どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「肉の蠟人形」1997…フルチとアルジェント、イタリアとハリウッドの狭間で…

(この記事のあと暫く更新をお休みします。)

アルジェントとフルチが共同制作するはずだったのにフルチが急死。〝ルチオ・フルチに捧ぐ…〟というテロップとともに幕を開ける1作。

昔VHSで一度みたきりだった「肉の蠟人形」を久々に鑑賞しました。

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同時期・同ジャンルで活躍したアルジェントとフルチ。

それぞれに良さがあると思いますが、アルジェントの方が音楽と映像の繋ぎのセンスが卓越していたりビジュアルの独創性が高く、後年の作品も一定のレベル!?を保てているように思われます。

映画一家に生まれたアルジェントに対しフルチは貧しい家の生まれでもっと苦労人なイメージ。

映画制作においても低予算の中で工夫を凝らして戦ってきた職業監督の面が強いように思われます。

アルジェントについてフルチは「彼は悪夢の中の住人だ」…と評していましたが、アルジェント作品は病的な人間の内面、トラウマ、家族の秘密などを描いたものが多く、その表現が大きな魅力なのではないかと思います。

対してフルチの作品は…「フランス人は私を死の詩人と呼んだ」と自ら得意げに語っていましたが(笑)、逃れられない死(運命)への恐怖、死んだあとどうなるのか…の疑念を映像にしたような、この世ならざるものの表現などに際立つものがあるように思います。

 

昨年鑑賞したドキュメンタリー「フルチトークス」では監督作「エニグマ」が「サスペリア」に似てると指摘を受けるとフルチは突然ムッとした様子でした。

若くして監督デビューし大成功を収めたアルジェントに対しては強いライバル意識があったのではないでしょうか。

仲が悪かった!?と噂されていた2人ですが、94年ローマのホラー映画祭にてアルジェントは車椅子に乗ったフルチに出会います。

晩年は糖尿病が悪化していたフルチ、病気のことは公にしたがらなかったようでアルジェントはびっくりしたそうです。

同じジャンルで活躍した先輩が撮りたい映画を撮れないまま監督人生を終えてしまうことに思うところがあったのでしょうか、「一緒に仕事をしよう」と声をかけたアルジェント優しいですね。

そうして2人で話し合い製作されることになったのが、ヴィンセント・プライス主演の1953年版「肉の蝋人形」のリメイク。

しかし撮影に入る前にフルチが急死してしまいます。(薬を飲み忘れて亡くなったそうで自殺説もあり真相は不明)

結局映画はアルジェントが製作に入りつつ監督は「フェノミナ」「デモンズ」シリーズの特殊効果を担当したセルジオ・スティヴァレッティが受け持つこととなりました。

フルチが参加した脚本には大きく変更が加えられたようで、残念ながらフルチらしさはあまり感じられない作品となっています。

 

1900年のパリ。とあるイタリア人夫婦が惨殺されベッドの下に隠れていた幼い娘・ソニアだけが生き残る。

彼女が目撃したのは鋭い鉤爪のような黄金の義手だった。

美しく成長したソニアは名高き芸術家、ボリス・ヴォルコフが営む蝋人形館の衣装係として働くことになる。しかし町では不可解な失踪事件が起きていた…

この映画の1番アカンところは肝心の蝋人形を恐怖装置として魅力的に描けていないところでしょう。

タイトルだけでネタバレにはなっているものの53年度版は「人形の中身は人間」というショックをじわりじわりサスペンスとして描き出していて効果的でした。

大きく内容を変えた2004年の「蝋人形の館」も非常に出来がよく、人形の中に紛れて殺人鬼から逃げる…など道具や設定をホラー演出に上手く結びつけていたと思うのですが、本作では1つ1つのアイテムの出来はよくても単なる背景に収まってしまっているのが残念です。

また館の主・ボリスから狂った芸術家魂が感じられず、過去の犯罪現場を再現した蝋人形を作っているのかと思いきや無関係な子供を手にかけていたりで「どういう作品をつくりたいのか」その妄執が伝わってきません。

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↑義手を隠す手袋はアルジェント作品の革手袋っぽい!?

蝋人形作成には謎の巨大装置が登場。

人間の精気を吸い取って新たな命を吹き込む…もはや芸術家じゃなくてマッドサイエンティスト(笑)。

ゴシックホラーの雰囲気を台無しにするような安っぽいCGの映像が突然あらわれます。

 

ヒロインが積極的に謎解きに挑むような人物でなく終始受け身なのも退屈なところで、全くいい男にみえない相棒役の新聞記者とイチャイチャ…

ソニアに心惹かれていた様子のボリス館長でしたが、結局自分の娘だったというオチで、もっと変態紳士な面を描いて欲しかったように思われます。

そんな中唯一素晴らしかったのは助手のアレックス。

父親に虐待されていたのをボリスに保護され慕うも新しく来たソニアに師匠を奪われそうで嫉妬。

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↑汚いものをみるような蔑んだ目でヒロインをみるヤンデレ弟子。

殴られるのは嫌だと言いつつ娼館では娼婦に叩かれ締めつけられるドMプレイに耽溺…

作中唯一愛憎と哀しみが感じられる人物でした。

 

クライマックス、ボリス館長はソニアを蝋人形にしようと迫りますが、反撃に遭いさらに嫉妬を拗らせたアレックスと乱闘になります。

肉の仮面が剥がれ最後に登場するのは…

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突然のターミネーター(笑)。どんな高技術なんだよ!

ターミネーターはあっさりやっつけられますが、なんとその直前にボリスは弟子アレックスと肉の面を交換して入れ替わっていた…!!(ターミネーターはアレックスだった)

ラストはボリスが逃げおおせた姿でエンドロールを迎えます。

フルチ作品もアルジェント作品も悪事が明るみになり犯人が自滅して終わるパターンが圧倒的に多いと思うのですが、ここもスッキリしないところ。

ヤンデレ弟子が愛する爺マスターの館と共に燃え盛り、ヒロインが笑いながら館から出てくる…そんなエンディングがみたかったです。

 

心臓鷲掴みや手首ボキーッなど特殊効果には所々見応えがあるものの、アルジェントよりも若いスティヴァレッティは「スターウォーズ」や「遊星からの物体X」が好きだったらしく、全体的にSFハリウッド作のトーンを感じさせるような仕上り。

97年の作品ですが、時代は手作りからCGへ…2004年の「蝋人形の館」はCGも上手く使って迫力ある映像がつくられていましたが、変化に乗り切れなかったイタリアンホラーの限界を感じるというか、時期的な立ち位置もあるのかどっちつかずで中途半端な印象が残ります。

全体的には残念作であるものの、デカダンな雰囲気とゴシック・ホラーの香りは味わえて、アルジェントとフルチが好きならば観ておいて損はないといえる。改めてみてもそんな印象の作品でした。

 

「幻想殺人」…映像もストーリーも鮮やかなフルチの傑作ジャーロ

「マッキラー」に先駆けてフロリンダ・ボルカンを主演に迎えたルチオ・フルチ監督による71年の作品。

評価が高いようで気になっていた作品ですが、大きな破綻なくストーリーが成立しており、悪夢の描写も圧巻。この時期のフルチは本当に凄かったんだなーと感じ入る1本でした。

ストーリーが少々複雑だったので、まずはあらすじを簡単に整理してみたいと思います。

◆◆◆

ロンドンで裕福に暮らすキャロルは隣に住む自由奔放な美女・ジュリアを殺害する夢をみました。

精神科医にそのことを話すと「奔放になりたい気持ちが奥底にあるが夢の中で彼女を殺すことで良心のバランスをとっている」などと分析されます。

しかし数日後、本当に隣家のジュリアが殺される事件が発生。

現場からはキャロルの私物が発見され警察は彼女に疑いの目を向けます。

 

キャロルは夫・フランク、その連れ子のジョーン、夫の秘書・デボラらと共に暮らしていましたが、フランクと秘書は不倫の仲でした。

キャロルの父は有名な弁護士で、彼に頭が上がらないフランクは義父の前でだけ良い夫を演じていました。

ジュリア殺害の前日、キャロル父のもとには何者かによる脅迫電話が掛かってきていました。

不倫をバラすとジュリアに強請られたフランクが彼女を殺したのでしょうか。

「キャロルの夢」は精神科医に記録が残っておりそれを事前に知ることができれば、夢をトレースしてキャロルに罪を着せることが可能です。

 

警察の捜査が進む中、キャロルは街中でみかけたヒッピー2人組が夢の中に出てきた人物にそっくりなことに驚いて後をつけます。

夢の中で彼らはキャロルの殺人をじっと見ているようでその目はなぜか盲目…という不気味な姿でした。

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ヒッピーとは直接会話せず遠くから視認し合うだけでしたが、その後なぜかキャロルは彼らにつけ回され殺されそうになります。

警察はヒッピーを逮捕しますが、他の罪は認めてもジュリア殺害だけは「やってない」と抗議します。

そんな中キャロル父が「ジュリアを殺したのは自分だ」とメッセージを残して自殺。

思わぬ犯人の自供で事件は解決したかに思われましたが…

 

(以下どんでん返しネタバレ)

 

父親が自殺する前のこと…キャロルは刑事から「脅迫の話を知ったのは?」と問われ「電話で父から話をきいた」と答えていました。

脅迫電話があったことを父親はキャロルに漏らしていませんでした。

それなのになぜ電話があったことを知っていたのか…それはそのとき掛けた側の人間(ジュリア)と一緒にいたから…刑事はキャロルと被害者の繋がりを確信します。

過去に父の仕事を手伝っていたこともあるキャロルは精神鑑定で無罪になったケースを知っており、夢の内容をでっち上げ心神喪失による無罪を勝ち取ろうと画策していたのでした。

しかし脅迫電話の一件は夢相談にもなかった出来事でキャロルが意識のはっきりした状態で殺人を犯していたことが発覚します。

キャロル父は娘と刑事のこの会話を聞いてしまい、娘が確信犯だったことに気付いた…ショックを受けて&娘を庇って自殺したものと思われます。

 

謎の2人組ヒッピーは確かにジュリア宅にいて事件を目撃していましたが、LSDでトリップしていたため記憶がほぼなく、後日ジュリアの死を知って「もしかしたら自分達がジュリアを殺したのかもしれん」と目撃者だったかもしれないキャロルを逆に殺そうとしてきたのでした。

キャロルにしてみれば「ヒッピーに目撃されてたから心神喪失で行こうと決めたのに、なんであいつら警察に通報しないんだ??」と気になって後を追いかけてしまった…そのあと向こうから襲ってくるのは不可解で追跡シーンの恐怖はホンモノだった…ということでしょう。

 

ラストはこんなので逮捕の決め手になるのかなー…って強引に感じるところも多々ありますが、てっきり夢オチか何かで終わるのかと思いきや意外に話が緻密に構成されていました。

フルチおなじみの「白いコンタクトレンズの人」が「麻薬で認知がない盲目の目撃者」というハッキリした理由づけで登場するなんてビックリです(笑)。

映像センスも抜群に冴え渡っていて冒頭の夢シーンから一気に引き込まれます。

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何かに追われてる恐怖、夢の中でスローモーションみたいに動けなくなる感じ、落下して目が覚める夢の終わり…悪夢をリアルに体感させるようなフルチの映像表現が圧巻です。

白昼夢のような後半の追跡シーンも素晴らしく、天井の高いおっきな建物(ロンドンのアレクサンドラ・パレス)をたった1人で逃げ惑う姿に非日常感と恐怖がたっぷり味わえます。

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本作はフルチが逮捕された!?というエピソードを持つことでも有名な作品だそうで、キャロルが逃げ込んだ精神病棟にて生きたまま解剖されている犬に出くわすというショッキングなシーンが登場します。

犬がホンモノにみえてしまったため動物虐待の罪を問われたものの特殊効果担当が「作り物です」と説明に赴いて事なきを得たそうですが、確かにギョッとなる場面でした。

そのほか特撮モノ感ありありの巨大怪鳥が夢に出てくる所と、追跡者とコウモリに同時に追いつめられる緊迫感たっぷりのシーンもよく出来ていて、フルチもこれが気に入って後の作品でも似た場面を採用したのかなあと思いました。

 

原題A Lizard in a Woman's Skin(トカゲの肌を持つ女)はヒッピー2人組の幻覚証言からとったようで洒落たタイトルに思われますが、当時アルジェントの「歓びの毒牙」(原題:水晶の羽を持つ鳥)のヒットに便乗して動物をタイトルに入れた作品が跋扈していたそうです(笑)。

「マッキラー」のフロリンダ・ボルカンさんは役柄的にもっと線の細いか弱い感じの女優さんでもよかったのかも…と思ったけど、上流階級なのにちっとも幸せに見えない&内側に感情溜めまくった感じがよく伝わってきて演技はすごく良かったです。

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最後にお父さんのお墓の前で流してた涙はきっと本物…

優秀だったのに女性だから跡取り弁護士にはさせてもらえず、夫には浮気され、レズの恋人からは脅しの材料に使われ…よくよく考えると踏んだり蹴ったりな孤独な人で、陰鬱人間ドラマ感じさせるところもよかったです。

この時期のジャーロのフルチの凄さが堪能できました。

 

「ボーンヤード」…超能力おばさんvs巨大ゾンビプードル

ハピネットさんの第13期ホラーマニアックスシリーズが続々と発売、知らないタイトルもあって気になるものばかりですが今月発売されたタイトルの1つがこれ。

「ガバリン」で特殊効果を手掛けていたジェームズ・カミングが監督・脚本・特殊効果のすべてを担当した91年の作品。

ジャケ写だけみるとアニマルホラーっぽいけど全然違った(笑)。

前半と後半でテンションが違いすぎてビビりますが、ゾンビものの変化球で楽しいホラーコメディでした。

 

とある葬儀屋にて東洋人の子供3人の死体が発見、その胃の中からは人肉が検出されます。犯人と思しき葬儀屋は「子供たちは不死身のキョンシーだ」などと不気味な言葉を残していました。

事件を追うジャージー警部は手がかりを掴むため霊能力者・アリーの元を訪れます。

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汚部屋に住む太っちょおばさんのアリー。

だらしない人かと思いきや物に触ると残留思念がみえるサイコメトラーエイジな能力者。

かつて妊娠中に彼氏に捨てられ流産したという悲しい過去があり、マスコミには魔女と呼ばれ追い立てられたよう…

主人公が美人女優じゃなく太ったおばちゃんってのが何ともいえない味わいで、人と違う特性を持ったためにメンタル病んで世捨て人になってしまった…意外にキャラ描写がしっかりした作品です。

 

捜査協力を決意したアリーは、警部らとともに事件の遺体が収納されている死体安置所を訪問します。

シリアスサスペンスっぽい雰囲気だった序盤から一気にトーンが変わり、保管されていた子供たちの死体が起き上がり襲いかかる…!!密室ゾンビパニックものがいきなりスタート。

本作のゾンビはキョンシーらしいのですが、皮膚は黒くただれており容貌は結構グロめ。頭でなく胸を撃つと倒せる奇行種で知能もそこそこありそうです。

けれどこのゾンビより人間のキャラクターの方が個性際立ってて魅力的に描かれてるように思いました。

安心感バツグンの老警部のおじちゃんはずっとアリーのことを気にかけていたようで、捜査協力によって彼女のプライベートが犠牲になったことを謝ります……誠実な人。

能力のせいで孤独で辛い思いをしてきたアリーはそれでも他人を見捨てられず危機に立ち向かっていきます……おばちゃんもいい人。

そしてもう1人、自殺未遂をしたダナという若い女性キャラクターも登場。

ゾンビ事件とは全く関係のないところで、安置所に運ばれてきた死体が実は生きてましたというカオスな展開(笑)、ダウナーな雰囲気を醸す女性が一味に加わります。

「小さいことを気にして将来を台無しにしたの。前は自分を強い人間だと思ってたけどそうじゃなかった。」……人生何かあったんかなー、繊細で生き辛かったんかなー……

一度は生をあきらめた人が表情を取り戻し、果敢にゾンビを撃退する姿に勇気100倍。

その他も陽気な監察医のおっちゃん、ウィリアム・ボールドウィンをだらしなくした感じの新米刑事など印象に残る顔ぶれ。

そして少ない出番ながらも場を掻っ攫って行くのは死体安置所の夜勤受付のバーサン、プーピンプラッツさん。

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規則に厳しくて口うるさい、プードル犬・フルーフソムズが唯一の友。

目力ありすぎ、ディズニー映画の悪役みたいなバーサンがゾンビのネチネチ肉を口に詰め込まれる。

ワンちゃんもゾンビ肉を食べてしまい揃ってゾンビ化、この2人だけなんで巨大化したのか謎です(笑)。

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↑プードル犬は毛のモフモフがそのままであんま怖くなくちょっとかわいい(U^ω^)

クライマックスに繰り広げられるスケールのちっちゃい「エイリアン2」みたいな攻防戦。太ったおばちゃんが走ってるのみてるだけでハアハア。

人生どん底だった女2人(自殺女性とおばちゃん)が行き詰まりから脱出していく…意外に人間ドラマが感じられる優しい風味で、ラストに流れる恋愛映画の主題歌みたいなザ・80年代風ソングになぜか感動。気分スッキリとなる作品でした。

 

バーサン役の女優さん(フィリス・ディラー)はアメリカの有名なコメディアンだそうで、ハスキーがかった声と喋り方が独特、間の取り方も絶妙でした。

ワンちゃんは「エルヴァイラ」にも出演してた子だったようで、名俳優犬だったんですかね。
特典でバーサンが「あの犬年とってて重かった」って言ってて吹き出しました(笑)。

 

91年の作品と言われると(良い意味で)もう少し古い感じがしましたが、この年代の映画の手作り感は素晴らしいですね。

こんな素敵な作品がVHSのみでカルト化してただなんて勿体ない!めっちゃオモロかったしすごく好きな作品でした。

 

「ゾンビ3」…知能派ゾンビとマザコン息子マイケル

日本では「ゾンビ3」というタイトルになっているもののロメロの「ゾンビ」とはもちろん無関係、原題が「Zombi3」である「サンゲリア2」とも全く関係のない作品。

81年公開、監督はアンドレア・ビアンキというイタリア人でこの時期につくられたマカロニ・ホラーの中では評判の1作!?のようです。

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ドワーフのような長い髭を生やした考古学者のエアズ教授はエトルリア文明の研究者。
地下墓地を発掘中に太古の呪いが解かれ死者が蘇ってしまいます。

そんなことは露知らず墓地近くの屋敷にてバカンスを過ごそうとやって来たカップルたちは死者の群れに襲われてしまいます…

 

舞台がずっと家から移動しないスケールの小さいゾンビ映画ですが、枢機卿の別荘だったというロケ地の古城はゴシックホラーに出てくる幽霊屋敷のようで雰囲気たっぷり。

登場人物はカップル3組+使用人2人+子供1人という構成で、唐突に挟まるカップルのエロシーン。

セールスのためなら何でも撮ったる!!という強い意気込みを感じます(笑)。

しかし登場人物の中で最も強烈な印象を残すのはマザコン息子のマイケル。

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子役が使えなかったため低身長の25歳の男性に12歳の子供役を演じてもらったらしく、結果「エスター」的な異様な雰囲気が醸し出されることに…

ゾンビが館に入ってきても「ママ!ママ!」と叫びながら母親にベタベタ。親子とは思えない親密なキスと愛撫を披露…

一体何の映画をみてるんだ!?ゾンビそっちのけでハラハラさせられます。

 

ゾンビものとしても見所はあり、本作のゾンビは土成分多めのパサパサしたやつで「サンゲリア」のゾンビに似た風貌。

サンゲリア」ではスペインのコンキスタドールが蘇ってきて400年位前にしては死体新鮮すぎない??と思ったけど、こちらは紀元前の遺体なので保存状態いいどころの話じゃありません(笑)。

うじ虫が顔に付いたゾンビが土の中からゆーっくりと起き上がってくるシーンは「サンゲリア」のミミズゾンビ登場シーンにそっくり。

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その他にもフルチの目玉潰しを完全にトレースしたような場面が登場したり、目のクローズアップがあったり、「地獄の門」を想起させる工具で頭部破壊(やりそうでやらない)のシーンが出てきたりします。

 

本作の特殊効果担当はジノ・デ・ロッシ

サンゲリア」と同じ人だからセルフパロディみたいに同じようなのつくったのかな…と思いきや「サンゲリア」を手掛けたジャンネット・デ・ロッシとは別人。
(ややこしい…さらにジノ・デ・ロッシは「地獄の門」の特殊効果担当で「サンゲリア」にもクレジットはされてないが参加はしていたようだ)

ゾンビの造形も含め損傷した皮膚から血肉がただれる様子など「サンゲリア」の方がつくりが圧倒的に丁寧ですが、本作も食事シーンのグロ描写などよく出来ています。

歩く速度こそゆっくりなものの、動作がキビキビとしていて物悲しさが全くないのがこちらの特徴。

道具を持って皆で協力してドアを破壊するなどビックリの知能派です。

暗殺者の如くゾンビが短剣を投げつけ鎌を持って女性の首を刈りとるなどゾンビ映画らしくない珍妙な光景が続出。

逃げ込んだ僧院にて修道服を着て化けたゾンビたちに襲われるシーンは「どんだけ頭いいんだよ!」と不条理感が極まっていました。

 

アクションシーンで主にかかるシンセサイザをきかせた曲は過剰すぎてチープ、役者さんはキャリアのない人が多かったようで、1番若いカップル組の演技は棒を越えて酷い。

全体的にC級な中、マザコン親子だけが高い演技力で他を圧倒します。

ラスト、12歳の息子に母乳を与えようと乳を差し出す母親。しかしゾンビ化したマイケルは母の乳房を嚙み千切る…

なんの変態プレイみせられてるんや…

 

昨年フルチ祭りをしたときに関連作として発見、意外にAmazonのレビュー数が多く嬉々と語られている方ばかりでこれは観ねばと思い鑑賞したのですが、好きな人間(変態)には刺さる映画。

昨年みた「サンゲリア2」の方がロメロの引用が多く「ゾンビ3」のタイトルがしっくり来て、こちらの「ゾンビ3」の方がフルチのトレースが多く「サンゲリア2」っぽいですね。(ややこしい)

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サンゲリア」好きなら必見の作品、みれてよかったです。

 

「SFソードキル」…哀しき異世界転生、藤岡弘、のラストサムライ

パペットマスター」やスチュアート・ゴードン監督作など80年代にB級映画を制作していたエンパイア・ピクチャーズ。

初期にはなんと藤岡弘、を主演に迎えた作品をリリース。

氷漬けになっていた400年前のサムライが現代アメリカに蘇る…!!

荒唐無稽なストーリーですが、藤岡弘、さんがトンチンカンなサムライ像を排除すべく制作陣と内容を詰めたそうで、意外にシリアスなトーンの作品になっています。

 

どうみても日本じゃない雪景色で始まるオープニング。

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1552年、真壁一族の武士・多賀義光は敵の騙し討ちに遭って妻を殺され自身も重傷を負って凍った川に転落してしまいます。

その400年後スキー客が氷漬けの遺体となった義光を発見。

なぜなのかサッパリ分かりませんが遺体はアメリカの「低温外科医療研究所」に届けられ蘇生実験に使われることに。

タイムスリップなどファンタジックな時間移動じゃなくしっかり科学が入って来るのが意外。

けど死体あっためて心臓手術して呼吸器つけたら蘇っちゃうハーバート・ウェストもびっくりの謎技術があらわれます(笑)。

生き返った義光ですがなんせ400年も経ってて文明変わりすぎ、その上日本語を話せるスタッフが皆無で誰も何も説明してくれません。

とんでもない二重苦に遭いつつも刀と着物を取り戻すと現代のロサンゼルスの街に飛び出します…

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おかしなニンジャや芸者が出てくる80年代〜90年代のハリウッド映画よろしく、珍妙なサムライが現代生活をエンジョイするコメディ作品になっていればそれはそれで面白かったのではないかと思うのですが、意外に描写がリアル。

寿司バーでようやく出会った日本人からは「頭がおかしい」「方言がキツくて何言ってるのか分からん」と無下にされてしまいます。

唯一心を通わせることが出来たのは退役軍人のおっちゃんと日本語は喋れないけど異文化に興味津々のジャーナリストの女性。

言葉は通じなくても善意と敬意はしっかり受けとめる義光。

しかしチンピラとのトラブルを契機に警察に追われなんと射殺されてしまいます…

 

文化も言葉もまるっきり違う土地にいきなり転生させられたらこうなるしかないんじゃないだろうか…リアルに感じられる暗い結末で、1人異質な存在として浮いてしまっているサムライの姿が何ともいえず寂しいです。

ド派手なアクションシーンが沢山あるわけではないけれど、鋭い眼光に真剣を使っての殺陣をみせてくれる藤岡弘、の迫力は満点。

髪を自ら整えるところ、銃をものともせず向かっていく狂気を宿したような死を恐れない姿などホンモノ感に満ちています。

たまに昔の回想がフラッシュバックするのも印象的で、冒頭と同じく川に転落して終わるエンディングが見事。

せっかく蘇ってもどこにも居場所がなかった…寂寞感漂うと同時に死が延々ループするような摩訶不思議さも湛えていてSFファンタジーの趣もしっかり感じさせます。

ところどころ登場する日本人の話す日本語が「キルビル」も真っ青な片言でそこは笑ってしまいますが、和太鼓や尺八が入ったようなリチャード・バンドの音楽は見事にハマっていて和の雰囲気が出ています。

アメリカからみると中国も東南アジアも日本も皆一緒くたのイメージだったらしく、藤岡弘さんは日本の侍像を伝えるのに苦心したそう。
藤岡弘、の熱意とそれを真摯に汲み取ってくれた制作陣の誠実さが伝わってくる。

B級かと思いきや意外に暗さを湛えた作品、でもそこが良いです。

 

「サイレント・ランニング」…ロボットに涙する70年代ニューシネマSF

2001年宇宙の旅」などの特撮を手掛けていたダグラス・トランブルが先日亡くなられたとのこと。

タイトルはよく聞くものの未見だった監督作「サイレント・ランニング」を観てみました。

地球が汚染され僅かに残された木々や緑が宇宙船に詰め込まれて育てられている未来。

植物学者・ローウェルは甲斐甲斐しくドームで動植物の世話をしてしましたが、他の3人のクルーは自然を邪険に扱いローウェルのことは変人扱い。

そんな中政府からドームを爆破して地球に帰還するように命令が出ます。

緑を愛するローウェルは激怒し他のクルーを手にかけて1人宇宙空間を彷徨うことに…

エコロジーを訴えた70年代らしい内省的な内容ですが、エコを訴える主人公が人を殺すという結構ショッキングなストーリー。

いざ1人になると仲間といた日々を心に思い浮かべるローウェル。

仲間といたときは理解しあえず孤独、1人になっては寂しさが湧き上がり結局孤独…人間身勝手でどうしようもないなー、何とも切ない気持ちが込み上げます。

主人公ローウェルを演じるのはブルース・ダーン

ベトナム帰還兵を演じていた「ブラックサンデー」も印象的でしたが、元々壊れやすい繊細な人が1人きりになっていよいよヤバい感じになっていく…今作も少し狂気がかった役がハマってました。

そんなローウェルと行動を共にするようになるのが3体のロボット、デューイ、ヒューイ、ルーイ。

R2-D2の原型らしい短足のヨチヨチ歩きがとっても可愛いドローン。彼らと船を再建しつつ新たな生活を始めようとします。

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一緒にお喋りできるわけじゃないけど、ちょっとした仕草から心が伝わってくるようで小さな子供のような何とも言えない愛らしさ。

けれどルーイは任務中に体を吹き飛ばされ、ヒューイも事故に遭ってしまいます。

やがて政府の船がバリー・ホージェ号を発見、ローウェルは人間社会に戻るのかそれとも緑と共に生きる道を選ぶのか…

ラストに主人公がとる行動は釈然としない気もしますが、どこにも帰る場所がない孤独感…「バニシング・ポイント」や「ディアハンター」などジャンルは違うけど本作もベトナム戦争末期のアメリカンニューシネマ特有のものが色濃く出ているように思われました。

最後に1人残ったデューイが主人公の意志を継いで緑を守る姿にはじーん。(壊れかけでもヒューイも一緒に残したって、って思ったけど)

自然にとっては人間はいない方がいいと捉えると物悲しいながらもラストはハッピーエンドなのかもしれません。

植物学者の主人公が太陽光の存在を忘れていたり話や設定はツッコミどころ満載でしたが、ビジュアル面がとにかく魅力的。ガラスのような形状のドームが付属した宇宙船のデザインは「マクロスF」のコロニー思い出しました。

ラスト暗闇に照らされたドームがなんとも美しく清涼感あるフォークソングとともに余韻が残ります。

全然別ジャンルですが最近楳図かずおの「わたしは真悟」を読み直したのもあって、健気なロボットが人間の思いを引き継いで何かを残す姿にうるっとなりました。

 

実写映画「嘘喰い」観てきました

大好きな漫画なのでどんな出来栄えでも受け止めると覚悟の上観てきました。

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原作勢にとっては驚きの連続、知らんキャラがバンバン出てくる、激すぎる場面転換、予想の遥か上いくキャラ崩壊…と119分レールの見えないジェットコースターに乗せられたようで全く退屈しませんでした。

横浜流星の貘さんはハマり役でキャスティングは総じて85点位あるのに脚本が軽くマイナス100点叩きだしてるという非常に残念な出来栄えではありました。

しかし公開前には「監督が貘さんにハーモニカ吹かせようとしたのを横浜流星が断固拒否した」……という不穏すぎるニュースが流れ、期待値が最低のラインまで沈み込んだためか思った以上に楽しんで観ることができました。

↓↓以下原作の内容にも触れつつネタバレでブツブツ語ってます

 

スタートが屋形越えの回想シーンなことにまずびっくり。

漫画だと凡人(にみえる)梶ちゃん目線で貘さんの謎めいたカリスマ性が描かれ読者も一緒に惹かれていく…という流れがスムーズなのですが、いきなり貘さんの負けシーンから始まってしかも普通に「負けたー」って感じのリアクションで小物に見えてしまうような出だし。

「夜空を横切る飛行物が来るか」という賭けも漫画だと並々ならぬスケールの大きさが感じられてカッコいいのですが、貘さんの手配した飛行機(一機かよ)の協力者を射殺する賭郎の人にポカーン。

そして映る空港の欠航の文字版…

ゆとりにも分かるようにめっちゃ丁寧に作ってくれてるんかな…

その後もキャラの名前がテロップでドン!ドン!と出てくる、倶楽部「賭郎」とは…スターウォーズのOPばりに文字だらけの解説が入る…久々にみる最近の邦画のザ・説明な演出について行けずビビりました。

 

内容は2時間に収めるなら廃ビル編+ババ抜きかなと予想してましたが、あれ??舞台が廃ビルじゃなくて森??

遮蔽物のない開けた場所で飛んでくる弾丸を避ける貘さんと梶ちゃん。虚弱設定はいずこに梶ちゃんの前を走ってく貘さん。

梶ちゃんが貘さんに「付いていけない」と怒って別れる場面も予想だにしない衝撃の展開でしたが、平気で爆弾つけられちゃうしハングマンの首吊りもなぜかセットで処刑だっていうし、梶ちゃんの扱い中々酷かったです。

その後1人になりホテルに女性連れ込んで豪遊する梶ちゃん…「なんか違うんだよなあ」…それはこっちの台詞だよ(笑)。

梶ちゃんはそんな子じゃないのよ、毒親育ちのサバイバーで自己肯定感の低さゆえに憧れの貘さんに認められたくて何でもやっちゃうちょっとアブない子なのよ…

役者さんは雰囲気合っててよかったのに不要な描写がかなり多かったように思われました。

 

そして予想はしてたものの完全に別キャラだったのは蘭子。

貘さんのことが好きなツンデレ女子…なんで女性キャラ=恋愛にしちゃうのかねえ…

エンドロールで確認したら今回の映画には乃木坂46の会社が製作委員会に入っていました(察し)。

邦画業界、ホンマそういうとこやぞ!!

もう白石さんはミスキャスト以前の問題で名前変えたオリキャラにしてくれた方がよかったんじゃないかと思いました。

蘭子のキャラで行くなら年齢度外視で高島礼子とか若村麻由美とかその位迫力ある人呼べなかったですかね…

貘さんと梶ちゃんとマルコとまいやんの4人でご飯食べるシーンは「一体何をみせられてるんだ?」ってなって笑ってしまいました。

 


さらに…何よりも1番衝撃だったのは佐田国の盲目設定の描き方。

サングラスに目に包帯…あれ??あたまから盲目キャラとして登場してる??

「盲目だと予想だにしなかったのに実は…」というあのどんでん返し、原作最高の名シーンをぶっ潰す狂気の沙汰。

漫画では佐田国と目蒲が蜜月状態で同じ場所で同じゲームをして荒稼ぎしてた…って話になってたからこそ成立してたトリックも、その前のシーンで色んな場所でポーカーとかやってて「これはどうやって視覚再建してたんや??」…ってなりました。

何より貘さんが試行錯誤しながら相手の嘘を見抜きそれを利用して策を講じる…ババ抜きの、「嘘喰い」の1番面白いポイントがすっぽり抜け落ちててなんじゃこりゃーでした。

 

しかし脚本がこんなメタメタでも横浜流星の貘さんはとても良かったです。

特殊なカラーの髪でもキマっててあの服着こなせるのが凄い。漫画より捉えどころのない感じは薄めだったように思いましたが、原作のイメージを損なわないカッコいい貘さんになってました。

見せ方こそめちゃくちゃだったものの佐田国役の三浦翔平も迫力があって予想を上回る好演。

2人がババ抜きしてる画はバッチリ決まってて、だからこそ「何でこんな脚本と演出なんや…」と残念でたまらない…

佐田国の後ろに付いてたオリキャラの女性の存在もいただけず何の必要性があったのか理解不能、佐田メカに女は不要です…!!(腐女子脳)

今回1番割りを喰らってたキャラが目蒲で何を考えてるか分からない奴になっちゃってて、マッドサイエンティストのくだり丸々いらんかったから「私は何でも出来た…」のとこ入れて欲しかったな…

「死を恐れない」って言ってた2人が最後に無様な醜態さらすのがよかったのにそこも残念です。

目蒲含め立会人の皆さんのビジュアルは総じて悪くなく、夜行さん、自分はもうちょい静かなイメージで怖さが足りないと思いましたが、安心感のあるカッコいいおじ様でこれはこれでアリでした。

立会人が集まってる場面がなぜかホログラムのシーンにも笑ってしまいましたが、亜面さんと判事、すぐ分かるビジュアルで嬉しかったです。

門倉さんやちゃんみだを出さないのは続編のお楽しみってことかな、ちゃんと考えてくれてるんかな…って思ったら最後ハンカチ落としまで飛ばしちゃう…なんでやねん!!ってなって終わりました(笑)。

 

せっかくこれだけいいキャストを集められたのに脚本もうちょいどうにかならんかったんかい、って内容でしたが、なぜかもう1回観たいと思っている自分がいる(笑)。

何より公式からの供給が圧倒的に不足してた「嘘喰い」が改めて注目される、これだけでもう万々歳です。

漫画の「嘘喰い」、自分はこのババ抜き終わってからの「0円ギャンブル」で心を鷲掴みにされ後ろの巻に行くほど右肩上がりで面白いのが凄いと思ってましたが、今回映画みると漫画の方がいかに序盤から周到に話が組み立てられていたか、その完成度の高さに改めて気付かされます。

原作漫画の素晴らしさを再認識させてくれる点では間違いなく凄い映画、色々文句言ってしまったけどそれも1つの面白みというか、期待した以上に楽しんでみれてよかったです。