薄いアメリカ社会で厳しい生活を強いられたイタリア系移民が、自助的なコミュニティを求めたものがマフィアとなっていった…そんな背景なのかな、と思います。

そして社会基盤が整ううちにどんどんアウトサイダーとなっていった。

古き良きマフィアの代表格、ドン・トマシーノをやられたマイケルが教会相手に再度復讐に立ち上がるのは、コルレオーネサイドをいいもんにしすぎな気もしますが、そんな背景もあって因縁の対決!?なのかもしれません。

 

◆オリジナル版と今回の違い

クライマックスはオペラシーンと同時進行で粛清が進みます。

前作までは身内の裏切り者あぶり出して復讐するのがカタルシスでしたが、今作は敵と分かりきった人たちが死んでいくだけで、あんまり盛り上がれない。

殺し屋のキャラも魅力不足に思えました。

最後のメアリーの死はマイケルがとことん可哀想です。Part2のラストで孤独な人生をだったことはもう確定していて、親の因果が子に行くエンドはもうビトー→マイケルで充分だったのに、虚しいラストでした。

オリジナル版では老齢になったマイケルがガタッと椅子から転げて死ぬところでエンドロールだったと思いますが、最終版はその直前、マイケルがサングラスかけるとこでフェードアウトして転がるところはカットされてました。

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前回の方がビトーとの対比が極まってて「どんな大物でも死は平等に訪れる」と印象的な終わり方だったのになぜ変えたのか…”死”よりも”天に召された”という救いを強調したかったように見えました。

それに加え、メアリーが撃たれたあとからの”回想シーン”も違っていて、前回はメアリー→アポロニア→ケイとマイケルの愛した女性たちが走馬灯のように踊るのが美しかったのに、メアリーとのダンスシーンだけになってました。

ここも映像と音楽のつなぎがちぐはぐになってて前の方がよかったです。

その他大きく違っているのは、オープニングのマイケルの叙勲式がカット、バチカンとの遣り取りのシーンを最初に持ってきているという構成の変更で、僅かな違いですが、全体的にもったりしてたのを引き締めたかったのかと思いました。

 

コッポラ的にはシリーズへの愛着が並々ならず死ぬ前にもう1度…と今回の再編集に至ったのでしょうか。

映画を改めてみてもコッポラ個人の回想録、ファミリームービーの毛色が強く、普遍的な家族ドラマとして成立してた前作ほど響くものがありませんでしたが、おまけの外伝として観るには充分。

3作目だけ記憶が薄かったので、この機会に改めてきちんとみれてスッキリでした。