どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「ザ・センダー 〜恐怖の幻想人間」…悪夢を転送する哀しきテレパシスト

病院に運びこまれた自殺未遂の青年。彼は他人に自分の悪夢を転送してしまうテレパシストだった…

82年制作のイギリス製ホラー。

大人しめの作品ではありますが、テレパスの設定が上手くサイコサスペンスに生かされており、また幻覚の映像表現も独創的で印象に残る作品でした。

休日家族連れで賑わうビーチ。
突然現れた暗い顔の青年が大きな石を身体に抱えて入水していきます。

なんでこんな場所で自殺するのか、一心不乱の異常な様子。青年は一命を取り留め病院に運ばれます。

身元不明で記憶喪失を患っていた青年は「ジョン・ドウ♯83」と名付けられました。

ボスの院長は彼に電気ショック療法を施そうとしますが、担当の女医・ゲイルは献身的に青年を治療しようとします。

そんなゲイルの周りで奇妙な出来事が勃発。

家に空き巣が入った…と思ったら割られてたはずの窓が割れてない…医局の冷蔵庫が虫だらけになってる!!…と思ったらなってない…

なんと青年は悪夢を他人に転送し受信した人間はそれをリアルな幻覚として受け取ってしまう、特殊なテレパシストだったことが判明します。

 

同じく病院を舞台とした超能力ホラー「パトリック」と印象が重なる作品ですが、あちらの主人公が終始悪意で能力を使っていたのに対しこちらの主人公は力のコントロールが一切不能

けれどこれがなかなかに恐ろしくて普通に生活してたらいきなり悪夢が転送されてくる(=幻覚が始まる)。静的シーンから動的シーンへのジャンプが唐突で、大人しめの作品かと思いきや意外にドキドキさせられます。

青年が再び自殺を図ろうと考えていると女医のいたバスルームの鏡がいきなり割れて血が噴き出す…など心象とリンクした表現もユニーク。

特に出色なのは青年が電気ショック療法にかけられる瞬間、無意識のうちに病院中に破壊的な幻覚を転送する場面。

スローモーションで人がぶわーんと吹っ飛びまくり、さらに幻覚が切れた瞬間に逆再生で元に戻っていく…このシーンは力が入っていて凄いインパクトです。

病院は大パニックになるも女医のゲイルは幻覚が青年との唯一のコミュニケーション方法だとその中からヒントを拾って青年を救おうとします。

幻覚の中に現れた文字や数字を追うのはどこかホラーゲーム的な感じもしますね。

 

そんな中青年の母親が病院を訪れてきて「息子を返して欲しい」などと訴えてきます。

ところが警察の調査で青年の母親は5日前に亡くなっていたことが判明。

オカンも幻覚やったんかい!!(でもこれは初登場時から何となく気付いてしまう)

どうやら青年を苦しめていた元凶はこの母親のようです。

青年は赤ちゃんの頃から母親と意識の転送(相互受信)できたのだといいます。

異常に過保護な母親とずっと2人暮らし、ある日母親が青年と心中自殺しようとしたのを拒否して逃げてきた…らしいことが察せられます。

「サイコ」と「キャリー」が思い浮かぶような親子の歪んだ特別な絆。

唯一の依存先だった母親が亡くなり外界とコミュニケーションをとる術がまったくなく能力が大幅に増大した…と考えると腑に落ちるような感じもします。

幻覚のオカンは青年の母親への罪悪感なのでしょうか、お母さんと一緒に死ななきゃいけなかったのに…そんな想いがオカンの姿になって襲ってきます。

青年役の役者さんの演技が秀逸、また女医役の役者さんもジェームズ・キャメロン映画に出てきそうな強さ・母性を感じさせる女性で息子を守る母親対決のようにもみえてきます。

精神病院の雰囲気もリアルな感じがして、一見普通にみえるのにベトナム戦争PTSDを抱えた黒人の青年など、奇をてらったような描き方でなく真に迫ったものを感じる描写でした。

 

ラストはB級ホラーらしいベタな終わり方ですがゾクッとさせられます。

青年が退院に向かうまでが唐突でもう少し前後の描写があってもよかったのかな、母子エピソードにもう少し厚みがあればかなりの傑作になったのでは…と所々惜しく思われますが、幻覚テレパシストの設定とその見せ方がユニークで物哀しい雰囲気も好み。

地味ながら記憶に残る作品でした。

 

「メデゥーサ・タッチ 恐怖の魔力」…絶望した人間の裁き、70年代超能力ディザスタームービー

オーメン」「キャリー」が公開された翌々年の78年に制作された超能力ホラーですが…

殺人ミステリから始まってオカルトものへ、ラストはディザスタームービーへと化す脚本が見事。

現実の無差別殺人が頭をよぎったり、現代の閉塞感と重なるものを感じてしまう、エンタメ作品に留まらない重みのある作品でした。

不気味な絵画の並ぶ一室にて人気作家のモーラーリチャード・バートン)が何者かに殺害されます。

警察がそこに駆けつけますが、死体かと思われたモーラーはなぜか奇跡的に息を吹き返し人工呼吸器をつけられ一命を取り留めます。

医師曰く身体はほぼ死人だが脳波は活発だとのこと。

事件の担当になったフランス人刑事ブルネル(リノ・ヴァンチュラ)はモーラーの日記に記されていた精神科医ゾーンフェルド(リー・レミック)を訪ねます。

女医曰くモーラーは自らを「災いを招く人間」と思い込み被害妄想に取り憑かれていたとのこと。

しかし刑事がモーラーの過去を洗うと彼の身近な人間の多くが不審死を遂げていたのでした…

 

(以下ネタバレ)

ただ偶然に不幸が重なっていただけじゃないんだろうか、もし超能力で人を死に追いやっていたのだとしてもそれは故意じゃなく制御できないもので彼自身も被害者なのではないだろうか…

そんな想いでストーリーを見守りつつも、終盤モーラーがかなり凶悪な人間と化していたことが判明します。

自分が怒りを感じた相手を意図的に傷つけ、さらには無関係な人も平気で手にかけるまでになっていました。

 

モーラーの幼少期は決して幸福なものではありませんでした。

大病を患った際には看病係のメイドから地獄に堕ちると脅され、両親からは疎まれ下僕扱いされ、寄宿学校の教師からは陰湿なイジメを受けていました。

親や教師といった大人に子供は逆うことができず運の巡り合わせ次第で悲惨な目に遭ってしまう…厳しく辛い現実が描かれています。

しかし特別な力があったモーラーは彼らの死を願うとデスノートに名前を書くかの如く彼らを消し去ることが出来たのでした。

 

映画では結局モーラーがどの段階まで意図的だったのか、本人の発言も所々変わっていてハッキリとしません。

妻を殺したのはあの自白からして間違いなく意図的だったのでしょう。

けれど最初のメイドの死は力に無自覚なまま起きた事故のようなもので、寄宿学校で関係のない4人の生徒を巻き添えにしたのも不本意だったのかな、と思いました。

この映画で恐ろしいのはモーラーがしっかりと罪悪感を感じていたという点で、そしてその罪悪感を打ち消すためにモーラーは自己を正当化しはじめます。

愚かな人間を裁いて健全な社会をつくってやるんだ…モーラーの怒りはより大きな権力者、やがては社会そのものへと向かっていきます。

豊かさを求める人類(宇宙開発や原発)も敵視するようになりそれらを破壊するため無差別に人を殺めるようになっていきます。

怒りの感情は誰しも生きていれば当然あるもので、「不当な扱いを受けている」「これは間違っている」と声をあげることはとても重要なことでもあると思います。

対話や他者を介在させることで自分の状況を好転させていくのは容易なことではなくいつも報われるとも限りませんが、それらを一切放棄し人間社会を生きる上で超えてはならない一線をモーラーは確実に超えてしまいました。

現実の世界ではテロリストと呼ばれる存在でしょうか、物語では人間を超え最後には災害そのものと化してしまいます。

 

自らを神に重ねるモーラーでしたが誰よりも人間臭い奴でもあって、精神科医の女性の名前を何度もノートに書き彼女の下を何度も訪れていました。

「君にはまだ絶望していない」(なんて上から目線なんだ)…けれどSOSのサインは必死で出していました。

しかし女医が超常現象を信じなかったため誰かに理解してほしいという気持ちも消化されないまま、さらに孤立感を深めてしまう結果となってしまいました。

「災い(不幸)である自分」から抜け出せず「その自分を理解しない愚か者ども」を一層憎むようになってしまう…

自分の人生に希望が持てなくなったとき人は「世の中の全てが悪いのだ」と極端に悲観的な思想に走りがちになる…非常に説得力を感じる人物描写です。

また万能の力を得て全能感に浸り正しさを語って平然と他人を傷つけてしまうというのも今のネットなどで度々見られる光景のように思えます。

モーラーは誰しもなりうる、身近に感じられる人物像で、それだけに一層恐怖が感じられるキャラクターでした。

 

映画の冒頭はカラヴァッジョのメデゥーサによく似た絵を映して幕が開けていきました。

見たものを恐怖で硬直させ石に変える妖女…

モーラー演じるリチャード・バートンの目力も凄まじく思わず呑み込まれるような、深い哀しみと怒りを感じさせます。

メデゥーサには左側の血管から流れた血には人を殺す力が、右側の血管から流れた血には人を蘇生する力があったといわれているようです。

ノートに記されていた「Lの気配」という言葉は「レフトハンド」を指しているのでしょう。

この伏線が恐ろしいラストに繋がり戦慄しますが、巡り合わせ次第で人を癒すこともできたのではなどと思うと余計に悲しくなります。

 

刑事役のリノ・ヴァンチュラは温かみを感じさせる職業人でバートンと好対照、こういう職務に就く人たちの任の重さをひしひしと感じさせます。

終盤は最早パニックものと化しウェストミンスター寺院大崩壊の映像はミニチュアにはみえないクオリティで圧巻。

何かに追いたてられているような気分になる緊張感ある音楽も耳に残ります。

お願いだからたった一欠片、人の心が残っていてくれ…と祈るような気持ちになる映画のクライマックス…しかし最後の最後で圧倒的絶望に叩き落とされ、いつまでも余韻が残る作品でした。

 

「ワックスワーク」…vs全ての怪奇映画!!異次元バトルホラーの良作

中古のVHSの叩き売りで発掘、パッとしないスプラッターかと思ったら意外に面白かった1作。

「ラストアクションヒーロー」と「ナイトミュージアム」を足したような…??子供の心に戻してくれる、ファンタジーとコメディ色の強い楽しいホラームービーでした。

主人公ポールはお坊ちゃま大学生。
授業に平気で遅刻するわメイドに課題レポート書かせるわといい加減な野郎ですが、80年代ならではのゆるくてまったりな雰囲気に癒されます。

ガールフレンドのチャイナとは関係が進展せず破局寸前のポールでしたが、ある日チャイナやその友人らと共に近くにできた蝋人形館に出掛けることになります。

どこか不気味な館主(オーメンの写真家、デビッド・ワーナー)、案内役には小人と大男が登場。展示物は殺人シーンを描いた不気味なものばかり。

度々映画化されている「蝋人形の館」の題材ですが、本作ではなんと生身の人間が蝋人形を演じています。

ちょっと動いてるよ!!(笑)…っていう反則技ですが、ある意味正しい演出、コスパもよさそうな使い方。

そしてこの蝋人形館、各ブースに近づくとそのお話の中の世界(異次元)に転送されてしまう、まるでスタンド攻撃のような仕掛けが隠されていました。

狼人間の展示コーナーに入れば狼人間に襲われ、バンパイアの展示コーナーに入れば吸血鬼に迫られる…

抵抗虚しくその世界で殺されてしまうと、被害者役の蝋人形と化してしまいます。

登場人物たちが殺される場面がある種短編ホラーとなっていて非常に凝っており、怪奇映画をたくさん観たようなお得感。

↑バンパイアの館。セットも凝ってて豪華…!!ヒロインが謎のタルタルスターキを完食するところで笑ってしまいますが ^^

 

通常のホラーだと一旦館に入ったらずっとそこで追いかけっこしそうなものですが、主人公ポールともう1人のヒロイン・サラだけが無事に館を抜け出しストーリーが続行します。

ビッチのガールフレンドがヒロインかと思いきや、キスもしたことない幼馴染枠の女の子がメインヒロインだったんですね…!!意外な交代劇。

(2人ともかわいい)

 

ポールとサラは警察に駆け込み蝋人形館が怪しいと訴えます。

大抵のホラーだと警察は無能パターンが多いのになかなか有能な刑事さんでここも面白い。

しかしエジプトミイラの世界に取り込まれて殺されてしまいます。

続いて古い新聞を調べたポールとサラはあの謎の館主が昔ポールの祖父に仕えていた執事だったことを知ります。

真相を追って祖父の古い友人を訪ねるポール。

なんと蝋人形館のマスターは悪魔と契約した不老不死の魔術師で、かつてポールの祖父が収集していた歴史上の悪人18名の遺物を横取りしていました。

悪人たちの犠牲者(蝋人形)が全て揃うと奴らは現実に蘇り世界が滅ぶ……急に壮大なストーリーに(笑)。

「実はあいつを長年探してたんだ」…ぽっと出のおじいちゃんのスピードワゴン財団感がすごいです。

 

ポールとサラは再び蝋人形館に戻り、展示物を燃やそうとしますが逆に異次元に囚われてしまいます。

処女のサラはマルキ・ド・サドの世界に夢中になってしまい鞭を打たれて恍惚の表情を浮かべます…

肉食系の元ガールフレンドは吸血鬼の餌食に、真面目そうな彼女はSMの世界へ…なんかこういうのいいですねー。

ポールも異世界転送されるも「虚構は虚構」と看破すると攻撃は無効になり1人無双を繰り広げます。

↑「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」の世界もかなり凝ってます

 

ところが蝋人形館は新たな犠牲者を得てついに悪しき者どもが現実に復活…!!

そこにスピードワゴンじいちゃんが大軍を引き連れて現れ、最後は大バトルに突入。

悪者たちが驚くほど弱くアメリカ軍なら10秒で制圧できそうで世界の危機感はゼロ、けれど破茶滅茶で楽しいクライマックスです。

ポールはなぜかサド侯爵とフェンシング対決。往年のクラシック映画のようなアクションで侯爵役の人フェンシングやたら上手い(笑)。

18人の悪役が切り裂きジャックもいればボディスナッチャーもいてお前は実在の人物じゃないやろ!…と統一感もゼロですが、ホラー映画の古典は抑えられていて特殊効果がたっぷり拝めます。

館主(デビッド・ワーナー)が見せ場なくあっさり退場するのが非常に勿体なく恐怖度は低いのですが、館が燃えて崩れ落ちるお約束なエンディングにはスッキリ。

オープニングはスウィングジャズで、エンドロールはノスタルジックなロックで締められるのもよい仕上がり。

現実と虚構が入り混じる、「ナイトミュージアム」や「キャビン」などの先を行ったようなところもあり、夢のあるホラーで好きな作品でした。

 

「ダゴン」…抗う人の意志と無情な血の運命

いあ!いあ!

スチュアート・ゴードン2001年の監督作、未見で気になっていたのを初鑑賞。

「死霊のしたたり」のようなユーモアあるやりすぎエログロ路線とは全く違って、得体の知れない集団に取り囲まれる恐怖、逃れられない血の宿命…シリアスに怖い王道ホラーしてて見応えのある作品でした。

IT長者のポールは恋人のバーバラ、そして友人夫妻とスペインへボートで優雅な休暇を楽しんでいました。

休みの日も株価をチェックするポール、そんな彼に痺れを切らしパソコンを海に放り投げるバーバラ。ワイルドすぎる(笑)。

ところが突然の嵐に巻き込まれ船は座礁、救助を求めてポールたちは近くの漁村に向かいますが…

 

手に水かきのある謎神父にまばたきしないホテルのおっちゃん。
建物は傷みまくっててどこもかしこも汚い。

あれこの村おかしいぞ!?と思ったのも束の間、仲間とはぐれた主人公が村人に襲われる追いかけっこが開幕。この鬼ごっこが異様に長い(笑)。

けれど緊張感が途切れないのが凄いところで、スペインがロケ地だという町は本物の廃村のようで雰囲気満点。

一向に止まない雨は運命を操作されているような不条理感を醸し出しています。

やがてようやく話せる第一村人発見…!!

そのおじいちゃん曰く村はかつてキリスト教を信仰していたものの不漁になり海の邪神を崇めるようになりました。

村は富み村人たちは永遠の命を手に入れたものの、その代償として半魚人化、定期的に生贄を捧げなければならなくなったのでした。

遠目ではゾンビのようにもみえた村人たちですが、足が遅いのは陸地から海で生きるよう体が適応したから…世界観がしっかりしています。

そして「ウィッカーマン」「サイレントヒル」のような邪教集団の恐ろしさ。

捕らえられたおじいちゃんが聖書を読み上げながら生皮を剥がれるシーンは強烈で絶句です。

けれど両者とも救いを求める信仰者という点では同じでどこか皮肉めいたものも感じてしまいます。

ウィッカーマン」同様ダゴンの村人たちも不作になるたび生贄を必要とします。

残酷で胸糞ですが食の保障されない生活になったとき人間が選ぶ合理的な解決方法がこれだった…人は追い詰められると何かに縋りつきたくなるものなんだ…普遍的恐怖、絶望をまざまざと感じさせるストーリーです。

 

こんな恐ろしい目に遭う主人公、オタクっぽい雰囲気だし弱いに違いない…と思いきや果敢に恋人を助けに行くし、諦めずにしぶとく戦う…!!

↑だんだんジェフリー・コムズにみえてくる

「人生は二進法」と語るポール、鬼ごっこ中にはまるでゲームのように選択肢をとる場面が度々ありました。

いかなるときも自分で選択し道を切り開いていくのが人生だ…好感の持てる応援したくなる主人公です。

ところがラストに無情な事実が突きつけられます。

なんとポールにも魚人の血が流れていました。

スペイン生まれだというポールの母はかつてこの漁村の男と付き合っていてそこで身籠ったのがポールだったのでした。

最後の最後まで抵抗するも海に帰っていくポール。結局自分のルーツに勝てなかった敗北エンドですが、ラストはなぜか美しくこれでよかったんだという思いも湧き起こります。

バッドエンド感が少ないのは主人公と結ばれる運命だという異母妹・ウシアちゃんが美しいからかもしれませんが…(笑)

↑こんな美人が相手なら足がイカだっていいじゃなイカ

主人公の出自部分が唐突に思われる節もありますが、冒頭から伏線がしっかりあってテーマも明快なので「こうなるさだめだった」感がある種の安堵感すら与えてくれます。

怪物(ダゴン)の全貌をあえてみせないスタイル、回想シーンへの鮮やかなジャンプ、途切れない鬼ごっこの緊張感…演出が冴え渡っていて怪物の触手レイプも映像にせずともしっかり陰惨感がでていたように思います。

 

ラヴクラフトを全く知らないのですが、「インスマウスの影」と「ダゴン」の二篇を併せて上手く脚色したよう。

今更ですが原作も手にとってみたくなりました。

B級かと思いきやさすがスチュアート・ゴードン、完成度が高かったです。

 

エラリー・クイーン「Yの悲劇」を読んでみた

先月ダリオ・アルジェントの「スリープレス」のBlu-rayが発売されました。

特典盛りだくさんでめちゃくちゃ嬉しい内容だったのですが、アルジェントはエラリー・クイーンが好きでかなり影響を受けているとのこと。

エラリー・クイーン…名前は知ってるけど読んだことない…

犯人についてネタバレを喰らってしまったものの元ネタだという「Yの悲劇」を読んでみました。

全米一裕福だと噂され、同時に悪評轟く異形の一族の一員、ヨーク・ハッターの腐乱死体が発見された。死因は毒物によるものと判明する。

その後ハッター家では奇怪な毒殺未遂事件が発生し、ついにエミリー夫人がマンドリンで殴殺される。

シェイクスピア俳優ドルリー・レーンの推理が明かす思いもよらない犯人とは??

 

(以下ネタバレ)

犯人は子供…という壮絶なネタバレを喰らった状態で読んだわけですが、盲目の目撃者による証言が「身長が低い&肌がスベスベ」…ニブチンな自分でもこれは序盤で気付いたんじゃないかなあ。(←あとからでは何とでもいえる)

子供の描写が13歳にしては幼すぎて7〜8歳くらいじゃないの??と思いましたが、幼い子だとあんまりなので無理矢理年齢を引き上げたのかも。

1932年当時ではかなりショッキングな結末だったことでしょう。

 

でも面白かったのは犯人の意外性云々よりも見事な伏線回収。

犯人・ジャッキーは死んだ男主人が遺した小説のアイデアメモを真似て遊んでいただけだった…幼さゆえトレースを優先するばかりで所々合理性を欠いた突飛な事件になってしまった…このプロットの隙のなさに圧倒されました。

冒頭自殺を遂げた男主人・ヨーク・ハッターの遺体は損傷が激しかったらしく、実は生きていて真犯人なのでは??と思わせます。

子供が殺人事件をマネするよう仕向けていて実は全ての黒幕だった…金田一少年露西亜人形殺人事件みたいなオチを予想しましたが、全然そんなことはなかった。

でも長年妻に虐げられた男がその憎しみを消化するために書いた小説のプロット、それが思わぬかたちで現実の人間を殺す…「架空の暴力が伝染する」という筋書きがとても面白かったです。

 

残念だったのは人物描写があっさりめなところで、家屋や町の雰囲気なども含め「ドラゴンタトゥーの女」や横溝正史作品にあるような不気味さ、閉鎖的なコミュニティ感が全くありませんでした。

主人公探偵が「この一族には異常な血が流れている!!」と今だとお蔵入りにさせられそうな遺伝差別の台詞をバンバン口にしていて、一族の病が母親の梅毒が原因であることが示唆されていました。

…が、そんなに言う割には普通のギスギスした家族って感じで異常な家族感があんまり伝わってこない…

苛烈な性格の母親が障害のある異父姉にかかりきりで家族仲が最悪だったというけれど、一方で憎悪を撒き散らしつつ一方で愛に満ちている…こういう人の矛盾と魅力、悲劇性みたいなものが描写出来ておらず、「フェノミナ」の母ちゃんの方がよっぽど怖さと哀しみ感じさせたなーと物足りなかったです。

 

しかしビックリだったのはラスト。

犯人の少年が小説の内容で満足できなくなってしまい、そこから逸脱してさらなる残虐な犯行に手を染めようとするところは真に迫っていて怖かったです。

そしてそんな犯人をみてなんと探偵が子供を独断で処刑…!!…したらしいことがラストに示唆されていました。

元の殺人は小説が犯人みたいなものなのでこの罪では裁けない…けど確実に殺人衝動を抱えた子供を放置しておけないので毒をすり替えて殺した…

ジイさんの中では筋を通したつもりなんだろうけど真相掴んだ地点で警察に報告した方がよかったんじゃないの??…探偵が「この一族は異常だから」と子供を切り捨てて殺すという衝撃的な陰鬱エンドでした。

この1作だけだと完成度が高いオチに思えますが、このジイさん他の作品でも主役やってるみたいで主人公にするにはクセが強いように思われました。

アルジェントの「スリープレス」とは犯人像はもちろん楽器を凶器にしたところ、童謡にインスパイアされて事件が始まったところ、疑いの目を逸らすため毒入りビールを犯人がわざと飲むところ…など確かに共通点が多々見られました。

小説がもとで現実に殺人事件が起こってしまうプロットは「シャドー」とも似ています。

初期のジャッロ「わたしは目撃者」も「Yの悲劇」を題材にしているそうで、盲目の目撃者、殺人は遺伝する説、毒入りミルク…と成る程、読んでみると元ネタの宝庫でした。

古めかしく思うところも多々あったけれど、色んな形でその後のミステリや映画にも影響を与えたんだろうなーと納得の名作ではありました。

 

アルジェントの「オペラ座の怪人」…驚愕!!美しき変態ネズミ男

劇団四季のミュージカルが好きで間違ってこのビデオ借りちゃった人はきっとトラウマもの。

ホラーファンが観てもなかなか珍妙な作品で、アルジェント好きの人間が観ても「どうした、アルジェント!?」とのけぞるような、別の意味で記憶に刻まれるトンデモな1本でした。

オペラ座の地下深くには音楽の才を持つ謎の怪人ファントムが住んでいた。ある日怪人は美しき新人ソプラノ歌手に恋をするが…

基本のストーリーは原作・ミュージカルと同じですが、本作の怪人はなぜかイケメン。
金髪ロン毛に黒装束、乙女ゲーに出てきそう(笑)。

奇形があって両親に捨てられたというオリジナルの哀しい設定はいずこ…「ファントム・オブ・パラダイス」の爪の垢でも飲んどけや、という気持ちになります。

しかし冒頭、捨てられた赤子の乗った揺り籠が下水を下っていく様子は「バットマンリターンズ」に似ていたりして、なんと怪人はネズミに育てられ大きく成長したのでした。

どうやって言葉や音楽の才を磨いたのかサッパリ分かりませんが、新人歌手のクリスティーヌ(アーシア・アルジェント)と恋に落ちる怪人。

 

やたらと生々しい性描写の多い作品で娘のヌードをバンバン撮るお父さん。

全裸の男女が交わるサウナ(風呂場?)のシーンがあったり、バレエ劇団の少女を追い回すロリコンのジジイが登場したりと退廃的というか無駄にヘンテコなシーンが多かったです。

官能的でもなければ美しくもなくむしろ汚いといっていい仕上がり。

 

そして極め付けは怪人の特殊性癖。

クリスティーヌがいない間にこっそりネズミたちと…(以下自重)

これぞアルジェント作品に登場する「動物を友とする孤独な男」の極北。

オペラ座の怪人」といえば、ヒロインが才能ある気難しい男と一緒になってアウトローとして生きるか、それとも普通のいい男と一緒になって平凡な幸せを掴むか…揺れる女心を描いているのが面白いところではないかと思います。

それが今作はイケメン彼氏の特殊性癖を許容するかどうするか…これはこれで悩みそう(笑)。

さすがアルジェント、「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」みたいな生ぬるいもんじゃない変態性をみせてくれます。

 

怪人を美男にしたため本来イケメンに描かれるはずのライバル男キャラがビミョーな印象になってしまったり、恋愛ドラマ皆無のまま性描写が挟まるためヒロインがビッチにしかみえなかったりと、色々残念。

コミカルな描写が浮いてしまいホラーとして大いに緊張感に欠け、グロ描写も昔の作品のような精彩はなくただグロいだけの味気ないものになってしまってました。

同じくオペラを舞台にした「オペラ座の血の喝采」でアイデアが出尽くしてて、もうあっちがアルジェントの「オペラ座の怪人」ってことでよかったのでは思いますが…

 

ラスト、怪人と仲違いして別れようとしたクリスティーヌが唐突にファントムの死を嘆き悲しみ愛を叫びます。

思うに本作の怪人はアルジェントの投影。(イケメンなのに陰キャ、多くの人には理解されないかもしれない性癖)

そして揺れ動くヒロインは我々アルジェント好きの映画ファン。変態やなあ…と思ってもやっぱ好き!!大好きなんやでーー!!

アルジェント映画にランク付けしたら最下位かもしれませんが、よくも悪くも記憶には残る作品でした。

 

「トラウマ/鮮血の叫び」…アルジェント首切り殺人事件

ダリオ・アルジェントが娘・アーシアを主演に迎えた93年の作品。

どこか「サスペリア2」を彷彿させるジャーロもので決して面白くないことはないのですが、アメリカをロケ地にしたからかビジュアル的な魅力が半減。

音楽はピノ・ドナッジオが担当していますがあまりしっくり来ずゴブリンが賑やかにやってくれた方が良かったんじゃないかなー…と映像&音楽面が残念な作品であります。

拒食症に苦しむ美少女・オーラは精神病院を脱走し自殺を図ったところを偶然通りかかったデヴィッドに助けられる。

警察に保護されたオーラは自宅に送り返されるが、その夜霊媒師をしている母・アドリアナが降霊会で怨霊に憑依された。

「殺人犯がいる」と叫びながら外に飛び出した母親は追いかけた父親共々何者かに首を切断される。

再びオーラを匿ったデヴィッドは次々に起こる首切り殺人の謎を追うことになるが…

 

16歳の娘を自宅に住まわせちゃう主人公にドキドキ。

けれどどこかボーイミーツガール的要素を感じさせるストーリーで、青年が心に傷のあるヒロインをどうにかして助けようとする…アルジェントにしては明るめなドラマが描かれています。

オカン&オトンが訳あり霊媒師とメンタル病むのもまったなしなオーラちゃん。

降霊術→殺人事件…という流れは「サスペリア2」とよく似ています。

本作での犯人の手口は一貫しており、電気ドリルにワイヤを取り付けた特殊機械で首を切断…!!

アルジェント特有の痛覚に訴えかけるような殺しのシーンはなく描写はあっさりしていますが、絞首刑と斬首刑を一体化させたような殺人方法は強い怨恨を感じさせます。

事件が起こるのはいつも雨の日、被害者は医者に元看護師…これは何かありそうと惹きつけられるサスペンスです。

 

(以下ネタバレ)

ラスト10分ほどで急転直下!!

なんと冒頭殺されたはずのオーラの母は生きていました。

十数年前…オーラの弟の出産時、突然の停電が元で医者が誤って赤ちゃんの首をメスで切断してしまいました。
事実を隠蔽しようとした医者たちは母親に電気ショック療法を施し記憶を抹消していたのです…

どんな病院やねん!!とびっくり仰天、恐ろしすぎるトラウマ。

犯人が自分の死を偽装していた…ミステリものあるあるなどんでん返しですが、母親が「自分の手で自分の頭を掴んで首を切られたように見せかけていた」というトリックが面白いです。

「最初にみたものに真相があった」…「サスペリア2」とここも重なります。

 

結局殺人を犯していたのは死んだ赤子の怨霊だったのか、それとも母親のトラウマが雨の日に偶然蘇ってしまったのか…

オーラの精神科医は母親と不倫関係にあったようで殺人の協力者。オトンが殺されたのは完全に巻き添え…??

なんにせよ目撃者として利用され凄惨な場面を見せつけられたオーラが可哀想ですね。

 

母親役は「キャリー」で毒母を演じていたパイパー・ローリーでさすがの迫力。

このキャスティングはアメリカ合作ならではでしょうか。

そしてラストこのオカンが「サスペリア2」まんまな壮絶な最期を迎えます。

隣の家の少年にトラウマが残るわ!!っていう(笑)。

途中主人公カップルの視点以外にも度々少年のドラマパートが挟まっていました。

フェノミナ」を思い出させる昆虫好きの描写はファンには嬉しいですし、「隣の家に住んでるのは実は殺人鬼かもしれない」…という恐怖には童心が感じられて良かったのですが、まとまりはイマイチだったかも。

でもラスト10分で怒涛の種明かし&破滅ってのがイタリアのジャーロっぽい感じがしますね。

 

とってもリアルな生首、特殊効果はトム・サヴィーニが担当。

切断後に喋るという「魔界転生」並みのファンタジーにびっくり(笑)。

犠牲者の1人をブラッド・ドゥーリフが演じているのも豪華キャストですが、あまり見せ場がないのは残念でした。

 

「シャドー」までに在った映像と音のキレみたいなのが失われていてビジュアル面の魅力が乏しい1作。

だけど全体的にはしっかり陰鬱ジャッロしていて「サスペリア2」が好きならそれなりに楽しめる、そんな作品でした。

 

↓↓元ネタ!?かもしれないエラリイ・クイーンの小説を読んでみました。

dounagadachs.hatenablog.com