モンド映画の走りと呼ばれるイタリア映画を初めて観てみました。
グロい&暗いというイメージを大きく裏切り、妙な明るさのある作品でこんな映画だったのかとびっくり。
世界の人々の風俗を捉えた映像が多数並べて描かれる記録映画調の作品…と聞くと凄い真面目そうですが、これ絶対嘘やろ、いい加減にナレーションつけたやろ、とツッコまずにいられない場面がたくさん(笑)。
全く内容を知らないアニメなどの映像に無理矢理アフレコをつけたニコニコ動画の〝ミリしら〟をみているような、そんな不思議な面白さがありました。
自分だったらレンタルビデオ屋のコメディのコーナーに置きたいです。
作っている方はきっと真剣で「人間一皮剥けば皆同じで残酷な生き物なんだ!!」みたいなテーマ性もしっかり伝わってはきます。
犬食や動物を殺害する映像などは人を選ぶと思いますが、スナッフフィルムのような悪質な残酷さはなく、世界のゲテモノ料理紹介のバラエティを観ているような趣。
素晴らしいのはリズ・オルトラーニの音楽で耳に残る美しいテーマ曲はもちろん、作品全体の映像と音のシンクロが見事。
カメラワークや場面の切り替えもユーモラスで、B級とは切り捨てられない妙な品格があります。
ネットが普及して何でも簡単に知ることができる現在にはない、世界が未知だった頃のワクワク感やロマンが詰め込まれているようでした。
↓↓↓以下少し長くなりますが、各エピソードについて簡単にメモを残しておきたいと思います。
◆保健所に連れて行かれる犬
冒頭が1番残酷映画らしい雰囲気、犬好きには辛い映像。
原題Mondo Cane(犬の世界)にあつらえたようなオープニング。
◆大スターの葬列とその後継者の日常
イタリアのサイレント映画の大スター、ルドルフ・バレンチノが亡くなったときの葬列の様子が映されます。
次にはその後継者と呼ばれるロッサノ・ブラッツィの日常が映し出され、シャツの寸法を測りにデパートに行くと女性たちが彼に群がります。
自然に撮ったとは思えないカメラワークで、コメディ映画の一場面をみているようです。
◆キリウィナ島のマンハント
〝男性狩り〟の習慣は遠くキリウィナ島に住む部族にもあるそう。
大勢の半裸の女性たちが走り回って男性を追いかけるアグレッシブな映像に圧倒されます。
◆水着女性を追う男性たち
コートダジュールでも上半身裸で過ごすことがありますが、ここでは騒がしいのは男性の方。
海兵隊の男性たちがモーターボートに乗った水着姿の女性たちを一目見ようと船上を右へ左へと大移動。
躍動感のある音楽が映像にマッチしていて楽しいです。
◆豚を食べるニューギニアのチンブー族
水着女性の乳から豚の赤ちゃんに母乳を与える女性の乳へ…
ここでは母親のいない子豚に授乳させるため我が子を殺された女性がいるのだそう。(そんなアホな)
続いて3日3晩豚肉を食べ続けるというチンブー族の5年に1度の祭りが映し出されます。
豚を強打して殺すショッキングな映像はリアル・ゴールデンカムイ。
豚は少し焦がす程度でほぼ生で食べる…ってホンマでっか。
鼻に爪楊枝を刺したような村人の装飾がユニークで迫真の映像に目を奪われます。
豚と違って犬は村では丁重な扱いを受けているそうで次のエピソードへ…
◆カリフォルニアの愛犬墓地
カリフォルニアには犬が人間のように丁重に埋葬される墓地があるそうで、アメリカの異様な愛犬熱について語られます。
そんなことはどこ吹く風、墓石にオシッコかけるワンちゃんも。
独りよがりの文明人の行動をシニカルに捉えたようなエピソード。
◆台北の犬肉屋
台北では犬たちは全く別の扱いを受けます。選別され檻に入れられ伝統的な料理にされてしまいます。
◆復活祭のカラーひよこ
人間の独りよがりで消費される小さな命を取り上げたエピソード。
次々に染められていくヒヨコたちが映し出されます。
◆無理矢理エサを与えられるガチョウ
フォアグラ料理のため無理矢理多量の食べ物を口に押し込められるガチョウたち。
話には聞いたことがあったけどこういう映像は初めて観ました。本作で1番のグロ映像だったかも。
◆ビールを飲まされる日本の牛
日本の畜産場では肉を美味しくするため仔牛が1日8時間のマッサージを受け、ビールを無理矢理飲まされます。
ビールは牛の食欲を増進させるらしく松坂牛を育てる農家さんが与え始めた…という話があるそうですが、ここホントに日本なのか!?という謎衣装。
◆太らされる花嫁
無理矢理太らされるのは動物たちだけじゃない!!
タパール族は村1番の美人を檻に閉じ込めタピオカを与えて太らせてから族長の妻として差し出すそう。
130キロ、150キロのお嫁さんが映ったあとに登場する34キロの族長。
お前は痩せてるんかい!!とツッコまずにいられない愉快なオチに笑ってしまいます。
◆痩せたいアメリカ人女性たち
ジムで必死にトレーニングするふくよかな女性たち。
アメリカでは再婚を夢見る未亡人の女性たちが痩せようと必死なのだといいます。
機敏にダンベルを上げ下げするおばあちゃん、今から再婚するの??
肉が波打つおばちゃんたちのトレーニングの動きに合わせて機関車の走る音が重なるのが神センスです(笑)。
◆香港の動物市場
アメリカと違い香港では太ることは困難。
ワニ・ヘビ・カエルなどを売っている市場がありますが、値段は決して安くありません。
テーマはいよいよゲテモノ料理に…
◆NYの高級レストラン・コロニー
ニューヨークではステーキを食べ飽きた食通の金持ちたちがアリやガラガラヘビなどを食べる特殊なレストランがあるのだそうです。
白い皿に盛られた大量のアリが何ともグロテスク。「インディジョーンズ魔宮の伝説」を観ているようです。
最先端といいつつ富裕層が奇抜な方向に走り出すのってありそうな気がしますね。
◆シンガポールのヘビ食
シンガポールではヘビ食の習慣があり、お店で生きたヘビをお客さん自らが選び、店員さんが頭を切り落として手慣れた様子で一瞬で皮を剥ぎます。
◆ヘビと共に行進するイタリアの祭り
イタリアのアルブッリオ州では聖人がヘビの毒を抜いた伝説があるそうで、ヘビを首にまきつけて人々が行進していきます。
◆カラブリア州のバッティエンティ
この地域ではキリストの鞭打ちを讃えるため、ガラスを埋め込んだコルク片で自分の足を傷つけ、血を流しながら走る風習があるそうです。
コルクの方に血糊を仕込んでそうだなあ…などと思ってしまうのですが、痛々しい血の跡を辿って人々が行進していきます。
◆シドニーのライフセーバーたち
シドニー市内を行進する華やかな女性たちはライフセーバー協会のメンバー。
海で訓練が行われますが、救助対象者役はなぜか皆イケメン。
ゆっくり接吻するような人工呼吸の練習、絶対空気入ってないと思うんですが(笑)。
男性の股間が映し出されるショットといい、なんの映像なのよ!?と困惑するエピソード。
◆核実験後のビキニ環礁
同じ海でも悲惨な話。
ビキニ環礁で核実験が行われたあと、鳥たちの卵は孵らなくなり、魚は木の上に住むようになり、ウミガメは方向感覚を失い干からびて死んでしまうようになりました。
まるでネイチャードキュメンタリー、時代背景と共にこういう恐怖があったんだと真に迫ってきます。
だけど木の上にいる魚はトビハゼじゃないの!?白骨したウミガメどうやって仰向けになったの!?…様々な疑問がよぎりつつ悲壮感溢れる音楽と映像に切なくなります。
◆マレーシア諸島の海葬
マレーシア諸島には海葬の風習があるらしく珊瑚の間に浮かぶ沢山の骸骨が映されます。
その死体を喰らうというサメも映りますが何だか水族館ぽいような…
◆ライプート村のサメ漁
サメが高値で取引される貧しい村では漁に出た人たちが手足を失ってしまうこともあるそうです。
サメに復讐するため、毒ウニをサメの口の中に入れて海に戻す村人たち。
ウニを詰め込まれているサメがどうみても既に死んでいるのは気のせいでしょうか。
◆人骨を装飾する墓地
ローマカプチン派の修道会の墓地では骸骨が装飾品に使われているそうです。
過去にはペストで亡くなった若者の死体を埋葬しており、慈悲の心で人骨を管理。
子供たちも骸骨を磨いていますが、玩具で遊んでいるかのような軽やかな様子です。
◆二日酔いのドイツ人たち
死を礼賛するのもいいけれどビールでも飲んで生を楽しむのも大事。
踊ったり歌ったり陽気に騒ぐハンブルクのドイツ人たちが映し出されます。
しかし翌朝には二日酔い、立ったまま寝たり、妙なテンションではしゃいだり、立ちションしたり…
やたら長いエピソードですが、明け方の空気感まで伝わってくるような、ありのままの人たちが映されたホンモノ感ある映像に魅了されます。
◆癒しの東京温泉
東京の男性の生きる喜びは風呂。
東京温泉では女性たちがブラとショーツ姿で二日酔いの男性の身体を労るそうで、寝転んだまま自ら動くことなく男たちが次々に身体を洗われていきます。
実際にあった場所のようですが、当時の超高級サウナ??だったのですね。
「東京では600万人の女性が400万人の男性の世話をする」などと言われるととんでもない誤解を招きそうです。
◆中国の死化粧
中国人も人生最期の身支度は女性の手に委ねます。
中国人の男性は葬儀の前に丁重に死化粧を施されるそう。
葬儀では故人があの世でお金に困らないように紙幣を焼く習慣があるそうで、荘厳な雰囲気の映像が流れます。
◆シンガポールの死者の家
中国系の人たちが多く住むシンガポールでは頻繁に大宴会が催されます。
一方では死期が間近な人たちが住まう「死者の家」があります。
宴会中の家族たちは「死者の家」の爺さん婆さんが死ぬのを今か今かと待っているそうです…なんて世知辛い話なんでしょう。
ヨボヨボの爺ちゃん婆ちゃん→宴会の様子…がこれでもかと交互に映るのが大袈裟すぎて、重い話をやっているはずなのに笑ってしまいました。
◆アメリカの廃自動車
古くなった用済みのものに人は容赦ないもの。アメリカでは毎日大量の自動車が廃棄されています。
コンプレッサーで圧縮されヨーロッパの自動車工場に出荷されて再利用されるとのことですが、ゴミの中には現代美術館に展示され高値が付いたものも。
人が捨てた価値のないはずのものに分不相応な価値が与えられらたりもする!?という皮肉めいたエピソード。
◆人間絵筆によるアート
チェコスロバキアの画家イヴ・クラインはモデルにブルーのペンキを塗り、彼女たちを筆として指揮をとりキャンバスに形を残します。
実在の画家だそうでWikiをみると「この世界残酷物語の撮影に応じたあと完成品をみて悪意ある使われ方をしていることに激怒し数日後心臓麻痺で死んだ」…という嘘のような映画を上回るエピソードが記載されていました。
ごめんなさい、凡人の自分にもオッパイを画材に押し付けてるだけにしか見えませんでした。
◆ハワイを満喫するアメリカ人たち
クルーズに乗ってホノルルにやって来たアメリカの富裕層たち。
トロピカルダンスを鑑賞し、次には自らもダンスのレッスンに参加します。
こういう世界旅行が極めて珍しく老後の最高の贅沢だった時代の空気が伝わってくるようです。
◆ネパールのグルカ兵による催し
ネパールにはグルカ兵と呼ばれるイギリス軍傭兵がいて、勇ましい兵士の男性も女装してダンスを披露する伝統があるそうです。
日本軍に首を切られた過去の軍人たちへの弔いと英国兵へのもてなしのため、牛の首を切り落とす儀式も催されます。
グルカナイフの切れ味が凄まじくショッキングな映像です。
◆ポルトガルの伝統行事ファルターダ
ポルトガルでは牛の方が人を襲っています。
闘牛の伝統行事では男性たちが牛を挑発し、追いたてられて怪我をしたり死に至ることも。
ニュースなどでも一度は目にしたことがあるような映像ですが、こうしてしっかり見ると凄い迫力。
◆パプアニューギニアの野人
パプアニューギニアのガロカ地方には洞窟に住む野人がいるそうで石器時代のような生活を送っています。
◆信仰に目覚める野人たち
そこから80キロ先は文明の最先端。カトリック教会があり、先住民たちが信仰に目覚めミサでパンを施される映像が流れます。
◆パプアニューギニアのカーゴ教
この地方にも新たな文明の波が押し寄せ、香港からオーストラリアを行き来する空の便がたくさん来るようになりました。
しかし先住民たちには理解が追いつかず、「飛行機とその中の荷物は神様からの贈り物だ」という信仰【カーゴ教】が始まります。
高度3000メートルある場所に寺をつくる住民たち。
そして映画は空を見つめる先住民たちを映して締め括られます。
豊かさに溺れた現代人と相反する敬虔な先住民の姿…なにか綺麗なものを映して終わりたかったのでしょうか。
あまりにも出来すぎた流れと美しい映像に一抹の疑問も感じつつ、迫力ある景色に圧倒されます。
どっからどこまで本当で嘘なのか、すべて幻のような108分。
ヤコペッティ監督は自らを〝映画の手法を用いるジャーナリスト〟だと語っていて、映画は完成度を高めるために不足分を補っただけなのだとか。そんな宣言できるのが凄い(笑)。
人間の営みってバカバカしいものだなあ、だけど世界は広くて色んな人が生きててすごいなあ、ちっちゃなことで悩むのは馬鹿らしいなあ…そんな気持ちになって、嘘かホントか分からないけど作り手の世界観/人生観みたいなものをキャッチできたような気分になりました。
時間を超えた世界旅行に出かけたようなひとときが味わえる…というと言いすぎかもしれませんが、何やらすごい作品でした。