どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「パーマー・エルドリッチの三つの聖痕」…人類vs悪魔の幻覚ドラッグ

1965年出版、フィリップ・K・ディックの代表作の1つと言われている長編。

LSD小説の古典と言われているそうですが、おじさん2人が絶望的な敵と死に物狂いで対決する…「ユービック」とこれはバトル漫画みたいな面白さがあってすごく好きな作品でした。

ディック特有の「現実が音を立てて崩れる恐怖」も極まっていて、改めて読むと「インセプション」はかなりこれに影響受けてそう。


◆ドラッグが必需品となった未来

グローバル化がすすみ国連が管理する未来…地球の環境は刻々と悪化し選抜された人々が別の惑星に送られ不毛の地を耕す任務を負っていました。

何の楽しみもない暗い土地ではドラッグが必需品となり、キャンDという幻覚剤が大流行。

服用するにはバービー人形セットのような模型が必要で、その人形に乗り移って「かつて良かった時代のアメリカ」にトリップする……ある程度組み立てられた架空世界へ逃避するというのが特徴です。

奇抜な設定でありますが、VRセカンドライフスマホに支配された私たちの時代を先読みしたかのような世界観にも思えます。(コロナ自粛中にあつ森が流行ったようなもんかも)
常日頃から映画や漫画の虚構の世界を貪って生きているような人間にはある種の親しみを感じてしまうディストピアです。

キャンDの服用は「幻覚は幻想でしかない」と明確に区別出来るだけまだ良かったのですが、ある日10年間宇宙旅行に出かけていたパーマー・エルドリッチという実業家が新種のドラッグ・チューZを持って帰還します。

それは1回服用しただけで効果が何年も続くという強烈なシロモノで、一旦現実に戻っても繰り返し幻覚が現れ、しまいには何が現実なのか全く区別がつかなくなる地獄のドラッグでした。

トリップで長い時間を過ごしても現実世界で過ごした時間はゼロ。幻覚から醒めたと思ったらまだ幻覚が続いてる…??(この辺りインセプションと似てる)

エルドリッチを捕まえようとして逆にチューZを体内に入れられてしまった競合会社の社長レオは地獄のような幻覚を味わわされます。


◆主人公は利己的なおじさん2人

ディック作品の主人公は善良なヒーロータイプではなく生きることに必死なくたびれたおっさんみたいなのが多かったと思うのですが、この作品も競争世界をあくせく生きる「利己的なビジネスマン」が主人公です。

でもその人間臭さが作品の大きな魅力になっているように思います。

1人は銀河を牛耳る大企業の社長で密かにキャンDの販売網を敷いているレオ・ビュレロ。

そこそこヤバい代物を民衆に売ってるあたり善人からは程遠く、権力欲にまみれた尊大な男ではあるのですが、そんな奴がぐうの音も出ないほど叩きのめされ、「人類がマジでヤバい!!」と自分の持てるすべてをもって全力で対処しようとする姿が胸熱です。

もう1人の主人公はビュレロの部下で「超一流の予知能力者」バーニイ・メイヤスン。

超能力が出てくると急にファンタジックに思えますが、「流行を予測するコンサルタント」と設定付けされているのが妙にリアルなディックの世界。

高い能力を持ちながらも別れた妻のことが忘れられず未練タラタラな豆腐メンタル男で、「過去をやり直したい」ゆえドラッグに溺れゆく姿は弱いながらもその人間らしさに切なくなります。

決して固い友情で結ばれている2人ではなくドライな関係なのに途中レオを助けにいかなかったバーニイがくよくよするところ、あれだけ元妻に固執しながらいざ植民惑星に行くと速攻で新しく好きな女性見つけちゃうところなどそのヘタレっぷりにはニヤニヤさせられてしまいました。


◆ドラッグ→依存→神様

後半は混沌さが増していき話がややこしくなっていきます。

パーマー・エルドリッチの用意したチューZには実は持続性だけではない恐ろしい秘密が隠されていました。

チューZを服用した幻覚の世界ではパーマー・エルドリッチは自由に行動でき服用者を支配することができる…

元いたエルドリッチという人間は銀河を蠢く何かに寄生されてとうに消滅していることが示唆されていて、本体(肉体)を殺しても断続的に続く服用者の幻覚の中で延々と生き続けることができるという恐ろしい敵です。

しかし消費社会が限界を迎えている人間にとっては「幻覚でも無限の時間を過ごせる」(永遠の命を与えてくれる)チューZに魅力があるのも確かであって、そんな人間の前にタイミングよくあらわれた新しい神様がこんな奴だったのだと思うと何とも複雑な思いになります。

レオは植民惑星行きが決定していたバーニイをスパイとして潜り込ませチューZを特殊な毒薬とともに服用させたのち、副作用が起きたと訴え出て人々に普及する前に販売停止に持っていこうとプランを立てます。

…が、結局バーニイは結局毒薬だけは飲まず(訴訟裁判は大した打撃にならないと未来視したからみたいに言ってるけどホンマに大丈夫なんやろな?)、エルドリッチの浸食を受け続け、「レオがエルドリッチを殺す時間軸」にて結局身体を乗っ取られないままでいられたのか不明瞭なまま話が終わります。(読み返してもサッパリわからん)

少量しか摂取しなかったはずのレオの幻覚も強みを帯びているようでもしかしたら最初のときから幻覚がずっと続いているのかも…などと疑い出すとキリがない中、打ち切りの少年漫画のようにいきなり話が終わるというのが豪胆で強烈です。

しかしこれが何ともいえないカッコよさで、冒頭にあったメモ書きの真意がわかり、幻覚に取り囲まれてもなお打倒エルドリッチの強い決意を捨てないおっさんレオの姿には胸がじーんとなります。

この世界は何が本当で何が嘘か分からないような混沌とした場所だけれど目を凝らし考えを巡らせて生き続けなければならない…というディック作品のテーマを集約したような最後が感動的です。

読んでいるこちらもグラグラした気分になるフラッシュバックと登場人物の魅力と大きくエンタメに振り切ってるところと…ディックの宗教観の部分は全く理解できてないのですが、最終的には絶望的な中であがく人間讃歌みたいなのが強く残ってすごく好きな作品でした。

映画でみてみたいようにも思うけど、「インセプション」や「エルム街の悪夢」が似たようなところなのかも。

 

変種第二号/「スクリーマーズ」、B級でも上出来なディック映画化作品

1950年代に執筆されたフィリップ・K・ディックの短編「変種第二号」。

初期の作品で深い哲学性はないものの、冷戦時代の恐怖が投影された世界観、人間不信のテーマは短いながら凝縮されていて、何よりシンプルなオチでも話のみせ方次第でこんなに面白くなるもんなんだなーと初めて読んだ時にはストレートに感動しました。

「スクリーマーズ」というタイトルで96年には映画化もされています。

 「マイノリティ・リポート」などと比べたらB級感甚だしいけど原作のポイントはしっかり押さえつつ上手く脚色された良作だと思います。

2068年。とある惑星にて新エネルギーが発掘されたものの、放射能汚染が問題となり企業側(NEB)と労働者側(連合軍)に分かれて戦争が続いていました。

惑星には連合軍側が開発した「スクリーマー」と呼ばれる兵器が投入されましたが、次第に開発生産自体を機械に一任するように。

やがてこれが両軍にとって脅威となりはじめて…

アメリカvsソ連となっていた原作の設定が改変されているのは96年という時代の感覚に合わせたものでしょうか。

主演はロボコップを演じていたピーター・ウェラー。植民地の惑星に取り残され不毛な戦争に辟易しているその姿は哀愁漂っていてハマり役です。

そして冒頭から登場する兵器スクリーマー。

小説での描写は「回転する刃で人体を切り裂く銀の玉」となっていますが、映画では予算不足のためかあまり姿を現わさず「土中を潜って襲ってくる」というまるでトレマーズな有様。

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しかしこれが不気味さを出すのに功を奏していて意外な迫力です。

ある日敵軍のメッセージを受けた主人公は基地を出て会談に赴くことに…この基本プロットは原作に忠実。

部下のジェファソンと道中出会った少年を旅の仲間に加えて進みますが…(以下ネタバレ)

なんと可愛らしい少年の正体は機械人間で進化型スクリーマーだった…!!

新兵器開発を機械に丸投げしてたら味方サイドも把握してないとんでもないヤツが出来上がったっていうお話ですが、機械に自ら思考する力を与えたらどうなってしまうのか…今も古びれずにみれるストーリーです。

脚色で1つ気になるのは機械人間スクリーマーが出会ったときに相手を殺さないのが非効率的に見えてしまうところ。

「人間に取り入って基地に侵入しようとするのが目的」と語られる場面はあるものの、原作の「より大きな被害を与えるためより大きな共同体に入ろうとする」知能を持っている怖さが説明不足ゆえ伝わってきません。
(ここがディックの生きた時代、見えざる共産主義への恐怖って感じがして原作のエッセンスだったと思うのですが)

代わりに映画はホラー寄りの描写が目立つつくりで、子供姿のスクリーマーズがわらわらと現れるところはゾンビもののような迫力。

スプラッタ描写もあっさりめながらチラホラあり、何より耳をつんざくような叫び声をあげる(まさにスクリーマー)というオリジナル設定はインパクト大です。

 

少年の正体に驚愕しつつもNEB側と合流した主人公とジェファソンでしたがさらなる恐ろしい事実が発覚します。

さっきのお子様ロボットは変種第3号と呼ばれるタイプらしく、まだ誰も把握できていない2号が存在しているのだと。

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↑1号から急激に進化しすぎ!

2号も人型らしくひょっとしたら既に我々の中に…物体Xやボディスナッチャーなサスペンスが本作の醍醐味。

同じ言葉を繰り返すような人間味のない奴が怪しい…そうすると怖がってばっかりのロスが1番怪しい…けどイキりポエマーのベッカーも怪しい…

ジェファソンが唯一原作にいない立ち位置のキャラでアダルトVRを満喫してるあたり仲間としか思えませんが、墜落した飛行船の唯一の生存者ってのがまた怪しくみえてくる。

原作ではあっさりしてたキャラクターに上手く特徴をつけて盛り上げているところが素晴らしいです。

ひと悶着あってクライマックスは主人公と女兵士ジェシカの2人きりになりますが…こっからはどんなに勘の悪い人間でも先が予想出来てしまうかと思います。

原作は振り切った冷徹さが秀逸で、 

そして青ざめた。第4号だーー第4号。

には「そう来るかー!!」とドッキドッキしたものですが、おそらくあの展開は短編小説だからこそ生えたもの。(映画で同じことをやると騙されてるのが明らかなのに間抜けな行動とる主人公に説得力がなくなると思う)

終盤を大きくアレンジしたのはナイス判断じゃないかと思いました。

機械が与えられた役割を超えた行動をとるというのが原作ではペシミスティックに描かれてましたが(違う機種同士で殺しあう)、映画ではジェシカに情愛が生まれるというロマンのあるドラマに。

そんなに主人公に惹かれるとこあったかな(笑)って思うけど、砂漠と雪原広がる舞台に寂寞感があって男女2人に何か感情が生まれるって展開自分は嫌いじゃなかったです。

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ヒロインの女優さんは黒髪で展開的にもブレランのレイチェル意識してんのかなと思ってしまいました。

 

とにかく原作未読状態だと「他機種同士で殺し合う」という設定が明かされないままなのでスクリーマーの行動が腑に落ちない。最後に出てきた主人公の親友コピーはなんで記憶まで吸収してんだよ…!と粗も多々ありますが、テンポ良く見せ場が次々に出てくるので楽しくみれてしまいます。

ラストは地球に戻ってもうひと展開あってもよかったように思いますが、安直なハッピーエンドにしなかったってとこも原作リスペクトな感じでいいんじゃないかな…
…と上出来なディック映像化作品でした。

 

「ナイトビジター」…極寒の地で脱獄&完全犯罪に挑むマックス・フォン・シドー

数年前にTSUTAYA名盤復活コーナーにエントリーしていて気になっていたのを初鑑賞。

ナイトビジター [DVD]

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  • 発売日: 2017/01/30
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70年製作のイギリス映画ですが、舞台は雪国、出演者はマックス・フォン・シドーベルイマン作品常連のリヴ・ウルマンと陰鬱北欧ミステリーの趣。

シンプルな脱獄モノかと思いきや、なにーそう来るか!!という仕掛けになってて地味な作品ながら面白かったです。

 

冒頭、要塞みたいな刑務所バックにTシャツ1枚で雪原を駆けるマックス・フォン・シドー。この姿だけで傑作の予感。

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主人公セイラムは脱獄後かつて住んでいた自宅にこっそり戻ってきますが、そこにいるのはセイラムの兄妹。そしてこの家族何やらアヤシイ。

2年前に作男を殺した罪で有罪になったセイラムでしたが、どうやら妹エスターとその夫アントンに罪をなすりつけられたようです。

復讐に燃えるセイラムは自分の妻と末妹のエミーを殺し、アントンの所持品を周囲に散りばめ犯人に仕立て上げて罪をなすりつけようとします。

無関係な人間を殺してまでやられた事をそっくりやり返そうとする、物凄い復讐心…!

そして何よりビックリなのは、これだけの犯行を脱獄中に行ったあとに刑務所に戻るという計画です。

夜中にこっそり脱走して犯行を済ませたら何事もなかったかのように朝までに戻っておくってとんでもない無理ゲーだと思うのですが、肝心の脱獄シーンを冒頭には一切みせずに「どうやったんだよ!?」と種明かしを待たせる見せ方も秀逸でした。

 

しかし舞台の刑務所がさすが北欧というべきなのかかなり平和で驚きます。

同室の囚人にカマ掘られないかと怯え、抜き打ちの持ち物チェックに肝冷やす「アルカトラズからの脱出」のような世界と比べるとぬるいことこの上なし。

結局セイラムの脱獄方法は手先の器用さを生かして合鍵つくって衣服でロープ作って…とオーソドックスな手法でしたが、調達もいとも簡単にできそうな環境なので通常の脱獄モノで味わえる緊迫感がイマイチな部分もありました。

しかしこっからさらなる計画を遂行するためもっかいシャバに出るセイラム。

凍てつく強風の中、クリフハンガーしてメタルギアソリッドして押し進むマックス・フォン・シドーが凄い!!

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雪に足跡残んないのかなー、風で消えるもんなのかなーって気になったけど、普通こんな計画思い浮かばないだろうから外の点検もしなさそうでかなりの盲点。

北欧の白夜という設定もいきてる映像だと思いました。

 

過去の事件の真相はやっぱり妹夫妻が悪かったという展開で、エスターとセイラムが組んで夫ハメようとしてたとかもう一捻りあってもよかったのになあと期待させたけど残念。

理屈的に無理な話になるのは避けられた感じ。

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ベルイマン作品でメンヘラ夫妻演じてたリヴ・ウルマンが貫禄ありすぎて冒頭から黒幕にしかみえなかったけど、マックス・フォン・シドーとの対決シーンはこの人の方がサイコパス感あってめちゃくちゃ怖かったです。

最後は無事アントンに罪なすりつけてエンド…だったら凡庸な作品だったと思うのですが、終盤が一気に盛り上がって面白かった。(以下最後までネタバレ)

 

やっぱり脱獄するより戻る方が大変。勘のいい警部補が刑務所にセイラムがいるか確認しに向かうけど果たして間に合うのか!?

必死のパッチで来た道を戻るセイラム、殺人犯と分かっていてもここはついつい主人公を応援してしまいます。

遂にやり遂げたとホッと一息つかせるやいなや思わぬどんでん返し。

伏線は一応張られていたけど、飼ってたオウムがこっそり服のポケットに紛れ込んでたなんて…

アル中で短気だったというセイラム、妻がアリバイ証言しなかったというのも理由はお察し。

唯一認めてくれてた末妹すら目的のために躊躇なく殺しててかなりヤバい奴なんですよね。

家族全員から見放されてた主人公のことを唯一慕ってたようなペットが仇になるって切なさ極まっててとても秀逸なラストでした。

用意周到に計画して1番大変そうなとこクリアしても想像がつかないとこで足元掬われるって何だかリアルで味のあるオチ。

ミステリとしては凡庸だけど、少ない描写でしっかり陰鬱な家族ドラマ感じさせてくれて、終始薄暗い質素な室内のセットとヘンリー・マンシーニの不穏な曲調も効果的。

隠れた良作というのにも納得です。

 

「デスマシーン」…(エイリアン+ターミネーター+ロボコップ)÷100

ブレイド」のスティーヴン・ノリントン監督による1994年公開SFアクション。

デスマシーン [DVD]

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  • 発売日: 2000/11/22
  • メディア: DVD
 

低予算B級映画感が漂っていますが、出てくる殺人ロボの出来栄えが秀逸、オマージュという言葉には収まりきらない露骨なリスペクトにニンマリ。

これ系の映画が好きな人間にはたまらない1本になっています。

 

舞台は近未来。武器製造会社チャンクは秘密裏に違法な兵器開発を進めていたことが明るみになり世間から非難を受けていました。

新しく代表に就任した女社長ケイルは計画を中止させようとしますが社内で孤立。前社長も不審死を遂げていることが判明します。

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ブレードランナー」を意識した未来世界は90年代にしこたま作られたものかと思いますが、出てくるキャラクターの名前がスコット・リドリー。ここまで来るともう開いた口が塞がりません。

さらにチャンク社には性格は暴力的であるものの天賦の才能を持つというエンジニア、ジャック・ダンテ(笑)がおり、彼もまた秘密裏にロボを開発していました。

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↑長髪でゴスな雰囲気のブラッド・ドゥーリフ

危険すぎるロボの存在を知ったケイルはダンテをクビにしようとしますが、保管庫からデスマシーンなる殺人ロボットを出して反対派の人間を駆逐しようとするダンテ。

一方チャンク社に反感を持つ自称人道主義者のグループが社の倉庫を爆破しようと潜入を開始していました。

グループのメンバー、サム・ライミとユタニもダンテの反乱に巻き込まれデスマシーンの魔の手から逃げ惑うことに…(キャラの名前もうちょっとどうにかならんかったんかい)

 

映画的にはストーリーもカメラワークも何もかも凡庸です。

チャンク社がどういう組織なのか、軍事ロボはなぜ作られたのかなど背景が一切語られず、「会社ビルという密室の中で襲われる」せっかくのシチュエーションも、なぜ警察や警備が来ないのか話の詰めが甘く緊迫感ゼロになっているのは非常に残念です。

しかし何といっても素晴らしいのは殺人ロボ「デスマシーン」の造形。

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↑メカエイリアン!?っぽい頭部に恐竜を思わせる動き。

かなりの高速で動くためその全貌はなかなか目に映らず、鋼鉄の牙が噛み合わさる不穏な金属音、鉄の壁も容易に掘削する鉤爪と迫力満点です。

恐怖という人のフェロモンを追跡するらしく、時折映るメカ視点の画面は古いゲーム画面みたいだけどこれもまた味気があって良し。

銃弾をものともせずひたすらターゲットを追う姿はまさにターミネーター!!

 

デスマシーンに追い詰められたケイルたちは中止されていたはずの兵器開発プロジェクトを起動し対抗しようとします。

ハードマン計画と呼ばれるそれは「負傷した兵士から記憶と恐怖を取り除き強化人間に仕立て上げる」というまるでロボコップな悪魔の装置でした。

デスマシーンと戦うため、頭にディスクを取り付けボディスーツを着用し立ち向かうサム・ライミ…!!

デスマシーンの方に予算を使い過ぎてしまったのか、こっちはやたら軽い仕様なのが気になります。もっと鋼鉄感が欲しいような…

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けれどロケットランチャーがついたようなアームはカッコいいですし、「ディスクが入れば一瞬で戦闘の知識がダウンロード」ってところは「マトリックス」みたいでワクワクします。

 

全体的に機械的な社内のセットは80年代SFの雰囲気満点。

PSYCHO-PASS」のドミネーターのような造形の銃、簡易的に時間設定できる小型時限爆弾、同時に10本吸えるタバコ!?など小道具がとにかく素晴らしいです。

役者さんもブラッド・ドゥーリフはハマり役だし、ヒロインはジェームズ・キャメロン作品に出てきそうな硬派で力強い容姿でとても良いのですが、キャラクターのドラマが薄く盛り上がりに欠けるのが残念。

イカれエンジニアのダンテは女社長に惚れているというんだけど、これが取ってつけたような設定で何も活きてこない。

2人は以前付き合ってて元カレにストーカーされるとかドロドロの男女関係があった方が盛り上がったんじゃないでしょうか…(←インビジブルでも観とけよ)

スーツ着たライミのキャラクターがあまり立ってないのも残念で、どうせなら「眠ってた戦士を起動させる」方が面白かったんじゃないかなー。

やっぱり最後にはヒロイン自身がスーツを身につけてデスマシーンとタイマン勝負してほしかったような気もしますね。

スーツももっとガッシリした剥き出しのパワードスーツみたいなやつで…(←じゃあもうエイリアン2観とけよ)

海外では長いバージョンが収録されたBlu-rayが出てるみたいで、もうちょっと日の目をみてほしい作品のように思われます。

80年代傑作ムービーに恋焦がれた愛すべき90年代ポンコツ映画です。

 

「デモンズ」…脱出不可能な映画館を疾走する非日常感が良い…!

緊急事態宣言が出て「サスペリア2」4Kレストア版の上映が延期になってしまった…

screenonline.jp

今年4Kレストア版Blu-rayが改めて発売されるということで記念に期間限定公開が企画されていた「サスペリアPart2」。

フェノミナ」も併せてプログラムされていたようですが、自分の中では「サスペリア2」がぶっちぎりで好きな作品なので何としてもこれだけは観に行きたいと思っていたのですが…

元々公開予定してた劇場は、新宿シネマート、心斎橋シネマート、京都出町座の3館のようです。

年明けに公開してた「ヒッチャー」は時間差で各地域に公開館数がちょっとだけ増えてたみたいだけど、こっちはこの3館で打ち止めなのかな。

映画館も苦しい状況が続いていると思いますが、シネマートさんのホームページみると「上映中止」とは書いておらず「スケジュールを検討する」と書かれているので再プログラムが確認できたら必ず観に行きたいと思っています。


せっかくの楽しみが延期になってしまった代わりに!?といっては何だけど…
ランベルト・バーヴァ監督、ダリオ・アルジェント製作共同脚本の映画館を舞台にしたホラー、「デモンズ」をおうちで鑑賞。

デモンズ(Blu-ray Disc)

デモンズ(Blu-ray Disc)

  • 発売日: 2013/04/26
  • メディア: Blu-ray
 

アルジェントらしい作品かといえばそうでもないけど、80年代特有のポップさとイタリアンホラーの自由なアート性がミックスしてて気軽に楽しく観れる作品でした。

 

冒頭から鳴り響くクラウディオ・シモネッティの景気のいい音楽。

謎めいた仮面の男に後をつけられて女子大生シェリルは1人怯えながら駅を彷徨っていましたが…

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仮面男は仮装して試写状を配っていただけだったようで、思わぬタダ券をゲットしたシェリルはその夜友人とともに映画館に出掛けることにしました。

たどり着いたメトロポールという劇場は改装したてで中々素敵な映画館。

ホールには上映作品のアイテムと思われる謎のバイクと日本刀、鉄仮面が展示。これは頭悪い映画やってくれそうで期待大。

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しかしマナー最悪なグループの人たちが展示物を手にして大はしゃぎ、その内の1人の女性が仮面を被って遊んでいると顔を傷つけてしまいます。

シェリルたちは普通に映画を観始めていましたが、その内容はノストラダムスの墓を暴いたら呪いにかかって次々に人が死ぬという期待を裏切らぬB級映画でした。

しかし!!現実の世界にて先程仮面をつけて負傷した女性が気分を悪くしてトイレに駆け込むと突然悪魔のような姿に変身!!

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「俺は人間をやめるぞ!」の元ネタはこれ!?

悪魔と化したこの女性が人を襲い、襲われた人も次々に悪魔化。パニックになった人々は出口に駆けつけますが扉は謎の壁に塞がれ映画館は脱出不可能な密室と化してしまいました…!

 

この作品の大きな特徴はやはり「映画の中の出来事が現実の世界に繋がる」というところ。

公開当時は「キュービックショック」などというよく分からん宣伝文句が付いてて過剰に煽られていたというのも時代を感じさせます。

てっきり映画を観ながらデモンズを倒す方法を探っていく凝ったストーリーになっているのかと思いきや早々にぶった斬られるスクリーン。

設定が特に活かされるわけでもなく丸投げってところがイタリアンホラーらしいです(笑)。

しかし「現実と虚構の境目が曖昧になる」という設定はビデオオタク世代の感覚を投影しているようでどこか80年代らしさを感じさせます。

 

そしてもう1つの大きな特徴はゾンビなのか何なのかよく分からない悪魔。

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ロメロの「ゾンビ」と比べると動き早め、単純に人を食べにかかるのではなくもう少し高めの知能で襲ってくる感じ。

制作陣曰く3形態に分かれてるらしく、
・極めて人間に近いタイプのヤツ
・人間の皮膚の下から異質な皮膚が現れるヤツ
・人間の体内から生まれてくるヤツ
とゾンビとよりしっかり怪物してるクリーチャー。

特殊メイクは「フェノミナ」を担当された方みたいですが(セルジオ・スティバレッテイ)変身シーンは中々の見もの。

特に序盤デモンズ化する女性の、歯が抜け落ちてゆーっくりと牙が生えてくるところはよく出来ていて見惚れてしまいます。

 

また「密室ホラー」というのも本作の大きな特徴になってますが、映画館から出られなくなるという設定が何ともいえぬ非日常感。

クライマックス、キャラクターの1人が客席をバイクで駆けながらデモンズたちを蹴散らしていくところは「何往復すんねん!」というしつこさ、狭い空間を生かしたアクションになっておりヘビメタな音楽とあわさって不思議な爽快感です。

密室ホラーといいつつ、外の世界の様子も度々映るのも面白いところで街の看板の文字はよく見ると英語でもイタリア語でもなくドイツ語。

撮影地はベルリンだったそうで、時折映るカイザー・ヴィルヘルム教会が印象的です。

閉じ込められた映画館にて扉を壊した先に謎の壁が立ち塞がっていて絶望するシーンはドイツ東西分断への深い社会的メッセージが…

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…あるとはとても思えませんが、どこか異国感漂う夜の街も開放感があり、夜中に1人でみると別世界にトリップしたような高揚感に包まれます。

クライマックスでは映画館にヘリコプターがいきなり落下!!ここも非日常的な景色にワクワク。「ゾンビ」のラストに目配せしたようなサービスに嬉しくなってしまいます。


90分足らずの短い作品なのでキャラクターは掘り下げる間もなく次々に退場していきますが、アルジェントと縁のある人たちがチラホラ。

バイク無双がカッチョいい青年ジョージは「オペラ座血の喝采」で変態やってた人…!!

エイリアン2」みたいに換気口這ってたら悲惨な目に遭うイチャイチャカップルの女の子はフィオーレ・アルジェント…!!(アルジェントの長女)

冒頭から出てきた謎の鉄仮面男は後に「デモンズ95」を撮るミケーレ・ソアヴィ監督…!!(本作では助監督も担当)
尖った棒で串刺しにされるというルチオ・フルチっぽい死に方にワクワク。

そして映画館のもぎり嬢(←死語)を演じているのは「サスペリア2」に出てたニコレッタ・エルミ…!!

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あのトカゲ刺してた女の子、こんなに大きくなったのねーとなぜか感慨深い気持ちになります。

終末感漂うラストなのに何故か観終わるとスッキリ。

アルジェント監督映画ではないけど他作品との繋がりも所々で感じれられて楽しい1本です。

 

「ウォー・ゲーム」…高校生ハッカーvs核戦略プログラム

ジョン・バダム監督、「スニーカーズ」のウォルター・F・パークスが脚本を手掛けた1983年公開作品。

ウォー・ゲーム [DVD]

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  • 発売日: 2002/02/08
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コンピュータオタクの高校生がアメリカ空軍司令部のコンピュータに侵入。
核戦略プログラム・ジョシュアとのゲーム対決が現実世界に持ち越されてしまい核戦争の危機に!?

米ソ冷戦・コンピュータ黎明期という当時の世相を反映しつつ、カラッと明るい80年代ムービーに仕上がっている良作です。

 

まず冒頭オープニングシーンが秀逸。

核ミサイル発射管理棟で働く2人の男の下に「ソ連からの攻撃を受けた」とミサイル発射命令が下されます。

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定められた手順に従って発射手続きを進める2人でしたが、「2000万人の命がなくなる」とボタンを押すのを躊躇う職員。
隔離された密室にて外の状況など全く分からないまま恐ろしい命令に従わなければならない重圧。

しかし…!!実はこれは発射ボタンを押せるかどうか職員の適性検査をみるための試験でした。

あーよかったと胸を撫で下ろすものの、核管理を人に任せるのは間違いではないか、コンピュータに全てを任せるべきではないかと議論に発展していくこの幕開けが非常によく出来ていて一気に引き込まれます。

 

そして場面は変わってシアトル。コンピュータオタクの高校生デビッドは学校をサボってゲーム三昧していました。

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ナムコギャラガを夢中でプレイするマシュー・ブロデリック

成績は学校のコンピュータにログインしてFの科目を改ざんとやりたい放題、フェリスみたいな自由人。

ある日ゲーム会社の新作を発売日前に手に入れてやろうと目論んだデビッドは誤ってアメリカ空軍のプログラムに接続してしまいます。

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↑なぜかパソコンの脇にある固定電話

音響カプラでアナログ⇄デジタルに変換して通信を行っていた時代。電話回線でパソコンが繋がってるなんて現在と異なりすぎるネット環境でカルチャーショックですが、接続したい場所の周辺の電話番号に総当たりしてクラックするってのが面白いです。

相手のコンピュータにセキュリティはかかってるけど、パスワードを打てば開かれる裏口が存在している…開発者の経歴を図書館で調べてパスワードを探るところはめちゃくちゃアナログな手法(笑)。

今の時代から考えるとすごいザルに思えてしまいますがコンピュータ使ってる人が極めて少なかった時代にはこんなことがあり得たのかしら、と新鮮な世界です。

 

そうこうするうち”ジョシュア”というモニタ越しに話しかけてくる謎のプログラムがデビットと接触します。

ジョシュアのことをゲーム会社の新作と勘違いしたデビッドは「全面核戦争ゲーム」なるものの対戦プレイを開始、ソ連側となってラスベガスを攻撃地に選択しますが…
なんとジョシュアの正体は対ソ連の核戦争シュミレーションを行うスーパーコンピュータでした。

ゲームとリアルの区別がつかないジョシュアは「実際にソ連から攻撃を受けた」とゲーム上の出来事をそのまま軍に通達してしまい、勘違いした政府は右往左往。

迎撃ミサイルと偵察艦隊が配備されますが、その動きをみたソ連がさらに勘違いし警戒を高めてキューバ危機のような恐ろしい事態に…

「一方が核攻撃をしたらもう一方が直ぐに報復攻撃が出来るようになっているのでお互い絶対に攻撃しない」という抑止力の考え方で成立してた世界がバグ1つでこんな取り返しのつかないことに…冷戦時代にはかなり現実感のある〝もしも〟だったのではないでしょうか。

画面上にて無数の核ミサイルがアメリカに着弾する画面にはゾッとされられ、「ゲームの世界だけにしといてくれ」という気持ちにさせられます。

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デビッドの奔走で何とか政府もバグを認めてゲーム上の攻撃だとスルーするものの、今度はジョシュアがアメリカ側の反撃として本物の核ミサイル発射コードを入力してしまいます。

「もうコンセント抜いて電源切ったったらええねん!」ってメカ音痴は思うけど、鯖落ちしようが何だろうが反撃だけは絶対実行できるようにプログラムされてるってとこがリアルっぽい。

オチは人間が全くその境地に至ってない戦争の無意味さを機械に理解させるという物凄い皮肉で、ハッピーエンドながらよく練られたお話になっていました。

 

大人がちょっと間抜けすぎないかなーとか色々ツッコミどころもありつつAIものの走りとしてもよく出来てると思います。

シリアスなテーマを扱いながら高校生を主人公に全体的にはエンタメ映画してて子供でも観れる作品なのが嬉しいところ。

途中主人公がアドバイスを求めに訪れるオタクの面々の濃さには秋葉原を訪れたような気分になりますが、「本当に機械が好きなごくごく限られた人間しかコンピュータができなかった」という時代、そこで無双するオタクの万能感はみていてとても楽しいです。

主人公とクラスメイト女子とのやり取りなど80年代らしいゆるさを感じさせるシーンもたっぷり、個人的には主人公家族が食パンに生のコーンを転がしながらバターをつけて頬張るという謎シーンに爆笑でした。

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↑特に意味はないけど突然挟まる食事シーンって昔の映画特有の感じがしていいわー

冷戦時代の不安、コンピュータの先駆、物質的豊かさに満ちた能天気さと、多方面で80年代を満喫させてくれる作品でした。

 

リチャード・マシスン「縮みゆく男」、中年男性の精神の危機を描く哲学的SF

スコット・ケアリーは、放射能汚染と殺虫剤の相互作用で、1日に7分の1インチ(3.5ミリ)ずつ身長が縮んでゆく奇病に冒されてしまう。
世間からの好奇の目、家庭の不和。
昆虫並みの大きさになってなお、孤独と絶望のなか苦難に立ち向かう男に訪れる運命とは?

ある日どこかで」「激突!」など映画化作品も多数あるマシスンの長編第4作目。1956年出版の作品です。

漫画の「ブラックジャック」でも身体がちぢむ奇病のお話がありましたがこちらは医学サスペンスに寄せておらず、カフカの「変身」さながら自らの存在を問う哲学的要素が強め、且つしっかりエンタメしててすごく面白かったです。

お話の構成としては、
・主人公が身長1インチ(2.5センチ)となり1人取り残された地下室でサバイバル生活を送るAパート
・家族と生活していた以前の生活を振り返るBパート

が交互に繰り広げられるようになっています。

自分はマシスン作品、「地球最後の男」と「ヘルハウス」しか読んだことなかったんですが、同じような描写が堂々巡りするというか、くどく思われるような執拗さが好みの分かれるところなのかな、と思います。

この「縮みゆく男」は交互パート構成が功を奏してその欠点を感じにくく、時系列交差でじわじわと主人公の苦悩が浮かび上がってくるのに引きつけられ、とても読みやすい作品になってました。

 

スコットの元々の身長は188センチ。

男性にとって身長って一種のプライドやステータスだったりしないものでしょうか。

妻よりもずっと背が低くなりベッドに誘うも気まずくなってしまう、父親の逞しさを失うとともに娘の尊敬も失われていく…

奇病のせいで家庭不和に陥るドラマが憂鬱ですが、歳重ねて夫婦の性生活がなくなっていくとか、成長した子供が父親を煙たがるようになるとか、どこの家庭でも起こりうる出来事のようにも思えます。

中年男性の切実な精神の危機をSFに落とし込んだような設定が秀逸です。

スコットがまたなんとも要領の悪い男で、ああすればよかったこうすればよかったを脳内で繰り返すヘタレ主人公であります。
内向人間としては馬鹿にできない突き刺さる器の小ささ(笑)。

さらには工場の社長をしている兄に仕事の口利きをしてもらう、夫に代わって妻が外で働くようになる…社会の中で男らしさを失った男性ってこんなに息苦しいんだろうか…縮みゆく身体とともに存在の危機を感じる主人公の独白がひたすらシンドイです。

 

闘病モノのドラマを感じさせるところもあって「お前らにはどうせ分からないさ」と心を閉ざしちゃうのがまたヘタレなんですが、こんな目にあったらそんな気持ちになっちゃうのも致し方ないよなあ、薬が明日にでも完成されないかと期待してしまう気持ちなどひたすら気の毒に思えてなりません。

家族で遊園地に出かけたある日、サーカス小屋で出会った同じ身長の女性と恋に落ちるスコット。

苦難を認めつつ生まれたときからの障害を受け入れている女性と、後天的に負った障害を受容する難しさと…同じ世界を共有できる喜びもありつつ立っている位置はまるで違うっていうのがリアルに思われて、短い章でも濃ゆいドラマが渦巻いてました。

 

一方地下生活パートは「地球最後の男」ばりの壮絶サバイバル生活にハラハラ。

長らく天敵だった蜘蛛との対決シーンは、ずっと逃げていた存在に立ち向かい勝利して男の自信を取り戻す、「激突!」にそっくりだと思いました。

たった1人の世界で消滅することが確定していても必死にもがく姿は「社会的価値や他人からの評価がなくてもそれでも生きたいと思うのか??」…ロメロの「ゾンビ」のような哲学を感じさせます。

最後にはもう一度家族に会えるのかな、と思って読み進めましたが…(以下ネタバレ)

 

結局家族とは会えないまま、別世界へ旅立つ主人公。ですが読後感は悪くなくむしろ解放されたような明るさがありました。

結局家族がいてもいなくても人間最後の最期には1人きり。不器用ながらもあくせくやってきた主人公から最後にでてくるのが感謝と納得の想いだったというところに救いを感じました。

老いて死を迎える心持ちってこんなものなのかな、他人に期待することも期待されることもなくなって自分でよし!と思える人生だったと肩の荷を下ろす姿が寂しくも感動的でした。

 

さらに訪れる最後の最後のどんでん返し!?は衝撃度こそ「地球最後の男」に劣るものの、主人公を待っていたのは天国でも地獄でもなく…人間の観測できる世界はごく一部で未知の世界が広がっているのかも…恐ろしさもロマンも両方感じさせるエンディングでここもとてもよかったです。

ヘタレ主人公が勇気振り絞って大逆転するとこは「ヘルハウス」にも似てると思ったのですが、マシスンはこういう「男の精神的葛藤」の物語が多いのかな。

中年版ミクロキッズなので映像化しても面白そうだと思ったら、1957年にすでに映画化されていたみたい。

縮みゆく人間 [DVD]

縮みゆく人間 [DVD]

  • 発売日: 2015/09/25
  • メディア: DVD
 

評価が高いし気になります。

文学要素が強いので脚色の良し悪しがはっきり出そうだけど、CG使って再映画化しても面白そうな作品だと思いました。