どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「ハネムーン・イン・ベガス」…ニコラス・ケイジがエルヴィスとスカイダイブ

「あなたに降る夢」のアンドリュー・バーグマン監督とニコラス・ケイジが初タッグを組んだ92年の作品。

内容は完全におバカコメディですが、ニコラス・ケイジが破天荒キャラにビシッとハマっていてなんか好きな作品でした。

NYの私立探偵・ジャック(N・ケイジ)は母親が危篤の際、「私が死んでも絶対に結婚しないでね」と厄介な遺言を残されてしまい、恋人・ベッツィーへのプロポーズを躊躇っていました。

どんだけマザコンやねん!って感じですが、オカンの形相が完全にホラー、濃ゆいニコラス・ケイジのオーバーリアクションと相まって冒頭から爆笑してしまいます。

(母ちゃん役アン・バンクロフトなの豪華)

子供が5歳のときに夫に捨てられたというお母さん、生前から「結婚はディザスター」と語っていたそう。仕事では浮気の素行調査ばかりのジャックは家庭を持つことに懐疑的になっていました。

…が彼女の方が業を煮やしラスベガスで結婚しようということに。

ところが土壇場で怖気づいたジャック、謎のギャンブラー・トミー(ジェームズ・カーン)に乗せられて賭博に興じた結果、莫大な借金を作ってしまいます。

「お前の彼女を週末レンタルさせてくれたら借金はチャラにするよ」とめちゃくちゃな要求をしてくるトミー。

実はトミーは偶然ロビーで見かけたベッツィーが亡き妻の生写しだったため一目惚れ、ジャックから彼女を略奪しようとゲームは仕組まれたものだったのでした。

 

登場人物全員めちゃくちゃ(笑)。

特にニコラス・ケイジのキャラは破綻しまくっていて、ベッツィーにデート同伴を頼んだくせにその後嫉妬に狂って八つ当たりしてきます。

対するおっさんのジェームズ・カーンもギラギラしたしつこいジジイを好演。

彼女をハワイの別荘に連れて行き特大ダイヤを渡してプロポーズ。これは心が揺らいじゃう!?でも相手おじいちゃんやで!!

生前は奥さん一筋だったみたいで一途な男に思えなくもないのが哀しいところですが、手段を選ばず「ジャックは結婚が嫌だったから君を売ったんだよ」などと嘘も交えて必死で口説いてきます。

ベッツィーを取り戻すと決意してハワイを爆走するニコラス・ケイジ。しかし入れ違いで2人はベガスに戻っており間もなく結婚することに…(何というスピード感)

 

急いで戻ろうとするもベガス行きの便が全くなく空港で無謀なヒッチハイク

すると快く彼を拾ってくれる謎の集団が…

なんと彼らはショーのためスカイダイビングでベガスに降り立つ「フライイング・エルヴィス部隊」でした。

いきなりパラシュートを渡され血の気を失うジャック。

「黄色の紐を引っ張ったあと赤でいいんだよね??」
「そうだよ」
(降りる直前)
「みんな赤→黄だからな」
「さっきと違うやん」
「ジョークだってば、ガハハ!!」

命懸けの冗談飛ばしてくるエルヴィス集団がおっかなすぎてビビりますが、ベガスの空に降ってくる無数の光るエルヴィス。

その中には無事ジャックの姿が…

「私を追いかけて来てくれたのね…!!」と都合よくベッツィーと合流するジャック。

抱き合う若い2人が愛を確かめ合って結婚、めでたし、めでたし…

…とツッコミどころ満載のストーリーですが、ダイビングを経てなぜかスッキリした顔のニコラス・ケイジ、家族の呪縛から解き放たれてのハッピーエンド。幸せにおなり…!!と送り出したくなります。

 

音楽はエルヴィスをはじめビリー・ジョエルブルース・スプリングスティーンなど豪華に彩られていて、エルヴィスものまね大会などエルヴィス好きの人は楽しめることでしょう。

ハワイの謎の世捨て人がマーロン・ブランドにちょい似だったり、ジェームズ・カーンが「ゴッドファーザー」を思わせるやり取りをしていたりと細かいところもオモロイです。

ニコラス・ケイジは案外ロマコメと相性がいいと思う。

スカッとする陽気なおバカコメディでした。

 

「チャイルド・プレイ2019」…メンヘラチャッキー、思ったよりいいリメイク

人形の出来がイマイチやなーと思って気になりつつもスルーしてたチャッキーリメイクを観てみました。

「ゾンビ」→「ドーン・オブ・ザ・デッド」のように別の方向性を目指したのが吉、哀しみホラーの要素はしっかりあって個人的にはアリな作品でした。

チャイルド・プレイ(吹替版)

チャイルド・プレイ(吹替版)

  • オーブリー・プラザ
Amazon

とあるベトナムの工場、パワハラを受けた社員がバディ人形のセキュリティ制限をオフに。

ライン工にめっちゃ権限あるやんとツッコミつつ、オカルトものだったオリジナルとは全く異なるチャッキーの誕生。

子供たちはみんなスマホSNSに夢中、普通の人形じゃもう売れないからAI搭載。

便利すぎて生きにくいこんな資本主義の世の中じゃ…そんな呟きが聴こえてきそうな現代風の味付けが上手いです。

 

主人公のアンディはオリジナルよりグッと年上。

シングルマザーのオカンは昼間っから彼氏を部屋に連れ込むわ、商品横取りしてくるわとファミリーにドリーム感がゼロ。

リミッターオフのチャッキーは禁止用語もバンバン口にしてまるで本当に意志があるかのよう、孤独な少年の心を掴みます。

しかし善悪の認識がつかぬままアンディを喜ばせようとして彼が怒りを抱くものを手にかけてしまいます。

殺人シーンも機械仕掛けだったり思った以上にグロくて工夫されていました。…でもなんだろう、最近の映画は絵が整いすぎてて痛覚に訴えかけてくるものが少ないなあ。

オカンの恋人、ロクな男じゃなさそう…と思ってたらやっぱり不倫男。

覗き魔は酷い死に方、ご近所のおばあちゃんは巻き込まれてひたすら可哀想。着ぐるみから首ブッ刺された人もえらいトバッチリだなあと思ったけど、そういえばこの人も浮気男だったわね。

ラスト、チェーンソー片手にお母さんを助けに戻るアンディが「エイリアン2」のリプリーみたいでカッチョよかったです。

理不尽に思うこともたくさんあるけど、だからって何もかも切り捨てるわけにはいかないんだ…!!己のダークサイドともいうべきかつての友に立ち向かう少年。

チャッキーとアンディのやり取りがちょっと「マジック」に似てるようにも思いました。

 

ご近所のお友達が何でも受け入れてくれすぎ!?に思いましたが、「悪魔のいけにえ2」を皆で爆笑してみるとかなんていいお友達。

こういう怖いものを子供で集まってみるの背徳感と妙な連帯感が生まれて楽しかったりするもんですが、チャッキーには悪影響だったようで…(悪人というより残念な子扱い、チャッキー=レザーフェイスってことか)

最後に人形をしっかり破壊して燃やすのがエライ。最近の子はしっかりしてるわー。

 

人間のような顔をみせる人形が恐怖だったオリジナル版の魅力は全く失せてしまったけれど、表情の乏しさ含めメンヘラ感が漂っててこれはこれで味があるように思われました。

オリジナルの焼き直しをするわけにもいかないし、変えたら変えたで文句言われるリメイク界隈、現代風に上手く別物に料理してなかなか健闘してる作品でした。

 

「デッドリー・フレンド」…美少女ロボゾンビ、バスケで頭ドカーン

ウェス・クレイヴンが監督、「ゴースト ニューヨークの幻」のブルース・ジョエル・ルービンが脚本を手掛けた1984年の作品。

前半は良いのに後半が迷走気味、けれど美少女ロボゾンビ!?を演じたクリスティ・スワンソンが魅力的で記憶に残る1作でした。

 

IQの高い天才少年ポール・コンウェイは母親と共に閑静な住宅街に引っ越してきました。

15歳で大学に勤める彼が生み出した最新作はAI搭載のロボット、BB。(ショートサーキットに似てる)

新聞配達の少年・トムと友情を育み、お隣に住む少女・サマンサといい感じになりますが彼女には何か秘密がある様子。

サマンサの父親は彼女に度々暴力を振るっていたのでした。

ハロウィンの夜、ポールたち3人は街に住む意地悪ばあさんにイタズラを仕掛けますが、BBがショットガンで吹き飛ばされてしまいます。

続く感謝祭ではサマンサが酔った父親に階段から突き落とされ脳死状態に。

大切な存在を立て続けに失ったポールは病院に忍び込み、BBの小型コンピュータチップを死んだサマンサの脳に移植し蘇生を試みますが…

 

閉塞感漂う街で孤独な少年少女が心を通わせる前半はジュブナイルらしいワクワク感があります。

ところが中盤からいきなりマッドサイエンティストものの様相に。

フランケンシュタインのように蘇生させられたサマンサ。ロボットダンスのようなカクカク動きが妙に可愛らしかったり、胡乱げな目でじっと見つめてくるのが何とも物悲しかったり、ヒロインの女優さんがハマり役です。

コンピュータ移植によってダメージを受けた脳の部分を繋げて回復??しようとするも上手くいかず、怒りの記憶だけが強く残っていたのか、暴走し始めるサマンサ。

まずは自分を殺した父親を成敗…!!燃え盛る地下室での処刑はフレディとイメージが重なります。

さらにBBの怒りの記憶も引き継いでいたようで、ロボを破壊した意地悪ばあさんも成敗…!!
バスケットボールをばあさんに投げつけるとなんと頭部が大爆発、のたうち回る胴体。

スキャナーズばりの突然の凄惨な光景に唖然となります(笑)。

 

ウェス・クレイヴンも脚本のルービンも後半はサイコサスペンスにしたかったそうですが、映画会社側の要求でホラー色を無理矢理強めることになったのだとか。

そのせいか所々妙に浮いた場面があり、サマンサが父親を刺し殺す夢の場面は「エルム街の悪夢」が強引にねじ込まれたよう、2階からダイブして襲ってくる荒唐無稽な展開など全く馴染んでないシーンがちらほら。

ヒロインが自分を助けてくれなかった街で暴走するというプロット自体は悪くないのですが、ポールとサマンサの人物描写が不足していて、好きな人を蘇らせたいポールの執念や、ゾンビサマンサの無理矢理蘇生された苦しみなどがいまいち伝わってきません。

ラスト、ポールの名前を思い出してチョキチョキ走りでこちらに向かってくるサマンサ…警察官に撃たれてしまいここは切なさ感じさせるエンディング。

これで終わっていたら良作だったと思いますが、もう一度サマンサを蘇生させようと病院に忍び込むポール。

サマンサの遺体が破れて中からBBが出てきてポールを襲う…!! 

B級映画Z級になったかのような支離滅裂なエンディングに呆然。

おまけにエンドロールに流れるBB…BB…連呼の謎の曲が別の意味でホラー(笑)。

主役、お前やったんかい!!

 

クレイヴンに任せておけば小粒のいい作品に仕上がったのでは…と残念に思われますが、思いがけず気前のいいスプラッタがみれたり、サマンサ役をはじめ主演陣がフレッシュで魅力的。

80年代らしさに満ちていて充分楽しめるホラー作品でした。

 

超能力×青春「モブサイコ100」…何者でもないけど特別な人

「キャリー」を彷彿とさせる設定に心惹かれて読んだ漫画作品。
バトルありギャグありで思った以上に明るく、けれど底では人間がついつい悩んでしまうような心の状態が描かれており、どこか暗さも孕んでいてとても好きな作品でした。

主人公の影山茂夫(あだ名がモブ)は地味な中学2年生ですが、実は超能力を持っています。

感情をコントロールできず力が暴走してしまった過去があり自分を抑圧しがちな青春を送っていましたが、ある日「モテたい」という細やかな願いから肉体改造部に入部します。

世界はありのままの自分を受け入れてくれるほど甘くはない、何か変わらなきゃと主人公が奮起するところからストーリーが始まっていて、設定はあえてガバガバにしつつもキビしい現実の一面を描いているようなところが面白いと思いました。

モブが唐突に始めるのがなぜか筋トレ(主にランニング)。

でも身体動かすのってバカにできないよなー、そして他の部員と比較してではなく自分がどれだけ伸びたかに尺度を置いて継続していく主人公の姿になんだか自己啓発本でも読んでいるような気分になってきます(笑)。

同じく超能力を持った他校の少年と対峙したり、超能力で世界を支配しようとする組織との対決に巻き込まれたりとバトル回も日常回に混じって展開していきますが、主要なキャラクターは〝思春期のメンタルあるある〟を体現したかのよう。

自信のなさから他人を下げて自分を保とうとしたり、器用で何でも持っているように見える人が自分の持っていないものを求めていたり、親しみやすい登場人物が魅力的でした。

 

そんな中でもぶっちぎりで大人の心を抉ってくるのが霊幻師匠というキャラクターです。

霊幻師匠は霊能力が全くないのにモブの能力を利用して除霊を商売にしている詐欺師のような男です。

けれど価格は良心的で基本依頼には真摯に対応していてなぜか憎めません。

愛想笑いや空気を読むのが全くできない主人公と対照的に他人に合わせるのが上手くコミュ力抜群な師匠。

けれどそれらがある程度の努力に裏打ちされたものだと思わせる節もあり、大人になると自分を偽らなければならない場面がたくさんある…どこか切なさも感じてしまいます。

序盤では「余裕あるギャグキャラ」に映っていた霊幻ですが、中盤の【ホワイティー編】というエピソードでは一転してピンチに陥ります。

 

ふとしたことでモブと距離をとるようになった霊幻は誕生日にSNSを覗いたら誰からもメッセージが来てなかった…といったほんの些細なことが幾つか重なって深い孤独を感じるようになります。

周りは結婚してたり多くの友人に囲まれてるのに自分には何もない…それなりに取り組んできたはずの仕事も身内には(世間的には)全く評価されない…

子供の頃はもっと特別な何かになれると思っていた…大人になるってもっと凄いことだと思ってた…だけど現実は思った以上に普通で何もない…

アラサーのメンタルの危機というか、自分の人生の限界みたいなものがみえるのがこのお年頃のような気がします。

私生活で孤独を感じる人が他の場所で過度に評価を求めがちになるのもありそうなことで、自分も何者かにならなければ…と霊幻は急にシャカリキに仕事を始めます。

ワーカーホリック状態になった霊幻は思わぬことで足元を掬われてメディアリンチのようなものに遭ってしまいます。

その窮地を弟子のモブが助けにやって来ます。

世間一般では何者でもない凡人かもしれないけれどモブにとって師匠は特別な人間でした。

霊幻の言葉の全てを盲信しているわけではなく、いい加減で欠点も多々あるけれどその本質を理解して信頼してくれている弟子がたった1人霊幻にはいました。

 

多くの人に認められている人、大きな目標を持って生きているような人は凄いなあと思いますが、日常を生きていて誰かにとって大切で特別な存在になっていること、自分の本質を理解してくれている人間が僅かながらいること、それもそれだけで充分凄いことで得難い幸せではないだろうか…と思わせる結末が心に沁みます。

霊幻には超能力(特別な力を持っているモブ)への捨てきれない憧れがずっとあるのも分かって、優しさとほろ苦さが混じったような、余韻の残るエピソードでした。

 

超能力を持っているからといって1人の人間であることに変わりない。足が速い、勉強ができる、体臭が強いなどと一緒で超能力も単なる特徴に過ぎない。個性として受け入れて前向きに生きていくしかないんだ。

霊幻が半ば口から出まかせで幼い頃のモブに語った言葉ですが、実は自分に自信がない霊幻自身の心掛けのようなもので、この台詞がこの作品の価値観を代表しているように思われます。

自分の本質は変えられず持っているもので生きてくしかない。

自分の持っていないものを他人が持っていたりしてそれで持ちつ持たれつ案外物事はまわっていたりするものだ…という達観、諦観のようなものを作品から感じます。

作中一の人格者である肉改部の部長が全く勉強ができないというオマケ漫画をみると笑ってしまいますが、皆欠点もあれば何かしら美点もあるものだ…みたいな物の見方が誇大に表現されつつも、それが大らかでとても優しく感じられました。

 

前提として主人公は人との出会いに恵まれており、恵まれなかった世界線の自分ともいうべき敵が立ちはだかったりもします。(闇堕ちしたカラス神父のようなキャラでとても良い)

それに対する主人公の答えが「自分が恵まれていることにもっと感謝するしかない」なのも誠実に思いました。

 

「自分は人とは違う特別な人間だ」…という自意識は思春期あるあるだし、大人も拗らせるとこういう意識になるなる。

「理解されない孤独」を描いた悲哀なストーリーが超能力モノに多い中、能力に依らず少しずつ人間関係を築いて成長していく主人公の姿に力強さを感じる作品でした。

 

「指輪物語」/「ロード・オブ・ザ・リング」…ファラミアの改変の記憶

仕方がない、ファラミアは犠牲になったのだ…

自分がちょうど高校生の頃に公開され、70年代でいうところの「スターウォーズ」旧三部作のような興奮と熱気をリアルタイムで味わわせてくれた作品。

子供の頃に「ホビットの冒険」を読んでいたのもあって、映画公開の前に先に原作を読んでおきたいと思い「指輪物語」を読破。

原作ファンとはいえないまでも一応原作既読勢として鑑賞に臨みました。

1作目「旅の仲間」は文句のつけようなく素晴らしかったのですが(字幕は除く)、続く2作目「二つの塔」にはモヤモヤが残ってしまいました。

1作目地点でバッサリカットされたエピソードや原作からの人物改変はあったものの、2作目はオリジナル展開がより多く、中でもキャラクターの根本そのものがまるで異なっていたのがこのファラミアでした。

初見ではかなりショックを受けた憶えがあります。

映画ではボロミアの劣化版!?のような扱いだったファラミアですが、原作ではボロミアと正反対の気質を持った心穏やかな知性の人として描かれています。

多くを語れないフロドの状況を察しつつ少ない情報で旅の成り行きを推量してみせる。兄を心から愛するもその欠点も熟知しており、指輪の存在を知ってもそれを遠ざける。

戦の功績がひたすら求められるような時代においてこんな穏やかな性格をしてたらかなり生き辛かったのでは…とその心苦を想像させられるも、武人としての評価も決して低くはなく民からも認められている人格者。

めちゃくちゃカッコいいキャラで個人的にはアラゴルンより心惹かれた人物でした。

それが映画版では思慮深さゼロ、ゴクリとフロドの信頼関係を壊した戦犯のような扱い…とかなり雑な描かれ方で、「こんなのファラミアじゃねえ!」とモヤモヤが止まりませんでした。

 

しかしその後映画を複数回鑑賞するうち、映画という限られた尺でファラミアというキャラを描き切るのは難しかったのかも…と思いました。

「人間は心の弱い種族」と強調されている中で指輪を遠ざけられるファラミアの高潔さは異端に映ってしまうかも。

ただでさえ「フロドって1番何にもしてないよね」とか言われちゃう始末(笑)、原作ファラミアを短い時間で再現しようとすると指輪の存在が余計に軽いものだと誤解を与えてしまう…と制作陣が危惧したのかもしれません。

原作のフロドとファラミアの問答は映画にすると動きが全くなく、映画のヘルム峡谷の戦いは見応え抜群でしたし、活劇の方を優先して上手くまとめたといえるのかなあ…とも思いました。

 

そして続く3作目「王の帰還」が素晴らしく、3作観終えてからファラミアの改変を少しずつ許容できるようになりました。

王の帰還」にて予想を超えて驚かされたのはオスギリアス再出撃のシーン。

父の命令で理不尽な戦いに赴く兵士たちとピピンに歌を歌わせながら食事をとる執政…

このオトンの食べ方がなんだかゾンビ映画のようで(笑)、食(=生命)と死が強烈に対比されたような、どこかホラー映画のような恐ろしさを感じる個人的に突き刺さった名場面でした。

オリジナル要素を入れつつ原作と同じストーリー展開を短時間でみせる…という映像のパワーに圧倒されました。

映画「二つの塔」では小者にみえてしまったファラミアですが、このシーンの前後をみると父親に愛されなかった悲哀がしっかりと伝わってきて、映画ファラミアにもキャラクターの奥行きが与えられたように思えました。

 

さらにその後暫くたってから「二つの塔」エクステンデッド版を鑑賞。

ボロミアが登場する回想シーンが追加されており、こちらも思った以上によく出来ていました。

兄弟2人の仲の良い姿はファンにとってはサービスシーン。
「憧れの兄のようになれなかったコンプレックス、父に認められたかった想い」というファラミアの心情も描かれていて、原作とは全く別の人物像ではあるもののちゃんとドラマが感じられるシーンでした。(この場面だけは劇場公開時にも入っていて欲しかったです)

このシーンを経ると「憧れだった兄の過ちをも認めて同じ轍を踏まずフロドたちを送り出す」という姿がもっとドラマチックに受け取れたのではないかと思いました。

それにしてもボロミアがカッコよすぎで優遇されすぎだろ、デネソールはメンヘラ親父にしかみえないだろ、とファラミアに限らずゴンドール陣営は原作とイメージが離れてはいますが…

 

◆アルウェンよりエオウィンがみたかった

映画「王の帰還」の戴冠式の場面にて、ファラミアはエオウィンと2人並んで立っていて仲睦まじげな様子でした。

映画から初めて観た人にとっては唐突な印象だったと思うのですが、これも原作を読むとしっかり描写があってとても好きなカップルでした。

・武人としての功績(男の強さ)が求められるような世界で文人としての才があったファラミア
・女性だけどめちゃくちゃ武人の才があったエオウィン

…と正反対の2人(自分の適性と周囲が求める役割にギャップがあると言う点では共通した苦悩を抱えていた2人)が結ばれるっていうのがいいなーと思いました。

 

エオウィンも原作とはイメージが少し異なっています。

映画ではヒロイックな印象でしたが、原作では自分の功名心を満たすために出撃し野心に取り憑かれていたような印象です。(蛇舌に相当メンタルやられたのでしょう)

そんな彼女がアラゴルンへの恋を「ただの憧れだった」と気づき、異なるタイプの男性の魅力に気付く…っていう展開がとてもよかったと思います。

 

DVDの特典映像でアラゴルン役のヴィゴ・モーテンセンが「アラゴルンにはエオウィンへの愛情があったと思う」と語っていた記憶があるのですが、アラゴルン×エオウィンは絶対にない。(←どこのカップル厨だ)

映画はロマンス要素を強めたいがためアラゴルンを2人の女性が取り囲む形にしたのかなあと思いますが、アルウェンのシーンがいらない、裂け谷と戴冠式に出てくるだけでよかったよ、と思っていました。

代わりに他のキャラの出番を増やしてほしかった。

王の帰還」エクステンテッド版ではファラミアとエオウィンが出会うシーンが追加されてましたが、申し訳程度な上やはりファラミアのキャラが原作と別人なのでなくてもどっちでもいいかな…という印象。

映画は分かりやすさ・動的なシーンを入れての盛り上がりを優先してファラミアまわりは割を喰らってしまったのかな…と思う構成でした。

 

◆それでも映画は素晴らしかった

二つの塔」鑑賞後はしばらくモヤモヤが残ったものの3作通してみると「よくあの原作をここまでまとめて映像にしたなあ」と感心するばかりでした。

原作ファンをある程度納得させた上、原作未読の人にもとっつきやすくしてきちんと映画として面白い作品に仕上がっていたのは凄いことなんじゃないでしょうか。

 

聴いているとそれが正しいと思ってしまうような魅力的なサルマンの声…クリストファー・リーの美声にこんなだったのかーと納得させられたり、その身を隠してくれるというエルフのマントがまさしく石と化す様をみて鳥肌が立ちました。

「原作ファンが想像していたみたいものをみせてくれた」というシーンがたくさんあったのではないかと思います。

原作より味わいが増したキャラクターもいて、ボロミアの最期のシーンは原作以上に涙が止まらず、道中ピピンとメリーと仲良く剣の稽古をしている場面の溢れ出るお兄ちゃんオーラには「こんな人だったんだ」と原作からさらに上書きされたような印象になりました。

烽火が灯っていく雄大な景色、ガンダルフがミナス・ティリスを駆け上がっていくときの高揚感など、劇場映画でしか味わえない素晴らしい映像が何より圧巻でした。

 

Amazonで配信されている「力の指輪」は今のところ観る予定はないのですが(ホビットの映画もまだみていない)原作ものの映像化は改変すると一定数不満に思う人が出てくるのは致し方ないことではないかと思います。

けれど原作を変えてもなおそれを上回る魅力や「ここの部分はあえて変えてもこの部分を生かそうとした」という作り手の熱意のようなものが伝われば、作品を愛するファンも出てくるのではないかと思いました。

 

「エリミネーターズ」…驚きのポンコツサイボーグ

ジャケットから漂うネメシス臭。

知る人ぞ知る80年代B級カルト作だそうですが、この度初Blu-ray化。

何も考えたくないときに観るには最高の1本、好きな人間にはたまらない作品でした。

飛行機事故で瀕死の重傷を負ったジョンは機械を埋め込まれた改造人間・マンドロイドへと生まれ変わった。

しかしマンドロイドへと改変したのはタイムマシンを使い歴史を改変しようとする悪の科学者だった。

ジョンは科学研究所を脱出し仲間を集め悪の野望を打ち砕こうとするが…

 

身体の半分が人間、半分が機械の主人公ジョン。

四肢が付け替え可能なパーツとなっていて、冒頭ではなんとキャタピラーと合体し疾走。

右折するときには左側のキャタピラーがしっかり静止、階段をも下っていく見事な動き。

マンドロイドめちゃくちゃカッコええやん!!と思ったらこれがこの映画のクライマックス(笑)。

山道に入ると早々に戦車をポイ捨てするジョン。

研究所で唯一の味方だったタカダ博士の残したヒントを辿りニューヨークにいる女博士の下を訪れます。
(ニューヨークまでこんな目立つ姿で徒歩移動したんか??)

女博士はかつて悪の科学者と一緒に開発をしていたらしく彼を止めに行くと言います。

博士のつくったR2-D2みたいなロボットもお供に加わりますが、ワープ機能搭載でこいつだけ有能すぎる…

 

そもそも舞台が現代なのか未来なのかサッパリ分からんまま話が進む本作。

冒頭から未来感バリバリなのは主人公だけ、敵兵はネルシャツ着たテキサスにいそうなおっちゃんという物凄いチグハグ感。

悪の要塞はメキシコの奥地にあるらしく、ここから川下りと密林散策というSF映画感ゼロな画がひたすら続きます。

 

そしてここから主人公がとんでもないポンコツっぷりを発揮。

義手から出る光線銃が全然当たらない…!

ワイヤで重いもの持ち上げてくれるのかと思いきや枝に引っかかる…!

ボートからうっかり転落して川底に沈み込むシーンではこちらも笑いで椅子から転げ落ちそうになりました。

でもこの出来ない子っぷりが段々可愛くみえてきます。

 

他にもキャラクターが登場しますが、悪のアジトまでの運び屋をやってくれるおっちゃんはハン・ソロっぽい雰囲気。

酷いこき使われっぷりですが、博士とサイボーグがそんなに上客にみえるのか謎すぎる(笑)。

さらにはヌンチャクを操る謎忍者も仲間に、タイムマシンで強制的に現代に連れてこられたというネアンデルタール人が登場したりともうめちゃくちゃ。

 

86年にチャールズ・バンドが製作した本作。

ときはビデオブーム真っ只中、年に何百本もの企画を抱えてB級映画を大量生産していた時代。

4人の監督で1本の映画を撮っていたこともあったそうで、撮りたい絵やアイデアがそれぞれあって好きなようにやるのが通常運転だったんでしょう。

「サイボーグと忍者が暴れるスターウォーズにインディジョーンズも混ぜてみるか…」

何もかも点と点で線になっていませんが、「楽しんでつくった」ことだけは伝わってきます(笑)。

 

ラストはさらに驚愕怒涛。

自らもサイボーグと化した悪の科学者が一方的に主人公を攻撃。

「ジョンに任せておきましょう」と放置する女科学者。そのわずか10秒後「死んだわ」…

仲間を救って息絶えるもそんなジョンを放置して走り去って行く仲間…薄情すぎる(笑)。

主人公が乗ってた飛行機の残骸から妻子と思われる写真が発見されてて、人間としての過去があったはずなのにそんな伏線関係ねえ!

ポンコツではあったけど不憫なサイボーグが妙に愛おしく思われる、実に楽しいB級映画でした。

 

ロバート・イングランドの「オペラ座の怪人」…君の前前前世から僕は君を探し始めたよ

子供の頃自分が初めてみた「オペラ座の怪人」がこれだったのですが…

めちゃくちゃグロくてびっくり、だけどストーリーはしっかりしてて時を超えるタイムスリップ展開が秀逸。

基本は原作(ミュージカル)に沿いつつそこにスラッシャー映画が投げ込まれた感じですが、執念といっていい怪人のヒロインへの愛が凄まじく変態に突き刺さる1本!?でした。

 

物語はなんと現代のニューヨークからスタート。

音大生のクリスティーヌはブロードウェイのオーディションで使うための古い楽譜を図書館で発掘しました。

作曲家のエリック・デスラーは殺人犯だったらしいという曰く付きの曲でしたが、クリスティーヌはそれを舞台で熱唱します。

審査員の目に留まるものの、同時に舞台裏から土嚢が落下し彼女を直撃。

「前にも似たようなことがあったかも…」瞬間クリスティーヌに前世の記憶がフラッシュバックし、舞台は100年前のロンドンにジャンプします。

現代から過去へ…ミュージカルの「オペラ座の怪人」も時をかける幕開けがドラマチックに構成されていますが、本作はあの導入を大胆にアレンジしていてよりファンタジックでロマンを感じさせます。

100年前も駆け出しのコーラスガールだったクリスティーヌ。

歌を指導してくれる謎の怪人を「音楽の天使」と崇めていましたが、実はその怪人は彼女の成功を阻む者を裏で手にかけていたのでした。

 

過去クリスティーヌに現代クリスティーヌの記憶が乗り移ったりはせず、この過去編から視点が怪人・エリックの方に移っていきます。

実は売れないピアニストだったエリック、ある日悪魔と契約し芸術家としての成功と不老不死の肉体を手に入れることとなりました。(この辺りは「ファウスト」というか「ファントム・オブ・パラダイス」が混ざった感じ)

その代償として顔は崩れ落ち、彼自身は愛されることがないという呪いをかけられてしまいます。

糸と針で自分の肌を必死に修復する姿には悲壮感が漂っていて痛々しい…

愛と名声の両方が簡単に手に入ると思うなよ…人生の苦味と渋味がグロ映像とともに五感に訴えかけてきます。

唯一の生きがいは自分の楽曲を見事に表現してくれる美しいクリスティーヌ。舞台に立つ彼女を後方彼氏面でそっと見守ります。

 

舞台が成功を収めた夜、気持ちの昂った怪人は街の娼婦に声をかけて宿にしけこみます。

「クリスティーヌ…」
「??私の名前クリスティーヌじゃないんだけど」
「いいから今夜はお前がクリスティーヌになれ!」

…と言って娼婦を抱く怪人(笑)。

女だったら誰でもいいんかい!!って感じですが、クリスティーヌのことめっちゃ好きなんやな…と愛が伝わってくるような気もする…ムッツリスケベな怪人の複雑な男心が垣間見える名シーン!?です。

 

ところがクリスティーヌの側には若いイケメンが現れプロポーズ、そして怪人の残虐な犯行は警察に追われることとなり大ピンチ。困った怪人はクリスティーヌをオペラ座の地下深くにさらっていきます。

基本は原作と同じ展開を辿りつつ、セットや衣装もしっかりと作り込まれている本作。

クリスティーヌが雪の日に父親の墓参りをするシーン、仮面舞踏会のシーンなどはミュージカル版に寄せたのか迫力のある綺麗な画が撮れています。

オペラのシーンにも力が入っていて、現在と過去をつなぐ運命の1曲も効果的に使われています。

その一方グロ描写は情け容赦なく、修復する皮膚の材料をゲットするため犠牲者は皮を剥いで殺す…という「羊たちの沈黙」も真っ青な設定が登場。

カルロッタが生首スープと化す悪趣味な殺され方をしていたりかなりのハードモードです。

怪人の特殊メイクだけでもかなり観る人を選びそう…けどこれが「整形を繰り返して顔崩れてきた六本木ホスト」みたいなもう後戻りできない、なんとも言えない悲哀を感じさせるんですねー。

 

さて地下に攫われ怪人と対決したクリスティーヌは身体をぶつけて、それが冒頭の事故のシーンとオーバーラップして現代に戻っていきます。

倒れた彼女にオーディションの審査員たちが駆けつけてきますが…

↑あれ!?君の名は…

なんと怪人は好きな人が生まれ変わるのをずっと待ってたんですね…!!現代でもしっかり作曲家となって…ここまで来ると凄い執念!

クリスティーヌには過去の記憶は一切ないままで、作曲家の自宅であるスタジオにノコノコついて行ってしまいます。

しかし運命のあの曲をきいて記憶が一気に甦る…!!再び彼女に迫る怪人でしたが返り討ちにあって刺されてしまいます。100年越しでフラれる怪人(笑)。

こういうホラー映画のヴィランは「異様なしつこさ」が恐怖ポイントの1つかと思いますが、現代にまで追いかけてくるという展開が衝撃的でした。

繰り返す運命を暗示したようなどこか切ないエンディングも他作品にはない余韻が残ります。

怪人はまた100年待つのでしょうか…

 

海外版Blu-rayはフレディに便乗しまくりのジャケ写になってる本作(笑)。

物理法則を無視したような移動してきて嬉々として人を殺める姿には確かにフレディと重なるものがありますが、作品自体はもっとゴシックロマンの雰囲気。

シルエットはサム・ライミの「ダークマン」に似ているような気もします。

 

それにしてもこの怪人、喧嘩はめちゃくちゃ強いわ、裁縫得意だわ、金払いはいいわ…不老不死で年重ねても「最近の時代についていけん」なんて泣き言一つ漏らさずパソコン使ってしっかり作曲、将来性はトリプルAと言っていいでしょう。

ペラッペラのイケメンよりこっちの方がいいじゃない!?なんて思っちゃいますが、エゴの塊なので付き合ったら苦労すること間違いなし!

ヒロインが天真爛漫な少女から戦うホラーヒロインに変貌するのも非常に良かったですし、ねちっこい変態オーラ放ちつつどこか人間らしさを感じさせるロバート・イングランドの怪人が素晴らしかった。

自分がみた「オペラ座の怪人」の中ではこれが1番オモロかったです。