どうながの映画読書ブログ

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「SFソードキル」…哀しき異世界転生、藤岡弘、のラストサムライ

パペットマスター」やスチュアート・ゴードン監督作など80年代にB級映画を制作していたエンパイア・ピクチャーズ。

初期にはなんと藤岡弘、を主演に迎えた作品をリリース。

氷漬けになっていた400年前のサムライが現代アメリカに蘇る…!!

荒唐無稽なストーリーですが、藤岡弘、さんがトンチンカンなサムライ像を排除すべく制作陣と内容を詰めたそうで、意外にシリアスなトーンの作品になっています。

 

どうみても日本じゃない雪景色で始まるオープニング。

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1552年、真壁一族の武士・多賀義光は敵の騙し討ちに遭って妻を殺され自身も重傷を負って凍った川に転落してしまいます。

その400年後スキー客が氷漬けの遺体となった義光を発見。

なぜなのかサッパリ分かりませんが遺体はアメリカの「低温外科医療研究所」に届けられ蘇生実験に使われることに。

タイムスリップなどファンタジックな時間移動じゃなくしっかり科学が入って来るのが意外。

けど死体あっためて心臓手術して呼吸器つけたら蘇っちゃうハーバート・ウェストもびっくりの謎技術があらわれます(笑)。

生き返った義光ですがなんせ400年も経ってて文明変わりすぎ、その上日本語を話せるスタッフが皆無で誰も何も説明してくれません。

とんでもない二重苦に遭いつつも刀と着物を取り戻すと現代のロサンゼルスの街に飛び出します…

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おかしなニンジャや芸者が出てくる80年代〜90年代のハリウッド映画よろしく、珍妙なサムライが現代生活をエンジョイするコメディ作品になっていればそれはそれで面白かったのではないかと思うのですが、意外に描写がリアル。

寿司バーでようやく出会った日本人からは「頭がおかしい」「方言がキツくて何言ってるのか分からん」と無下にされてしまいます。

唯一心を通わせることが出来たのは退役軍人のおっちゃんと日本語は喋れないけど異文化に興味津々のジャーナリストの女性。

言葉は通じなくても善意と敬意はしっかり受けとめる義光。

しかしチンピラとのトラブルを契機に警察に追われなんと射殺されてしまいます…

 

文化も言葉もまるっきり違う土地にいきなり転生させられたらこうなるしかないんじゃないだろうか…リアルに感じられる暗い結末で、1人異質な存在として浮いてしまっているサムライの姿が何ともいえず寂しいです。

ド派手なアクションシーンが沢山あるわけではないけれど、鋭い眼光に真剣を使っての殺陣をみせてくれる藤岡弘、の迫力は満点。

髪を自ら整えるところ、銃をものともせず向かっていく狂気を宿したような死を恐れない姿などホンモノ感に満ちています。

たまに昔の回想がフラッシュバックするのも印象的で、冒頭と同じく川に転落して終わるエンディングが見事。

せっかく蘇ってもどこにも居場所がなかった…寂寞感漂うと同時に死が延々ループするような摩訶不思議さも湛えていてSFファンタジーの趣もしっかり感じさせます。

ところどころ登場する日本人の話す日本語が「キルビル」も真っ青な片言でそこは笑ってしまいますが、和太鼓や尺八が入ったようなリチャード・バンドの音楽は見事にハマっていて和の雰囲気が出ています。

アメリカからみると中国も東南アジアも日本も皆一緒くたのイメージだったらしく、藤岡弘さんは日本の侍像を伝えるのに苦心したそう。
藤岡弘、の熱意とそれを真摯に汲み取ってくれた制作陣の誠実さが伝わってくる。

B級かと思いきや意外に暗さを湛えた作品、でもそこが良いです。